軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジョローの商隊 後編

私の名はリグロン=アウエルシュタット。

歴史ある伯爵の家系に生まれた男だ。

まあ、長男ではないので、それほど責任はない。

だが、家名に恥ずかしくないようにと厳しく育てられた。

だから腕には自信がある。

そして、そんな私は魔王国への潜入任務に従事している。

ああ、潜入時の私の名はミックだ。

さて、私は同僚のダンに連れられ、シャシャートの街の北にある森に向かっている。

なんでも、変なゴーレムを見たいらしい。

私は見たくないので一人で行けと言ったのだが、無視された。

まったく、強引な男だ。

私は街の南の海岸で行われている 養殖(ようしょく) 場とやらを調べたかったのに。

まあ、変なゴーレムの情報も、なにかの役に立つかもしれないから、まったくの無駄とは思わないが……

「この辺りで探すか?」

私はそうダンに提案した。

シャシャートの街から、私とダンの足で五日ほど北に進んだ場所。

普通の冒険者たちなら八日から十日ぐらいの距離だが……

正直に言えば、これ以上は先には進みたくない。

というか進めない。

これまでは森の中にある道に従って移動してきたが、この先の森は雰囲気が違う。

危険度が跳ねあがっている。

二人では危険すぎる。

少なくとも、二十人ぐらいで隊を組んで進むべき場所だ。

なのに道は普通に続いている。

まるで、死に 誘(いざな) うかのように。

「そうだな。

この先はさすがに危険だ」

ダンも同じ判断だったようで、一安心だ。

あとはこの辺りで三日も探せば、変なゴーレムが見つからなくても、ダンは帰ろうと言い出すだろう。

願わくば、見つかってほしいが……

変なゴーレムは見つけられなかったが、奇妙な街を見つけた。

街はそれなりの規模なのだが、生活している者どころか歩いている者すらいない。

廃墟だ。

そんな廃墟を奇妙と表現したのは、その街並みに対してだ。

整った道、規則正しく建てられた家々。

これまで商隊の一員として、魔王国の各地を巡ったが、目の前にあるような街並を見たことはない。

ここはなんだ?

捨てられた街か?

それにしては綺麗過ぎるように思えるが……

私はダンを見る。

「ミック。

俺の考えはこうだ。

ここが変なゴーレムの拠点じゃないか?」

……なるほど。

廃墟で動き続けるゴーレムというのは、 英雄譚(ものがたり) でも定番だ。

「この街を調べれば、変なゴーレムと遭遇できる可能性は高いと思うんだが、どうだ?」

この街を調べる?

それなりに広いぞ?

三日じゃ絶対に終わらない。

「おいおい、さすがに二人で全部を調べるのは不可能だ。

だが……」

ダンが指差す場所を見る。

石で舗装された綺麗な通り?

なにもないが?

「なにもないってことはない。

ゴーレムがいるなら、その 痕跡(こんせき) が残る。

そして、俺には痕跡が見える。

ほら、ここ。

誰かが通った 跡(あと) だ。

最近だな。

まあ、ゴーレムとは限らないが……状況的にはゴーレムだろ?」

なるほど。

こういった方面の技術では、私はダンにかなわない。

競おうとも思わないが。

ダンは誰かが通った跡を 辿(たど) り、一軒の屋敷に着く。

この街の 長(おさ) の屋敷だったのかな?

大きい屋敷だ。

私が屋敷の敷地内に歩みを進めようとしたら、ダンが止めた。

「そこに仕掛けがある。

踏むと作動する」

……

「ミック。

俺の踏んだ場所以外は、踏まないように」

わかったが、私はこの場で待機というのは駄目かな?

うん、駄目っぽい。

ここからの調査は、緊張の連続だった。

どうして、こんなに罠があるんだと言いたくなるほどの罠があった。

ダンが罠を解除し、私がその解除した罠を外に運び出す。

突破するのに三日かかった。

そして、辿りついたのは大きな部屋。

罠の配置から、この部屋を守るようにあったのは間違いない。

大きな部屋の中にあったのは、大量の書物だ。

使われている文字が古いので、なにが書かれているかは理解できないが、豪華な装丁から重要なことが書かれているのだろうと予想できる。

ここにある大量の書物がすべてそうなのか?

