作品タイトル不明
続・キリサーナ
色々ありましたが、メンバーが揃ったので出発です。
落ち着きましょう。
これから会う相手はゴールさまのお父さま。
ゴールさまからは、お父さまはとても温厚なかただと聞いていますが……
身内には温厚でも、外には厳格という人もいます。
油断はしません。
私はエンデリに視線を送ります。
万が一の際はフォローを互いにする。
淑女協定の確認です。
大丈夫のようですね。
では、参りましょう!
五村(ごのむら) 。
魔王さまが建設され、王姫のユーリさまが管理員をされている小山を丸々一つ取り込んだ大きな街です。
まだできて数年だそうで、とても綺麗で活気に溢れています。
ですが、この五村は謎だらけ。
まず場所。
シャシャートの街まで一日の距離ですが、この辺りには強力な魔物や魔獣が多くいる場所でした。
他にも安全な場所は多くあるのに、どうしてこのような場所に新しい街を作ったのか謎です。
そして五村の代表。
ヨウコなる人物ということで間違いないのですが、なぜか地位は村長代行。
いや、そもそもどうしてこの規模の街を、村と呼んでいるのか……
一部では、魔王国以外に対しての規模を誤魔化すための工作だと噂されています。
だからこそ、ユーリさまは代官ではなく管理員という立場なのだと。
私としてはその意見には首を傾げます。
目立ちたくないなら、ユーリさまを管理員として置くのはまったくの逆の手だと思いますので。
なんにせよ、ここがゴールさまのお父さまと会う場所。
以前から決まっていた場所です。
問題はありません。
問題はいま、私の頭の中にあります。
私はひょっとして馬鹿なのでしょうか?
普通、息子の結婚相手との挨拶は、自宅に 招(まね) きます。
つまり、ゴールさまのお父さまは、この五村の村長?
あれ?
ゴールさまからは、大樹の村と聞いていますが……
んんん?
あ!
ひょっとして、ゴールさまのお父さまは、私たちに気を使ったのでしょうか?
私やエンデリは貴族、シールさまの奥さまにも貴族がいます。
挨拶するなら、少しでもいい場所でと。
なるほど。
ふふっ。
そんな気を使われなくても大丈夫ですのに。
どのような村でも、愛するゴールさまの育った村なら愛してみせます。
しかし、ゴールさまのお父さまの村は、五村に近い場所にあるのでしょうか?
村長ともなれば、そんなに長く村を離れるわけにはいかないでしょうから。
できれば、ゴールさまの育った村を見てみたいですね。
ともあれ、クローム伯の転移で移動した場所は、五村の正門らしき場所から少し離れたところ。
私たちはゴールさまのお父さまと会う予定の会場に移動します。
どうせなら会場に直接転移してくれたらと思うのですが、街や村には直接移動しないというマナーがあるそうです。
確かに、街の中に急に現れたら驚かせてしまいますね。
仕方がありません。
頑張って小山を登りましょう。
馬車が用意してありました。
ゴロウン商会で売り出し中の最新型です。
私のお父さまも、一台持っています。
それが二十台。
……
…………
一人一台かな?
借りたのでしょうけど、ゴールさまのお父さまはお金持ちなのでしょうか?
馬車は、“クロトユキ”と書かれた看板のお店の前に到着しました。
……
我が家の諜報員が絶賛していた甘味のお店っ!!
え?
ここが会場?
ですが、諜報員の報告では常に多くのお客が訪れており、結婚の挨拶をするような場所ではなかったはずです。
貸し切られてました。
……
確信しました。
ゴールさまのお父さまは、お金持ちです。
ええ、間違いありません。
“クロトユキ”の店内にはスタッフ以外に先客がいました。
ゴールさまのお父さまかなと思ったのですが、違いました。
ただの常連客だそうです。
貸し切られているのに入るのはどうなのでしょう。
それと、常連客のなかに先代四天王の二人がいるようにみえるのですが……
えーっと。
あ、この店の店長は、いまはなきエルフ帝国の皇女?
……
…………
………………………………………………
魔王さまが私たちに同行している時点で気付くべきでした。
私は周囲を見渡します。
私と同じように周囲を見渡していた者たちと目が合います。
エンデリ、シールさまの奥さま数人、ブロンさまの奥さまとです。
私たちは円陣を黙って組みました。
貴族とか平民とか関係ありません。
心は一つです。
だから、声も揃います。
「すごく嫌な予感がしますが、頑張って乗り切りましょう!」
そして、素敵な結婚生活を!
ゴールさまのお父さまは、普通でした。
ええ、ほんとうに。
村長ではなく、村人という感じでしたが。
ただ、よく見れば着ている服は超上質。
一流の職人に一流の素材を与え、村人の服を作らせたチグハグさはありますが。
そんなのは小さなことです。
ゴールさまのお父さまの周囲に立つ人たちは、それ以上に変でした。
服装のことではありません。
人物です。
吸血鬼のルールーシーに天使族のティア?
