軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、変装道具を買いましょう②

「はい、かけたよぉ」

「うへぁぁ……」

尊い……。やっぱり、ここは天国じゃなかろうか。生きてて良かった。

前世で徳を積んだ記憶はないけど、この幸せは全力で 享受(きょうじゅ) しよう。しつこいようだけど、神様、ありがとう! 私、幸せです!!

キリッとした雰囲気に変わったレフィトは、かっこいい。

似たような眼鏡をかけているクール眼鏡のデフュームより圧勝でかっこいい。

今日から推し変だ。ふたりを推すのではない。デフュームを推していた私は、過去のものとなった。

すまない、前世の友よ。私はレフィト推しに変更するよ。皆なら分かってくれるよね? 眼鏡こそ至高! この主張をし続け、同じ志を持って、眼鏡男子を愛でていたのだから!

「カミレ、鼻血!!」

慌てた様子でレフィトが私の鼻を押さえてくれた。

パッと見、冷たそうな雰囲気なのに、眼鏡の奥の瞳が心配そうに私を見ている。ギャップが堪らん。尊い。尊すぎる……。

あぁ……、レフィトの高級そうなハンカチが赤に染まっていく。

……ん? 高級そうなハンカチ? 赤に染まるって、鼻血まみれになってるってことじゃん。

えっ? このハンカチいくら? 弁償できるかな……。というか、ドレスは無事? ハンカチは弁償できるかもしれないけど、ドレスは無理だよ!?

眼鏡をかけたレフィトは、鼻息が荒くなって、鼻血が出てしまうほどにかっこいい。何度見ても、永遠にかっこいい。間違いない。

だけど、ドレスを汚したかもしれないという現実が、私を急速に冷静にさせた……というか、血の気が引いた。

そのおかげか、鼻血もすぐに止まった。

犠牲は、ハンカチだけで済んだだろうか。時を巻き戻せるなら、両鼻にティッシュを突っ込んでおきたい。

恐る恐るドレスの安否を確認しようと、視線を下へと向けた。その時──。

「カミレ、横になろうかぁ」

「えっ!?」

レフィトに背中を支えられ、ゆっくりと体がソファへと沈んでいく。自分の家でもないのに、ソファに寝そべってしまった。

「足、触るよ。ごめんねぇ」

ヒールを脱がされ、足元にクッションを差し込まれたことで、足を高くした状態となる。

これって、貧血の時にやるやつだよね?

「どうしたの? 今度は意識飛ばしてないよ?」

「うん。でも、顔が真っ青だよ。 目眩(めまい) は? 気持ち悪いとかない?」

「大丈夫だけど……」

心配させてしまったのは、分かる。だけど、ドレスの確認ができていない。

チラッと見えた感じは大丈夫そうだったけど、小さな汚れは一瞬じゃ分からない。確認するまで、安心できない。

「起きてもいい?」

「駄目」

ピシャリと言われてしまった。本当に大丈夫なんだけどな。

大丈夫じゃないとしたら、ドレスの方なんだけど……。

この後、強制的に休まされた。

レフィトは私のわがままをきいて、眼鏡をかけたままだ。レフィトが眼鏡を外すなら、横にならない! と言ったら、ため息を溢しながらも願いを叶えてくれたのだ。

ぼんやりと、カガチさんと変装道具について話し合っているレフィトを眺める。

変装道具の話し合いに私だって参加したいのに、蚊帳の外だから、やれることはレフィトを見てトキメキを浴びることだけだ。

銀縁眼鏡をかけて、真剣な表情で話しているレフィトはいつもよりかっこいい。今、この瞬間のスチルが欲しい。何故、この世界にはカメラがないのだ。残念でならない。

「私も参加しちゃ駄目?」

「元気になったらねぇ。今のカミレの仕事は、回復に努めることだよ」

そう言われても、私は元気なのだ。ドレスが無事なのを自分の目で確認できれば、もっと元気になる。

「ドレス、本当に無事なんだよね?」

「大丈夫だよぉ。もし汚れてても、着替えれば良いだけだから、心配しないでぇ」

……着替えればいいだけ? そんな馬鹿な。金銭感覚、どうなってるの?

いや、元々違うのは知ってたよ? 知ってたけどさぁ……。

「今のは、駄目だな。駄目駄目だ。レフィト、マイナス百点。お前は、乙女心というものがまるで分かってない!」

ビシリとレフィトを指差して、カガチさんは言った。だけど、たぶんカガチさんもハズレだ。

乙女心じゃない。お金心? による心配なんだよ。

「オレより、カガチの方がカミレのことを分かってるわけがないでしょぉ? 頭沸いてるのかなぁ?」

「痛い痛い痛い痛いっっ!!!!」

そう言いながら、レフィトはカガチさんの頭を 鷲掴(わしづか) みにした。ミチミチと音が鳴っている気がするんだけど……。

「レフィト、やめなよ」

「駄目だって、起きちゃ。ほら、横になって……」

止めるために体を起こせば、いつ移動したの? というスピードでレフィトは私の隣へとやって来た。そして、再びゆっくりとソファへと沈められる。

「すんごい高いだろうドレスを汚したかも……って、血の気が引いただけだから、本当に大丈夫だよ。ねぇ、このドレスっていくらなの? 汚しても弁償できないし、可愛くって嬉しいけど、生きた心地がしないんだけど……」

ドレスを着る時、値段を気にする私にアドバイスをくれたアン。彼女を思い出し、心のなかで謝罪をする。

アン、ごめんなさい。私は野暮な女です。黙って受け取って、お礼を言うことはできませんでした。

汚すかもしれないという場面に直面する度、ビビり散らかし、寿命が縮む思いをしている。

分不相応なものを身に着けて、笑顔でお礼を言ってた(ゲーム内の)ヒロインって、メンタル鋼なの?

私には、無理だわ。着た時に喜んでくれたのは嬉しかったけど、もう脱ぎたい。ライフはゼロだよ……。

「折角、用意してくれたのに、ごめんね」

情けないけど、これ以上は隠し通せない。

がっかりさせたかもしれない。呆れられたかもしれない。

でも、もう無理だ。私は、私に屈することにする。何事も、無理は良くない。

「カミレ……」

「うん」

「気にしないでって言っても、気にするんだよねぇ?」

「うん、ごめん」

本当に申し訳ない。今世は貴族といえど貧乏で高価なものと縁はなく、前世はどこにでもいる会社勤めの一般人。

庶民歴が長すぎて、高級品への恐怖がすごい。見るだけならいいけど、触るだけでも恐ろしい。慣れる日は来るのだろうか……。

「謝らないで。オレのために、ありがとう」

「えっ?」

「そうでしょ? サーカスに一緒に行くために、頑張って着てくれたんだよね?」

「頑張って……じゃないよ。レフィトに喜んで欲しかっただけで……」

「うん。ありがとう。でも、サーカスはやめとこうねぇ」

……あれ? そっか、私がここでドレスを嫌だ、脱ぎたいって言うってことは、デートは終了になるんだ。

それは、嫌だな。

うわぁ。私、わがままだ。

あれも嫌、これも嫌。人生ニ周目なのに、何という自分勝手さ。

ドレスを着てデートを続けるか、それともドレスを脱いでデート終了か。答えなんて最初から決まってた。

それなのに、ぐだぐだと……。

「ごめんなさい! デート続行、お願いします!!」

覚悟を決めろ。頑張れ、私!!