軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十六話 長い夜の

第五十六話 長い夜の

地面を蹴る音が、3つ。

スコルピアが正面から突撃しながら、銃を乱射。それを、左右に分かれて回避する。同時に、剣帯に装着した『身体強化』を発動。

怪物はそのまま銃口を横へ動かし、ロッソさんへと弾丸をばら撒く。そして引き金を引きながら、こちらへと視線を向けた。

「くっ……!」

これだけ周囲が燃えている今、火事の心配などする必要はない。『炎弾』が装填されたままの杖で、魔法を発射。脇腹の銃狙いの火球が、無骨な前腕に防がれる。

構わず走りながらスピンコックで装填と発射を繰り返すも、スコルピアは両腕を盾代わりにして強引に突っ込んできた。

速い。やはり地上戦でも……!

『GGGGUUUAAAAAAA!!』

横薙ぎの右裏拳を屈んで避け、直後に逆袈裟の斬撃を放つも左振り下ろしに迎撃される。

柄が手から離れそうになるも、衝撃を横回転で逃しながらそのまま斬撃へ。しかしそれは右前腕で受けられ、弾かれる。

バランスを崩しながら、僅かに開いた間合いで杖を構えた。しかし、引き金を引くより先にスコルピアの左足が地面を砕く。

「っ!」

アスファルトの破片と、砂煙が視界を一瞬だけ覆う。直後、魔眼が発動。予知された未来に、何か考えるより先に体を横へ傾けた。

自分がいた場所を弾丸が通り過ぎていく。舞い上がった砂煙越しに、スコルピアが鉛玉をばら撒いてきた。

全力で走り、街路樹の裏へ。幹が削られる中、怪物の背後からロッソさんが大鎌を振りかぶりながら迫る。

だが、スコルピアは振り向き様に尻尾を一閃。袈裟懸けの刃を、横から弾いた。

銃撃が途切れる。すぐさま木の陰から跳び出し、魔法を発射。閉じられていた翼で受けられるも、怪物の体を炎が包み込む。

『GUO……!』

「はああああああ!」

そこへ、ロッソさんが大鎌を逆袈裟に振るう。先端で地面を削りながら放たれた刃が、咄嗟に防御したスコルピアの右腕を跳ね上げた。

だが、直後に至近距離から銃撃。彼女は咄嗟に左腕で心臓を庇うも、頭と腹部に弾丸を受ける。

「このぉ!」

それ以上はさせまいと、接近。スピンコックでもう1発放てば、怪物は飛び退いて回避した。

彼女とスコルピアの間に入り、そのまま斬り込む。持っている銃を狙った横薙ぎの刃は、巨体に見合わぬ跳躍で避けられた。

直後、背中に衝撃。ロッソさんが自分を踏み台に、跳んだ竜人へと飛翔する。

「おおおおお!」

『GGAAA!』

大上段から放たれた大鎌を、スコルピアは右前腕で防いだ。硬質な音が響いた直後、彼女が弾き飛ばされる。

そして、銃声。走りながらマガジンを交換しつつ、怪物の着地地点へと駆けた。

「づっ……!」

『GGUU……!』

墜落するロッソさんに対し、スコルピアもマガジンを交換。銃口を向けるも、それより先に魔法を下から放った。

火球が、小銃を捉える。魔力が油の様に銃身へ纏わりついて燃え上がり、咄嗟に脇腹の腕がグリップを手放した。

『GGGAAAAAA────ッッ!!』

すぐさまスコルピアがこちらへ向き直り、焦げた翼から魔力を放出し急降下。

『S』字を掻く様に動きながら、撃墜しようともう1発魔法を放つ。飛翔する火球が、怪物の剛腕に殴り散らされた。

そんなのありか!?

