軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十八話 出来るギャル

第六十八話 出来るギャル

たつみんさん……いや。今の姿ならば竜宮さんと呼ぶべきか。

彼女の素顔に驚きはしたものの、取りあえず昼食をとる事にする。

「いただきまーす」

「いただきます」

璃子先輩の言葉に続き、自分も手を合わせる。

まずは麦茶を1口飲んで、渇いていた喉を潤した。少し焦り過ぎたか、勢いよく冷たい液体が流れていった事に喉がちょっとビックリしてしまう。

続いて、もう1口。今度はゆっくりと口の中で転がして、干上がっていた喉に沁み込ませた。体の内側から冷やされていく様で、気持ちが良い。

唇も渇いていたので、舌を使って湿らせる。麦茶がここまで美味しく感じる辺り、自覚がなかっただけで脱水気味だったのかもしれない。

コップを置き、箸を手にとる。大皿に載ったそうめんは1口サイズずつに丸めてあり、ちょうど良い量を簡単に取る事が出来た。

そのままガラスの器に入っためんつゆへ漬し、すする。

ちゅるん、と。口の中へ吸い込まれる細くしなやかな麺。それをしっかりと噛み潰して食感を楽しんだ。つゆの塩気が、これまた外にいた体には丁度いい。

だが、ダンジョン探索後の肉体は、未だ物足りなさを訴えていた。故に、自分の両目がまた別の大皿に載った豚肉へ向かうのは当然と言える。

蒸しただけのさっぱりとした豚肉を、とろりとしたゴマダレで軽くひたした。端っこだけ漬けて、垂れてしまう前に口へ運ぶ。

焼かなかった事で肉は簡単に歯で噛み切られ、その素朴な味を口内に広げた。しかし、別のタレのついた箇所はハッキリとした味を主張している。

それらが混ざり合い、1つになっていくのが分かる。夏らしくサッパリとした味わいが、運動後に相応しいガツンとした味に塗り替えられる様だった。

ゴマダレをつける量で、この融合も変えられるのが素晴らしい。

そんな事を考えていると、自分の前に刻んだネギと海苔が置かれる。褐色のしなやかな指の主が、こちらへパチンとウインクしてきた。

小さく会釈して、めんつゆにそれらを入れる。そして、再びそうめんを。

軽くひたしただけで、麺に瑞々しい緑色のネギと、つゆでしんなりとした海苔がくっついた。

それを、纏めて口に吸いこむ。

先程とはまた違った味だ。海苔に沁み込んだめんつゆで味が濃くなったが、ネギのシャキッとした食感とほんの少しの辛みが、調整してくれる。

これは、飽きない。

もしもそうめんだけだったのなら、いつもの夏の様に『そうめんばっかりはなー』と思うかもしれないが、蒸した豚肉を合間に食べる事で無限ループが出来上がっていた。

時折、麦茶で口内をリセットすると、より楽しめる。だが、サラダもきちんと食べなければ。水洗いした時についたのだろう水滴が照明の光を受け、宝石の様な輝きと共に自分を誘っている。

