作品タイトル不明
冒険者エカテリーゼ その2
私の名はエカテリーゼ。
冒険者としてはまだまだ未熟ですが、迷宮内での野営中に飲むコーヒーが美味しく感じるほどには慣れてきました。
……
いえ、野営中じゃなくてもこのコーヒーは美味しいですね。
豆が違うのでしょうか?
実家で飲んだときは、砂糖の甘さを感じるための苦い飲み物だと思っていたのですが……
実家ではこの飲み物のことをコーヒーではなく、カッファと呼んでいました。
ひょっとして、似ているだけで違う飲み物とか?
拠点に戻ったら調べてみましょう。
とりあえず……
迷宮から抜け出すことですね。
現在、私とウルザさんはイースリーさんたちと分断され、迷宮内で迷っていました。
油断していたわけではありません。
冒険中は、一瞬の油断が命取りです。
常に警戒をしていました。
しかし、まあ……運が悪かったということでしょうか。
国作りの拠点から、数日の場所。
魔物が出るとの話を聞き、私たちはその討伐に向かいました。
残念ながら魔物は見つけられませんでしたが、かわりに大きな洞窟の入り口を発見。
大人が三人ほど横に並んでも余裕がありそうな洞窟です。
ひょっとしてここが魔物の巣になっているのかと考え、内部に入ることにしました。
もちろん、いきなり最奥まで進む気はありません。
現在の装備が探索用ではないので。
少し入ったところで魔物の痕跡を調べるだけのつもりでした。
まあ、魔物の痕跡は見つからなかったのですが。
諦めて引き返そうと考えたタイミングで、複雑な魔法陣がウルザさんの足元に広がりました。
なにかの魔法が発動したのでしょう。
私はとっさにウルザさんの服を掴んで魔法陣から引っ張り出そうとしたのですが、間に合わずに巻き込まれてしまいました。
魔法陣の効果は転移だったようです。
景色が先ほどまでいた土壁の洞窟から、石壁、 石畳(いしだたみ) のしっかりした大きな広間に変わりました。
壁にいくつもの 燭台(しょくだい) があり、薄暗くはありますが広間を照らしています。
広間の中央が明るいのは……ああ、天井にシャンデリアがありますね。
天井が高いので、気づくのが遅れました。
扉がいくつもあるので、閉じ込められたわけではないと思います。
ウルザさんは……私の後ろにいました。
転移される前と変化がありません。
よかった。
ですが、イースリーさんたちはいません。
分断されたようです。
ほかには……
えっと……なんでしょう?
広間にいくつかある扉の一つが小さく開かれ、そこから黒いフードで全身を 覆(おお) った者たちがやってきました。
二十人ぐらいいます。
私たちを取り囲む……でもなく、なにやら、広間のあちこちに箱をセットしています。
私たちを無視しているのでしょうか?
あ、無視はしていないようですね。
一人がこちらにやってきて、私とウルザさんの立ち位置を指定してきました。
親切に印までつけてくれて……
罠でしょうか?
あの、ウルザさん?
素直に従う必要はないと思うのですが?
殺気がないから大丈夫?
いや、まあ、たしかに感じられませんが……わかりました。
私はウルザさんに従います。
私たちが指定された位置に立ったのを確認した黒いフードの一人が指を三本 掲(かか) げ、一本ずつ減らしていきます。
そして、指がなくなったと同時に黒いフードで全身を覆った者たちがセットした箱から光が扉に向けられました。
そして聞こえる男性の高笑い。
扉がゆっくりと開かれ……扉の向こう側からも光が向けられているようで、シルエットしかわかりませんが高笑いの主が出てきました。
彼は高笑いを止め、そして言いました。
「ちょっと 眩(まぶ) しい。
光源、落として。
暗い場所にずっといたから、目が痛い」
……
光を放つ箱がいくつか下げられたことで、改めて現れた男性を観察します。
容姿は……
普通の中年?
しかし肌に張りがあります。
ちぐはぐな印象です。
着ている服は貴族服?
いえ、古い型の執事服ですね。
仕草(しぐさ) から、その服を着こなしているのはわかります。
つまり、かなりの年月を生きた者?
魔族でしょうか?
武器らしきものは持っていません。
体は……鍛えてあるようには見えません。
筋肉も近接戦向きではないようですし、魔法で戦うタイプですね。
私がそう判断したところで、男性は 咳(せき) 払いをして私たちに言いました。
「我が 主(あるじ) の 館(やかた) にようこそ!
久しぶりの客人、歓迎したいところですが……
我が主からは、来客の予定は聞かされておりません。
つまり……
貴女がたは招かれざる客!」
まあ、そうですね。
そして、こちらもお客のつもりはありません。
「帰り道を教えてくれたら、黙って帰るわよ」
ウルザさんがそう言いながら、相手に見えないように手でなにかを準備しています。
戦闘になると見ているのでしょう。
ならば確実になりますね。
私も覚悟を決めます。
黒いフードで全身を覆った者たちは……戦闘には関わりませんと、両手を上げて壁際に下がっていきます。
どこまで信じていいかわかりませんが、ウルザさんが意識していないようなので私も気にしないようにしましょう。
つまり、敵は一人。
目の前の男性。
「残念ながら、この場所を知られたからには帰ってもらっては困るのですよ」
男性のほうも覚悟は決まっているようですね。
私とウルザさんの二人でかかれば、なんとかなるでしょうか?
男性との距離は……三十歩程度。
ん?
こっちに向かってゆっくりと歩いて来ている?
魔法使いなら、距離を保ったほうが……
あっ。
私は自身の失態に気づきました。
武器を持たない。
筋肉がない。
だから魔法で攻撃してくると。
違いました。
男性には特殊な攻撃方法があったようです。
魔眼(まがん) 。
男性の右の 瞳(ひとみ) が魔眼です。
どのような効果かはわかりませんが、男性はその瞳で私たち二人を相手にできる自信があるのでしょう。
予想外の健脚で一気に距離を詰めてきました。
とても 拙(まず) いです。
魔眼の効果次第では、私たちはなにもできずに殺されてしまいます。
迎撃しなければと私が動くより先に、男性はウルザさんの前で右の瞳を大きく見開き……
大きく見開く前に、ウルザさんの手から放たれた砂が眼に直撃しました。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男性が痛さで転がっています。
「魔眼の対処法ぐらい知ってるわよ」
さ、さすがです!
そして、ウルザさんは油断せず、さらに砂を男の顔にかけます。
「やめっ、ちょっ」
躊躇(ちゅうちょ) がありません。
ですが、それが正しい。
男性は手でウルザさんを払いのけようとしましたが、その腕をウルザさんは剣で切り飛ばしました。
?
男性の腕から血が出ていない?
かわりに男性の体がボロボロと崩れ……
最初に登場した扉の前で再生されます。
それを見て私は理解しました。
男性は、吸血鬼だと。
「き、貴様!
砂をかけるなど卑劣な手を!
許さん!
許さんぞぉっ!」
私はメイスを構え、気合を入れなおします。
もう油断はしません。
近づく者は全て潰します。
ウルザさんも剣を構えました。
さあ、かかってきなさい!
「あ、あ、主に言いつけてやる!」
男性は逃げました。
……あれ?
黒いフードで全身を覆った者たちも、失礼しますと頭を下げて部屋から出て行きます。
あの、ウルザさん。
追います?
「倒したらね」
?
その倒すべき相手を追うのではと思いましたが……
部屋の中央に、炎の巨人が出現しました。
吸血鬼の男性より、強そうですね。
うん、こっちのほうが好みです。