軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないように、勝ってくれたのですか?②

始まった試合は、何とも言えないものだった。

ゼンダ様が、明らかに本気を出していないのだ。

「これ、 忖度(そんたく) してません?」

「 色々(・・) あるのよ」

複雑な表情でネイエ様は言った。

アザレアは、目に涙をためながら、大声で応援をしている。

出来試合だ。アザレアもネイエ様も、それが分かっていたのだ。だから、様子がおかしかったんだ。

学園での剣術大会ですら、忖度が入るのだ。

貴族同士、ネイエ様が言った通り 色々(・・) あるのだろう。

それでも、やりきれなくて、私もゼンダ様を大声で応援した。

周りは皆、王子を応援している。それもまた、見えない圧力がかかっているように感じて、気持ち悪かった。

「……負けてしまいましたわ」

悲しそうに、ポツリとアザレアは溢した。

その瞳には、悔しさも、やるせなさなく、ただただ悲しみだけが乗せられている。

「分かっていたことですわ。これ、作るのを手伝ってくれて、ありがとうございましたわ。ゼンダ様がこれを見れ、嬉しそうに笑ってくれて、私の気持ちが伝わった気がして、救われた気分でしたの。カミレちゃんと、ネイエ様のおかげですわね」

そう言って笑うアザレアに、何て言葉をかけていいのか分からなかった。

「カミレちゃん、そんなお顔しないでくださいまし。本当につらいのは、私ではありませんもの。きっとこれをもう一度見せたら、ゼンダ様も元気になりますわよ!! そう思いませんこと?」

「そうね。きっと笑顔になるわ」

何も言えない私の代わりにネイエ様が答えれば、アザレアは笑った。

そして、いつものように明るい声で言葉を紡ぐ。

「私には、ゼンダ様を笑顔にする使命がありますわ! なので、私、ゼンダ様のところに行ってきますわね」

私たちが頷くのを見て、アザレアは背筋を伸ばして歩き出した。

その手には、ハート型の厚紙がしっかりと握られている。

「アザレアちゃんは、強いですね……」

「そうね。強くなったわ」

そう言いながらネイエ様は、マリアンに視線を向けた。

視線の先では、マリアンがはしゃいだ様子を見せている。

どう見たって出来試合。けれど、誰もそれを指摘しない。

「私にできることって、ないですかね……」

もし、ゼンダ様がわざと負けたと指摘したところで、誰も幸せにはならないだろう。

むしろ、ゼンダ様の立場を悪くする可能性がある。

何もアザレアのために、できない。そのことが苦しい。

「そんな顔をしては駄目よ。アザレアちゃんも言っていたでしょう?」

「そうですね」

できることがないのなら、せめて笑っていよう。

私が気にすれば、アザレアに心配をかけてしまうだろうから。

アザレアが悲しみを口にした時、いつでも聞けるようにしておこう。気の利いた言葉は言えないし、そばにいることしかできないけれど……。

「ねぇ、カミレちゃん。誰が勝ち上がるだろうって、私が予想をしたの、覚えてるかしら?」

「はい」

ネイエ様は「 何もなければ(・・・・・・) 、優勝はレフィト様でしょうね。一年の中なら、レオンハルト王子やログロス様、ゼンダ様がある程度は勝ち上がるんじゃないかしら」と言っていた。

…………あれ? 何もなければ?

「ゼンダ様は相手にも恵まれたし、腕をあげていたから、ここまで順当だったわね。予想よりも勝っていたけれど、実力だわ。でも、負けてしまった。 何もなければ(・・・・・・) 勝てたでしょうにね」

その言葉に、疑惑は深まっていく。

もしかして、この剣術大会はレオンハルト王子の優勝が既に決まっていた?

レフィトが優勝すると、レフィトの立場が悪くなったりするのかな……。

「優勝しても、次期騎士団長と言われているレフィト様なら、問題はないわ」

私の不安を見透かしたかのように、ネイエ様は言う。そして、意味ありげに微笑みを浮かべた。

「ブローチをカミレちゃんに送ることで、一部からは不興は買うでしょう。でも、それ以上の価値があるわ」

「それ以上の価値ですか?」

ステータス以外の意味があるってことだよね。

価格が高い……とかならありそうだけど、たぶん違うんだろうな。値段で喜ぶのは、極一部だけだろうし。

「とにかく、カミレちゃんに今できることは、レフィト様を全力で応援することよ。途中経過は仕方がないにしても、せめて優勝者は正しく決まって欲しい。そう願っている人も多いはずよ。それが、悔しい思いをした人の救いになるわ」

「そう……ですかね」

「もし違うとしても、そう思っておきなさい。自身を責めたところで何も変わらないし、これは私たちでどうにかできる問題ではないもの」

「そうですね。今、私にできることをします」

アザレアやゼンダ様、他にも悔しい思いや悲しい思いをした人たち。

それは、今に始まったことではなく、ずっと続いてきたこと。

貴族って面倒だし、理不尽だ。

理不尽さなんて、生きていれば必ずあること。

だけど、貴族の理不尽さってあからさまだな……と思う。

そういえば、ゲームでのレフィトがヒロインにブローチを贈ったのも、最終学年のみだった……かもしれない。そのスチルが最高だったとネット上で盛り上がっていたのを見た気がする。

リアルでも、ゲームでも、忖度が発生って……。

貴族の不自由さと、これから関わっていく世界の不平等さに、溢れそうになる溜め息を、どうにかのみ込んだ。

それから、私はレフィトを全力で応援した。

レフィトは、午後の試合すべてを一撃で終わらせ、圧倒的な強さを見せたまま決勝へと進出を決めた。

丸く切られた厚紙に書かれた『一撃必殺』の文字。何となく、強そうだから選んだ言葉だったんだけど、一撃必殺は一打で相手を倒すという意味合いだったはずだ。

もしかして、この文字通りにしてくれてる? いや、まさかね?

周りの視線が『一撃必殺』に集まっているのは、きっと気のせいに違いない。