作品タイトル不明
第七十五話 突き刺す者
第七十五話 突き刺す者
『GGGGYYYYYッ!』
雄叫びと共に、正面からレッサーデーモンの腕が迫る。同時に、背後からの攻撃も魔眼が告げた。
全力で加速し、前方の個体へ片手半剣を叩き込む。勢いのまま押し倒し、前転の要領で剣を抜きながら、置き去りにしたもう1体へ振り向き様に魔法を放った。
白い光弾が直撃し、レッサーデーモンの体が燃え上がる。絶叫を上げながら、その個体は地上へ落ちて行った。
だが、敵はまだ多数いる。右から振るわれた爪を鍔で受け流し、片足を軸に横回転。肘打ちをそのレッサーデーモンに入れながら、屋根の上から跳び下りた。
下で待ち構えていた悪魔が爪を振るうが、着地の寸前で身を捻りその腕を蹴り飛ばす。
『GA……!?』
膝を折り畳む様に着地すると同時に、横回転。足払いでもする様に、剣で周囲3体の足を薙ぎ払った。
斬れる。戦える。しかし、数が多い。囲まれまいと足を動かし続けるが、どこに行こうと怪物が行く手を阻む。
何より、こいつらの攻撃手段が素手のみとは思えない。
『■■■■……』
数メートル先で、4体のレッサーデーモンが立ち止まりこちらに両腕を向けている。魔力がうねり、まるで蛇の様に鎌首をもたげた。
魔法で狙われている。それを察知し斬りかかろうとするが、3体の悪魔が跳びかかって来た。
「ちぃ!」
『GYAHA!』
振り下ろされた右腕を避けながら、その首を刎ねる。直後に後ろから爪が突き出される未来を視るも、回避が間に合わない。鎧で受けるも、衝撃で吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
勢いよくコーヒーカップのアトラクションにぶつかり、鉄製のそれが拉げた。内臓が揺さぶられ、胃の中の物が喉までせり上がる。
吐いている暇などない。すぐさま横へ転がり、追撃に繰り出された蹴りを回避。空ぶった赤い足がアトラクションを破壊した。
遊園地への被害を気にしている余裕はない。立ち上がり様に跳びかかってきたもう1体の腹へ嘴型の杖先をねじ込み、横へ振るう。
2体がもつれ合う様に倒れた所へ、スピンコックでスクロールを装填。体勢を立て直す前に、光弾を放った。
絶叫と共に燃え上がったレッサーデーモン達から視線を切り、魔力が高まっている方へ向く。
すぐに駆け出すも、相手が魔法を発動する方が速い。
『■■■■■■!』
1メートル前後の槍が12本出現。それが、一斉にこちらへ放たれる。
猛スピードで迫るそれらに、貫かれる未来を幻視。未来予知に従い、左右へぶれる様に避ける。
『GY!?』
「らぁ!」
一息に間合いを詰め、腕を突き出したままのレッサーデーモンの首に剣を振るい、左手で杖先を別個体の喉へ突き刺した。
抉りながら引き抜くと共に通り過ぎ、脚力で持って強引に方向転換。爪で迎撃しようという残り2体へ斬りかかり、手前側を袈裟懸けに両断した。
『GYYYYGA!?』
残る1体が、踵を返して逃げようとする。だが、飛来した別のレッサーデーモンが直撃し、諸共倒れた。
そこに剣を突き立て纏めて貫きながら、飛んできた方を見る。
水のない噴水の周りで、『ケニング』が警棒と盾を使いレッサーデーモン達を殴り飛ばしていた。
両足のローラーを高速で回転させ、縦横無尽に駆け回っている。時にはアトラクションの屋根や建っている外套を蹴りつけて三次元的な動きまでしていた。
「オタク君!君はたつみんを探して!」
戦闘を続けるケニングの背中。コックピットの背面に、璃子先輩がグリップを掴みタラップに足を掛けた状態でしがみついていた。
不安定な状態で、飛びかかって来たレッサーデーモンの顔面に裏拳を叩き込んでいる。
「君なら単独でもどうにかなる!あーしらはここで退路を確保しているから!」
「……了解!」
