軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話 古き砦

第三十四話 古き砦

小鳥遊さんの『霊装』についてひと悶着あったものの、気を取り直してダンジョンへと踏み入る。

ぐるり、と。吸い込まれる感覚。その直後、両足が石畳の床についた。

壁に並ぶ松明によって照らし出された、二車線道路程の、広い通路。アーチ形の天井は、高さ3メートルと言った所か。

剣を振るうには十分過ぎる。だが、あの大鎌はどうなのだろうか。

そう思いロッソさんの方に視線を向けるが、その顔には不敵な笑みが浮かべられている。この人の場合、駄目な時でもそういう顔をしていそうだから、表情で判断できない。

「ロッソさん。この天井で、その武器は大丈夫そうですか?」

「問題ない。対処法は心得ているとも」

自信満々に左手を自身の胸へ向ける、ダンピールの異能者。

高さが足りない場合の対処法……斬りかかる際に腕をコンパクトに使うか、膝を曲げるのか。あるいは斬撃の角度に気を付ける、というのもある。

自分は加入試験の時にやらかしたので、あれから結構練習した。彼女も、そういう対策があるのだろう。

「分かりました。では、事前の打ち合わせ通り僕と貴女が前衛でよろしいですか?」

「応とも。吾輩に異存はない」

「OK!じゃ、あーしと美由っちが後衛ね」

後ろから、璃子先輩の声が聞こえる。

チラリと振り返れば、彼女は両手の扇子をそれぞれ開いていた。

アレが、璃子先輩にとっての『杖』である。何でも、戦闘特化かつ、魔法使い型の異能者……らしい。

逆に相手と正面から斬り合うロッソさんとは、相性が良さそうだ。

「では、ナビは私が。今、自衛隊のマーキングを発見しました」

小鳥遊さんが、ライトで自衛隊が残した文字と数字を眺めている。もう片方の手には、地図の入ったスマホがあった。

「よぉし。じゃ、出発と行こう」

「はい」

「うむ」

「了解」

璃子先輩の言葉に頷き、歩き出す。

何だかんだ言って、ダンジョンに行った回数はこの人が一番多い。自分や小鳥遊さんと数日しかクランへの加入は違わないはずだが、積極的に他のクランメンバーと探索へ向かっていたのだとか。

何でも、霊格の強化やお金が目的というより、他のメンバーの人となりを知る為だったらしい。行動力があるというか、コミュ力が高いというか。

なんにせよ、頼りになる。経験豊富な人間がいる事は、良い事だ。

小鳥遊さんのナビに従い、ゆっくりと石造りの通路を進む。所々罅割れた床を踏むたびに、自分達の足音が反響した。

古い城か、砦の中を彷彿とさせるダンジョンだ。もしもここが普通の空間だったのなら、壁に出来た小さな隙間から風が入っていた事だろう。

自分達の足音だけが響く通路に、それ以外の音が混ざったのを感じ取った。

「敵です」

武器を構え、警告を発する。

「数は3体。正面の丁字路の……左から接近中」

「相手も気づいたっぽいね。移動速度が上がった」

自分の言葉に璃子先輩が続く。彼女もダークエルフだ。聴覚は同等か、あるいはこちらより優れているのかもしれない。

それぞれ得物を構え迎撃の構えを取った事で、足は止めている。だからか、相手の足音が段々とよく聞こえてきた。

───ガシャン!ガシャン!