『AAAAAAッ!』

動揺する自分へ、落下の勢いを乗せた爪が振り下ろされる。咄嗟に飛び退いて避けるも、地面が爆発でもあった様に爆ぜた。飛来する瓦礫が、左肩に直撃する。

「うっ……!」

手から、杖が離れる。地面を転がったそれに意識が向きかけるが、咄嗟に剣を両手で握り、前へ。

膝を折り曲げながら踏み込めば、頭上を怪物の腕が通り過ぎた。相手の勢いも利用して、剣を相手の左太腿へ叩き込む。

鱗が割れ、肉を引き裂いた。深々と食い込んだ刃が骨にぶつかって止まるのと、相手の左腕がこちらへ振るわれたのがほぼ同時。

ぎりぎりで、頭を砕きに来た爪へ右の籠手を間に合わせた。しかし、防具を貫通し肉も骨も抉られる。

「がっ!?」

『GGGOOOOOO────ッ!』

掬い上げる様に振るわれた左腕により、宙へと放り出される。激痛から受け身もとれず、背中から地面に叩きつけられた。

「かふっ……」

空気が、肺から押し出される。一瞬意識が飛ぶも、痛覚に叩き起こされた。

アドレナリンで痛みを押し流しながら立ち上がれば、自分と入れ替わりにロッソさんがスコルピアへ斬りかかっている。

「ぜああああああああ!」

『GGUUOOOOO……!』

大振りの袈裟懸けに、その直後の逆袈裟。そして回転斬り。

技術も何もない、身体能力任せの連撃。しかし、だからこそ速い。

それら全てを右腕で受けきったスコルピアのカウンターが、彼女の腹部を貫いた。そのまま心臓を破壊せんと、左腕が振り上げられる。

より、先に……!