迷っている暇はない。こちらも背後から迫る爪を剣で切り払い、赤い脇腹へ蹴りを入れる。
続けてスピンコックすると共に、横から振り下ろされた腕を避けながらレッサーデーモンの胴を切り裂いた。
そのまま、走って広場を離れようとする。逃がさない気か、10を超える悪魔達が眼前に立ちふさがった。
両足裏で地面を削りながら急停止。同時に、右肘で杖下部のスクロールケースを挟み込む。
杖の先端に魔法陣が展開。迫る怪物共へ、5つの光弾が散弾の様に放たれた。
『GAAAAAAA!?』
直撃を受けたレッサーデーモン達が燃え上がり、地面に転がる。出来上がった穴へと飛び込んだ所へ、後方で軽やかな着地音が聞こえた。
「行け!」
「はい!」
振り向かずとも、彼女の大鎌が自分を追おうとする怪物を薙ぎ払ったのが分かる。追撃の警戒はせず、ひたすらに走った。
広場を出て、メリーゴーランドの隣を駆け抜けながら、足を止めずに視線を巡らせる。
たつみんさんは、園の中にいる可能性が高い。ならば、先程の広場以外で魔力濃度が高い場所にいるはず。
そう思い走っていれば、魔眼が別の反応を捉えた。
直後、通りがかった廃レストランの壁をすり抜け、レッサーデーモンが跳び出してくる。
『GAAA!』
「邪魔だ……!」
急停止しながら剣を振るって胴を薙ぎ、半瞬遅れて現れたもう1体の顎へ蹴りを放つ。
足を振り抜いた勢いを利用し、斜め方向へ小さく跳躍。腰を捻って蹴り飛ばした個体へ杖を向けた
トリガーを引いたのとほぼ同時。スクロールが燃焼し、魔法が発射される。白い光弾がレッサーデーモンの左腕に直撃し、吹き飛ばした。
『GY……GAAAA!?』
爆ぜた箇所から、赤い体を白い炎が包み込んでいく。
断末魔の叫びを上げるその個体を視界に納めつつ、剣を鞘に納めて杖に装填されたマガジンを確認した。
残り3発。スクロールを籠めて満杯にし、杖へ戻す。そして、薬室にも排莢口から1発装填した。
『破魔』のスクロールは、今杖の内部にある7発と、ポーチの中の1本。効果の程は分からないが、『風弾』の使用を検討すべきか。
出来れば、『火弾』は使いたくない。いくら霊的災害とは言え、ここは……。
その時、遠くから轟音が聞こえてくる。広場側ではない。即座に右手で剣を抜き、音の下方へと駆け出した。
あちらは……ジェットコースター側か……!
「すぅぅ……っ!」
息を大きく吸い込み、加速。既に『身体強化』のスクロールは切れている。追加で発動させ、地面を強く蹴りつけた。
『GYYYY!』
「どぉけええええ!」
進路を塞ぐレッサーデーモンが、8体。内4体が、こちらへ両手を向け魔法を放つ。
飛来する12本の黒い投槍。一瞬だけ右にフェイントを入れた直後、左へと進路を変更。走りながら上体を捻れば、1本が肩をかすめる。
その状態で、魔法を放った。光弾が悪魔の1体を貫くも、残り7体が鋭い爪を構え駆けてくる。
『GGYA!』
「しぃ!」
先頭の個体が繰り出した爪を避け、すれ違い様に一閃。胴を引き裂いた。
続く別個体が仕掛けて来た体当たりを、横薙ぎの蹴りで迎撃。そのまま横回転しつつ、軸足を地面から放す。
真下を通り過ぎた、横合いから振るわれたレッサーデーモンの腕。それに背中を添わせながら、もう1回転。柄頭で脳天をかち割りながら、反動で近くの建物の屋根へ。
残り5、否、6体。屋根へ降り立つなりバックステップをしながらスピンコックをすれば、5体が追いかけて跳躍してきた。
直後に、屋根をすり抜けて背後から迫る蹴り飛ばした個体。予知に従い、振り向かず肩越しに魔法を放って仕留める。
『GAGAGAGAGA!』
突進してくる前方の5体に、こちらも突っ込む。
伸ばされた爪を額当で弾きながら、前進。互いの勢いを使って剣を鳩尾へ刺しこんだ。
切っ先を背中から出したまま、その個体が血反吐を吐きながらもこちらの両肩を掴む。それに構わず走り、屋根から跳び下りた。
