作品タイトル不明
建国祭に向けて①
寝てスッキリすれば、何でレフィトがふてくされていたのか、何となくわかった。
いつもよりくっついてくる理由も。
さみしいが前提にあって、たぶんだけど離れてる時間が増えたことに不安がっている。
頭では大丈夫だと思っていても、心が追いついていない感じなんだろう。
うん。そう考えれば、つじつまが合うんだよね。
そうなると、ボードの作り方を教えるのは直接じゃなくて、やり方を紙に書くくらいでいいのかもしれない。
作り方はすごく簡単だし、他の人の邪魔にならないようにサイズや持ち方、会場の照明によっては反射する素材は使用しないようにと注意事項も書き加えておけば、大丈夫だと思う。
分からないことがあれば、聞いてもらう感じにしよう。
手伝えないことは心苦しいけれど、私にとって優先したいのはレフィトだから。そこを間違えちゃいけない。
手を繋いで教室に戻り、隣の席で授業を受ける。何だか、青春って感じだ。
そして放課後、ダンスの練習をしている。
「カミレちゃん、顔を上げて。レフィト様は足を踏んだくらいで壊れたりしないわ」
「考えるんじゃなくて、音を感じるんですわ!!」
苦手意識から足元を見ようとすれば指摘が飛び、足運びが小さくなれば、音を感じるというよく分からないアドバイスがやってくる。
「何も考えないで、レフィト様にすべてを任せて」
「そうですわ!! 寄り添えば良いのですわ!!」
すべてを任せる!? いやいや、足は動かさなきゃでしょ。
寄り添うって何? 考えないでと言われても、ステップを間違えちゃったら駄目だよね!?
「カミレ。足はいいから、オレに合わせてぇ?」
「そうしたら、ステップ間違えちゃうよ」
「大丈夫だから。音を聞いて、オレの動きだけを感じて? 頭では分かってるんだから、あとは体が覚えるだけだよぉ」
いや、それができたら苦労はしないんだって。
そう思いつつも、頷く。ダンスの自主練習もしてるけど、あまり上達していない。足元ばかりに気を取られてるのも、自覚している。
くそぅ……。これからだ。私には、頑張ることしかできないんだから、全力で取り組むんだ!!
「一回、休憩にしましょう」
「えっ、でも……」
ただでさえ時間がないのに、休憩なんかしていたら駄目なんじゃないかな。
そんな私の気持ちを見越しているかのように、じっとネイエ様が私を見た。
「 我武者羅(がむしゃら) にやればいいというわけじゃないのよ?」
「────っ」
ネイエ様の言う通りだ。努力は必要だけど、ただやり続ければ上手になるわけじゃない。間違えた方法を繰り返していても、仕方ないのだ。
うつむいてしまいたい気持ちはある。けれど、今は立ち止まっている場合じゃない。
「大丈夫ですわ!! 努力は報われるものですもの!!」
「そうね。努力ができなければ、できるようにはなれないわ」
アザレアちゃんも、ネイエ様も励ましてくれる。そっと背中を支えられ、見上げれば、優しい琥珀色が私に寄り添ってくれている。
「はい。ありがとうございます」
頷けば、ネイエ様は笑みを深めた。
そして、細長い布を取り出した。
「というわけで、目隠しをして踊りましょうか」
「えっ!?」
「なるほどねぇ。視覚を遮断することで、強制的に足元を確認できなくするんだねぇ」
「でも、そうしたら足を踏んじゃ──」
「大丈夫だよぉ。踏まれたところで痛くないし、オレがカミレを転ばせないからぁ」
そう言いながら、レフィトはネイエ様から布を受け取ると、私に目隠しをした。
「ねぇ、本当にやるの?」
「荒療治だけどねぇ。足元を見たくても見れないし、いい練習になると思うよぉ」
耳元で囁かれて、肩が小さくピクリと揺れた。
わざわざ耳元で言う意味って何?
「ビックリするから、耳元で囁かないでよ」
「えー、どうしようかなぁ。カミレ、真っ赤になってて、かーわいい」
右耳を押さえて抗議したけれど、返ってきたのは楽しそうな声。
ふてくされているよりはいいけれど、何となく面白くない。
だけど、ダンスの練習に付き合ってくれているのだ。ここは、我慢だ……。
「レフィト様! カミレちゃんは一生懸命やってる最中なのですわよ!! いくら可愛いからって、今のはなしですわ!! いちゃつくのは、あとでやってくださいまし」
「アザレアちゃん……」
「本当だったら、私だっておふたりがイチャイチャするのを見たいのに……。我慢してますのよ!!」
「アザレアちゃん?」
今、ちょっと感動したのに……。
というか、何で人がイチャイチャするのをそんなに見たがるのよ。
何故? という気持ちでいれば、パンパンと手を叩く音がした。
「そろそろ始めるわよ。音楽を流すから、カミレちゃんはレフィト様の動きに身を任せてね」
ネイエ様はそういうとゆったりとした曲が流れ始めた。
嫌と言うほど、練習のために何度も聞いた曲。ステップは分かる。
こうなったら、やるしかない!! そう思って足を踏み出した。
ぎゅむっ……。
勇気を持って踏み出した一歩目で、見事に私はレフィトを踏んだ。
「ご、ごめん!!」
「ふふっ。本当にカミレって面白いよねぇ」
「えっ!?」
どこが? だって、私、失敗して……。
「楽しもうよぉ。オレはね、カミレと踊れて嬉しいよ。カミレは?」
「私も嬉しいけど……」
「気持ち、おそろいだねぇ。楽しまない理由なんてないと思わない? というわけで、楽しくなっちゃったから、自由にダンスするね。基本は決まってるけど、アレンジは自由なんだからさぁ」
「えっ!? ちょっと待ってよ! それって、上級者がやることでしょ!?」
「そんなの誰が決めたのぉ? ほら、行くよぉ」
そう言うと、レフィトはグッと私の腰を強く抱いた。そして、宣言通り、予定にはない動きをはじめてしまった。
「ちょっっ……、レフィト!?」
「へへっ、楽しいねぇ」
目隠しをされているから、どう動こうとしているのかも視覚で確認ができない。
もうどうにでもなれ!! という気持ちで、ただレフィトのエスコートに体をあずけた。
くるりくるりと回れば、制服のスカートの裾が軽くなる。
レフィトの動きを感じ、音色を踊る。
あぁ……、ダンスってこんなにも自由だったのか…………。
音が止み、私たちは止まった。
「……楽しかった」
「うん。楽しかったねぇ」
はじめて、ダンスが楽しかった。
目隠しを外してくれたので、レフィトの琥珀色を見上げる。
優しく細まった瞳には、子どものように笑う私が映っていた。