作品タイトル不明
イースリー
私の名はイースリー。
イースリー=イレブンエイト。
人間です。
私は暗殺者として、五歳から組織に鍛えられました。
現在、十六歳。
かなりの暗殺技術を習得したと思います。
ですが、まだそれを実践したことはありません。
人を殺したことに反応するアイテムがあるらしく、その対策です。
つまり、私はたった一人を殺すためだけに作られた暗殺者なのです。
まだターゲットは決まっていませんが。
早く決めてほしいものです。
私のやる気が空回りしますから。
魔王国の王都にあるガルガルド貴族学園に潜入することになりました。
……
敵地のど真ん中ですね。
ひょっとして教官の毛髪に関して言及していたのがバレたのでしょうか?
まさか、そんな。
組織でも上位の暗殺技術を持つこの私を、 私怨(しえん) で処分したりはしないでしょう。
そうであると、私は組織を信じます。
島流しだとか左遷だとかは思いません。
思いませんよ。
さて。
潜入と言っても普通に入学するだけ。
私の目的を考えれば、普通の生徒として生活することになるでしょう。
困る点と言えば、私の種族が人間なことですが……人間の商人の娘ということにすれば大丈夫でしょう。
私は現地に根付く組織の工作員に会いに行きます。
……
魔王国の王都に七人いた組織の工作員が、三人になっていました。
なんでも少し前から王都での取り締まりが厳しくなっているそうです。
工作員の主な任務は情報収集と、私たちのような暗殺者のサポートのはずで捕まるようなことはしていないと思うのですが……
ああ、小遣い稼ぎで悪事に手を染めていたのですね。
愚(おろ) かですね。
工作員たちの資質に疑問を持ちましたが、捕まっていない工作員はちゃんとしているので大丈夫だそうです。
そう言われても半数以上が捕まっていると……この話題はやめましょう。
私の入学は大丈夫なのですか?
……わかりました、信じましょう。
では、商人の娘として……
え?
商人の娘は駄目?
細かくチェックされる?
なぜか警戒が厳しい?
潜入によく使われるからでしょうか。
さすがは魔王国と褒めておきましょう。
商人の娘という立場にこだわりがあるわけではないので、素直に変更します。
私は魔王国の貴族に雇われた娘という立場で、ガルガルド学園に入学しました。
世の中、お金ですね。
なんとでもなります。
できるだけ目立たずにと思っていたのですが、無駄な心配でした。
私より目立つ生徒が三人も入学していたからです。
普通の子供に見えますけどね。
一応、情報収集をしておきますか。
普通に生活をするのが私の仕事ですが、組織から指示があったときに迅速に動けるように準備しておくことも大事です。
私って、なんて優秀なのでしょう。
目立つ生徒たちが暗殺者に狙われました。
私の所属する組織も協力しているようです。
見覚えのある先輩が頑張ったようです。
結果は失敗ですが。
私に声をかけてくれれば……
思い上がりですね。
さすがの私でも、あの子供たちには勝てません。
無理です。
人間にはできることと、できないことがあるのです。
夢や希望を持つのは自由ですが、それに私を巻き込まないでください。
ええ、私はあの目立つ生徒たちからは距離を取ると決めました。
近づきません。
知り合いになったりもしません。
あの生徒たちを狙えと組織から指示が来たら、組織を裏切る覚悟です。
それぐらいなんです。
本来は駄目ですが、ちゃんと報告しましたからね。
組織はよく考えて判断してください。
「こらぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
怒声に驚いて振り返った私が見たのは、誰かの靴裏。
ドロップキックなる攻撃を私は顔面に食らったようです。
壁際までゴロゴロと三回転以上させられました。
「なにするんじゃワレェ!!!」
いけません。
素が出てしまいました。
ですが痛かったのです。
許せません。
立ち上がった私の前にいたのは、例の目立つ生徒たちの一人。
名前はウルザ。
彼女はテーブルの上の何かを指さしています。
それを見ると……さきほどまで私が食べていた食器。
ここは学園の食堂。
別に珍しいものではありません。
ちゃんと食事終了の札を 掲(かか) げ、片づけても大丈夫のサインも出しています。
相手と 絡(から) む気は欠片もありませんが、一方的な攻撃をされて黙っているほど私は優しくはありません。
「急に攻撃してくるなんて、 酷(ひど) いのではありませんか?」
隙を見て殴ると決めた私は、素を隠した言葉を投げかけながら相手に近づきます。
……
あれ?
私の背後にいるのは誰ですか?
強烈な殺気に私が振り返ると、そこには目立つ生徒たちの一人。
アルフレートがいました。
なぜか怒っています。
その怒りは私に向けられています。
私の何が気に入らないというのでしょうか。
私の困惑した顔で察したのでしょうか、アルフレートは私の食器を指さしながら教えてくれました。
「ニンジン、残していますよ。
殺されたいのですか?」
……
えええええええええええっ!
ウルザ、アルフレートにとって、ニンジンに限らず食事を残すことは死に 値(あたい) する行為だったようです。
それは本人だけでなく、他人も同様。
自分の主張を他人に押し付けるとは、なんて酷い人たちなのでしょうか。
暗殺者の私が言うことではありませんが。
なんにせよ、抵抗する私を羽交い絞めにして、嫌いなニンジンを口に突っ込まれたことは忘れません。
いつか復讐してやる。
いや、実力差的に無理なのは理解しているけど。
人間、 志(こころざし) を持たないといけないのよ。
復讐が志というのも、あれだけど。
頑張るわ。
近づかないと決めた目立つ生徒たち、ウルザ、アルフレート、それにティゼルだけど、なぜか私はその三人がいるグループに入っていました。
どうしてでしょうか?
ウルザに気に入られたからです。
私のどこが気に入ったのか疑問ですが、不自然に目立つのも避けたかったので流されたのですが……
うーん、農作業が楽しい。
ふふふ。
なかなかよく育っていますね。
私が刈り取ってあげましょう。
「ウルザさん。
今日の夕食は何人ですか?」
「今日はグラッツのおじさんが来るから二百人だって」
「わかりました」
私が担当しているナスは、今が食べごろ。
この味に 慄(おのの) くがいい。
そんな生活を繰り返していたら、冬前になりました。
農作業ができないのは寂しいです。
そして、冬はどうしましょう。
学園は開いていますが、生徒の大半が実家に戻るのです。
学園で自由に活動できるのですが、残る生徒は少ないので目立ちます。
かといって、私の実家とされている貴族とは金銭の関係。
家に住まわせてほしいと言っても受け入れてくれないでしょう。
うーん、冒険者として暮らしましょうか。
駄目ですね。
目立ちます。
牧場を管理しているメネクさんに頼んで、冬の間だけ住み込みで手伝わせてもらうのはどうでしょう。
悪くありませんね。
牧場の手伝いは何度かやっていますし、メネクさんも常に人手不足と言っていました。
大丈夫でしょう。
明日、聞いてみましょう。
思い立ったら、すぐ行動。
この基本を忘れていました。
私がメネクさんに会う前に、ウルザさんに会いました。
会ってしまいました。
私はウルザさんの実家に行くことになりました。