軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 貴方の未来は伝説のスーパードスケベ人

第七話 貴方の未来は伝説のスーパードスケベ人

今日会ったばかりの美少女の家に、突然招待された。

間違いない、これは罠である。孔明が仕組んだ、暴虐で無慈悲な殺戮計画に他ならない。

当然、断ろうとした。しかし、内容を聞かずに『NO!』と叫んで逃げ出すのも、今後のクラン活動に響くだろう。

その為、用件を尋ねた。すると、彼女は少し考えた後。

『今後の、冒険者生活についてお話したい事があります』

と、答えた。

だったら喫茶店で話せば良いのでは、と問うも、彼女の異能に関わる事なので内密に話したいのだとか。

真剣な面持ちで言われてしまうと、こちらもこれ以上の追求が難しい。

仕方なく、小鳥遊さんの提案に頷いた。

……決して。

うっひょー!罠とか考え過ぎだよ!遂に我が世の春が来たんだよ!!

などと、アホ全開の思考だったわけではない。

彼女の美貌や爆乳に脳の活動が低下し、気を緩めた瞬間視線が乳に固定されるなんて事はないのである。

ないったら、ないのである!

……いや本当にでっけぇな。

* * *

そうして、我ながら深い思慮と鋭敏な警戒心の元、彼女についていったわけだが。

……もしや自分は、アホなのではないだろうか?

家の前まで到着し、『異性の家』に対する緊張からちょっとだけ冷静さを取り戻す。

水たまりより浅い思慮深さと、カルガモの子供以下の警戒心と言うべきかもしれない。反省。

だが、美人局の可能性はやはり低いようだ。

「その……大きなおうちだね……」

眼前にある小鳥遊さんの自宅を見上げ、失礼にならない程度に観察する。

この辺りは田舎なので、庭付きの一軒家は珍しくない。だが、それにしても彼女の家は大きかった。

新築らしく、汚れのない白い外壁。2階建ての家屋の隣に、大型車も余裕で入れそうなガレージ。

庭の広さも、バスケットコート程もある。導線にはコンクリートが敷かれ、それ以外の場所は砂利が敷き詰められていた。

敷地も広いが、建物の幅もその分広い。ちょっとした屋敷を名乗れるのではなかろうか。

こんな立派な家が近所にあるだなんて、初耳である。

「そうですね。正直、持て余しています」

小鳥遊さんはこちらの言葉に答えながら、視線を玄関扉の上に向けた。

監視カメラの近く。扉と壁を繋ぐ様に、髪の毛がセロテープで貼り付けられていた。

……まさか、アレで勝手に扉が開けられていないか確認している?

彼女は髪の毛の両端が固定されている事を、わざわざ指さし確認していた。そう言えばバスの中でスマホをじっと見ていたが、アレは監視カメラのチェックをしていたのかもしれない。

何とも、警戒心が強い人だ。こんな美人でお金持ちなのだから、当然かもしれないけど。

そこでふと、聞かなければならない事があったのを思い出す。

「あ、あの。小鳥遊さん」

「はい、なんでしょうか」

こちらに問いに、彼女がすぐさま振り返る。

その拍子に揺れた胸から目を逸らし、頬に冷や汗を掻きながら尋ねた。

「今日は、その、ご家族は?」

これだけ警戒心の強い人だ。今日会ったばかりの男と、家で2人切りになるわけがない。

変な疑いをかけられない分、ご家族がいた方が嬉しいが、それはそれとして余計に緊張してしまいそうである。

だが。

「いいえ。全員死亡しています」

あまりにあっさりと、彼女はそう言った。

言葉の意味を理解し、顔から血の気が引くのを自覚する。

「す、すみません。無神経な事を」

「いえ、何年も前の事ですので。気にしていません」

小鳥遊さんは何でもない事の様に、小さく首を横に振った。

本当に気にしていない様で、表情や視線に変化はない。その事に内心で胸を撫で下ろしていると、彼女は玄関から離れる。

「詳しいお話をする前に、見て頂きたい物があります。こちらへどうぞ」

「は、はあ」

言われるがまま、小鳥遊さんについていく。

どうやら、ガレージに向かうらしい。喫茶店の裏にあった物にも驚いたが、こちらは更に大きかった。

小鳥遊さんが、ガレージの壁に取り付けられたボタンを押す。音を立てて、シャッターが上に動いた。

しかし、見せたい物とは何なのか。歳が近いし、車やバイクの可能性は低い。

冒険者活動や異能に関する事と言っていたが、彼女も自分同様に何かを作るタイプの異能持ちなのだろうか?

