作品タイトル不明
王都での生活 ウルザ編 友達 25日目~26日目
「あれで大丈夫なのか?」
魔王のおじさんの質問に、ティゼルが答える。
「単純な魔法勝負ならアル兄に勝てないけど、ゴーレムの強度なら負けないから大丈夫よ」
実際には二十分ぐらいで脱出されるけど、そのころにはアルフレートは冷静になっている。
「それより、軍の人たちは大丈夫?」
「ああ、手加減されたみたいだからな」
ティゼルが心配しているのは先行してきた二千の騎兵たち。
私たちを狙う集団がいるとの情報を掴んだティゼルが派遣してくれたのだけど、クロイチを攻撃してしまった。
「北の森に見慣れない魔獣が出たって話があったから、それだと思ったんじゃないかな」
ティゼルが、計算外と少し反省している。
実際、クロイチの吠え声を聞く前に出発の指示が出ていて、クロイチの吠え声を聞いてストップをかけたかったけど手遅れ。
慌てて一万の兵を集めて追いかけてきたと。
クロイチ相手だったら、一万の兵を集めても意味なくない?
「ウル姉、ゴー兄たち、リグネさんがいて、アル兄がクロイチを呼ぶ事態ってのが想像できなかったの。
いざとなれば数は力だから」
そうだろうけど……
そう言えば、ゴー兄たちとは合流しなかったの?
王都に向かって移動したのだけど?
「アースと一緒に、別行動をお願いしたわ」
「なにかあったの?」
「地方の貴族が三つほど、他国の甘言に乗って反乱」
「それって大丈夫なの?
しかも一万の兵、こっちに連れてきて?」
「魔王のおじさんにすれば、貴族の反乱よりもアル兄やウル姉のほうが大事でしょ」
「そうなの?」
「そうなの。
反乱に関しては事前情報があったから大丈夫かな。
アースとゴー兄たちも行ったし」
「近いの?」
「遠いからビーゼルのおじさんが運んだわ」
「なるほど」
「情報だと、王都でも事件を起こす予定だったらしいのよ。
だから、西にある城にいるはずの正規軍を王都で待機させていたのに、こっちに移動させちゃった」
「それ、大丈夫なの?
この状況自体が囮って可能性は?」
「あはは。
王都で起こす予定の事件ってのが、リッチを使ったものらしいのよ」
「リッチ?
……ああ、少し前にアースが倒した」
「それ。
一応、別の騒動があるかもってグラッツのおじさんとアサが王都で見張ってる」
「なるほどと言いたいけど……私たち、魔王国の戦力として取り込まれてない?」
「私たちが魔王国に恩を売ってると言ってほしいかな。
ね、魔王のおじさん」
「そうだな」
魔王のおじさんは、救助されている二千の騎兵をみている。
二千の騎兵に死者はいないけど、怪我人は多数。
馬は……無事。
クロイチを褒めておこう。
あと、こういったときのためにティゼルは恩を売っているのかと納得。
「すまなかった。
まさか、これほどの数の襲撃者がいるとは思わなくてな」
魔王のおじさんが、改めて謝ってくれる。
襲撃者というか暗殺者に関しては、実は事前に魔王のおじさんから知らされていた。
複数の組織が私たちを狙っていると。
本来なら学園に引き篭もるのが正解なのだけど、少し前に現れた暗殺者は学園内に入り込んでいた。
待つのは不利。
それに、ほかの学生に被害がでるかもしれない。
それは避けたい。
だったら安全な村に帰る?
それも避けたい。
村に帰りたくないわけじゃなくて、すぐに戻るのが恥ずかしい。
それに、お父さんは温かく迎えてくれるだろうけど、お母さんたちはどうだろう?
自分の力が 及(およ) ばないときに、どうすればいいかも教わっている。
それが実践できなかったのかと暗殺者程度を処理できなくてと叱ってきそうだ。
ならばどうするか?
暗殺者を誘い出す。
ということで、北の森に向かったのだけど……まさか、あれほど釣れるとは私も思わなかった。
「襲撃者の大半が、ダルフォン商会の候補者……ギリングとマスクンドの関係者なのよ」
ティゼルが説明してくれる。
「ギリングとマスクンドって、ティゼルと揉めて捕まった二人?」
「そう。
その二人って、それぞれゴロウン商会ぐらいの規模の勢力を率いていたのよ」
へぇ。
ゴロウン商会の規模を知らないから、適当に頷いておく。
「だから、それなりの武装組織を持ってて、それらが暴走というか……」
「ギリングとマスクンドが捕まったことに納得できないと?」
「私たちだって、お父さんが捕まったら暴れるでしょ?」
お父さんが捕まったら?
