軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

417.揺さぶり症候群に注意

「はーい。今日は、これで最後で〜す。また、お願いしますねー。」

追加で作った生地もなくなり、今日は店仕舞いとなった。並んでいた客達は、えーっと残念そうに店を離れて行った。

「ナールさん、お疲れ様でした。」

「ジョアンちゃんも、お疲れ様。本当に助かったわ。チーズじゃなくて、通常のポンムも買ってくれる人もいたし、ここまで忙しかったの久しぶりかも。」

ドカッと、簡易椅子に座りながらもナールさんは笑顔だった。

気付くと辺りは暗くなっており、ここに来てから結構な時間がたったことがわかる。

「あっ、ヤバッ。宿に夕飯頼んでたんだ。」

出掛ける前に宿の店主さんにお願いしていた事を思い出した。

「えっ!?そうなの?宿は、どこ?」

「『プリマ』って所です。」

「マジ!?私の姉さん夫婦の所だわ。」

「えっ?店主さんの妹さん?言われてみれば、目元が似てるかも。」

「あっ、それよく言われる。じゃあ、私も一緒に姉さんの所行くわ。」

2人で『プリマ』に戻ると、店主さんは自分の妹と私が一緒のことに驚いていた。そして、ナールさんもそのまま一緒に夕食をとることになり、私達は宿の食堂に移動する。

「今日は、旦那が仕留めてきたジャイアントディアの煮込みよ。」

《ジャイアントディア》

角のある巨大な鹿。

獰猛で攻撃的。

分厚い毛皮は剣を通さず、倒すのに苦労する。

「「美味しそ〜。」」

声が揃ったことに笑っていると、店主さんの旦那さんが食堂へやって来た。

「どうした?厨房まで聴こえるぞ。」

旦那さんは、ドワーフ族にしては縦にも横にも大柄で、もれなく髭面だが頬にある切り傷が更に強面に見えた。声がデカいので怒っているように見えるが、優しい目が違う事を教えてくれる。

「ーーじゃあ、そのチーズポンムは新たな看板商品だな。試食がないのは残念だが、良かったなナール。」

「あっ、ありますよ。試食。」

「えっ?ジョアンちゃん?」

「お客さんが並び出したから、試食まだ残っていたんですけど、ストレージにしまって販売一本にしたんですよ。」

そう言って、ストレージから試食用のチーズポンムを出す。店主さんは、1つ手に取ると目を見開き驚いた。

「焼きたてのようにアツアツよ?」

「あっ、私【ストレージS】なので、時間停止出来るんですよ。」

「へ〜、すげぇな。どれどれ……ん、美味い。これは、エールでも良いがワインの方が合うかもしれないな。」

「じゃあ、どうぞ。」

カリムの実家からもらったスミス領特産のワインとワイングラスを出す。

「このワイン、美味いな。いつも飲むやつとは違う。」

「友達からの頂き物なんですよ。あっ、ワイングラスもその友達の領で作っているんです。」

「酒をくれる友達は、いい奴だからな。大事にしろな。」

さすがドワーフ、酒に関することの言い分が他とは違う。

「じゃあ、こんなのはどうですか?」

ストレージからどぶろくを取り出す。そして、どぶろくのために作った湯呑み茶碗も一緒に。

「濁り酒か。……美味い!!これも友達からか?」

「いえ、コレは私が作ったーー」

「嬢ちゃんがか!?」

「あ、はい。」

「どうやってだ、どうやって作る?」

「いや、あの、ああああーーーっ……。」

「ちょっ、あんたジョアンちゃんが目を回すわ。止めなよ!」

旦那さんに、両肩をガシッと掴まれ危うく揺さぶり症候群になりかけた。

「すまん……。」

「大丈夫?ジョアンちゃん?」

「ダイジョバナイ……。」

食べた後に揺さぶられるのは勘弁して欲しい。

ジャイアントディアが暴れて、口から走り出て来そうだった……。

*****

ーーー翌朝。

明日にはエットゥを出発するので、今日は買い出しをする。

次は、イジョクさんのお姉さんが住んでいるという街、フェム。エットゥから数えて5番目の街らしい。そこまでは、また野営をしながら旅する予定。

『昨日食べた串焼き買って欲しいわ。』

「あーあれね。他は?」

『僕、ポンム。甘いやつね。』

「じゃあ、串焼き買ってからナールさんの所に行こうか。」

串焼きを買って、ナールさんの所へ向かうと、昨日のように列が出来ていた。

「あちゃ〜、これは手伝った方が良いかな?」

ということで、結局、昨日と同じように辺りが暗くなるまでナールさんの店を手伝った。そのお礼として、ポンムをもらえたのでwin-winだ。

「ごめんね、ジョアンちゃん。」

「いえ、ポンムもらえたので大丈夫です。でも、明日からどうするんですか?」

「あっ、それは大丈夫。昨日のうちに商業ギルドに求人出して、さっき決まったって。」

商業ギルドの人が、買い物がてら決まった事を教えてくれたらしい。後で、顔合わせに行くという。

「なら、良かったです。明日、私達エットゥを出発するんで。」

「そっか〜。全然、お礼出来なくてごめん。」

「いやいや、気にしないで下さいよ。」

「でも、さすが “食の女神“ ね。」

「えっ!?な、なんで、それを……。」

「あー、昨日、ジョアンちゃんの名前で特許申請しようとしたら、国名と名前だけですぐわかったわ。」

自分が考えた事にして登録も出来るのに、私の名前で登録してくれたんだ。

「わざわざ登録してくれたんですか?」

「もちろんよ。いくら屋台だって料理人の端くれとして、人のアイデアを盗むほど落ちぶれてはいないつもりよ。」

「ありがとうございます。」

と、頭を下げてお礼を言う。

「もぉー頭下げないで。こっちが助けてもらったんだから。ね?」

その日は、ナールさんも再び『プリマ』で店主さん夫婦も一緒に食事をして、飲み過ぎで店主さん以外が二日酔いになり、朝食の代わりに【アクア】の水に頼ることになった。

店主さんは、妹のナールがお世話になったと、朝食の代わりにお弁当を作ってくれた。しかも、パール達の分まで。代わりに未だに起きれずにいる旦那さんとナールさんに【アクア】の水を渡し、私達は出発した。