レタスが、キュウリが、ミニトマトが。それぞれ別の主張を口内でしながらも、どれも内に含んだ水分を放出してくる。

夏野菜の歓迎を受けた肉体に、活力が戻ってくるのがハッキリと自覚出来た。

「うんうん。美味しそうで何より」

ドヤ顔の璃子先輩が、豊かな胸の下で腕を組んで満足気な笑みを浮かべてる。

「はい、凄く美味しいです。ありがとうございます、璃子先輩」

「ふふん。賞賛と尊敬の眼差しが気持ちいぜ。晩御飯は野菜たっぷりのカレーだから、楽しみにしておきなぁ!」

「はい!」

「ん~、良いお返事!あ、美由っち。無理にあーしらのマネしなくても、フォークで食べて良いんだからね?」

「はい。ありがとうございます……!」

言われてから気づいたが、美由さんがそうめんを前にかなり苦戦している様だった。

手先が器用な人なので、既に箸自体は扱えているらしい。が、力を入れ過ぎて麺を切ってしまっている様だ。

そもそも、未来のアメリカ暮らしだった彼女には『すする』という事自体慣れていないだろう。麵をすする音に嫌悪感を抱いた様子がないだけ、順応していると言えた。

璃子先輩がいつの間にか置いていたらしい、木製のフォークで美由さんがめんつゆの中に沈んでしまった麺を巻きとり、口に入れる。

その味が彼女にとってどういうものだったかは……表情を見れば、一目瞭然であった。

「あーしはやはり、出来るギャルだぜ……!」

ドヤ顔を浮かべる璃子先輩に、今回ばかりはツッコミどころなど皆無で……。

いや、やっぱりギャルではなくない?美味しいけども。

そんなこんなで、冒険者5人での食事はあっという間に終わりを迎える。どのお皿も空っぽで、残っているのはめんつゆとゴマダレぐらいだ。

「ふぅ……して。幾つか気になっていた事があるのだが」

コップの中の麦茶を飲み干して、ロッソさんが切り出した。

「こちらの『封鎖所』なのだが、随分と腑抜けた様子であった。貴殿らの方はどうであった?若き鬼よ」

「あー……そうですね。ちょっと、眠そうな雰囲気ではありました。はい」

微妙に機嫌が悪そうなロッソさんから目を逸らし、答える。

だが、美由さんは不思議そうに首を傾げていた。

「末端の人員、それも首都から離れた場所に配備される者と考えれば、あれでもかなり真面目な部類だと思いますが」

100年後の人的には、そう見えたらしい。

彼女の言葉に、璃子先輩が苦笑を浮かべる。

「んまー。ロッソんやオタク君の意見も分かるよ。でも、去年までは違ったらしいんだよねー」

そう告げた璃子先輩の視線が、会話をパスする様に竜宮さんに向けられる。

両手でコップを持ちながら、伏し目がちに彼女は小さく頷いた。

「そう、ですね……去年の途中までは、真面目な人が沢山いました。でも、皆さん移動してしまった様です」

「それは……都市の方に?」

「はい……」

うつむいてしまった事もあって、長い前髪が竜宮さんの表情を覆い隠す。

「別に、大きなトラブルとかは起きていませんけど……やる気が感じられないかなって……」

「最初こそ13個もダンジョンが密集しているって事で、自衛隊や警察も滅茶苦茶警戒していたらしいんだけどねー」

璃子先輩が再び会話を引き継ぎ、頬杖をつきながら語る。

「ただ、特に霊的災害が起きる様子もないし、どこも人手不足だから、もっと人口の多い場所の警備に回されたってわけよ。ここに送られているのは、精鋭とは言えないって人達だねー」

「なるほど……」

「でも、素行に大きな問題がある人はいないだけ、お偉いさんもダンジョンへの警戒を怠っているわけじゃないと思うけど」

「そうですね」

璃子先輩の言葉に、美由さんがハッキリと頷く。

彼女基準で『素行の悪い人員』って、どんな感じなのだろうか。聞きたい様な、聞きたくない様な。

「それ、に……1番危険なダンジョンの間引き、は……自衛隊の人達がやってくれているから……十分、です」

そう言えば、13個のダンジョンの内、1つだけ一般に開放されていないのがあると電車で聞いたのを思い出す。

民間の冒険者が挑む事を許されていない、危険すぎる魔物。それの対応は、キチンとやってくれているらしい。

たしか、村から数キロ離れた所にあるのだったか。

「この辺りで発見された順番的には13番目のダンジョンなんだけどさー。仏教徒のあーしでも不吉に感じるわー」

「璃子先輩、仏教の人だったんですか……?」

「まー、クリスマスにはケーキを食べるし、お正月には初詣で友達とウェーイする模範的な日本人だけどねー」

……そう言えば、うちも一応仏教徒か。あんまり自覚ないけど。

「私も十字架に祈る人間でしたが、別の宗教である『矢広耕太ママ教バブミ派』のイベントには参加していましたね」

「は、え?」

「HAHAHA!ナイスジョーク!」

何を『分かります』みたいな顔で頷きながら、とんでもない爆弾を投げているのだこの未来人。

てかねーよ。そんな宗教は存在しねぇよ。少なくとも現代には存在しない。

「え……え?」

「いい機会です。折角ですし、『バブミ派』と『産道派』の違いについて」

「そう言えば、午後のダンジョンってどうしますか?組み分けは午前中と同じですか?」

そんな機会はないし、来させない。というかこっわ。まだバブミは分かるが、何だよ『産道派』って、聞きたくねぇわそんな邪教。

唇を尖らせるな未来人。可愛い顔しても語らせねぇよそんなもん。

……くっそ!本当に顔が良いなこいつ……!