空中で反転。貫いた個体を蹴りつけ、反動で外灯へ跳躍。足裏から衝突し、膝を曲げて衝撃を受け流しながら、一気に両足を伸ばして跳ぶ。
自分を追いかけて跳び下りてきたレッサーデーモン達の1体へ斬りかかり、その首を刎ねた。
やはり、こいつらは知能が高い魔物ではない。総合力は兎も角、そういう点ではズメウ以下か。
地面を削りながら着地したのは、敵もこちらもほぼ同時。残り3体が、髑髏の様な顔を自分へ向けてくる。
『GGAAAA……!』
リロードの暇を与えないという知能はあるのか、3体が再度突撃してくる。それに対し、やはりこちらも再び突撃。
剣を振りかぶり、間合いに入る寸前で相手へ投げつける。
『GA!?』
近距離で投擲された刃を躱す事が出来ず、中央の個体が直撃を受けた。頭部に肉厚の刃が深々と食い込む。
その脇をすり抜けながら、跳び上がって両足を地面から浮かせた。その状態で、反転しながら杖の下部を右手で掴む。ガチリ、と。次のスクロールを装填。
『GGGOOOOAAA!』
振り向いたレッサーデーモンの胸に、光弾を発射。着地しながら、レバーを動かして次のスクロールを薬室へ送る。
最後の1体が雄叫びを上げながら駆けてくるも、動じる事なくその腹に魔法を叩き込んだ。
レバーを動かし、排莢。空のスクロールケースが地面に落ち、甲高い音を立てる。
「ふぅぅ……」
スタミナ、魔力共にまだ問題ない。だが、集中力は少しきついか。
杖下部に『魔法拡大』のスクロールを籠める。マガジンに手をかけた所で、再び轟音。時間がないと、転がっていた剣を拾い上げて走り出した。
そして、遂にジェットコースター傍の広場に辿り着く。
かつては、ポップな屋台が並び、ベンチに訪れた家族が座っていたのだろう開けた空間。
そこには、色あせたベンチが幾つかと、錆びついた鉄柵。その向こうに見える、ボロボロのジェットコースターしかない。
もはや、ここは人の遊び場ではなく。
化け物どもの、狩り場と成り果てていた。
「たつみんさん……!」
「ごふっ……!」
広場の中央より、ややこちら側の位置に、鎧姿の彼女が片膝をついていた。
頑強なプレートメイルには幾つもの傷が刻まれ、足元には小さな赤い水たまりが出来ている。
彼女に駆け寄った直後、『何か』が降り立った。
自分達から、10メートル程前方。地面を抉った、強靭な四肢。
青白い毛並みの馬が、深紅の眼光をこちらに向ける。炎の様にその輪郭は揺らめき、この世ならざる威圧感を放っていた。
だが、それすらも霞む存在感。
鞍の上に跨る、老騎士。影を押し固めた様に真っ黒な肌の上に、白い布を巻いた様な姿。その装いは、遥か古代の服装に思える。
筋骨隆々とした手足には金色の革で出来た籠手と脛当てを身に着け、右手には無骨な槍を携えていた。
長い白髪と、豊かな髭。だがその下にある顔面は、レッサーデーモン達同様髑髏の様であった。
髪を掻き分けて左右へ伸びる、山羊の様な角。眼球のない、剥き出しの眼孔に赤い光が宿っている。
『フルカス』
ソロモン72柱の1角にして、唯一『騎士』の称号を持つ存在。
魔神が、自分達を馬上から睥睨していた。
───視線が、ぶつかる。
瞬間、自分の呼吸音が遠のいた気がした。喉に鉛でも詰められた様な感覚が襲い、両足が地面に縫い付けられる。
魔法、ではない。これは……純粋なる『恐怖』。
角から送られる脳内麻薬が、凍り付いていく様だった。武器を握る指から、力が抜けていく。それでも得物を落とさなかったのは、運としか言いようがない。
「ぁ……ぁあ……!」
やっと出て来た声は、何とも情けないものだった。
剣を構える事も出来ず立ち尽くす自分へ、魔神がゆっくりと左手を伸ばす。
その指先に光が灯り、空中へ何かを綴った。次の瞬間。
眼前に、炎の渦が迫っていた。