軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

囚人

疲れた顔のビーゼルが村にやってきた。

孫のフラシアベルに 癒(いや) されるためかと思っていたら、なにやら俺に話があるようだ。

なんだろう?

「魔王国に潜入している密偵関連でご相談がありまして……」

……

えーっと、そういった内容だと、俺は不適当だと思うのだが?

そう言ったのだが、俺じゃないと駄目な様子。

わかった。

話を聞くけど、そういったことに 詳(くわ) しい文官娘衆を同席させ……あ、フラウが同席してくれるのね。

助かる。

ビーゼルの話では、魔王国には複数の国から密偵が送り込まれているらしい。

判明しているだけで十三カ国、二十二組。

そんなに入り込まれて大丈夫なのかと思うが、多少の情報を抜かれるのは折り込み済みというか、相手に情報を与えるのも戦略の一つなので気にしなくていいそうだ。

「流出してはいけない情報は守っておりますし、破壊工作をしてくるようなところは潰しておりますのでご安心を」

なるほど。

それで、相談とは?

「実は、とある国の密偵が 五村(ごのむら) で捕縛され、 牢(ろう) に入れられております」

五村で?

ああ、ヨウコ屋敷を調べていた連中のことか?

少し前に捕まえたと報告を受けている。

十二人組の大所帯だった。

「いえ、そちらの者ではなく、別の者で……」

え?

ほかに密偵っていたか?

「名はクラウデンです」

クラウデンと言われても……密偵なら偽名を使っているんじゃないか?

「クラウデンが使う偽名は、クラウデンを少しもじった程度だと聞いています。

クラウゾとかクライマスみたいな感じですね」

クラウゾ、クライマス……

あー、そう言われれば一人いた気がする。

俺が思い出そうと頑張っていると、フラウが助けてくれた。

「村長。

クラッタンのことではないかと。

あのラーメン 好き(フリーク) です」

そう、それだ!

あの大盛りラーメンが好きな男がたしかクラッタンだった。

ラーメンに怪しい成分が入っていると強く主張するので、ヨウコたちが念のため調査を行ったと報告を受けたから覚えている。

ちなみに、調査の結果は問題なし。

ただ、どう考えても大盛を並と称していることに関しては注意を与えておいた。

食べ残しが問題になるからだ。

大盛りで似た感じの野菜増量ラーメンを扱う店は、数量限定のうえに免許制にして対策をしている。

同じように免許制にしろとはいわないが、食べ残し問題に関してもう少し考えてほしい。

話を戻して。

彼が密偵のクラウデンか。

……

彼、ラーメンの味を盗もうとした現行犯で捕まっているんだけど?

他国からわざわざラーメンの味を盗みに来たの?

俺がビーゼルに聞くと、困ったように教えてくれた。

「一応、本来の目的は王都の調査のようです」

まあ、密偵だしな。

それで、そのクラウデンをどうしたらいいんだ?

魔王国に引き渡せばいいのか?

「あー、過程としてはそうなるのですが、その……」

「実は、その密偵を送り込んだ先の国から極秘の交渉がありまして、クラウデンを返してくれるなら敵対姿勢を改め、魔王国と友好的な関係を持つ用意があると」

……意外だな。

こういっては失礼だけど、密偵とかは切り捨てられるイメージだった。

密偵を大事にする国もあるんだな。

「それが、クラウデンはその国の王の隠し子……つまり、王族の一員でして……」

王族が密偵をしていたのか?

「はい。

そのうえで、剣と魔法は国一番の実力者だそうで」

失うのは痛いと。

「魔王国としても、他国の王族を害するのは無駄に 敵愾心(てきがいしん) を 煽(あお) るので避けたいのです」

となると牢に入れているのも問題になるんじゃないのか?

「いえ、牢に放り込むのは相手国からも 推奨(すいしょう) されました。

油断するとすぐに逃げるから、見張りを 怠(おこた) るなとのアドバイスとともに」

えーっと……

ひょっとして、クラウデンは国の方針を変えるぐらい、その国に恨まれているのか?

「そうではないようですが……

それで、そのクラウデンの引き渡しをお願いできないかと」

死罪じゃないなら、問題はないな。

いいと思うが……

そういった内容なら、俺じゃなくてヨウコに言ったほうが早かったんじゃないか?

ヨウコも、牢にいれた者の引き渡しに、わざわざ俺の許可を取らないだろうし。

「実はヨウコ殿にはすでにお話をしたのですが、問題がありまして」

問題?

「クラウデン本人が牢から出たがりません……」

……え?

「無理やりに出そうと思ったのですが、牢に入れた者への暴行等は村長が強く禁止したとヨウコ殿が言うもので……」

たしかにそう指示した覚えがある。

こっちの世界、牢に入っている人の 扱(あつか) いが荒いんだ。

牢番に殴られる蹴られるは当たり前、食事を満足に与えられない、場合によっては睡眠すら妨害される。

そういった扱いも 罰(ばつ) の一部だと言われたが、そういった扱いをされないために捕まった人の親族が牢番に 賄賂(わいろ) を送るのが習慣化しているとも聞いたので、禁止にした。

一概に全ての賄賂が悪とは思わないが、牢番の 懐(ふところ) を 潤(うるお) わせるために捕まえているわけじゃない。

そういった賄賂を受け取らなくてもいいだけの給料を払っているはずだ。

また、そういった賄賂が発生するとなると、小さなことで牢に放り込まれる者が増える危険性がある。

禁止にして正解。

意識改革に時間がかかったけど。

維持(いじ) できているようでなにより。

だけど、牢から人を出せないのは問題だな。

そのあたりは柔軟に対応してほしいが……

勝手に 弛(ゆる) めるのも問題だ。

ヨウコと今度、相談するとしよう。

とりあえず、いまはクラウデンの引き渡しだな。

五村に行って、直接指示するのが早いか。

俺は五村の牢に行き、クラウデンと対面。

母国へ送り返すと告げた。

クラウデンは俺の言葉を聞き、牢の 檻(おり) を両手で握りしめ、不動の構えをとってこう答えた。

「あのラーメン屋への就職が認められるまで、俺は牢から出ない!」

……

その要求、俺に言われても困る。