「おおおおおおおお!」

剣を、左肘へ叩き込んだ。

前腕に比べて薄い鱗を砕き、肉を裂いて、骨の隙間へと刃が滑り込む。

止まりそうな刀身の峰を左手で押し込み、全力で振り抜いた。

まるで噴水の様に、怪物の左腕から血飛沫が舞う。巨腕が切り落とされた刹那、脇腹の腕がこちらの顔面に裏拳を放って来た。

避ける事も出来ず、頬に拳を受ける。面頬が砕け、アスファルトの地面を削りながら数メートル先まで吹き飛ばされた。

その最中に、見る。腕が振り上げられかけた勢いで宙を舞った彼女が、両腕で大鎌を掴み。

「ぐ、が」

怪物へと、振りかぶるのを。

「あああああああ!」

『GY────ッ!?』

放たれた斬撃。咄嗟に右腕を掲げ防ごうとしたスコルピアだが、大鎌の穂先は止まらない。

ここまでの攻防で蓄積したダメージからか、鱗が砕け、肉も骨も切り裂かれた。

勢い余って振り抜かれた大鎌が地面に突き刺さったのと、怪物の腕が千切れ飛んだのがほぼ同時。

『OOOOOOOOOO────ッ!』

それでなお、竜人達の母は雄叫びを上げる。

繰り出された蹴りがロッソさんの腹を捉え、蹴り上げた所へ尻尾の横薙ぎが首に直撃。彼女もまた、自分とは逆方向に吹き飛ばされた。

だが、死んではいない。2度地面にバウンドし、街路樹に背中を打ち付けるもすぐさま立ち上がった。

「ふぅぅぅ……!」

「づ、ぁぁ……!」

痛みに息を荒げながら、2人でスコルピアを挟む様に得物を構えた。

対する怪物の足元には、赤い水たまりが広がっている。

心臓を破壊され、両腕を落とされた竜人。その命は、あとどれ程か。

『GA』

なんにせよ。

『GAAAAAAAA────ッ!』

その灯が消えるまで、奴もまた、止まらない。

スコルピアはその場で横回転し、尻尾による薙ぎ払いで地面を抉る。舞い上がる土煙の中、奴の魔力が自分へと向いたのに気づいた。

瞬間、土煙を突き破って怪物が跳び出してくる。その巨大な口は上下に開かれ、こちらを食い殺さんとする意思がありありと現れていた。

咄嗟に、横へ跳んで避ける。即座に怪物は反転し、そのまま尻尾を振るってきた。

それを剣で受け、衝撃に逆らわず弾き飛ばされる。どうにか受け身を取りながら着地した自分の横を駆け抜け、ロッソさんが斬りかかった。

「はああああああ!」

『GAAAAAA!』

横薙ぎに振るわれた大鎌。それを、スコルピアは食いついて止める。

一瞬で柄がへし折られ、刃が噛み砕かれた。得物を奪われた衝撃で動けない彼女へ、脇腹の両腕が向けられる。

そして、気づいた。その鱗に、幾つもの魔術文字が浮かび上がっている事に。

「っ!?」

爆発。脇腹の両腕が弾け飛ぶのと同時に、2つの火球がロッソさんを吹き飛ばした。

心臓を、今庇えたか?いや、兎に角カバーに……!

剣を構え、走り出した直後。魔眼が発動する。

頭上から押しつぶす様に迫る、巨大な口。それを、勢いのまま前方へ体を投げ出す事で回避した。

前転し、即座に背後へ剣を振るう。だが、振り上げられた怪物の角と刀身が衝突した。

ここまでの攻防で、ダメージが蓄積しているのはこちらの装備も同じ事。片手半剣が、あっさりとへし折られる。

「しまっ」

『GGGGGUUUUUOOOOO────ッッ!!』

未来が視えていても、避けられない。

直後に繰り出された蹴りを、どうにか左腕で受ける。何かが砕ける音を耳にしながら、蹴り飛ばされた。

呼吸が出来ない。左半身に激痛を感じながら、異様に長い滞空時間を味わった後、地面に墜落した。

「がはっ」

頭と肩で路面を削りながら減速し、スコルピアから20メートル以上離れた位置で停止する。

朦朧とする意識で顔を上げれば、怪物もまた口から大量の血を流してふらついていた。

その両目が、不気味に輝く。相打ち狙い……いいや。自分を食って、生き永らえるつもりか……?

よろめきながら、どうにか立ち上がる。しかし、膝をついてしまった。

魔力の消耗が激しい。何より、まだ頭が揺れている気がする。

「くっ……!」

『GGGGUUUU……!』

道路脇の建物が燃え、崩れる音がする。

その中で響いた2つの唸り声の内、先に意識が定まったのは怪物のソレだった。

『GGGGUUUUOOOOOOO────ッ!』

雄叫びと共に、その両足で地面を踏みしめ、疾走。

僅かに遅れて意識が定まるも、もう『魔装』を再構築する暇はない。

残っている武器は短刀のみ。これで……!

その時、魔眼が発動する。

自分の後頭部目掛けて飛来する物体を、未来視として捉えた。

「っ!」

頭を傾け、通り過ぎた物体を右手で掴む。

それは、杖。片膝をついたまま、すぐさま両手で構えた自分へ、スコルピアは止まらない。

開かれた大口。響き渡る咆哮。槍の穂先の様な牙がズラリと並ぶ竜人の顎が、眼前まで迫り。

「ふんぬあああああああああ!!」

華奢な両腕により、受け止められた。

黒い手袋に包まれた指が上顎と下顎を掴み、自分の頭を杖ごと噛み砕かんとする竜人を止めたのだ。

眼前の口腔へ、しっかりと狙いを定める。

「ぶっ飛べ……!」

引き金を、引いた。

放たれた炎の鉄槌が、口腔に着弾。爆発と共に、怪物の巨体を吹き飛ばした。

ロッソさんの手が離れ、スコルピアの上半身が仰け反る。

1歩、2歩と後ずさった後。鱗に包まれた両足が轟音を上げて地面を踏みしめた。

「こやつ、まだ……!」

「いいえ」

背後から聞こえたロッソさんの声に答えながら、レバーを動かす。

次のスクロールを装填した自分と、彼女をスコルピアは睨みつけ。

『………RUUUU……!』

仁王立ちのまま、その瞳から輝きを失わせた。

怪物の巨体が黒い霧へと変わっていき、魔石が地面に落ちる。そして、腰に巻かれていた小銃のマガジンや、銃の整備に使うのだろう工具がガラガラと散らばった。

それから、数秒して。

「はあああああああ……」

ようやく自分達は大きく息を吐きだした。

「……生きておるか、若き鬼よ」

「おかげ様で……そちらはどうです、石山岩子さん」

「『ロッソ・ヴェンデッタ』だ、バカ者……」

地面に座り込んだまま振り返れば、ロッソさんは大の字で寝転がっていた。

お互い肉体は万全だが、精神的な疲労と、魔力切れ寸前の虚脱感でまともに動けそうにない。

「……足、開いていますよ」

「言うな。吾輩、マジで疲れた。もう寝たい」

「それは同感なんですが……」

────ガシャアアアアアアンッ!

