作品タイトル不明
春の準備
少し 吹雪(ふぶ) いた日が続いたあと、冬の終わりを感じさせるほど暖かい日がやってきた。
だが、俺は油断はしない。
また吹雪くだろう。
これまでの経験では、そうだ。
……
まあ、吹雪かなくても怒らないように。
クロの子供たちの何頭かが外に出て、雪を 掻(か) き分けて走っている。
吹雪(ふぶき) を避けるために小屋か屋敷で篭っていたのがストレスだったのだろう。
ちなみに、走っているのは去年か今年生まれの子供たち。
でもって、屋敷の近くの雪がない場所にいるのが少し上の世代。
さらに上の世代は、小屋か屋敷の中から出てこない。
まだ冬が続くと知っているうえに、冬篭りにも慣れているからな。
クロ、ユキにいたっては俺の部屋のコタツを満喫中だ。
昔は、吹雪でも村の警戒のために外に出ていたのになぁ。
いまは、吹雪は避難するものとなっている。
理由は二つ。
一つは、吹雪でも問題なく襲ってくる魔物や魔獣だと、屋敷の中にいても問題なく察知できること。
もう一つは、フェンリルたちが吹雪をまったく気にせずに野外活動をしているから。
現在、フェンリルはクロの子供の一頭と結ばれた母親と、その母親から生まれた十五頭の子供たち。
今年生まれた三頭の子供たちはまだ小さくてかわいいが、それ以前に生まれた十二頭の子供たちは母親と同じぐらいかそれ以上の大きさになっている。
このフェンリルたちが、大樹の村だけでなく 一村(いちのむら) 、 二村(にのむら) 、 三村(さんのむら) の見張りをしているので、クロの子供たちは吹雪のときは遠慮なく小屋か屋敷に 篭(こも) るようになった。
逆に冬以外はクロたちが見張りを頑張るので、役割分担みたいなものだろう。
もちろん、冬以外にフェンリル一家が遊んでいるわけではないが。
ちなみにだが、フェンリル一家の大きな十二頭の子供たち。
クロの子供たちと同じようにパートナー探しに行くのかと思っていたのだけど、行かなかった。
母親と同じように、クロの子供たちをパートナーにしていた。
種族的にそれでいいのか?
どこかにいる他のフェンリルを探そうという考えはないのだろうか?
当人たちがそれでいいなら、特に気にしないが。
ん?
フェンリルの子供たちをパートナーに持つクロの子供たちが、俺を心配そうな顔でみていた。
いやいや、反対じゃないぞ。
サイズ差の壁は乗り越えられるのは、フェンリルの母親とクロの子供の父親で証明されたからな。
ただ、パートナーのフェンリルたちは外にいるのに、お前たちは外に行かないんだなぁって思っただけで。
うん、暖かいとはいえ、まだまだ積もっている雪は冷たいもんな。
わかるわかる。
いいんだ、無理はするな。
愛の形は、それぞれだ。
なんにせよ、春は近い。
アルフレートとウルザが王都の学園に通う日も近くなってしまった。
しかし、二人は学園に通うために色々と頑張っていたから、いまさら取り止めと言ったりはしない。
他に、アルフレートとウルザと一緒に学園に通うのはティゼルに決まった。
ナート、リリウス、リグル、ラテ、トライン、リザードマンの子供数人は、勉強も十分できていると候補にあがったのだが、大勢を送り込んでは新しい場所で学ぶ意味がないとマルビットから注意を受けたのでティゼルだけになった。
確かに顔見知りが大勢いたら、頼もしい反面、新しい出会いは少なくなる。
勉強する場所が変わるだけでは学園に通わせる意味はない。
俺は納得し、王都の学園に通うのは三人と決めた。
他の者たちには、 五村(ごのむら) か、シャシャートの街にある学園に通うのはどうだと打診したが、アルフレート、ウルザに同行できないなら今のまま、村で勉強するとの返事だった。
うーん。
村から離れて学園に通うことには寂しさもあるが、村にベッタリだと少し不安になる。
子供たちには一度、広い世界をみてほしい。
その上で、村で生活したいなら受け入れるというのが俺の考えだ。
今回は駄目でも、来年ぐらいに王都の学園に行かせたほうがいいかな?
母親たちと相談しよう。
四村(よんのむら) からトウと名乗る者がやってきた。
トウ=フォーグマ。
見た目、五十歳ぐらいの船長っぽい男性。
船長っぽいのは、それらしい服を着ているからだ。
なんでも、太陽城が健在であったころは、プロームと呼ばれる太陽城専属の飛行機の機長だったそうだ。
飛行機と言っても、俺が知ってる飛行機とは違って、帆のない船体のみの船みたいな感じだ。
俺のイメージだと、空を飛ぶ大きなクルーザーかな。
そういった飛行機なので、機長ではなく船長と呼ばれており、そう呼ばれる格好をトウは心掛けていたそうだ。
しかし、太陽城が財政難のおり、一番最初に売られたのがプロームと呼ばれる飛行機。
太陽城に往来するのに必要な飛行機を売ってどうするのだと思うが、当時は定期便などもあり、往来に問題はなかった。
そして、仕事がなくなり、燃料節約のためにトウは眠りについた。
現在も太陽城こと四村には飛行機はなく、買い戻す予定もないので、ベルたちもトウを目覚めさせても外にだすのは最後の最後と予定していたが、アサの学園移動に伴って空いた温泉地の転移門の管理人として外にだした。
ベルの説明では、温泉地の転移門の管理の仕事に納得しているとのことだったが……
大樹の村には、万能船があった。
空を飛ぶ船。
それに乗って、大樹の村にきてしまった。
すっごい顔をしていた。
トウはそのまま万能船に乗って四村に戻り、女性を 簀(す) 巻きにして連れてきた。
「こいつが転移門の管理をします。
なので、俺をあの船の船長に。
いや、船員でもかまいません!