そう、勝手に考えながら、シャッターの向こうに視線を向ける。

自動で明かりがつく様で、ガレージの中がLEDに照らし出された。

そして、中にあった物に目を見開く。

「え、これって……!」

ずんぐりとしたシルエットをした、灰色の巨人。鋼の装甲には幾つもの細かい傷があり、右腕は肩からなくなっている。

頭部のツインカメラに光はなく、両膝をついて項垂れる姿勢をとっていた。

間違いない。先週スケルトンの霊的災害で目撃した、人型ロボットだ。

「この機体の名は、ケニング。これから50年後に作り出され、その50年後でも使われている量産機です」

淡々と言葉をつむぎながら、彼女はロボットの前へと歩み出た。

そして、長い髪を揺らしてこちらへ振り返る。

あまりにも非現実的な光景に、息を飲むしかなかった。『回帰の日』以降、それまでの常識は打ち砕かれ続けてきたが……これは、方向性が違う。

「矢広耕太さん。私は、100年後の未来からこの時代にタイムスリップしてきました」

自身の胸に手を当て、アメジストの様な瞳でこちらを射抜く彼女。

その視線に、自分は無意識に1歩後退っていた。

小鳥遊さんの目に込められた光は、あまりにも強い。気圧されてしまう程に、輝いていた。

「どうか、未来を変える為に力を貸してください。でなければ、貴方は……」

そこで、一旦小鳥遊さんは言葉を止めた。

真っ直ぐ過ぎる眼光とは裏腹に、彼女の口は少し躊躇った様子で動く。

「───貴方は数年後に、劇的な最期を迎える事になる」

信じられない、信じたくない言葉を、小鳥遊さんは告げたのだった。

* * *

「どうぞ」

「……どうも」

ガレージでとんでもない事を言われた後、自分達は小鳥遊さんの家のリビングにいた。

生活感の薄い、モデルハウスの様な印象を受ける室内。広い机を挟み、彼女がこちらを見ている。

その間には、湯気のたつコーヒーが1つずつ置かれていた。

自分の対面に座った彼女は、ミリタリージャケットを脱いで椅子の背もたれにかける。灰色のTシャツ姿となり、その豊かな胸の存在感が増した気がした。

しかし、今はあまりその事を気にしていられない。

100年後の未来から来た?自分は数年後に死ぬ?

到底信じられる話ではない。確かに『回帰の日』以降、信じられない事ばかりが世の中で起きている。魔法が存在するのだ。タイムスリップを頭から否定するのも浅慮だろう。

だが、それ以上にあのロボットは異能の産物であり、彼女は中二病をこじらせた残念な頭の持ち主という可能性の方が、余程あり得る話であった。

混乱と警戒が胸の内でごちゃ混ぜになる自分を前に、小鳥遊さんは黙々とカップに砂糖を入れていく。

……いや入れ過ぎじゃない?