けたたましい、金属音。鉄製の何かが幾つも擦れ合う音を響かせながら、それらは現れた。

松明の揺れる炎に照らされた、鋼の鎧。フルプレートアーマーの騎士達が、手に持った武器をこちらへ向ける。

その鎧の下に、あるはずのものはない。スリットの奥には、兜の裏面だけが見えていた。

空っぽのはずの西洋鎧が、意思を持ち動いている。それぞれ槍を、剣を、斧を手に、こちらへ殺意を向けていた。

『リビングアーマー』

動く鎧。揃いの意匠をした騎士達が、一斉にこちらへ駆け出す。

「一応聞くが、アレは異能者ではないな?」

「はい」

ロッソさんの問いに、短く答える。人型ではあるが、異能者ではない。

自分達のやり取りの後ろで、璃子先輩が『詠唱』を終える。

「───血潮を湧かせ、『ストレングス・アッパー』」

最後の一節が唱えられた瞬間、自分の体が突如軽くなる。

違和感を覚えて当然の現象だが、気持ち悪い程にそれがカチリと嵌った。間違いなく、強化魔法の感覚。

璃子先輩の『付与魔法』だ。

「いきます」

「開戦だ!」

一歩目で、トップスピードへ。

猛烈な加速と共に、リビングアーマーへと駆けていく。相手も迎撃しようと構えるが、僅かに遅い。

斧持ちと剣持ち。それぞれ盾を持った騎士が前に立ち、その後ろで槍を構えた個体がいる。

立ち位置的に斧持ちの方へと斬りかかれば、相手は盾を掲げてきた。

袈裟懸けの斬撃が受けられるも、止まらない。激しい衝突音を発しながら、強引に盾を押し込んだ。

保持出来ないと悟ったか、相手は盾から手を離しながら斧を振りかぶる。しかし、やはり遅い。いいや、今の自分が速いのか。

返す刀で、側頭部に剣を叩き込む。快音を上げ、兜がどこかへ飛んでいった。

空っぽの中身を晒しながら、崩れ落ちるリビングアーマー。内側に何もいないこの魔物は、しかし『人の形』から外れると力を失う。

ゴーレムと同じく、『体は名を表し、名は力となる』という理論なのかもしれない。

今更になって槍を突き出してきた、後ろの個体。それを切り払いながら、ロッソさんの方に視線を向ける。

直後。

「ふんぬっ!」

轟音と共に、目の前の槍持ちへ大鎌が振り下ろされた。

先端が天井に擦れてもお構いなしに、黒と赤の刃がリビングアーマーの体を引き裂いていく。斬るというよりは、殴りつける様な動きだった。

だが、効果は十分過ぎる。金属製の鎧は見るも無残な有り様になり、バラバラと破片が周囲に散らばった。

巻き起こった衝撃波を受けながら、半歩下がって周囲を警戒。視線を巡らせると、彼女が対応した剣持ちのリビングアーマーが縦に真っ二つとなった状態で転がっている。

チラリと、好奇心に促されて天井や床にも視線を這わせた。

石造りのそれが、見事に抉れている。明らかに、あの大鎌が通った後だ。

……ロッソさんの言っていた『対処法』って筋肉だったのか。

内心でドン引きするも、警戒を怠るわけにもいかない。剣を構え直して、数秒。全ての鎧が黒い霧に変わったのを確認し、小さく息を吐く。

「お疲れ様です」

「うむ、ご苦労!」

互いにそう言って頷いた後、魔石を拾った。

後ろにいた小鳥遊さん達も、小走りでこちらへやってくる。

……その際に揺れた巨乳と爆乳からは、全力で目を逸らした。

「2人ともお疲れちゃーん」

「お疲れ様です。怪我は?」

「問題ないとも。吾輩がこの程度の輩に、遅れを取るわけがない」

「僕も大丈夫です。璃子先輩、援護ありがとうございました」

「良いって事よー!」

腰に両手を当て、むん、と胸を張りドヤ顔をする璃子先輩。

彼女の強調された巨乳から顔を逸らし、事前に聞いた異能者としての能力を思い出す。

市役所で確認した璃子先輩のステータスは、確か以下の通り。

『井上璃子』

種族:ダークエルフ

筋力:30

耐久:25

敏捷:32

魔力:37

異能は、先程も使った『付与魔法』。その名の通り電撃を飛ばす『雷撃魔法』。対象を呪い毒する『呪毒魔法』。

そして、詳細を口頭で説明するのが難しいと言われた、相手の生命力と魔力を簒奪する固有異能。

詠唱が必要とは言え、攻撃もサポートも出来る上に継戦能力の高い魔法使いである。

まあ、本人は自身の固有異能に対して『見た目が悪役過ぎる』と、若干微妙な心境らしいが。

閑話休題。意識をダンジョンに戻す。

「それにしても凄いねロッソん。マジでパワーイズパワー」

