軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、準備を始めましょう⑦

「大丈夫? 難しい顔してるよぉ?」

「情報量が多すぎて、頭が混乱してきただけだから、大丈夫。ありがとう。あとひとりだよね?」

レフィトが抜けた穴をふさぐかのように現れた人物。パンセくんは、私にとって一番謎な人物だ。

乙女ゲームに登場してなかったし、まだ学園に入学もしていない。お金がないから社交界デビューしていない私には、会う機会のない人物だ。

「パンセとジャスミン嬢だよね。あのふたりのこと、オレもあんまり詳しくは知らないんだよねぇ。オレがマリアン嬢のそばにいた時は、パンセがマリアン嬢と接触することはなかったし、近付いたのもここ一ヶ月なんだよ」

「そうなんだ。どっちから近付いたんだろうね」

偶然、親しくなる機会があったのだろうか。

それとも、どちらかが意図的に近付いた?

「色々と調べ始めたところだから、曖昧なものが多いけど、分かってることを伝えるねぇ。まず、知ってるかもだけど、パンセはロワン伯爵家の三男だねぇ」

「ジャスミンちゃんも伯爵家なの?」

「そうだよぉ。関わり合いがあまりなかったのは、王子の周りには、公爵、侯爵、辺境伯の子息しか置かれなかったことにあるかなぁ。令嬢に関しても、辺境伯以上の爵位があることが基本だねぇ。例外もあるけど」

「例外って?」

「側近候補の婚約者であれば側に置くこともあるんだぁ。未来の王妃のお友だち候補としてねぇ」

なるほど。王子の周りは、子どもの頃から側近候補と婚約者候補になるってことね。

相手は辺境伯以上の爵位かぁ。その世代によって、伯爵家の側近候補とかもいたのかな……。こんなに上位貴族の年代が重なることも珍しいだろうし。

何というか、そこに関しては、さすが乙女ゲーム転生って感じだよね。国の主要人物になる予定の人が一学年にこんなにも集まってるあたりがさぁ。

「だから、パンセは異質なんだよねぇ。確かにロワン家は貿易に精通していて、伯爵の中でも頭角を現してきてるけど、それだけじゃ、弱いと思うんだぁ」

「側近になるには、もう一押し必要ってこと?」

「そういうこと。何か裏がありそうだからロワン伯爵家を調べてるんだけど、何にも出てこないんだよねぇ。気持ち悪いくらいキレイな商売なんだぁ。そこが逆に怪しいっていうかさぁ」

キレイな商売なら、それに越したことはないと思う。

きっとレフィトには、私に見えない何かが見えているんだろうな……。

「ジャスミンちゃんとの関係性って、どうなの?」

「すっごく仲が良いはずだったんだけどねぇ。マリアン嬢に近付いたあたりから、うまく行ってないみたいだよ。ジャスミン嬢は、変わらずにパンセを好きみたいだけどねぇ」

ということは、ここ一ヶ月で急に不仲になったってことか。

違和感がすごいな。仲が悪くなるなら、きっかけがありそうだけど、それがマリアンってのがおかしい。

徐々に気持ちが離れてしまったならともかく、急だったわけだし。

「変だね」

「でしょう? 色々と変なんだよぉ。もう少しさぐっては見るけど、何だかうまいことかわされてる気がするんだよねぇ」

少し眉間にシワを寄せてレフィトが言った。

直感は黒だと言っているけど、証拠が出てこないって感じだろうか……。

「ジャスミンちゃんなら知ってるかな……」

「知らされてないんじゃないかなぁ。知ってたら、あんなに悲しまないと思うんだよねぇ。悲しんだとしても、違う種類の悲しみだろうし。もし、さっきのが演技だったら、 諜報(ちょうほう) 部隊にスカウトしたいくらいだよ」

確かに、目に涙を浮かべている姿は、偽りには見えなかった。

もし演技だったら、女優さんもビックリな演技力だ。

「もしかして、ジャスミン嬢に同情しちゃったぁ?」

「……うん。いきなり好きな人から冷たくされるって、つらいと思うんだよね」

「そうだねぇ。よくマリアン嬢を殺さないで我慢してるなって思うよぉ」

「…………ん?」

「自分の好きな人をたぶらかしたクズは、殺されて当然でしょう?」

「当然……ではないかな…………」

「カミレは、優しいねぇ」

いや、優しいんじゃないよ。

普通、好きな人が心変わりしても、たぶらかされたとはならないんだよ。そこから、殺されて当然にもならないんだよ。

「知ってみて、どうだったぁ?」

「(急なヤンデレを含めて)ビックリしたってのが、正直な感想かな。簡単に婚約破棄できない理由も詳しく分かったよ。ありがとう」

それぞれに事情があるのだ。本人が望んでいるかは別として、彼女たちを守るためのものもあった。当たり前だけど、婚約破棄は簡単なものじゃない。

でも、やっぱり彼女たちばかりが嫌な思いをしている今の婚約が正しいものとは思えない。

守るにしても、他の方法はないのかって、思ってしまう。

たぶん、私は彼女たちに同情している。

逃げられない、自分の意思では選べない未来を持つ彼女たちは、諦めたり、恨んだり、悲しんだりしながら、既に自分の中で折り合いをつけたのかもしれない。

そうだとしたら、私が関わろうとすることは、余計なお世話だ。私が直接話を聞きたいと望むこと自体が迷惑かもしれない。

「でも、もし彼女たちが自由のために戦うことを望むなら、仲間……は無理でも、協力関係になれたらいいなって、思うよ」

「そうだねぇ。でも、仲間や協力者が増えるってことは、裏切られる可能性も増えることを忘れちゃ駄目だよぉ?」

そう言いながら、レフィトは笑う。

「あとちょっとで、サーカスが始まるねぇ。せっかくのデートだし、今は他のことを忘れて楽しもうよ」

「うん」

楽しめるだろうか……。

なんて思っていたのだが、目の前で始まった光景に目も心も奪われるのに、そう時間はかからなかった。