軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、無計画に首をつっこんではいけません⑤

ヤンデレが降臨したレフィトを鎮めなければ、ログロスの腕は確実に折られる。

マリアンは自分の 取り巻きたち(ナイト) (ログロスを除く)にチヤホヤされていて、助けにくる気配はない。

ログロスの腕の運命は、私にかかっているというわけだ。

……普通に荷が重いんだけど。

今日まで一度も直接話したことのない、一方的に睨んできた人の腕の未来を託されるとか、どんな状況だよ。

これがレフィト絡みでなければ、こんなに頭を悩ませなかったのに……。

レフィトを見れば、呻くログロスを冷めた目で見ている。

腕を折らないでいてくれるのは、私の待てが効いているから……な気がする。

でも、ログロスがもう一度地雷を踏めば、それもどうなるか分からないんだよね。

つまり、ログロスがまた余計なことを言う前に救出しなければならないというわけだ。

それって、難易度高くない? ログロスって、口を開けば余計なことばっかり言ってるじゃん。

頑張れ、私! ログロスの腕を死守するんだ!

レフィトに他人を傷つけさせないたくないなら、頑張るんだ!!

「怖くなかったから、大丈夫だよ」

「声、震えてたよ? そんなに、こいつを助けたい?」

何だろう。その含みのある言い方は。

確かに、腕は守りたいよ。でも、一番はそうじゃないんだよ。

私はね、レフィトに──。

「他人を傷つけさせたくないの!」

騎士の仕事で、人のために力をふるうこともあるだろう。

でも、今はそれとは違うじゃん。

確かに、先に手を出してきたのはログロスだけど、今レフィトがやっているのは過剰だよ。

私のためにレフィトが他人を傷つけるのなんて、嫌だ。

「確かに、怖かったよ? でも、助けてくれるって分かっていたから、大丈夫だったんだよ」

私の言葉の真偽を確かめるように、琥珀色の瞳が私を見ている。

私の気持ちが少しでも伝わるように、その瞳をしっかりと見つめ返す。

「信じてたんじゃない。分かってたんだよ。いつだって、助けてくれるから。人の悪意は怖いけど、一緒にいるとそれも平気になれるんだよ。いつも、私の心も守ってくれているよ」

レフィトの名前を呼べないことが淋しい。

本当は、名前をたくさん呼んで、レフィトのおかげだと言いたい。たくさんのありがとうを伝えたい。

お兄様なんて、嘘でも呼びたくない。

「ありがとう。ありがとうって、何回言っても足りないくらい、支えてもらってるよ」

何だか、ヒロインみたいなことを言ってしまった気がする。

もしかして、今度は私がヒロインムーブをかましたのだろうか。

マリアンのヒロインムーブは、肝心なところで発揮されないけれど、これではヒロインムーブ合戦だ。

でも、レフィトに言った言葉に嘘はない。

絶対にレフィトが助けてくれるって分かっていた。

怖くなかったっていったら嘘だし、声も震えてしまった。

今だって、少しだけ怖い。それでも、本当に大丈夫だったのだ。

私はいつも、レフィトに守られている。だから、怖くても前を向ける。

「このままだと、本当に骨が折れちゃうよ。お願い、離してあげて?」

仕方がないという溜め息を吐くと、レフィトはログロスの腕を離した。

その腕には、レフィトが握った跡がくっきりと残っている。

一体、どれほど力を込めて握ったのだろうか。

「次、僕の最愛に少しでも触れようとしたら、その腕を使い物にならなくしますからね? 彼女が悲しむから、しないだけですよ? 彼女に感謝してくださいね」

冷たく言うレフィトをログロスは睨みつけた。

ねぇ、さっきまで散々痛い目に合ってたよね? 学習能力、どこに忘れてきたの?