「そうであろう、そうであろう。小技など不要。真の強者とは、圧倒的な力で敵をねじ伏せるものだ……」

なんか、ひたり始めるロッソさん。まあ、実際殴って相手を倒せるのなら、殴った方が良い。

「よーし、このまま遭遇する魔物全部ぶっ倒していこうぜぇ!」

「ふははははは!よくぞ吠えた!良かろう、吾輩の大鎌が、今宵奴らのギロチンとなるであろうな……!」

「……?今宵と言いますが、現在は夜ではありません。また、彼女の武器はギロチンではないと思いますが」

「小鳥遊さん。それは比喩。比喩だから。ツッコまないであげて……」

ほら、天然発言にロッソさんが目を泳がせている。恥ずかしかったのか頬は赤く、下手くそな口笛で誤魔化そうとしていた。

これは酷い。なんと悲しき光景か。見ているこっちまで、精神にダメージがきそうである。

そんな彼女に、璃子先輩がそっと抱き着いた。

「うぇ!?な、なに?何なの!?」

「大丈夫だよ、オタクちゃん。君が格好いいのは、あーしが理解しているからね……」

「う、うむ。そう、吾輩は格好いい。だから、その、離れて……」

「優しくしてあげるからね……オタクちゃん……!」

ぎゅっ、と。璃子先輩の腕に力が籠もるのが、傍から見ていても分かった。

あらやだ、目が決まっているわこの人。

「救援を求む!若き鬼よ、吾輩を助けよ!!」

「璃子先輩。離れて。ブレイク、ブレイク」

直に触れるのは気が引けたので、彼女が羽織っているケープを掴んでロッソさんから引きはがす。

「ぐえー!何するんだオタク君!は、まさか嫉妬……?」

「違います」

「ごめんねオタク君。オタクちゃんにはあーしも気兼ねなくスキンシップ出来るんだけど、男女だと……ね?間違いがあるかもしれないから」

「そういう意味じゃねぇっつてんでしょうが、この似非ギャル」

「誰が似非じゃい!?おどれがそういう態度だからこっちも『オタクに優しいギャル』が出来ないんじゃい!」

「ダンジョン内では、そういうの良いので」

「ほう……ダンジョン外ではやってほしいと?んもー、甘え方が下手っぴだぞ?オタク君!」

「もう、それで良いです……」

止まらねぇな、こいつ。ブレーキをどこに置いてきた。

でも悲しきかな。璃子先輩に抱き着かれるのは、正直ちょっと羨ましい。目が肉食獣のそれだったのは、恐いけど。

なお、ロッソさんは怯える草食獣みたいな目で距離をとっている。さもありなん。

「た、助かったぞ若き鬼よ……そのまま、そ奴は貴殿が担当してくれると助かる……!」

「んもう。オタクちゃんってば、照屋さんだなー。あーしは、オタク君もオタクちゃんも平等に優しくするぜ?」

「助けてお母さん……!お外はやっぱり恐い所だ……!」

「璃子先輩。本当に恐がっているみたいなので、その辺で」

「いやいや。それは最初だけだから。きっとそうだから。いつかあーしとの絆が」

「それ以上はマスターに言いつけます」

「よぉし、諸君!今はダンジョン探索に集中しよう!そうしよう!」

冷や汗を流しながら、似非ギャル、もとい璃子先輩が扇子を振り上げる。

どうやら、マスターこと祖母の雷は利くらしい。今後も、この人が暴走したらこの手を使うか。

「オタク君。今なんか、よからぬ事を考えなかった?」

「いいえ、とくには」

ニッコリと、愛想笑いと共に返す。まあ、面頬で分かり辛いと思うが。

頬を引きつらせる璃子先輩を無視し、小鳥遊さんに視線を向ける。

「行こう。引き続き、ナビをお願い出来る?」

「はい。まずは、この丁字路を右に曲がりましょう」

「分かった。お二人も、それで良いですか?」

「吾輩は問題ない。しかし成程、マスターへの進言か……」

「おけまる水産だぜ!だからオタク君もオタクちゃんも、よくない事を覚えないようにな!忘れよう!今はダンジョンだぜ、ダンジョン!」

「はっはっは」

「オタク君?その笑いはなぁに?」

「はっはっは」

「オタクちゃん?いいやロッソん?教えて?ねえ、その笑いイズなに?」

「進みましょう。背後の警戒は私がします」

「うん、そうだね美由っち。美由っちだけはあーしの味方だって、信じているよ……!美由っちマイフレンド……!」

「いえ。私と貴女が友達かは、まだ判断できていません」

「お祖母ちゃん……あーし、ちょっと寂しい……!」

バカなやり取りを切り上げて、歩き出す。そうしないと、延々と続きそうな気がした。未来視したわけではないが、その確信がある。

何というか、随分と騒がしい探索になりそうだ。