「ダン、これは大きな発見だ。

一度、戻り。

仲間を連れて来よう」

これらを回収するにしろ、人手がいる。

また、ほかにもあるかもしれない。

「しかし、まだゴーレムを発見できていない」

ダンが 渋(しぶ) るが、私は強引に屋敷から連れ出す。

これだけ罠がある場所で、ゴーレムが自由に動けているとは思えない。

わかっているだろ?

「まあな……って、あれはなんだ?」

ダンが屋敷の外にいるゴーレムを見て、大きく驚いた。

ははははっ。

残念ながら、あれはダンが期待しているゴーレムじゃない。

屋敷の中でダンが解除した罠でつくったオブジェだよ。

正直、あまり自由に動けない私は暇だったからな。

どうだ?

驚いたか?

「驚いたよ。

あれ、強力な爆弾だぞ?

それで遊ぶなんて……」

え?

「俺、運ぶときに絶対に落とすなって言ったよな?」

たしかに言ってたけど……

「まあ、詳しく説明しなかった俺もわるかったけど……」

詳しく説明したら、私が運ばないと思ったのだろう。

うん、聞いていたら運ばない。

ということで、もうあのオブジェには触らない。

近づかない。

「近づかないっていうか、あんな風に集めたら街全部が吹き飛ぶ感じに……まあ、いいか。

わかった、一度、戻ろう」

シャシャートの街にいる仲間を説得する材料として、私とダンは一抱えもある大きな本を持ち出した。

もちろん、お金にもなることも期待して。

大事な物だと言わんばかりに保管されていた本だから、無価値ってことはないだろう。

私とダンはシャシャートの街に戻った。

道中、四人組の冒険者たちとすれ違ったときは、どう誤魔化そうかと悩んだが、冒険者の何人かがダンの知り合いだった。

全員が女性の冒険者パーティだが、実力はありそうだ。

私たちが進めなかった森に行くのだろうか?

それにしても、ダンはいつのまに知り合ったんだ?

一緒に野球をした?

ああ、ダンがやったという棒で玉を打つ遊びか。

遊んでいるだけかと思ったが、役に立つものだな。

「ミックもやってみないか?」

遠慮しておくよ。

「楽しいぞ」

わかったわかった。

やる機会があったらな。

とりあえず、先にこの本を仲間のところに運ぼう。

街に入るときに目立たないよう、夜に戻ったのだが……

大きな本を運ぶ私とダンの姿は、逆に目立っているか?

昼にすべきだったか?

まあ、仲間のいる宿に行くまでだ。

そう遠くない距離だ。

そう思ったのだが、邪魔が入った。

女性だ。

妙に雰囲気のある女性。

容姿から魔族だとわかる。

いや、悪魔族か。

「…… 香(かぐわ) しい匂いがする……そなたらの持つ本。

私に見せることを許可しよう」

戦う?

そんな判断はできなかった。

強いとか弱いとかの問題じゃない。

存在の格が違いすぎる。

この女性の機嫌を損ねれば、私とダンの命はない。

本能がそう感じた。

ダンも同じだろう。

だから、私とダンは言われるがままに持っている本を差し出そうとした。

しかし、それを止める声。

「その本……どうやって?

いえ、それはあとにしましょう。

その本の所有権は、こちらにあります。

いくら貴女でも、勝手に読むことは許しません」

私とダンの背後に立つ、執事服の男性?

あ、駄目だ。

こっちも格が違う。

死んだ。

お父さん、お母さん、不出来な息子をお許しください。

兄さん、あとのことはよろしくお願いします。

ああ、もっと生きていたかった。

私は生を諦めた。

だが、神はいた。

「待った待った待ったぁぁぁぁっ!」

一人の男が、叫びながら私たちのもとにやってきた。

そして、悪魔族の女性と執事服の男性を相手に構える。

「ご両者!

なにがあったかは知らぬが、この者たちに手を出すことは許さぬ!

ここは争わずに、収めていただきたい!」

この男、私たちよりは強いだろうけど、悪魔族の女性と執事服の男性よりは弱い。

圧倒的に弱い。

でも、頼もしい。

誰だ?

ダンの知り合いだった。

「監督……」

「ふっ。

選手を守るのも監督の 勤(つと) めでな。

有望な守備要員を、危ない目には遭わせんよ」

野球仲間だそうだ。

……

この先、私はどうなるかわからないけど、生き残ったら野球をやろう。

絶対に。