軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

許すとか、許さないとか②

「……ログロスを側近候補から外す」

レオンハルト王子はログロスから視線を外し、耳を澄まさなければ聞こえないほどの声で言った。

「──っ!!」

ログロスは目を見開き、何かを言おうと口を開く。けれど、言葉が音になることはなかった。

握りしめられた拳が小さく震えているのが見える。

「レオンハルト様……」

マリアンはちらりとログロスを見たあと、不安げに真っ赤な瞳を揺らし、王子を見上げた。

そうすれば、王子は愛おしいという笑みを浮かべながら、その頬をなでる。

「……ログロス。残念だけど、君をマリアンのそばには置いておけない。今まで、ありがとう」

ログロスは小さく呻き、頷いた。

「これで満足だろう?」

自分の本意ではない、私たちのせいだというような王子の表情に、自然と眉間にしわが寄る。

「満足も何も、レオンハルト王子がその選択をしたんですよね。私たちとしては、ログロス様が王子といてもいなくても、どっちでもいいです。ね、レフィト」

そう言いながら、レフィトを見上げれば肩が小さく震えている。

「ぅ……うん。そうだ……よぉ…………」

「……なんで笑ってるの?」

「笑ってなんか…………。あ、あはははは……」

レフィトは、けたけたとお腹を抱えて笑い出し、目尻の涙をぬぐっている。

あまりにも場違いな言動に周りを見回せば、マリアンや王子、デフューム、ラルトルス辺境伯からは怒りや憎しみが感じられるものの、国王様、レフィトのお父さん、ログロスは目を見張って私を見ていた。

レフィトの笑い声が響く中、一番最初に口を開いたのは国王様だった。

「レオンハルトの意思は分かった。ラルトルス辺境伯、此度のことで子息を側近候補から外すこととする」

「──っ。待ってくれ。いくらなんでも罰が重すぎる」

「レオンハルトが決めたこと。信頼関係がなくなった今、そばに居続けることが正しいわけではない」

あっさりとログロスは、王子の側近候補から外されようとしている。

マリアンが「ログロスが可哀想だわ」と一言発するだけで、王子は前言撤回し、状況は変わるはず。なのに、マリアンはログロスをまったく見ることなく、口を閉ざしたままだ。

あまりにも……、あまりにもログロスが不憫だと思った。

これはただの同情で、彼を心から心配しているわけではない。

だから、口を出すべきではないだろう。

それでも──。

「レオンハルト王子も、マリアン様も、今まで尽くしてこられたログロス様を切り捨てるのですね……」

「ひ、ひどいわ。私たちはそのようなこと……。これからもログロスはお友達よ……」

マリアンは声を震わせ、私に向かって言う。

けれど、私はそんな彼女の言葉に何かを返すことなく、ログロスを見る。

いつもならマリアンの声に喜色の表情を浮かべる彼も、今はうつむいたままだ。

こんなこと無意味なのは、分かっている。

自分は救いの手を差し伸べないのに、マリアンたちを責める資格なんてない。

「ログロス様、顔を上げてください」

けれど、このままで終われば、きっと私は今日を思い出した時、息の詰まるような苦しさを感じてしまう。

だから、これは私のため。

「ログロス様。あなたが本当に困った時、そばにいてくれた人は誰でしたか?」

ゆっくりと瞬きをしたあと、静かにその目は見開かれ、視線が揺れる。

ほんの少しの沈黙のあと、ログロスの口からは音もなく言葉がこぼれた。

その二文字に、ログロスは明らかに動揺している。

「……俺は今まで」

再び下がった視線には絶望ではなく、後悔がのせられていた。

「これから、どうしたいですか?」

「これから?」

「はい。レオンハルト王子の側近候補ではなくなった、これから先です」

ログロスの顔は泣きそうに歪められ、今度こそしっかりとその名前が告げられる。

「カナは、馬鹿な俺とずっと一緒にいてくれたんだ……。俺がマリアンばかりを見ていても、馬鹿だと言いながらもと一緒に……。もし、カナが許してくれるなら…………」

声は掠れ、大きな体は小さく見える。

「…………間に合う、だろうか」

「それは、分かりません。でも、向き合ってみてはどうですか?」

「……あぁ、そうする。ありがとう。カミレ、本当に申し訳なかった」

頭を大きく下げられるけれど、私は謝罪を受け取らない。

「いつか、ログロス様が本当の意味で誰かを大切にしている姿を見せてください」

できれば、カナ様との姿が見たい。

けれど、それはカナ様がログロスを許せばの話。

いや、そもそも許す許さないの話ではないのかもしれない。

「んじゃ、ログロスの話は王子の側近候補から外すってことと、ラルトルス辺境伯家から慰謝料の支払いってことでいいよね? いやー、王子もログロスを見限ったかぁ」

場の雰囲気を切り替えるようにレフィトは言うと、「馬鹿だね」と、彼らに聞こえない声で囁く。

その言葉に私が小さく頷けば、レフィトはご機嫌に瞳を細めた。

「アグリオとログロスを失って、王子はどうするつもりだろうねぇ」

鼻歌まじりにレフィトは言う。

一人だけ楽しげで、レフィトの計画通りに進んだように思えて仕方がない。

でも、それを聞いたところで……ね。

「これから、いろいろと変わりそうだね」

「そうだねぇ。次はデフュームだよ」

犬歯をのぞかせ、レフィトは笑う。

その姿はやけに攻撃的だった。