軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、無計画に首をつっこんではいけません③

自分たちを守るために私とネイエ様に立ち向かい、ハンカチで涙を拭くという演技を見せるマリアンに、取り巻きたちは感動している。

でもね、こっちは事実を言っているだけだよ。

何もひどくないからね? 事実をねじ曲げたのは、そっちだよね?

確かに、私は悪役令嬢にざまぁされるヒロインポジションだし、マリアンは皆から好かれる悪役令嬢ヒロインだ。

だけど、彼等が年下の女の子をいじめてたのは事実だ。

それなのに、都合が悪くなった途端に被害者面とか、最悪過ぎる。

「彼等が優しいというのは、あなたの主観ですよね? 私には、年下の女の子を寄ってたかっていじめる、卑怯者にしか見えませんけどね」

私の言葉に、マリアンはギョッとした表情を見せた。

けれど、次の瞬間に小さく口の端を上げたのを、私は見逃さなかった。

「あなた、自分より高貴な彼等にそんなことを言っては駄目よ? 不敬罪で捕まってしまうわ……」

「そうなったら、私が事情を話すわ。私の大切な友人を守るために勇敢に戦ってくれただけで、何の罪も犯していないってね」

心配するふりをして脅してくるマリアンに、 躊躇(ためら) うことなく、ネイエ様は笑みを浮かべながら言ってくれた。

顔を隠して、誰か分からないように変装している私のことまで守ろうとしてくれている。

おっとりとした口調なのに、中身はキレッキレで、堂々とした姿がかっこいい。

よし! 私も、もうひと攻めしましょうか。

ネイエ様みたいにかっこよくは無理だけど、かばってもらいっぱなしは性に合わない。

「都合が悪くなったからって、話をすり替えるのは、やめてもらえませんか?」

ネイエ様の笑みを見習って、私も笑ってみる。

余裕があるように見えているだろうか。頑張れ、私の表情筋!

「さて、話を戻しますが、彼女が押してもいなければ、転ばせてもいないって、もう分かりきってることですよね。だって、あなたが言ってましたよね? 自分が勝手に転んだんだって」

あの場では、自分自身を有利にするために使った言葉だろうけど、私も大切に使わせてもらうことにする。

「まさか、自分で転んだって嘘をついたんですか? 彼女を助けるために?」

優しい優しいみんなのマリアン様は、ここで頷くことはできないだろう。

ジャスミンちゃんが押したことにすれば、彼女の優しいという評価に傷がつく恐れがある。

自分で転んだって以外の答えはないよね?

「それは……」

「マリアンの優しさに決まってるだろ。そのチビをかばったんだよ。そんなことも分からないのか?」

言い淀んだマリアンの変わりに、ログロスが言った。

人を小馬鹿にした言い方が感じ悪い。

マリアンと同級生になりたいってだけで留年した ログロス(本物の馬鹿) に馬鹿にされたという事実が、地味に痛いだけど。

私のささやかなお胸がズキズキする。

「そんなことも分からない馬鹿は、黙ってろよ」

うわっ! 小馬鹿にされるだけじゃなくて、馬鹿に馬鹿って言われた!!

すんごい腹が立つ。

腹は立つんだけど、レフィトの雰囲気が怖すぎて、うっかり言い返すタイミングを逃してしまった。

レフィトから殺気が漏れている気がするんだけど、気のせい……なんてことはないよね?

レフィトのいるところで、私の悪口を言うの、本当にやめてくれないかな。

言うなら、レフィトのいないところでしてくれないと困るんだけど。

あのね、私を少しでも悪く言ったら、レフィトが番犬化しちゃうんだよ?

驚くほど簡単に牙をむいちゃうからね?

今すぐにでも、噛みつける用意はできてるよ? たぶん。

「マリアン様は、押した相手を見たんですか?」

「私の口からは、とても……」

ログロスのことは無視することにして、発した私の言葉に対するマリアンの『慈悲深い私』の自己アピールが凄まじい。

見たとは言ってなくても、濁してる時点でちっとも優しくないのに、取り巻きたちは気が付かないのかな。

気付いてないから、マリアンは優しい! 俺たちの天使!! ってなってるのか。

本当に隠したいなら、きちんと否定するはずなのになぁ。

「言えないってことは、見たってことですよね?」

「えぇ……」

心苦しそうに頷いたマリアンのヒロインムーブは止まらない。

「でも、ジャスミンさんに押されたってことが、やっぱり信じられなくて……」

チラリとジャスミンちゃんを見たあとに俯いたマリアンを、取り巻きたちがなぐさめている。

「そうですね。私も信じられませんよ」

あなたが見たと言った言葉がね。どう考えても、嘘なんだもの。

「どうやって見たんですか?」

「どうって……」

どうやらマリアンも自分の話の矛盾に気が付いたらしい。

マリアンのドレスで汚れているのは、前の方だ。つまり、後ろから押されたのだろう。

ということは、押された瞬間は相手の顔が確認できないはず。ジャスミンちゃんが押したのを見るのは、不可能だ。

私を見るマリアンの瞳に、一瞬だけれど明らかな殺気が込められた。

「転んだあと、すぐに振り向いたのよ」

「なるほど。その時に一番近くにいたのが、彼女だったわけですね?」

「そうよ。目が合ったもの……」

「目が合った……ですか。でもそれって、見たって言わないですよね」

押してすぐに立ち去っているかもしれないし、近くにいた別の令嬢が押したのかもしれない。

こんなにたくさんの人がいる中で、ジャスミンちゃんが犯人だって決めつけるのは無理だろう。

「ぐちゃぐちゃとうるさい女だな」

舌打ちをしながら言ったかと思うと、ログロスは私を睨んだ。

「顔も見せずに、言いたい放題。どこの世間知らずだ?」

そう言いながら、手は私の仮面へと向かってくる。

体も大きければ、手も大きく、あっという間にログロスの手のひらは私の視界を奪った。