軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冬前

大樹の村の昼食、おやつでモチがでた。

モチつきをしたわけではない。

去年のモチだ。

冬に向けて準備していたら、食料用の倉庫の奥から大きな板状にしたモチが数枚、出てきてしまった。

保管していたのを忘れていたようだ。

ただ、幸いにもカビは生えていない。

カビが生える前に食べきってしまおうということになったようだ。

焼く、 煮(に) る、 茹(ゆ) でる、 揚(あ) げる。

好みの味付けで、自由に食べてもらっている。

俺は昼食は味噌汁にモチを入れ、オヤツでは焼いたモチを砂糖醤油でいただいた。

おっと、子供たちよ。

焼いたり茹でたりして柔らかくなったモチは、小さくして食べるように。

伸びるのを楽しみたいのはわかるが、無理に 頬張(ほおば) ると 喉(のど) に詰まるぞ。

モチは美味しいが、危険な食べ物でもある。

口うるさいかもしれないが、これは君たちが大きくなったときに、君たちの子供に教えないといけないことだからな。

しっかり覚えておくように。

人間の国の料理人。

リビック。

彼は 箸(はし) の使い方が上手くなっていた。

ドテ煮をフォークやスプーンではなく、 箸(はし) を使って食べるぐらいに。

ラーメン、かつ丼、オデン……

俺由来の料理は、箸を使って食べる物が多いからな。

必然だったのだろう。

そんな彼は、五村ではちょっとした有名人になっている。

五村のマスコット、ファイブくんのバックダンサーとして活躍しただけでなく、ファイブくんに新しいダンスを踊らせたからだ。

たしかにファイブくんのヘッドスピンは圧巻だった。

周囲の補助があったとはいえ、あんなに綺麗にまわるとは。

……

あれ、中の人が着ぐるみの中で上下逆になっていたりするんじゃなかろうか?

「中の人などいません!」

通りかかった住人に俺の呟きが聞かれたようで、叱られてしまった。

発言には注意しよう。

五村には、ファイブくんのファンが多い。

洋菓子店フェアリーフェアリ。

立地の問題で移動販売用のケーキの製造基地として稼働していたが、なんだかんだでお店のほうにも客が来るようになった。

店の近くが開発されているのもあるが、どうやらフェアリーフェアリで食べるのが一部の住人のステータスになっているらしい。

お昼から夕方にかけて、店内が賑わって忙しいようだ。

お陰で売り上げが伸び、店長代理のロロネや補佐で入っている天使族たちが喜んでいる。

店は赤字経営ではないが、それはチョコレートに頼っている面も強いからな。

販売しているケーキやお茶の種類も順調に増え、評判も上々。

問題は……

貴族などの偉い人用として用意した二階席もそれなりに利用されていること。

当然、貴族やそれに準じる人たちがお客としてやってくる。

接客に関しては天使族が対応しているけど、そこで飛び交う話が危ないそうだ。

話が危ないというのは、聞いちゃ駄目ってことかな?

あー、不倫とか浮気の話だけでなく、どこそこが不正を働いている話とか、誰それは誰それの隠し子だとか、そういった話ね。

なるほど。

えーっと……店内で聞いたり知ったお客さまのプライベートを外で喋るのは禁止で。

記録したりしちゃ駄目だぞ。

え?

二階席の客同士で禁書の交換会もやってる?

禁書とは?

ヴェルサ趣味の本のことね。

うーん。

売買なら止められるけど、交換は止めようがないなぁ。

大々的にやっているわけじゃないよな?

なら、見ていないということで。

ただし。

目にあまる行いをするなら、遠慮なく出禁にしていい。

目にあまる行いとはどの程度かと?

そうだな、知らない人に無理やり本を読ませるとかだ。

聞きたがっていない人に聞かせるのも駄目だと思う。

ロロネと話し合い、基準を決めておいた。

口頭で注意をしにくいなら、貼り紙を掲示してもいいぞ。

本が読めるなら、当然ながら文字は読めるだろうしな。

必要ならその貼り紙に魔王……いや、ヴェルサのサインを入れてもらう。

俺がサインするより、しっかり見て守ってもらえるだろう。

アルフレートから手紙が届いた。

ルーに翻訳してもらうと、とある街の冒険者ギルドと揉めたそうだ。

その冒険者ギルドでは、ランクが鉱物の種類で表現されているらしい。

下からクレイ、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールドと上がっていき、そこから魔法鉱石の名が並んでいく。

