軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二章 プロローグ

第二章 プロローグ

4月も終わり、5月となった今。春の陽気と言うには、少々気温の高まりが激しい頃。

梅雨の訪れが近いと告げる様な、少し湿気た空気にも負けないものが、自分にはあります。

それは。

「…………」

僕の学校生活の方が、湿気ています。

教室についてから、昼休みまで、未だ誰とも会話していない。

ビックリする程孤立している。ボッチから『†孤高†』に進化する日も近いかもしれない。進化じゃなくって退化?……ハハッ!

自分の内心にセルフツッコミをしながら、お弁当を手に教室を出る。

現在、誰も来ない場所を校内で捜索中だ。便所飯は最後の手段。少子化の影響で校舎にも空きスペースは増えているはず。どうにか安息の地を見つけねば。

空き教室は意外と鍵が閉まっている場所が多い。屋上も当然ながら施錠済み。使っている教室が少ない棟の、階段をもっと探ってみるか。

そんな事を考えながら教室を出たタイミングで、隣のクラスが騒がしい事に気づく。

名前をよく思い出せないクラスメイト達が、それを見て会話している声が聞こえてきた。

「あれなに?何かあったの?」

「知らないの?今日、転校生が来たんだって」

「え?この時期に?ラノベじゃん」

「そーそー。しかも異能者」

「マ?やばい人?」

「分かんない。矢広君みたいに、不気味だったりするのかな」

……さりげない流れ弾でダメージを受けつつ、そっと隣のクラスを覗く。

あまり長居して目立ちたくはないが、状況を確認しなければならない。もしも自分の様な事になっていたら、声をかけねば。

そしてあわよくば同盟を組みたい。これは、友達を作る千載一遇の好機である……!

他人の不幸を願っている様で心苦しいが、背に腹は代えられない。両目に神経を集中させ、室内に視線を向けた。

教室の、窓際。一番後ろの席。生徒達にとって憧れの立地であり、しかし意外と先生からの視線を受けやすい場所。そこに、異能者がいた。

一目で分かったのは、『種族』が原因であろう。

なんせ、本来人間の耳が生えているはずの箇所に、猫耳が生えているのだから。

日本人離れした、赤とオレンジ色の中間の様な髪。それと同じ色の猫耳が、ピコピコと動いている。

健康的で瑞々しい肌に、くりくりと大きな瞳。整った顔立ちだが、高校生にしてはややあどけなさが感じられた。高校1年生というより、中学の1、2年生と言った方がしっくりくる。

体つきもやはり中学に入りたての様で、小柄だ。セミロングの髪の隙間から覗く猫耳もあって、非常に庇護欲を駆り立てる容姿をしている。

全体的に小動物めいた雰囲気の彼女に、自分と同じ感想を他の人達も抱いた様で。

その少女の周囲には、多くの生徒が好意的な雰囲気で集まっていた。

「ねえねえ、『遠海さん』!中学の頃は何部だったの?」

「文芸部でしたねー。と言っても、友達とお喋りしているだけでしたけど」

「体は大丈夫?異能に目覚めたばかりで、入院していた事もあったって聞いたけど……」

「はい!今は元気です!心配してくれてありがとうございます。優しいんですね」

「遠海ちゃーん!彼氏とかいないの?もしかして募集中!?」

「ふえ!?い、いませんし、私はまだそういうの分からないので……!」

「ちょっと男子ぃ!それセクハラだかんね!」

……うん。

どうやら、転校初日から既に馴染んでいる様だ。

自分と同じ異能者が、無事に高校生活を送る事が出来る事を喜ぶべきなのだろう。どうやら、思っていたよりも非異能者と異能者の溝は、深くないのかもしれない。

あれ、おかしいな。魔眼の影響で視力は良いはずなのに、視界が霞んできたぞ?

