軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二つの小さな事件

春の畑仕事が完了した。

厳密にはまだまだ作業があるけど、【万能農具】で畑を耕し終わったので一区切りだ。

軽めの宴会をして一緒に畑仕事をしてくれた人たちを 労(ねぎら) い、村のパレードに備える。

外のパレードのこともあるから、俺としてはすぐにでも村のパレードをやってしまいたかったが……

村のパレードには一村をはじめとしたほかの村々も参加するので、各村の農作業の状況を確認しないといけない。

もちろん、北のダンジョンや南のダンジョンから巨人族やラミア族も呼ぶので、そのための時間も考慮される。

数日のうちに文官娘衆たちから日取りが知らされるだろう。

たぶん、三日後ぐらいだろうけど、いつになっても大丈夫なように心構えをしつつ、個々に仕事を続行することになる。

俺も仕事はあるのだけど、ザブトンの子供たちの馬車作りを優先する。

あとで慌てるよりは、余裕をもって作りたいからな。

村のパレードの前に、小さな事件が二つあった。

一つはクロの子供の一頭が、キノコを食べて腹痛で苦しんだこと。

村で作っているキノコに毒キノコが混じったのかと慌てたが、事情を聞くと森で自生しているキノコをつまみ食いしたらしい。

キノコは危ないから食べちゃ駄目だと教わらなかったのか?

教わっていたけど前にこっそり食べたことがあって、そのときは大丈夫だったから今回も大丈夫だと思った?

食べた時期によって、毒を持ったりするのだろうか?

「村長、見つけました。

こちらのフェイクエッグマッシュルームです」

クロの子供が食べたキノコを調べてくれていたリアが、そう言って俺の前に差し出したのは一本のキノコ。

色は白っぽい茶色で、キノコと言われてイメージする笠がある形だ。

このキノコ、見覚えがある。

村では作っていないが、五村やシャシャートの街の商店で販売されていた。

「そちらは、エッグマッシュルームですね」

なるほど。

目の前のキノコは、その偽物ということか。

つまり、腹痛で苦しんでいるクロの子供が以前につまみ食いしたのはエッグマッシュルームで大丈夫だったけど、今回はフェイクエッグマッシュルームを食べてしまって苦しんでいると。

「そのようです」

毒はどれぐらい強いんだ?

「猛毒です。

口にすれば死にます」

……

俺は腹痛で苦しんでいるクロの子供を見る。

「腹痛で済んでいるのは、さすがというしかないかと」

……そうだな。

改めて、クロの子供たちに注意をうながしておこう。

キノコは危ないから、勝手に採って口にしないようにと。

あと、五村やシャシャートの街の商店にも言ったほうがいいか?

売ってるキノコに似た毒キノコがあるわけだから……

「あー、大丈夫だと思いますよ」

ん?

どういうことだ?

「エッグマッシュルームとフェイクエッグマッシュルームはそれなりに有名ですので、対処が普及しています」

対処?

「焼いて食べることです。

フェイクエッグマッシュルームの毒は、十分に火を通せば消えますので」

なるほど。

エッグマッシュルームを焼いて食べていれば、万が一フェイクが混じっても被害はないと。

「はい。

まあ、エッグマッシュルームは焼かないほうが美味しいので、時々犠牲者が出ているらしいですが……」

うーん、言葉に困るな。

「あはは」

ところで、エッグマッシュルームとフェイクの見分け方は?

「ここです」

リアがそう言って指差したのはフェイクエッグマッシュルームの 柄(え) 。

「よく見ていただくと、 節(ふし) があります。

節があればフェイクエッグマッシュルーム、節がなければエッグマッシュルームです」

指摘されれば、たしかに節がある。

しかし、注意しないと気づかないな。

「そうですね。

なので、焼いて食べるのがいいかと」

わかった。

五村とシャシャートの街の商店には、改めて注意を通達しておこう。

余計なお世話かもしれないけど、亡くなる人は少しでも減らしておきたい。

ちなみにだが……

フェイクエッグマッシュルームを食べて、腹痛で苦しんでいるクロの子供。

腹痛ならばと俺は世界樹の葉で治そうとしたのだが、クロとユキに止められた。

言いつけを守らない愚か者は、しっかりと苦しむ必要がある。

苦しまないと覚えないと。

なかなか厳しい。

しかし、猛毒なんだぞ?

今は大丈夫でも、あとで急変するかもしれない。

本当に死にそうだったら世界樹の葉を与える?

……わかった。

そういうことで、クロとユキに任せることになった。

腹痛で苦しんでいるクロの子供は絶望した顔をしていたが、俺は助けてやれない。

すまない。

もう一つの小さい事件。

それは牧場エリアで起こった。

春になり、元気に駆け回る馬たち。

その馬に混じって、走っていたユニコーンの雄が転倒し、ユニコーンの雄の象徴である角が折れたのだ。

転倒のダメージはないようだが、角を折ったユニコーンの雄は遠い目をしていた。

近い場所に視点を合わせると折れた角が目に入るからかな?

もともとは角は八〇センチぐらいあったのだけど、折れて今では十五センチほどになっている。

ユニコーンの雄は 努(つと) めて冷静になろうとしているが……あ、うん、無理っぽいな。

まっすぐ歩けていない。

あ、後ろ脚から 崩(くず) れて倒れた。

思いっきり泣いてる。

ショックだったのだろう。

一応、十五センチ残っているじゃないかと 慰(なぐさ) めてみるが……

逆効果っぽかった。

すまない。

折れた角を回収し、繋がらないか試してみるも駄目だった。

とりあえず、ユニコーンの角は中が空洞なんだなと知った。

そして構造的に折れやすいのも理解した。

とりあえず……

この角、 生(は) え変わったりは?

生え変わらない?

一生このまま?

いや、伸びるけど先が 尖(とん) がらない?

折れたまま?

さすがにそれはかわいそうだな。

世界樹の葉でなんとかならないか?

俺の言葉に、ユニコーンの雄が目を見開いた。

そして俺を見る。

わかったわかった、世界樹の葉を使おう。

だが、駄目だったとしても怒るなよ。

結果。

世界樹の葉を一枚食べさせたら、ユニコーンの雄の角は五センチほど伸びた。

そして先は尖った。

どういう原理だろう?

深く考えないほうがいいのかな?

折る前に比べるとかなり短くなったが、ちゃんと角の形をしているし。

ユニコーンの雄が世界樹の葉をもう一枚食べると、さらに五センチほど伸びた。

おおっ、食べ続ければもとの長さになりそうだな?

どうする?

食べ続けるか?

これぐらいでいい?

受け入れる?

長すぎる角は自慢だったけど、邪魔でもあったのね。

わかった。

もう転ぶんじゃないぞ。

俺はそう言ってユニコーンの雄と別れようとして、動きを止めた。

いつのまにか俺の横にルーがいた。

手には、ユニコーンの雄が折った角。

「世界樹の葉を食べさせることで伸びるということは……実質無限にユニコーンの角が手に入る?」

ユニコーンの角は、魔法関係者からすれば 垂涎(すいぜん) のアイテムらしい。

つまり……

逃げろユニコーン!

転倒しないように注意しながら、風よりも速く駆けるんだ!

小さな事件だった。

後日、角を折った世界中のユニコーンの雄が村に集結したけど、 些細(ささい) なことだ。

ああ、でも折れた角を治療費代わりに持ち込んでくれたので、ルーの機嫌が直ったのは助かった。

あと、腹痛に苦しんでいたクロの子供は、村のパレード前には回復したそうだ。

よかった。