軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ビー婆

多少のトラブルでは揺るがない。

揺るいだとしても、元に戻る方法を知っている。

それが長く生きているということ。

いろいろと乗り越えたビーゼルのおばあちゃんは、俺と会話できるほどに回復した。

「私のことはビー 婆(ばあ) と呼んでおくれ」

ビー婆ですね。

「丁寧な言葉も不要だよ。

といっても、なかなかむずかしいだろう。

まあ、乱暴な口調で話しかけられても、こっちは怒らないってことだ」

ビー婆は、ビーゼルの祖母なのでフラウの 曾(そう) 祖母になる。

つまり、俺にとっても曾祖母。

あと、フラウの娘であるフラシアにとって……

曾祖母の母はなんだっけ?

高(こう) 祖母だったかな。

フラシアにとっての高祖母になる。

親族だ。

仲よくやっていきたい。

ちなみにだが、五村に家を持っているビー婆は、曾祖母とは名乗っていないが五村でフラウと会って話をしたことがあるらしい。

残念ながらフラシアは遠目で見ただけ。

そして、フラウの夫はどんな人物だとは思っていたらしいけど、俺を見る機会に恵まれなかったそうだ。

まあ、俺は五村に行っても、転移門があるヨウコ屋敷だけで終わったりが多い。

もう少し五村全体を見ないといけないな。

あと、ビー婆はフラウの夫が五村の村長だとは知らなかったらしい。

隠してはいないが、大っぴらに公表もしていないからな。

魔王国の貴族社会では、知る人だけが知っている感じ。

大っぴらに公表したほうがいいのだろうか?

このあたりはフラウやビーゼルと相談して進めていきたい。

そうそう、ビー婆と会話できるようになったので、掘り出してしまった家をどうするか相談した。

「掘り返したんだから、わざわざ埋める必要はないよ。

ただ、周囲が殺風景なのは困るね。

ちょっとした木なんかを植えて……え?

芝生と花壇は作ってある?

あ、そ、そうですか……

近くに池も?

……池?」

ハクレンがちょっとね。

水平攻撃は危ないから、せめて真下に向けて攻撃してほしいと言ったら水脈に当たったみたいで。

家には影響が出ていないはず。

用心のため、池の周囲はちゃんと固めたし。

池の水も地下のどこかで出たり入ったりしているから、腐ったりはしないはず。

たぶん。

あと、ご近所になる若い獣に、家のことを気にするようには言っておいた。

優先順位は低いけど。

メレオの飼育場を守るのが最優先。

家は余裕があったら守るといった程度だ。

あれもこれも頼んでも、若い獣が身動き取れなくなるからな。

「ま、まあ、家はそれでかまわないさ。

年に数度、泊まるぐらいだからね。

人手が必要になったら、こっちでなんとかするよ。

それより、その獣は大丈夫なのかい?」

大丈夫かとは?

襲ってきたりはしないと思うぞ。

「いや、従順なのは見てわかる。

心配しているのは、ずっとあそこにいさせるのかいってことだ」

縄張りだからな。

その若い獣は早く子を作り、一家で任務に当たりたいと言っていた。

パートナーとなるお相手は……まだいないが、望んでいる相手はいるらしい。

ただ、その相手は別の獣の群れの娘さんで、向こうの親に認めてもらえないとパートナーにできないそうだ。

まあ、そのあたりは口を出せないので、頑張れと言っておいた。

俺やハクレンが手伝っても、向こうの親に認められないからな。

「なるほど。

盗賊除けぐらいには期待してもいいわけだね」

あのあたりに盗賊は出ないと思うけど?

人がいるのってメレオの飼育場ぐらいで、周辺はほぼなにもない。

「世の中に絶対はない。

用心はしておくものだよ」

……たしかに。

俺はビー婆となごやかに話をするが、ビーゼルはまだビー婆に怒っていた。

ビー婆の失踪は、当時それなりに大騒動だったらしい。

そういえば、ビー婆が失踪した理由は?

「なに、くだらんことだよ」

当時の魔王国は戦争中。

魔族の領土を増やせと、攻勢をかけていた。

ビー婆はそのとき、四天王で軍の輸送関係を担っていた。

自身の転移魔法を使ってではなく、部下を使って。

「一人の輸送量では、どう頑張っても無理だからね」

そう……なるか。

やろうとしてもむずかしい。

最後の手段だな。

あ、その輸送を頼まれて失踪したと?

「いやいや、そんなことで失踪はせん」

軍が物資不足で嘆いているなら、何度だって往復するらしい。

おおっ。

「それなりの給料をもらっていたからね」

なるほど。

そんな考えなのに、失踪したのは?

「軍部から、転移魔法を使って敵の王族や将軍などを暗殺に行くという話が出てね」

それを嫌って?