「あ、うん。そう、だね。午後も、同じメンバーで……」

「よーし。そいじゃ、ちゃちゃっと片付けてゆっくり休んでから行くとしますかー」

ガタリと椅子から立ち上がった璃子先輩を手で制しながら、自分も立ち上がる。

「ああ、いえ。片付けは僕らで。璃子先輩は作ってくれたわけですし」

「そうですね。私も手伝います」

自分に続き、美由さんも立ち上がってくれる。

「マ?助かるー。そんじゃお願いねー」

「あ、じゃ、じゃあ、私、も……」

「おっと。ごめんカナっち。山岡さんが後で電話ちょーだいって言っていたの、伝え忘れていたっけ」

「大丈夫ですよ、竜宮さん。こっちは、僕と美由さんでやっておくので」

「あ、うん。その……お願い、ね?」

身長差もあって、前髪の隙間からこちらを見上げてくる竜宮さん。

着ぐるみの時とは違い、弱々しいその視線に、ちょっとぐっとくる。あと無意識に見下ろしてしまう形になるお胸様の存在感よ……。

というかこの空間、自分以外全員巨乳美女か……。

気まずさの方が強いが、嬉しさもある。目のやり場には、少し困るが。

「ふっ。では吾輩も助力してやるとしよう」

「黙れ。座ってろ。厨房に入るな」

「吾輩だって皿洗いぐらいした事あるもん!」

「うるせぇ。その服脱いでから出直してこい」

真顔の璃子先輩に対し、ロッソさんが自身を抱きしめながら顔を赤くする。

彼女の両腕に押さえられ、豊満な胸がムニュリと形を変えた。

「んなっ!わ、吾輩に裸エプロンとなれと!?セクハラか!?」

「ちげぇよ。厨房で動くのならゴスロリやめろって言ってんだよ」

ロッソさんの……裸エプロン……!

「危ない、避けろ僕!」

「!?」

脳内に存在しない記憶が駆け巡ろうとするも、即座に頬へ拳を叩き込む事で回避した。

危うかった……ただでさえ嬉しくも気まずい空間で、更に気まずくなる所だったぞ……。

ロッソさん……恐ろしい子!

「耕太さん?い、いったい何が……」

「大丈夫、美由さん。僕は……大丈夫……!」

「絶対に大丈夫じゃありませんよね!?」

なるべく爽やかな笑みを浮かべたのだが、美由さんが冷や汗を掻いている。

ごめん。詳しくは説明できねぇんだ。僕の心と社会的な生命を守る為にも。

「一度検査を受けた方が……いいえ、異能関連の事となると、魔力の状態を確かめる他ありません。すぐに喫茶店へ戻り、マスターに相談を」

「美由っち。この件を追求するのは、やめてやってくれ。マジで」

「吾輩が悪かったから……それ以上、若き鬼を虐めないでやってくれ……」

「美由、ちゃん……めっ、だよ?」

「なぜ!?」

ふふ……どうしよう。ちょっと泣きたい。

美由さんが他3人によって足止めされている間に、空になった食器をお盆に載せて厨房へと逃走する。

この後、滅茶苦茶お皿洗った。

……それはそうと。

竜宮さん、気弱そうな感じだったが、着ぐるみを纏っていなければ発狂するとか、そういう風ではなかったな。

洗剤をつけたスポンジで皿を洗いながら、犬吠埼さんを思い浮かべる。あの人は、メイド服以外だと精神に深刻なダメージが入るらしいが。

では、なぜ竜宮さんはずっと『たつみん』でいるのだろう?