軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

表の理由と裏の理由

暗い森の中、五人の冒険者は魔獣に囲まれていた。

「まずいぞ、どうするんだ?」

軽装の戦士が魔物を睨みながら聞く。

「どうするもこうするも、戦うしかないだろ」

大きい剣を持つリーダーがそう答えた瞬間、戦闘が始まった。

五人の冒険者を囲んでいる魔獣は、ゴーラーテル。

一メートルぐらいの大きさの魔獣で、外見はタヌキに似ている。

ただタヌキの愛らしさはない。

相手を食ってやろうという凶悪さが前面に出すぎている。

このゴーラーテル、単体での強さもやっかいながら、かならず群れているというやっかいさがある。

いまも、二十匹を超えるゴーラーテルが冒険者たちを取り囲んでいた。

冒険者はそれぞれの武器で牽制しながら三匹のゴーラーテルにダメージを与えることができたが、ダメージを受けた個体は後方に下がり、元気な個体が前線に出て冒険者たちを攻撃している。

このままでは冒険者たちは死を迎えるだろう。

囲まれている冒険者たちもそう予感したのか、軽装の戦士が怯えたように剣を振った。

ゴーラーテルはその軽装の戦士の攻撃を軽く避けたあと、彼に向かって集中的に攻撃を開始した。

弱い者から仕留めていく。

そういった意思を冒険者たちは感じた。

だが、どうしようもない。

冒険者のリーダーは、狙われた軽装の戦士を見捨てることを考えた。

あいつが 囮(おとり) になっているあいだに、逃げるのはどうだろう?

そんな風に考え、すぐに否定した。

見捨てて戦力が下がれば、さらにどうしようもなくなる。

ここは助ける。

冒険者のリーダーは仲間に力強く声をかけ、ゴーラーテルとの戦闘を続けた。

冒険者たちは全員、わかっている。

戦力差は絶望的。

ゴーラーテルに囲まれた時点で、希望がないことを。

そして、世の中が甘くないことを。

物語ではないのだ。

自分たちより優れた冒険者が 颯爽(さっそう) とあらわれて、助けてくれたりはしない。

窮地(きゅうち) は自分たちの力で切り抜けなければいけない。

できなければ死ぬだけだ。

冒険者が誰も知らないところで、死ぬのも珍しい話じゃない。

わかっている。

でも、諦めたりはしない。

彼らは冒険者だから。

奇跡を諦めたりはしなかった。

そして奇跡は起きた。

遠くから聞こえる地響き。

地震ではない。

このリズムは、足音。

かなりの巨体を持つ者の足音。

しかも、一つじゃない。

三つ。

それがこちらに向かってきている。

冒険者たちはチャンスと喜んだ。

戦闘中の乱入者は邪魔でしかないが、いまの状況なら大歓迎。

地響きにゴーラーテルたちも驚いているから、この場から逃げるかもしれない。

それに紛れて、冒険者たちも逃げようと考えた。

だが、ゴーラーテルは逃げなかった。

ゴーラーテルの半数が地響きのする方向に走った。

迎撃するつもりだ。

冒険者たちの思惑ははずれたが、ゴーラーテルの数が半分に減ったことは喜ぶべきだろう。

「全員で生き残るぞぉ!」

大きい剣を持つリーダーがそう 咆(ほ) え、戦闘を続行しようとした。

続行できなかったのは、そのリーダーの前に巨大な影が現れたから。

どこから?

上から。

跳躍してきたのだ。

この巨大な影が、あの地響きの主なのか?