人間の国で暴れまわっていた要注意人物じゃないですか?
この二人がゴールさまのお父さまの妻?
ルールーシーとティアは各地で激闘を繰り返したライバル同士と聞いていますが?
わけがわかりません。
それに、どうして五村の村長代行であるヨウコが、ここにいるのですか?
ゴールさまのお父さまの知り合い?
それにしてはヨウコの態度が、まるで部下のよう。
ふ、深く考えない。
あ、獣人族のセナさんは普通。
横に武神ガルフさまがいますが。
考えないようにしたいのですが、どうしても見逃せない人物がいました。
私のお姉さまです。
二番目のお姉さま。
行方不明になったと聞いていたのに。
そして、二番目のお姉さまと同時に行方不明になったエンデリのお姉さまもいます。
私とは少し年が離れていますが、二人のことをよく知っています。
今の私よりも若いころから、権力欲の強いお姉さまたちでした。
通っている貴族学園だけでなく、王城や軍部にまで手を伸ばして権力を集めていました。
交渉、説得、買収、時に脅迫、暴力。
家に戻ってきたときには、お姉さまからその成果を聞かされましたから、何をやってきたかは見てきたように知っています。
当時の幼い私の感想を一言にまとめると、やり過ぎ。
お姉さまが帰ったあと、お父さまとお母さまが育て方を間違えたと家族会議をしていたのが印象に残っています。
家族会議のあとはお姉さまたちのことを話題にするのが禁止されるまでがセットです。
そのお姉さまたち。
手を出してはいけない相手に手を出して抹殺されたとの噂もありましたが、生きていたのですね……
よかった。
涙が出ないのは驚きすぎたからです。
けっして、お姉さまが生きていたことを残念がってはいませんから。
この身体の震え?
お姉さまとの再会に感動し、震えているのです。
ええ、嘘ではありませんよ。
お姉さまとの思い出話?
うっ、頭が……
闇に 葬(ほうむ) った過去が……
いろいろありましたが、挨拶は終わりました。
よかった。
ほんとうによかった。
もう一度、円陣を組みました。
さきほどの円陣より数人増えています。
いいんです。
遠慮なく円陣に加わってください。
心は一つです。
この挨拶で、私たちの結束は強くなったと思います。
ゴールさまのお父さまが、食事を用意していると言ってくれました。
とても嬉しいお話です。
私は今日の挨拶の緊張で、ここ数日の食事の量が少なくなっていましたから。
いまは安心してお腹が 空(す) いています。
空いていなくても、夫のお父さまからのお誘いです。
お断りはできません。
ですが、クロトユキは甘味のお店。
食事には不向きではと思ったのですが、別のお店に移動するそうです。
なるほど。
目的地は“酒肉ニーズ”。
これも我が家の諜報員が絶賛していた、お肉とお酒のお店です。
特にお酒が美味しいそうで、一度は行きたいと思っていました。
楽しみです。
そして、誘導されて外に出ようとしたら、クロトユキの店内にいた常連客たちがストップをかけました。
なにごとかと思ったのですが、外に出る順番があるそうです。
順番は、ゴールさま、エンデリと私、シールさま、シールさまの奥さまたち、ブロンさま、ブロンさまの奥さまの順。
ゴールさまのお父さまや奥さま、生みのご両親、魔王さまやクローム伯はさらに最後?
いったい、なにをと思ったのですが……
外ではパレードの準備がされていました。
そして、私たちの前には屋根のないオープンな馬車が十台。
これに乗って、五村の各所を回るそうです。
私の実家はそれなりの領地を持つ貴族です。
ですので、住民の前に出ることに抵抗はありません。
挨拶をした経験も何度もあります。
ですがこの人数は……
並んでいる住人の列でコースがわかりますね。
あはははは。
あ、このパレードを仕切っているのはユーリさまですか。
そうですか。
……
円陣、円陣を組みましょう。
ええ、心は一つです。
この試練、乗り切りましょう。
余談。
ゴールさまのお父さまは、大樹の村の村長で間違いありませんでした。
ですが、この五村の村長も兼ねているそうです。
……
わけがわかりません。
村長って兼任できるものでしたっけ?
え?
他にも村長をやってる村がある?
あの、もしかしてなのですが……ゴールさまのお父さまは村長ではなく領主という立場なのでは?
なぜ村長という名に 拘(こだわ) るのか、理解できません。
余談2。
魔王さま、魔王さま。
ゴールさまのお父さまに爵位をお与えになったりはしないのですか?
「爵位って……真魔王とか、超魔王とか?」
魔王さまは、なにを言ってるのでしょうか?