そういったランク表現を採用しているからか、その鉱物を使った品を持って自己のランクを 誇示(こじ) する冒険者が多い。

ゴールドランクの者は、ゴールドで飾った武具を持つって感じだな。

別にかまわないと思うが、シルバーランクの者がゴールドで飾った武具を持つと、分不相応としてトラブルになることがあるらしい。

今回、揉めたのもそれが原因。

アルフレートが人間の国で冒険者登録を行おうとしたところ、持っていた武具がランクに相応しくないと冒険者ギルドの職員たちに指摘されたそうだ。

相応しくないと指摘された武具は剣。

刀身はガットが作った。

ガットはあまり装飾に拘らないうえに、身内用として作ったものだから 鞘(さや) も 柄(つか) もシンプルなものだ。

ただ、ワンポイントというか、お守り的な意味で柄にドースの 鱗(うろこ) を砕いたものがつけられていた。

それを冒険者ギルドの職員たちは目ざとく見つけ、気に入らなかったらしい。

なにせランクの最上位がドラゴンだから。

当然ながらドラゴンという名の鉱物があるわけではなく、エンシェントドラゴンの鱗を示しているそうだ。

でもまあ、指摘だけなら揉めない。

アルフレートもそう簡単に暴れたりはしない。

ただ、冒険者ギルドの職員たちは難癖をつけてアルフレートの剣を取り上げようとしたらしい。

これに対し、アルフレートは抵抗。

アルフレートの同行者が暴れた。

アルフレートの同行者。

始祖さんのいる国の三人の王子が、冒険者ギルドの職員たちとそれに協力する冒険者たちを相手に大立ち回り。

結果、冒険者ギルドの建物が倒壊したそうだ。

アルフレートは戦っていない。

どちらかといえば三人の王子を止めていた側。

止められなかったけど。

幸いなことに、その冒険者ギルドが多くの不正を行っていたことを示す証拠が建物の倒壊で見つかり、アルフレートたちは 咎(とが) められるどころか賞賛された。

ただ、結果がよければ過程を無視していいわけではないと、アルフレートは反省しているそうだ。

……

アルフレートが反省する点なんてあるかな?

剣を見せびらかさないとかかな?

そう思いながらルーの翻訳を聞いていると、アルフレートの反省点は一ヵ所。

先に不正の証拠を見つけるべきだったと。

……なるほど。

しかし、暴れる前提で相手の 粗(あら) を探すのもどうかと思うぞ。

うん、どうかと思う。

アルフレートの手紙と一緒に届けられたフーシュからの手紙を読む。

こっちは俺でも読める。

アルフレートのお陰で、問題のあった冒険者ギルドを潰すことができたことを感謝する内容と謝罪。

なんでも、その冒険者ギルドは前々から悪い噂というか……悪事をしているのは判明しており、その証拠を集めている段階だったらしい。

そんな問題のある冒険者ギルドを、事件を契機に潰せたことに関しては感謝。

ただ、フーシュとしては、そんな場所にアルフレートを近づけないようにしていたらしいのだけど、力およばず申し訳ありませんとの謝罪。

謝る必要はないんじゃないかな。

結果的になんとかなったわけだし。

「アルフレートの手紙にも書いてあったけど、結果がよければなにをしてもいいわけじゃないでしょ」

ルーの指摘に、俺はたしかにと頷く。

「あと、たぶんだけど……アルフレートたちが暴れたあと、不正の証拠が出てきたのってフーシュの手配だと思うの」

ん?

「あまりにも都合がよすぎでしょ?」

あー……そういえばそうか。

実際にどんなものかわからないが、倒壊した建物から出てくる証拠ってなんだろう?

紙に丁寧に内容が書いてあったのか?

たしかに不自然だ。

「だけど手紙でそれを匂わせていないから……こっちから 言及(げんきゅう) しにくいわね」

そうだな。

どうする?

知らなかったことにするのか?

フーシュの手配じゃない可能性もあるだろ?

「そうだけど、フーシュの手配だったら迷惑をかけたことになるから……倒壊した冒険者ギルドの建物の修繕費を出すのはどうかしら。

冒険者ギルドを潰したとしても、新しい組織が必要だろうし」

なるほど。

では、そうしよう。

名目は建物の修繕費……いや、再建費用の寄付として、多めに渡す。

アルフレートがいろいろと世話になっているみたいだしな。