彼女はミルクもたっぷりと注ぎ、スプーンで軽くかき混ぜる。

もはやコーヒーの味が残っているのかという飲み物を口にし、彼女は。

「……素晴らしい」

真顔のまま、頬を赤らめてそんな事を言っていた。

自分も甘い物は好きだが、限度ってあると思う。何か、口の中から『じゃりじゃり』と砂糖を噛む音がするぞ。

「こうしてコーヒーを楽しめる時が来るとは、思ってもいませんでした。これだけで、この時代に来た甲斐があったかもしれません」

「それは……良かったですね」

大袈裟なとは思うが、ツッコミを入れるのもバカらしい。

だがまあ、幸か不幸か自分でもわかるぐらい『異性への緊張』は和らいでいる。

代わりに、変人に対する警戒心が沸き上がっているのだが。

「……本当なんですか?未来からタイムスリップしてきたって言うのは」

「はい」

こちらの問いかけに、迷う事なく小鳥遊さんは頷く。

「アレを見ても、信じては頂けませんか?」

「正直言って、僕は機械の事に全然詳しくありません。あの人型ロボットも、異能による産物ではないかと疑っています」

隠す事なく、本心を口にする。

だが、言ってからあまり否定し過ぎるのもまずいかと、考え直した。

小鳥遊さんの言葉を真に受ける気はないが、これから同じクランで働くのである。ここは無難に話を合わせて、後で井上さんに相談するのがベターかもしれない。

「ご指摘は尤もです。事実、あれの製造には異能から得られた知識も使われています」

「はあ……」

「必要ならば、私の持てる限りの知識で解説させて頂きますが」

「……いえ。教えてもらってもわからないと思うので、結構です」

「……申し訳ありません。結構です、とは?」

「え?」

怒らせてしまったかと思い、慌てて彼女の顔を窺う。

だが、小鳥遊さんの顔には困惑が浮かんでいた。

……そう言えばこの人、『お手洗い』の意味が良く分かっていなかったような。

「えっと、必要ない、って言葉をオブラートに包んだと言いますか、柔らかい表現にしたのが、『結構です』ってフレーズの意味……です」

「なるほど。ありがとうございます。しかし、オブラートに包む?とはなんでしょうか」

「あ、それは、比喩表現でして」

「ひゆ、表現?」

……自分は何をしているのだろうか。

それから5分程、謎の質疑応答をする事になった。

「ありがとうございました。勉強になります」

「そ、そうですか……」

妙に疲れた。人にものを教えるのって、難しい。

「私の日本語は祖母から習ったのですが、7歳の頃まででしたので。以降は独学ですから、堪能とは言えません。今後も教えて頂けないでしょうか?」

「……まあ、はい。機会がありましたら」

そう言えば、ご家族は全員亡くなったと言っていたっけ。

玄関にも自分達以外の靴はなく、この家にも1人で住んでいるという。

まさか、そのショックで『自分は未来人だ』という妄想に……?

「しかし、どうやってタイムスリップの事をご納得してもらえば良いのか……」

小鳥遊さんが、胸の下で腕を組み眉間に皺を寄せる。

強調された爆乳に視線が吸い寄せられそうになりながらも、彼女と目を合わせた。

「えー……じゃあ、数年後に僕が死ぬというのは?」

「その事ですか?はい。貴方は日本からの避難船を守る為に、激闘の末亡くなったとされています」

「……日本からの、避難船?」

「ええ。これから数年後、この国は滅びます」

……随分とまた、物騒な事を言い出したな。

たしかに、魔物やダンジョンの出現に政府は対応しきれていない。だからこその、冒険者である。

しかし、数年後に日本が滅ぶと言われても、どうにも現実感がない。怪しい雑誌の裏に書いてある、不安を煽るだけの文言と同列に思えた。

「私の先祖は、最後の避難船に乗っていました。矢広さんはたった1人で港の防衛を続け、出港する船を見送ったと聞いています」

「それはまた」

何とも、自分らしくない。

漫画の主人公みたいになれたらと、冒険者になった。しかし、流石にそこまでの自己犠牲が出来るだろうか?

乗ろうとして置いて行かれた、という方が、まだ信じられる。

「その前にも『第七艦隊の悪夢』や『富士防衛作戦』での英雄的な行いから、生き残った日本人だけではなく米国でも英雄として語られています」

「はあ……」

「そして、ソーシャルゲームにて女体化され、『淫魔』『人類のママ』『伝説のスーパードスケベ人』としてその名を轟かせています」

「待って??」

今とんでもない事を言われた気がする。

「えっと……すみません、もう一度お願いします」

「ソーシャルゲームで女体化され、『伝説のスーパードスケベ人』としてその名を轟かせています」

「……そうですか」

変人の妄言と思う事にした。そうでないと、ちょっと心がもたない。

もしも彼女の言葉が真実だとしたら、そんな未来は滅んでしまえ。

「どうぞ。こちらが、女体化された貴方の姿です」

なんで見せてくるの????

彼女が取り出した、スマホと思しき機械。未来の品と言うには、随分とゴツゴツした見た目のソレには、1人の少女が表示されていた。

「わー、せくしー」

「はい。とてもセクシーです。同じ女性ですら、貴方の魅力に脳をやられていました。私もその1人です」

黒髪をセミロングにした、柔和な笑みを浮かべている童顔の美少女。黒いドレスの上から金色の鎧を纏っているが、胸元は大胆に肌が出ている。長く深い谷間が丸見えだ。

ゲーム中の台詞なのか、絵の横に『大丈夫。あなたは、私が守るから』なんて文字も書いてある。ふんわりしたフォントで。

小鳥遊さんの事を『エッチなソシャゲご出身ですか?』と思っていたが、よもや自分が未来でそうなっていようとは。

いや認められるかそんな未来。

「私は入手出来ませんでしたが、貴方のフィギュアはネット上で『淫魔像』と呼ばれ、それを真に受けた当局が生産している企業と工場に立ち入り調査をしたのはもはや伝説です……!」

終わってんな、100年後の世界。