いや主だろう。

リーダーはそう直感した。

そして、それは正しい。

影の正体はわからないが、三メートルを超える人型だった。

巨人族かと思ったが、巨人族は二十メートルも跳躍するほど身軽ではないだろう。

さらに言えば、着地の際に二回転の 捻(ひね) りを加え、ポーズを決めたりはしないだろう。

冒険者たちにとって問題なのは、その正体不明の影は冒険者たちを庇う姿勢ではなく、対峙する姿勢だということだ。

武器は持っていないようだが、両手を広げ、リーダーの行く手を 塞(ふさ) いでいるようにみえる。

つまり敵だ。

ゴーラーテルたちは、一斉に逃げ出した。

冒険者たちを囮にして、逃げるつもりなのだろう。

冒険者たちは、巨大な影がゴーラーテルを追わないかと期待したが無駄だった。

さらに二体の影が、最初に着地した影の左右に降りてくる。

終わった。

冒険者たちはそう思った。

この巨大な影は、明らかに冒険者たちを狙っている。

そして、地響きを立てるほど重い体なのに、冒険者たちよりも圧倒的に身軽で素早い。

ゴーラーテルたちを欠片も気にしなかったことから、その実力はゴーラーテルよりも上なのは感じ取れる。

ゴーラーテルに食い殺されるか、この巨大な影に潰されるかの違いだったか。

だが、奇跡は起きたのだ。

目の前の三つの巨大な影は、冒険者たちに向かってこう言った。

「いらっしゃいませ。

冷たいジュースはいかがですか?」

「こちら、温かい飲み物も取り扱っております」

「簡単な食事もありますよ」

完全自律型自動販売機ゴーレム。

会議で調子に乗った結果、出来上がった。

もちろん、計画だけ。

自動販売機ゴーレムの話をしていると、山エルフたちの仕事が次々に増えたので、山エルフたちには発明と試作をメインにして、量産は 五村(ごのむら) に任せるのはどうだろうと提案したら、山エルフたちが全力を出した。

それに乗って、ルーとティアがゴーレムの自律魔石回路を考え出した。

自律型ゴーレムは大昔から研究されていたけど、材料不足から実現不可能とされていた。

不足している材料は魔石。

森の兎の魔石なら、五十八個あれば可能らしい。

「バランス制御にあと三つはいるわね」

六十一個になった。

「ルーさん、全身統括用に七つ使っていますが、どうしてもタイムラグがでます。

ここはグラップラーベアかブラッディバイパーの魔石にしては?」

えっと、七個減って、グラップラーベアかブラッディバイパーの魔石が必要と。

クロとユキが魔石を使いすぎと抗議している。

まあ、計画だけだ。

実際に作るとなると、山エルフたちが半年ぐらい拘束されてしまう。

その他、技術的問題もあるらしい。

それらを解決するのに……半年から一年はかかりそうだ。

……

それぐらいなら、頑張ってみるか?

うーん。

夢はあるが、駄目だな。

またにしよう。

結局、自動販売機ゴーレムは俺が考える普通の自動販売機以下の性能になりそうだ。

会議に参加した者たちの意見を取り入れ、食券などの販売が考えられている。

ただ、山エルフたちが試作する最初の一台は、俺が考える普通の自動販売機の性能を期待する。

俺が自動販売機を考えたのは、魔石を手に入れて山エルフたちが工作を始めたことがきっかけだが、少し前に魔王国の王都に行ったことが大きい。

驚くぐらい多くの種族がいた。

大樹の村や五村、シャシャートの街で、ある程度は慣れていたが王都はすごかった。

多くの種族が混ざり合って生活していくには、大きな努力と工夫があるのだろう。

俺としては、それに口を出す気はない。

だが、少しだけ気になった点があった。

それは言葉だ。

基本、共通語で話すのだが、一部の種族や子供はその種族の言葉しか扱えなかった。

そして、そういった者の生活圏は限られる。

さらに買い物も苦労する。

騙されるトラブルも多いみたいだ。

それを聞いたときに、俺は自動販売機を考えたのだが……

なかなか、すぐにとはいかないなぁ。

ともかく、それが俺が表向き、自動販売機ゴーレムに 拘(こだわ) る理由。

裏向きには……

俺に遠慮する子供たち対策。

実はウルザ、アルフレート、ティゼルが王都の学園に行った現在、子供たちが俺に遠慮しまくっている。

考えてみれば、俺に何かをねだるのは、ウルザ、アルフレート、ティゼルだった。

三人が子供たちの代表として俺に要望を伝えていたのだが、不在になったいま、それに代わる者がいない。

ナートはあまり俺に遠慮しないのだが、それを父親ガットと母親ナーシィから注意されるそうだ。

気にしなくていいのに。

なんにせよ。

子供たちが何かを欲しいと思っても言えないのはよろしくない。

とくに飲み物や食べ物は自由にしてほしい。

その解消と思って、自動販売機ゴーレムに拘った。

まあ、逃げだな。

本来なら、自動販売機ゴーレムに拘らず、俺が子供たちにぶつかっていかなければいけない。

ちょっと反省。

そして、頑張ろう。

余談。

自動販売機ゴーレムで販売する商品に関して、 四村(よんのむら) こと太陽城で生産できる缶詰はどうだろうと提案された。

缶詰なら、飲み物も食べ物も販売が可能となる。

多少、取り扱いを乱暴にしても大丈夫だし、便利。

だが、問題が二つ。

一つは開封に缶切りが必要なことだ。

缶詰が四村でしか作られない現状、缶切りが流通しているわけもない。

缶切りは、大樹の村関係の場所にしかない。

ナイフで開けられる者もいるが、それなりのテクニックが必要となるし、内容物を傷付けやすい。

そしてもう一つの問題が、開けたあとの缶が危ないこと。

なので缶詰は却下された。