作品タイトル不明
閑話 徴税官
私は徴税官。
税を集めるのが仕事の男だ。
税を集めるのだから、当然ながら嫌われ者となる。
寄って来るのは、賄賂などを渡して税を見逃してもらおうと考える者ばかりだ。
そういった者たちとも上手くやればよかったのだが、私は賄賂を受け取らなかった。
賄賂を受け取り、規則を歪めてしまうことに拒否感があったからだ。
私ではなく妻や息子に渡そうとした者もいたが、妻も息子も私の考えに賛同してくれたので賄賂を受け取らなかった。
いい家族を持った。
そうしたある日。
私は突如ありもしない罪を着せられ、家族ごと住んでいた街から放逐された。
どうやら、賄賂を受け取らない私が邪魔だったようだ。
上司だった者も、賄賂を受け取る同僚たちからあることないことを吹き込まれ、私の話を聞いてくれなかった。
殺されなかっただけましか。
そう思い、私は生まれ育った街を離れた。
数年の放浪の旅を経て、流れ着いたのが魔王国の五村。
できたばかりの街……いや、村で私は小物を販売する店を始めた。
幸い、私は手先が器用で、木の細工はそれなりに得意だった。
妻や息子も手伝ってくれたので、貯金ができるぐらいには稼げるようになった。
生活に余裕ができると、心にも余裕ができた。
自身の生活を改めて、見ることもできた。
……
五村の税制はどうなっているんだ?
今年払ったのって、自主的に納めた人頭税(街や村で暮らす者が払う税。年齢に関わらず街や村で同額なのが一般的)ぐらいだぞ。
しかも、人頭税は格安だった。
人頭税が一人、大銅貨二枚って……この村、やっていけるのか?
普通の場所だと、人頭税は大銅貨七十枚から八十枚ぐらい取るぞ。
そして、考えてみれば私の店に徴税官がやって来たことがなかった。
年に一回か二回はやってきて、店の規模に応じて税を求めてくるものだろう?
村ができたばかりでまだ税を徴収する制度が整っていないのか?
それとも徴税官が足りていないのか?
私はこの村に恩がある。
この村に辿りついたから、私たちの家族は放浪の旅を終わらせることができた。
徴税官はこりごりだと思う気持ちはあるが、私の知識と経験が役に立つならと五村の村議会場を訪ね、思いを伝えた。
それがよかったのか、私は五村の徴税官として働くことになった。
五村に辿りついて二年目、今から四年前の話だ。
ちなみに、徴税官は基本、兼業だ。
なにせ徴税をする時期以外は、仕事がない。
なので小物を売る店は続けている。
徴税の季節は住む場所によって変化する。
だいたいは春か秋だ。
五村では秋だ。
その秋がやってきた。
私は小物を売る店から姿を隠す。
そう、隠す。
この五村での徴税官の基本だ。
変装もする。
髭(ひげ) を 生(は) やしたり、 剃(そ) ったりは当然。
髪の色も染める。
気合の入った徴税官は、夏ぐらいから姿を隠して体形を変えることすらする。
完全に別人に成りきるためだ。
私は体形を変えるほど気合は入っていない。
安くない金を払って 鏡(かがみ) を買い、それを見ながら自己暗示を掛ける程度だ。
他者に成りすますために。
なぜこのようなことをするのか?
決まっている。
五村の徴税官だからだ。
徴税官は、正しく税を徴収することが仕事。
けっして、不正はしない。
村長代行にそう誓った。
だから、決められた額の税を徴収する。
冷徹に。
朝になれば日が昇り、夜になれば日が落ちるように、当たり前に。
決められた額を徴収する。
だから、決められた額以上の税は絶対に受け取れない。
そう、多い場合もだ!
五村の徴税官だとわかると、これでもかと税を押しつけてくる者がいる。
気持ちはわかる。
五村の税は安すぎて心配になるのだ。
五村には長く安泰でいてほしい。
そのためなら、税を倍払ってもかまわない。
倍払っても、ほかの場所よりも圧倒的に安いのだから。
しかし、受け取れない!
こちらは徴税官。
徴税官の立場をわかりやすく言えば、税を徴収するという仕事を委任された業者だ。
定められた以上の税を受け取ると、今度は私が村にその多く受け取った分の税を渡さなければいけない!
受け取ってもらえると思うか?
無理だから私のところに来たんだろ?
私に渡されても困る。
村に渡せなかった場合、五村に対して不正に税を徴収して私腹を肥やす徴税官になってしまう。
だから、税は多く受け取れない。
よって、五村の徴税官は徴税の時期、姿を消す。
誰にも見つからないように。
一応、過熱する徴税? 行為を村長代行が心配し、徴税は日が昇っているあいだと決めたので、日が落ちた夜は安全だ。
まあ、日が昇る直前がもっとも危ないから、日が昇る前に行動しないといけないけどな。
徴税官の似顔絵が各所に 掲(かか) げられるのも、季節の風物詩みたいなものだ。
むっ、私の似顔絵。
現在の姿の似顔絵だ。
急ぎ、変えなければ。
どこでバレた。
まさか妻か?
息子か?
二人とも、前々から税を納めたいと言っていた。
い、いや、家族を疑うな。
それよりも姿を変えることだ。
「いたぞ!
徴税官だ!」
見つかった!?
私は慌てて移動する。
隠れるのは愚策だ。
なにせ見つかったのだからな。
しかし、追っ手はない。
違う方向に向かう一団を確認できた。
見つかったのは私ではなかったようだ。
よかった。
そして逃げている徴税官よ。
頑張れ!
逃げ切るんだ!
一度捕まると、徴税官の身は危ない。
逃げられない高級な宿に押し込められ、朝から晩まで接待攻勢を受けることになる。
そう、徴税の季節が終わる冬まで。
確実に太る。
冬は動きにくくなるので、さらにだ。
そうなると来年の徴税の季節である秋までに、どれだけ動ける身体に戻せるか。
戻せなければ、もう一年だ。
ふうっ。
私は深呼吸をし、気合を入れる。
私は冷酷な徴税官。
絶対に定められた額以上の税は受け取らない。
余談ではあるが。
五村の徴税官の仕事に、過去の徴税官の仕事の知識や経験は欠片も役に立っていない。
まあ、当然だな。
五村は異質すぎる。
だが、そんな五村を愛している。