お願いします!」
「ちょ、私。
太陽城の兵装管理担当なんだけど!」
「あそこはもう太陽城じゃない。
四村だ。
でもってお前が管理する兵装はない。
売り払われた。
つまり、お前の仕事もない。
なにか文句があるか?」
「あるもん!
最終兵器があるもん!
あれを管理するのは私の仕事だもん!」
……
最終兵器とか聞こえたけど、大丈夫なのだろうか?
「なにが最終兵器だ!
人力による投石だろうが!」
大丈夫そうだ。
「バ、バカにしないでよ!
あの高度から落とされる石の威力、その身体で体感してみる?」
「俺に命中させるのに、何個の石が必要になるのかな?」
「殺す」
女性は暴れるも手も足もでない。
簀巻きにされているから。
「ほどきなさいっ!」
とりあえず、俺は話を進めるためにトウと女性を引き離した。
そして、女性を縛っているロープをほどく。
女性の名前は、ヨル=フォーグマ。
ウェーブのかかった長い髪とメガネが特徴。
俺の第一印象は、どこか大手の会社の秘書。
黙ってれば、美人。
簀巻きから解放されたヨルは俺に一礼したあと、トウを追いかけようとしたがアサに止められた。
アサは、後任の人事に揉めていると聞いてやってきたのだろう。
アサ、トウ、ヨルの三人で話し合い。
違うな。
アサとヨルの話し合い。
トウは基本、アサの後ろで頷いているだけ。
ヨルの説得は、アサに任せたようだ。
「ヨル。
転移門の管理はむずかしくありませんが、重要な仕事です。
トウよりはヨルのほうが適任でしょう」
「そう言われても、私には太陽城での仕事があります」
「太陽城に兵装はありません。
貴女の仕事はないのです」
「さ、最終兵器を調整する仕事があるもん」
「投げるための石を選別することを、調整とはいいません。
いい加減、現実を見つめなさい」
「ち、ちがうもん!
兵装はあるもん!」
「ありません。
あと、その主張を続けると、私たちがまとめて疑われることを理解していますか?
危険な発言は控えてください」
「う、ううっ……」
「分別があって助かります。
では、転移門の管理、引き受けていただけますね?」
「……転移門の防衛兵装は?」
「そんなものはありません。
穏やかな環境です」
「な、なにかないの?
私は兵装担当!
兵装の管理をしてこその存在なのよ!」
「近くに川があります。
投げやすい石は集めやすいですよ」
あ、ヨルが泣きだした。
うーん。
しかし、俺にはどうしようもないなぁ。
兵装とか物騒なもの、この村にはないから。
俺はそう思ったのだが、そう思わなかったのがいる。
山エルフたちだ。
山エルフの一人がヨルの肩をたたき、あれをみろと示した。
投石機。
いつのまに組み立てたんだ?
雪掻きまでして。
しかも、その投石機の後ろに、綺麗に並べられた投石機用の弾。
右から、普通の石、普通の石、普通の石、普通の石、樽。
樽?
「樽は、弾着した箇所で煙がでます。
煙幕弾ですね」
いつの間にそんなものを作ったんだ?
煙幕は基本中の基本?
なにの基本か知らないが、危なくはないんだろうな?
爆発とか困るぞ。
俺が気になったのは樽だが、ヨルが気にしたのは普通の石だった。
「むっ……この石のチョイス。
なるほど」
ヨルと山エルフたちは、わかりあったようだ。
握手している。
そして、俺をみる。
……
わかった。
温泉地に投石機を置こう。
ただ、普段は分解して保管だぞ。
危ないからな。
でもって、分解していたら一人では組み立てられないだろうが、そのことは黙っておく。
アサの後任は、ヨルに決まった。
アサはヨルを連れ、仕事の引き継ぎのために温泉地に。
残るはトウ。
ニコニコしている。
うん、まあ万能船で働きたいなら構わないさ。
先に働いている悪魔族の船員たちと仲良くするように。
同じ四村の住人だから、大丈夫だろうけど。
三日後。
ヨルは一人で投石機を組み立てていた。
物理的に無理だが、この世界には魔法があった。
分解された投石機が、ひとりでに組みあがっていくのは素直にすごいと思う。
うん、でも投石機の追加をねだられても困る。
あと、トウは万能船の船長になっていた。
簒奪(さんだつ) ではなく、実力だそうだ。
確かに、船長として指揮している姿は、 貫録(かんろく) がある。
悪魔族の船員たちが納得しているなら、問題はない。
元船長は……あ、副長をするのね。
頑張ってくれ。
心配があるとすれば、トウとヨルの仲だが……問題はないみたいだ。
いまでは、万能船に投石機を搭載する相談をするぐらいになっている。
ははは。
駄目だからな。
余談。
「アサ。
転移門の使用者の種族欄に“牛”と書かれているけど、これはミノタウロス族のことですか?」
「いえ、普通の牛です。
冬場はよくこられています。
ほら」
「……牛ですね」
「牛です」
「でも、使用者の名前欄にはちゃんと名前があるけど」
「個体識別のため、私が名付けました。
ご安心を。
ちゃんとお教えしますので」
「う、牛の個体識別って必要かなぁ」