「ウル姉、例え話だから殺気を出さないで。
怖い」
……ごめんなさい。
「えーっと、暴走したというかさせられたのよ。
リッチの代わりに」
「それが私たちを襲ったと」
「そう。
で、どうしよう?」
「どうしようって?」
「狙われたわけだから、反撃しないと」
「そうだけど、それをアルフレートが望むかどうかねぇ」
ゴーレムの中から出てきたアルフレートは、いつも通りのサイズになっていた。
あ、両手で顔を隠してしゃがみこんだ。
「消えたい……」
アルフレートは暴走中の記憶を全部覚えている。
つまり、痛い言動もすべて覚えている。
幸いというかアルフレートは、ああいった言動を恥ずかしいと思える感性を持っているので、暴走のあとはだいたいこうなる。
復活には十日ほどかかるだろう。
「アル兄、大丈夫よ。
若い吸血鬼はああいったことをするって、始祖さんも言ってたから。
あ、ほらザブトンが作ってくれた眼帯、する?」
ティゼル、追い討ちはやめてあげて。
アルフレート、眼帯は片目にするもので両方の目につけたらただの目隠しだから。
現実から目を 逸(そ) らさないように。
とりあえずアルフレート。
落ち込むのはあとにして、方針を決めてちょうだい。
「方針?」
「ええ、襲ってきた相手をどうするかよ」
「方針かぁ」
「なんでもいいわよ。
私たちはアルフレートの決定に従うから」
「ほんとうに?」
「私がアルフレートに嘘を 吐(つ) いたこと、あった?」
「ない」
「でしょ」
「それじゃあ……なかったことに」
「なかったこと?」
「うん。
今回の件、全部なかったことに。
あ、ウル姉のお腹にナイフを投げた人は別。
死刑で」
「あはははは。
あれは相手を褒めるところよ。
潜伏も投げるタイミングも完璧だったのだから。
びっくりね」
「こっちもびっくりした。
お腹は大丈夫なの?」
「もう治したわ。
だから、死刑はなしで」
「ウル姉がいいなら、それでいいけど……」
「では決定」
私はティゼルに、アルフレートの決めた方針通りになるように知恵を貸してもらう。
「魔王国や魔王のおじさんは、なかったことにしたほうが色々と都合はいいけど……都合は合わせないと困るかな」
「都合?」
「二千の騎兵の怪我。
……北の森に出た見慣れない魔獣のせいにするわ。
ウル姉はその魔獣を捕まえてきて」
「捕まえるもなにも、クロイチの前でお腹みせてるけど?」
「あ、ほんとうだ」
デッドリーウルフ。
魔王のおじさんが率いていた軍の将軍が教えてくれた。
この辺りにはいないはずの魔獣。
たぶん、リッチと同じく外部から持ち込まれたと思われるそうだ。
強さは……クロイチより弱いのは見てわかる。
あれでクロイチの代わりになるかな?
大丈夫と。
では、二千の騎兵は、デッドリーウルフの討伐で負傷したということで。
クロイチは最初っからいなかった扱い。
あとは襲撃して来た人たちの処分。
なかったことにするには全員を処刑するのが一番だけど……
アルフレートの決定で血を流すのはまだ早いと私は思う。
だから、私は決めた。
翌日。
とある場所に今回の襲撃者全員を集めた。
のっぽの商人風の男性や、私にナイフを投げた人もいる。
こんにちは。
あ、睨まれた。
北の森に向かう道中だけでなく、学園で襲ってきた人たちも集められている。
後方支援者も含め、百五十七人。
全員、両腕を後ろに縛られており、疲労した様子がみえる。
苛烈な尋問によって、情報を搾り取られたのだろう。
まあ、それぐらいは私たちを襲った罰として受けてもらおう。
私は百五十七人の前に立ち、見渡した。
そして、私は宣言する。
「このまま死ぬか、私の友達になるか選びなさい」
……
そんな変な顔をしなくても。
私の友達になれば、あの襲撃は演習ってことで処理するから無罪よ。
ちゃんと仕事も用意するし。
部下?
違う違う。
友達よ、友達。
「ウル姉?
私が友達できたって自慢したの、気にしてる?」
「してない」