いや、まあ普通に心の汗なんですけどね。ええ。

廊下で突然泣き出すとかキショイので、必死に涙を堪えながら大股で廊下を進む。

……今日はもう、トイレの個室で良いか。

それでも出来るだけ人の来ない所を選んで、歩を進める。

はたして、自分と彼女……遠海さんとやらとの間で、どんな違いがあったのか。性別?見た目の可愛らしさ?

……コミュ力?

自分が同じ様にクラスメイトから囲まれたとして、あの様に和やかな空気を作れるだろうか。

空気の読めない発言をして、気まずい雰囲気を作る可能性が高い気がする。

その日のお弁当は、いつもよりしょっぱかった。

* * *

「……酷いですね」

「そうだね……」

自分の高校生活並みか、それ以上に悲惨な物を見て、少しだけ気持ちを回復させる。

場所は、小鳥遊さんの家のガレージ。眼前には、ケニングが右膝をついた姿勢で吊るされていた。

天井からのチェーンで固定された機体の左足は、付け根から取り外されている。また、右腕も肩から先がなくなっていた。

「右腕は喪失。左足はフレームが完全に歪み、モーターも破損。それ以外にも、全体的にフレームに罅と歪みが発生しており、魔力伝達に致命的なズレが起きています」

「……つまり?」

「中破とギリギリ言える、ちょっと大破です」

「それはもう、大破じゃないかな……」

「……そうとも、言えるかもしれません」

今回ばかりは、小鳥遊さんも青い顔でタブレットとケニングを見比べている。

素人の自分でも分かる程に、この機体はガラクタ同然の有り様であった。元々中破状態だったのを、小鳥遊さんが応急修理をして無理矢理戦っていたのである。

彼女曰く、あの段階でも本来の性能から3割減していたとか。今は、戦う事すら出来ないだろう。

「幸い、コアユニットは無事です。装甲はそこから供給される魔力で対霊機能を持ちますので、破損個所を取り替えれば再び戦える様になるかと」

「……でも、それは実質コアユニット以外の全部を、入れ替えないといけないんじゃ?」

「……そうとも、言えるかもしれません」

そうとしか言えないと思う。

あちこちの装甲が傷つき、その下の配線やら何やらが、チラチラと出てしまっているのだ。

小鳥遊さんが、難しい顔でタブレットに視線を落とす。

「……ここでの設備では、新しくパーツを用意するのは難しいですね。それに、私にはそこまでの技術がありません」

「……となると、やっぱり他の人を頼るしかないかな」

「……不安は、ありますが」

前から、自分達以外にも協力者を作るかどうかを考えていた。

しかし、秘密を知る者は少ない程良いと先送りにしていたのである。それも、この辺が限界だ。

「マスターには、話してみない?あの人なら、信用出来ると思う」

井上瑞樹さん。彼女は、小鳥遊さんが語る『未来の英雄』に含まれていない。同時に、『悪人』としても語られていない。

つまり、未来の情報が役立たない相手である。しかし、実際に接してみて信用出来る大人という印象を持てた。それはきっと、小鳥遊さんも同じだろう。

信用出来るという意味ではうちの両親もだが……クランの長であり冒険者でもあるマスターと、うちの両親では『万が一』の事があった時に対応出来る範囲が違う。

……それと、これは絶対に口に出して言えないのだが。

両親を、巻き込みたくはなかった。政府に魔物の息がかかった存在がいるかもしれない。もしもその牙が、2人に向けられたら……。

この前多くの死体を見て、余計にその思いが強くなった気がする。身近な人の死が、恐い。

マスターが、どうなっても良いわけじゃないけれど。それでも、優先順位をつけてしまう。

我ながら、友達が出来ないわけだ。

「……確かに、他に協力者は必要かもしれません。ですが、マスターは機械に詳しいのでしょうか?」

