作品タイトル不明
ジョローの商隊 おまけ編1
俺の名はサーモス。
サーモス=タッチホン。
本名だ。
偽名じゃない。
たしかに周りのみんなは偽名だが、俺は本名を名乗っている。
理由がある。
面倒な理由が。
本当に面倒な理由が。
俺はある日、上司から任務を与えられた。
魔王国に潜入し、調査する任務だ。
潜入となるとむずかしそうに思えるが、魔王国は意外と外部からの来訪者に 寛容(かんよう) だ。
堂々と騎士であると名乗っても入国できる。
行動も制限されたりはしない。
事実、俺は過去に二回、騎士の身分を隠さずに魔王国に潜入し、無事に戻っている。
だから、今回も簡単な任務だと思った。
しかし、そうではなかった。
俺と一緒に潜入する仲間なのだが、六十人を超えるそうだ。
……
馬鹿じゃないかと思う。
六十人は、ちょっとした戦力じゃない。
ちゃんとした戦力だ。
小さな戦場なら、戦況を左右する可能性のある数だ。
盗賊団や山賊が六十人となれば、それはもう軍が出動して対処する数だ。
魔王国が外部からの来訪者に寛容だとしても、この人数がまとまって行動することを見逃したりはしないだろう。
俺は上司に抗議した。
任務を成功させたいなら、数を減らせと。
調査するだけなら、俺を含めて三人ぐらいで十分だ。
俺の上司も、六十人は多いと理解はしていた。
しかし、俺の抗議は通らなかった。
逆に俺の上司は困った顔をしながら、俺を説得しにきた。
曰(いわ) く、派閥の問題だそうだ。
派閥?
たしかに一緒に同行する者たちのリストを眺めると、多数の派閥が絡んでいるのがわかる。
王室騎士団派、第一騎士団派、第二騎士団派、中央参謀派、南方防衛隊派……
国を守るという目的は同じでも、その方法や手段で派閥が生まれていく。
軍人としては、避けられない派閥問題。
だが、派閥を考えるのであればこそ、人数を減らして一つの派閥に任せるべきだろう。
それが無理でも、王室騎士団派がいるならそっちに任せて……違う?
その派閥じゃない?
え?
じゃあ、どの派閥なんだ?
まさか、貴族関係?
それでもない?
それ以外の派閥となると……
「魔王国に関する派閥だ」
上司の言葉に、俺は黙ってしまった。
魔王国に関する派閥。
簡単に言えば、魔王国とどの姿勢でつき合うかで分かれた派閥だ。
実は我が国と魔王国は国境が隣接しているわけではないが、交戦中だ。
なぜかと言えば、我が国の代々の王が、王に就任したときに魔王国を絶対に滅ぼすと宣誓しているから。
それに反対する貴族もいないので、我が国は魔王国とは完全敵対姿勢で統一されている。
なので、派閥とかはなかった。
魔王国とは完全に敵対。
それだけだ。
ところが、最近というか……八年~九年ぐらい前からかな?
王の方針がぶれた。
「……あれ?
どうして我が国って、こんなに魔王国を憎んでいたんだ?
魔族が憎い?
そんなことはないなー。
我が国にだって、亜人種は暮らしているわけだし」
王は、魔法にでもかかったかのように、魔王国に対する敵対姿勢を崩し始めた。
いや、これまでが変な魔法にかかっていて、それが解けた感じなのかな?
ともかく、王の方針がぶれると、国全体を 覆(おお) っていた魔王国とは敵対して当然という空気が薄れていった。
正直、魔王国と無理に戦争しなくてもいいんじゃないかな。
王はそう思っているようだ。
だったら、素直にやめればいいじゃないかと思うのだが、そう簡単にはいかない。
なにせ、魔王国との敵対姿勢は自国の長年の方針であり、経済の大半がその方向で動いている。
急な方向転換は、国が滅ぶ。
そして、さらに面倒なのは周辺国と手を組んで魔王国と敵対姿勢を取っていたことだ。
手を組んだのは一国、二国ではない。
魔王国以外のほとんどの国と手を組んでいる。
そうなると、いきなり我が国だけが手の平を返して、魔王国との戦争を止めますとは言えない。
言ってはいけない。
言うと、周辺国から攻められる。
しかし、敵対姿勢のまま放置もできない。
国境を接していないにしても、海で繋がっている。
魔王国が大規模な遠征軍を組織して、海から我が国に攻め込んでくる可能性がないわけではないからだ。
だが、どうしようもなかった。
魔王国と敵対する気はないが、周辺国との関係から敵対姿勢を崩すわけにもいかず、身動きがとれない。
それが我が国の現状。
そんな現状なので、派閥が生まれた。
現状維持でなんとかなるさ派。
周辺国なんか無視して魔王国に頭を下げよう派。
魔王国と同盟すればすべて解決する派。
先人の言を守って魔王国と戦い続けよう派。
国を捨てて逃げよう派。
ほか細かく多数。
一応、王が現状維持でなんとかなるさ派だったので、我が国はなにもしなかった。
それが急にどうして?