「これ……ここで寝たら死ぬやつでは?」

「……やっぱり?」

近くの建物が倒壊し、盛大に煙が巻き上がる。

彼女よりも更に後方へ視線を向ければ、炎上するトラックが道を塞いでいた。顔を正面に戻せば、遠く離れた位置で数台の車が玉突き事故を起こした状態でこちらも燃えている。

……あれ、思ったよりやばくね?

無言で、よろよろしながら立ち上がる。

そして。

「まっっっずいですよロッソさん!?これこのままだと焼け死ぬか窒息ですよ!?」

「おち、おちち落ち着けぇ!素数だ、素数を数えろ!2!4!6!」

「それ偶数ですよおバカ!古典的なボケやっている場合ですか!?」

思いっきりパニックになった。

アドレナリンさんがね、帰っちゃったぽいのよ。

「はっ!?そうだ血を吸ってください、血!そんで上から逃げますよ!」

「ええっ!?そ、そんな……はしたない……!」

「言っている場合かぁ!てか腕から吸ってください、手首とか!」

「えー……」

「不満そうにすんな、この変態厨二血吸いコウモリがよぉ!」

「魔界貴族だぁ!」

「コンビニで唐揚げ買う貴族がいるかぁ!」

……いや意外といるかぁ!?ヨーロッパとかだと。

まあそんな事はどうでも良い。『魔装』を部分解除し、右腕の袖を捲る。

「ほら、手首!吸って!早く!」

「ま、待て。それはそれで、ちょっと心の準備が……」

「ただ血を吸うだけでしょうが!」

「乙女には色々あるのだ!あ、ちょっと砂とかで汚れているぞお主。まったく、マナーというものがだな」

「うるせぇえええ!」

「ふんぐおぁ!?」

アホ、もといロッソさんの後頭部を掴んで口に手首を押し付ける。

……プルっとした唇の感触にちょっとドキッとしたが、本当にそんな事を言っている場合ではない。

「んぐ……ん……ん……」

やはり、ちょっと痛い。伝説では吸血鬼に吸われると、妙に気持ちが良いと聞くが……伝説は嘘だったのか、はたまた『変若の血潮』が催淫の類をレジストしているのか。

それはそれとして。

「ん……ん……ちゅぱ……ん……」

「長いわ!飛行分はもうあるでしょう!?」

「……うまい。もう一杯!」

「居酒屋ちゃうぞわれぇ!?あ゛あ゛ー!?火の手がもうすぐそこに!?」

何というか。激戦の後とは思えない、あるいは激戦の後だからこそなのか。

締まらない空気のまま、自分達は夜空へと飛び上がる。

「……あの。『浮遊』使う魔力も残っていないので、引っ張られている左腕がめっちゃ痛いのですが」

「我慢せよ。男の子であろう」

「男女差別だ……」

「そ、それに……だ、抱きかかえるのは、恥ずかしいし……」

「まあ、それもそうですが」

彼女の両手がこちらの左手を掴み、ぶら下げている。

燃え盛る街を見下ろし、満月に照らされながら。ふらふら、ゆらゆらと。飛んでいく。

地上から手を振る、仲間達の所へ。

そして、彼女らに挟まれた、ロッソさんの家族の所へ。

「……お疲れ様でした、ロッソさん」

「ああ……お疲れ様。そして、ありがとう。…… 耕(・) 太(・) 」

何となく空気を読んで、見上げる事はしない。だが、それでも分かる。

きっと今、彼女はまん丸なお月さまよりも……綺麗な顔を、しているのだと。