「それは分からないけど、もしかしたら何か伝手を持っているかもしれない。少なくとも、僕達だけで悩むよりはマシじゃないかな」

「……一理ありますね」

タブレットを机に置き、小鳥遊さんが胸の下で腕を組む。

強調される爆乳に視線が吸い寄せられるも、どうにかすぐに顔を背けた。小さく深呼吸してから、改めて彼女の顔を見る。

「それに、ケニングの事だけじゃない。他にもマスターには言っておきたい事が、いいや、警戒してほしい事があるよね」

「はい。石山岩子。『ロッソ・ヴェンデッタ』についてですね」

小鳥遊さんの言葉に、頷く。

「彼女は、未来で語られる悪人とは違う様に思える。だからこそ、注意しないといけないと思うんだ。クランマスターに、その辺りの事も協力してもらいたい」

「……同意します。しかし、『ロッソ・ヴェンデッタ』が実は人類に友好的なダンピールであった場合、また1つ懸念が生まれますね」

彼女がツナギのポケットから取り出したのは、未来から持って来た方の端末。

「悪人が善人であったのなら、善人が悪人だった可能性もあります。そもそも、この世界のこの時代は、私の世界の過去とは違うのだから」

その通りだと、頷く。

自分と彼女の先祖の恩人である『矢広耕太』は、別人だ。縁もゆかりもない……とまでは言わないが、分けて考えるべき存在である。

「政府側で信用できる英雄……『 遠海虎毬(とおみこまり) 』さんが、善人である事を願うばかりです」

「……遠海?」

今日の昼に聞いた名字だと、首を傾げる。

前に小鳥遊さんから『未来の英雄』の事は聞いたが、接触出来そうな人物はいなかった。その中の1人だと思うが……。

「その、遠海虎毬さんって人は、どういう英雄なの?」

「はい。彼女は公安所属であり、この名前も本名かどうか不明だとされています。また、写真は一切残っていません」

「公安……」

ゲームや漫画で出てくる、日本のスパイみたいな人達である。

何か格好いい。

「彼女は日本が崩壊した後も各地の警察と協力して活動し、多くの人命を救ったとされています。シスターに似た『霊装』もあって、聖女と呼ばれた事もありました」

「なるほど……」

「未来の矢広さんも聖女と呼ばれた事があります」

「その情報はいらない」

小鳥遊さんの世界の『矢広耕太』と自分は別人。誰が何と言おうと別人。絶対に別人。

よし、落ち着いた。

「また、写真は残っていませんが、彼女の友人が描いたらしい遠海さんの絵は残っています。その画像をお見せしますね」

小鳥遊さんが、端末の画面操作しながらこちらへ近づいて来た。

彼女の長い黒髪が鼻のすぐ近くにやってきて、ドキリと心臓が高鳴る。汗と機械油の中に、石鹸の香りが混ざっている気がした。

変な気持ちになりかけ、どうにか思考を引き戻す。自分がそうしている間に操作を終えた様で、小鳥遊さんが画面をこちらに差し出してきた。

「これが、遠海さんの肖像画です」

映っていたのは、鉛筆かシャーペンで書いたのだろう、白黒の絵だった。

長い髪に、クリクリと大きな瞳。本来人の耳があるはずの場所に猫耳が生えている。

大人びた顔立ちで、凛々しさと妖艶さが同居していた。描かれているのはスーツ姿の上半身だけだが、豊かな胸の膨らみから体つきも非常に大人びた人だったのだろう。

……しかし、『遠海』という名字に、『猫獣人の異能者』。

異能者の数は、日本において1万人に1人だと噂されている。同じ苗字で、同じ種族。はたして、偶然なのだろうか?

「実はさ……今日、遠海って名字の異能者がうちの学校に転校してきたんだ。しかも、猫獣人」

「っ!?本当ですか?そんな偶然、いえ奇跡が……ですが……」

「まだ確証はない。そもそも公安の人だから、本名かも分からないんだし。だけど、もしかしたら」

「ええ……!」

小鳥遊さんと、頷き合う。

「遠海虎毬さん───の、妹さんかもしれない!」

偶然だろうが、遠くでカラスが鳴いた気がした。