理由は一つ。
王の年齢。
現在の王は七十を超え、 僭越(せんえつ) ながら、そろそろ引退を考えてもおかしくない。
後継者に問題はない。
後継者指名を受けた王子は健康で優秀だ。
少なくとも 煽(おだ) てる取り巻きの言葉を真面目に受け止める無能ではない。
問題は、後継者の王子が王になったとき、魔王国を絶対に滅ぼすと宣誓するかどうか。
これまでも宣言していたのだから、気にするほうがおかしいのかもしれないが……
宣誓は敵対行動になる。
宣誓してしまうと、当面のあいだは魔王国と交渉ができなくなってしまう。
魔王国も、絶対に滅ぼす宣誓をされた次の日に、仲良くしようと言われても信用できないだろう。
だから、魔王国と 揉(も) めたくないのであれば、宣誓はしないほうがいい。
しかし、宣誓しないと周辺国から疑われる。
これには現状維持でなんとかなるさ派も困った。
そこで、俺の出番となった。
魔王国に潜入し、調査するのは名目だけ。
俺の本当の目的は、魔王国との交渉窓口を作ること。
そして、できれば、可能であればだが……
我が国が万が一、魔王国を絶対に滅ぼすと宣誓しても、それはポーズだけで実際には敵対したくないと魔王国に伝えることが任務となる。
なるほどと納得。
とても面倒な任務だ。
それゆえ、もう一度確認しておきたい。
その面倒な任務なのに、なぜ同行者が六十人を超える数になったのか?
今回の派遣は現状維持でなんとかなるさ派の主導だったのだけど、それをほかの派閥が嗅ぎつけ、勝手な交渉をしないように見張るために人が増えていったそうだ。
……
つまり、同行者の大半が俺の本当の任務を妨害する役目ということかな?
上司の言葉では、妨害ではない、見張るだけだ。
そして、大半ではない、半分ぐらいだそうだ。
慰(なぐさ) めにもならない。
まあ、人数を逆に利用して、商隊に 扮(ふん) すれば魔王国に潜入するのは可能かなと考えていると、いきなり王都に行くのは目立つから、遠回りして行けと言われた。
簡単に言ってくれる。
第一、六十人を超える集団の段階で、魔王国で目立つのは覚悟の上でしょう?
違う?
他国の監視から逃れるため、目立たないほうがいい?
他国って……
我が国が独断で魔王国と仲良くしないようにってことですか。
そこも妨害に来る前提で行動しよう。
大きなため息がでる。
しかし、これも仕事だ。
やるしかない。
気合を入れる。
まず、商隊に扮するために商人の協力が必要だな。
俺は商人に協力を要請した。
断られた。
魔王国が怖いそうだ。
長年の敵対姿勢のため、魔王国は悪の 巣窟(そうくつ) と思われているからなぁ。
……
魔王国と交易している商人は、魔王国がそうじゃないって知ってるだろうがぁ!
「交易しているから、そんな面倒なことには関わらないんですよ。
出入り禁止になったらどうするんですか」
交易商人よ。
正論は誰も喜ばない。
喧嘩になるだけって覚えておこう。
仕方なく、旅商人に協力を要請した。
快(こころよ) く引き受けてくれて助かった。
そして魔王国に所属する船に乗り、俺たちは魔王国に出発した。
俺の名はサーモス。
サーモス・タッチホン。
俺が偽名を使わないのは、面倒な使者の役目があるからだ。
はぁ。
まったく、魔王国に窓口を作る手段は全部、俺に任せるって……
言うのは楽だよなぁ。
なんだかんだ一年ほど旅してやっとシャシャートの街に到着し、この街で二十日が経過した。
しかし、窓口となりそうな人物とは接触できていない。
シャシャートの街の商人に探りを入れても、駄目な雰囲気ばかりだ。
王都に行く前に、きっかけぐらいは作っておきたいのだが、どうしたものか。
「サーモス、どうした?
飯、食わないのか?」
食べるよ。
チキンカレーは至高だ。
ん?
少し離れた席で、仲間のダンとミックが見知らぬ者たちと食事している。
大人と子供が混じっているが……ああ、野球仲間か。
俺も任務がなければ、あんな風に気楽に遊ぶんだけどなぁ。
おっと、いかんいかん。
ダンもミックも、気楽に遊んでいるわけじゃない。
情報収集を頑張っているだけだ。
幼いメイドとじゃれているようにも見えるけど、あれも情報収集の一環だろう。
俺も、もうちょっと頑張るとしよう。