「うむ。

それに、転移魔法を使って暗殺をするようになったら、常日頃から相手もしてくるのではないかと怯えることになる」

たしかに。

「さらには、敵からだけでなく私は味方からも恐れられる」

あー、そうなっちゃうか。

「なので私は嫌だと拒んでいたのだ」

それで失踪を……

「いやいや、そんなことで失踪はせんよ」

……

「話が出ただけだしな。

実行者である私が嫌だと言っているのに、押し通せんだろ」

えっと、そろそろなぜ失踪したかを……

「気が短いね。

年寄りの話はしっかり聞き流すもんだろうに」

聞きたい話だったので、聞き流せません。

「あー、私は転移魔法を使って副業をしていてな」

副業?

輸入業者とかですか?

「魔王や大臣を愛人宅に送ることだ」

……

「報酬さえもらえたら、どこにでも運んでおったのだが……それがいけなかった」

とある大臣の奥さんが、ビー婆を愛人だと疑い襲撃されたと。

「そこらの者に負けたりはせんが、そういった女の恨みは恐ろしいからな。

姿を隠したのだ」

な、なるほど。

大臣の痴情のもつれに巻き込まれてと。

「運んでおったから、まったくの無関係ではないから文句も言えん」

ビー婆はそう言って笑うが、ビーゼルは怒った。

「そんなくだらないことで失踪していたのですか!」

「くだらなくはないぞ」

「最初にくだらない理由だって言ってたじゃないですか!」

「年寄りによくある語り始めの挨拶みたいなもんだ。

聞き流せ」

「いいえ、聞き流せません。

第一、おばあさまなら襲撃の一回や二回はなんとでもなるでしょう。

わざわざ失踪しなくても」

「一回や二回ならなんとでもしたが、一日に十回以上も襲撃されるとなんともならんよ。

それに、まわりにも大きな迷惑をかける」

「……一日に十回以上も襲撃されたのですか?」

「うむ。

あのときの大臣の妻は、かなり執念深くてな。

あと、その息子たちが将軍をやっていたので戦力があった」

「あー……」

「私が抵抗すればするだけ魔王国の戦力が減るような形になってしまってな」

「そ、それは……」

「どうにかせんといかんなと思っているうちに、魔王やほかの大臣を愛人宅に運んでいたことがバレて襲撃する者が増えた」

「おおう」

「さすがに私が身を隠さねば収まらないとなってな。

身を隠したわけだ」

「ぅ……」

「一応、身を隠す前に私の行動を魔王やほかの四天王には伝えてある。

だから、その後の混乱は魔王やほかの四天王の演出だ。

その証拠に、私が身を隠してもクローム伯の領地は削られておらんだろ」

「た、たしかに……

ですが、そういった理由なら戻ることはできたのではないですか?」

「そうだな。

私も数十年もすれば戻るつもりだった」

「戻れなかったのですか?」

「いや、家や四天王から解放されたら、すこぶる自由で楽しくて……」

「戻る気がなくなったと?

職務放棄ではないですか?」

「先々代の魔王が生きている間は、不定期ながらも顔を出して協力していた。

無給でな。

文句を言われる筋合いはない」

「うぬぬ」

「正直に言えば、 義娘(むすめ) ……お前の母親から私の話を聞いていると思っておったのだが?

なぜ聞いておらんのだ?」

「母は私が伯爵家を継いでから、亡くなった父を思い出すからと家には寄りつきませんので。

定期的に連絡は来ているのですが、会うこともままならず」

「なぜ私が把握しているお前の母親の居場所を、息子のお前が知らんのだ?

どうせ仕事が忙しいとかを理由に、あまり母親にかまっておらんのだろう。

いかんぞ。

親には優しくせんと」

「くっ。

……あ、あとで母の居場所を教えてください」

「いま教えてやる。

五村だ」

「五村?」

「地下商店通りを知っているか?

衣服関係の店が多いところだ。

そこで仕立て屋をやっている」

「う、嘘だ!

五村もそうだし、仕立て屋って、母は自分で針を持ったりはしないはず」

「嘘を言ってどうする。

店を五村に移転するとき、私が運んだのだから間違いない。

前に会ったとき、いまの魔王の娘のドレスを作っておったぞ」

「………………」

ビーゼルは固まった。

いろいろと処理しきれなくなったのだろう。

そんなビーゼルとビー婆の会話を聞いていたメレオたちは、報告と連絡は大事だなと学んだ。

余談。

ほんとうに余談だが、埋もれていた家のなかで空気はどうしていたのだろうという疑問に対し、ビー婆は大きい水晶と壺を見せてくれた。

水晶は 風魔(ふうま) 水晶といい、置いておくだけで空気を浄化してくれるもので、密室や洞窟内で作業するときに利用されるものらしい。

空気を浄化しても酸素は増えないから……酸素の供給までやってくれる水晶なのかな?

不思議な鉱石だ。

これだけで空気はなんとでもなるが、風魔水晶は消耗品。

何十年かに一度、買い足さなきゃいけない。

それにわずらわしさを感じたビー婆が百年ほど前に入手したのが壺。

壺は二つで一つの魔道具で、片方の壺に入った空気がもう片方の壺から出るそうだ。

五村の水の運搬に使っている魔道具と同じだなと思っていたら、壺の魔道具の製作者はルーだった。

俺と出会う前のルーが作った魔道具か。

……

感慨深さとともに、世の中の狭さを感じた。