思わず零れそうになった溜め息をグッとのみ込んだ。

もしかしたら、その溜め息に反応したログロスがまた余計なことを言うかもしれないからね。

それなのに、お馬鹿なログロスはこぶしを振り上げた。

「ちょっと待っ──」

慌てて静止の声をあげたが、既にログロスはレフィトに踏み潰されていた。

一瞬すぎて何が起きたのか分からない。

いつの間に、踏み潰したの? 過程が少しも分からなかったんだけど……。

「今度は暴力ですか。そこの王子と王子の婚約者様は、こいつにいったいどのような教育をしてきたんでしょうね」

「友人を教育なんかしない」

「そうよ。私たちはお友だちですもの。階級なんて関係ないわ」

嫌味たっぷりに言った言葉に、王子とマリアンはハッキリと答えた。自分たちは間違っていないという自信が見て取れる。

その姿に、友だちなら助けようとしなさいよ!! と言いたくなる。

この人たちの言う友だちって、何なのだろう。

馬鹿だし、学習能力もないけれど、やっぱりログロスは可哀想だ。

ログロスもどうしてマリアンがいいんだろう?

助けた方がいいのか、痛い思いをしてでも成長する可能性に賭けた方がいいのか、百面相をしながら、見守っていたカナ様の方が、余程ログロスのことを考えてくれているじゃないか。

「申し訳ありませんでした。よく言い聞かせますので、今回は大目に見てもらえないでしょうか……」

「うるさい。カナは黙ってろ!!」

レフィトに踏まれた状態でログロスは言った。

唯一、自分をかばってくれた人に何てことを言うんだ。

「ログロス、可哀想……。婚約者にあなたの良さを理解してもらえないなんて……」

「マリアン……」

状況に合っていない、ログロスの心を繋ぎ止めておくためだけに発せられた言葉。

それのどこに感動するところがあったのだろう。

自身の言っていることがおかしいと分かっているから、マリアンは、周囲に聞こえないように小さな声で言っているみたいなのに。

ログロスは、そんなことにも気が付かない。

都合の良いように利用されている。

「とても美しい友情ですね」

褒めているのに、ちっともそんな感じがしない言葉は、蔑んでいるのがバレバレだ。

野次馬をしている貴族たちの空気も、さっきからざわりざわりと揺れている。

そんな空気を変えたのは、カナ様の声だった。

「ログロス、この人たちに謝罪をしなさい。あなたが悪いわ」

凛とした声が響く。

「仮面をしている人は、プライベートだって教えたでしょう。その仮面を無理矢理とることは、あなたが力任せに他者の自由を侵害するということよ」

「こいつらは罪人だ。罪人に自由もクソもない」

レフィトに踏みつけられたまま、ログロスは叫ぶ。

あまりにも馬鹿すぎて、現実逃避をしたくなってきた。

こういうの、何て言うんだっけ。確か、動物がついた気がするんだけど……。

「罪人? 僕たちは何の罪も犯していませんよ。無実の者を犯人にでっち上げることがお得意のあなた方の方がよほど──」

「不敬罪だっ!! 今すぐ顔を見せろ。ただじゃおかねーからな」

そう叫んだログロスに、ある意味感心してしまう。本当によく吠えるのだ。

吠える? あ、そうだよ。吠えるだよ。

「負け犬の遠吠えだ!! いや、弱い犬ほどよく吠えるってのも捨てがたいなぁ……」

あー、スッキリした!! って、思ったんだけど、何だか周りからの視線が痛い。

そして、レフィトは大爆笑だ。

「あれ? 声に出てた?」

あはははは……と笑いながら頷くレフィトは、不定期でログロスのことを強く踏みつけている。

あれは、笑っているからうっかり強く踏んだんじゃない。わざとだと思う。

「えっと……、ごめんね?」

ログロスの前にしゃがんで、謝罪した。

負け犬の遠吠えとか、弱い犬ほどよく吠えるって、悪口だよね。

心の中に留めておくつもりが、うっかり口から漏れてしまうなんて、失礼過ぎる。

それに──。

「犬にも失礼だよね。犬の方が利口なのに……。犬が入った言葉を使うべきじゃなかったよね……」

そう言った瞬間、ネイエ様が咳払いをした。

目線は明らかに遠くを見ている。というか、こっちを見ないようにしている。

クスリ、クスリと嫌な笑いがあちこちから、聞こえ始める。

ジャスミンちゃんのことを笑っていた声は、次の標的を変えログロスにしたらしい。

安全なところから、人のことを笑う野次馬たち。

あの人たちは、見ているだけなら罪はないと思っているのだろうか。