作品タイトル不明
クエンタン
始祖さんとフーシュは、 怨念炉(おんねんろ) がある前提で落下現場を再調査するらしく、帰っていった。
大変だな。
死霊魔導師の主張では、島の動力に怨念炉を使っていたわけではないので、島が落下した原因とは考え難いそうだが……
まあ、それも調査結果待ちだな。
死霊魔導師も始祖さんに同行しようかと言ったが、島が落下した付近では死霊魔導師が指名手配中なのでフーシュに止められた。
混乱は避けたいらしい。
とりあえず、死霊魔導師は温泉地にて通常活動。
それはかまわないが、何か忘れているような……とジェスチャーしているのが少し気になる。
まあ、何か思い出したら、教えてもらおう。
村に戻って、俺はまったりモード。
今日の夕食は、ウルザが作った野菜のスープがメイン。
うん、おいしいぞ。
ウルザが野菜のスープを作ったのは、武器の携帯禁止を解くため。
俺としては秋の収穫後ぐらいに解除するつもりだったが、明言していないので現行は無期限禁止と同じ扱い。
それはかわいそうだと、ハクレンに訴えられて禁止を解くための条件を出した。
条件は一つ。
何か料理を覚えること。
料理を一つでも覚えれば、将来の助けとなるだろうと思って。
ただ、料理の審査はする。
俺、ハクレン、アンの三人が満足すればOK。
俺とハクレンは、ウルザが作っただけで多少の 焦(こ) げがあっても合格となるが、アンは厳しい。
実質、アンが納得する料理を作れたらという条件になってしまった気がする。
お陰で、ウルザはずっと料理の勉強をしている。
ちょっと嬉しい。
目的は女の子っぽくないけど。
ところで、使っていない土鍋に入って仰向けになっている猫のライギエルはどうしたんだ?
なにやら反省しているらしいが、なにをやったんだ?
かわいいぞ。
しかし、アンが睨んでる。
あ、水を用意し始めた!
逃げろ!
煮(に) られるぞ!
夜。
風呂前の時間に俺は鍛冶場に向かう。
ガットと一緒に一本の剣を作っているからだ。
といっても、俺が担当しているのは 柄(つか) の部分。
木を削って作った。
すでに完成している。
ガットに渡して、あとはお任せだ。
ウルザの剣。
ウルザの手の大きさをこっそり調べるの、大変だった。
いや、調べるのはそれほど大変ではなかったか。
捏(こ) ねているパン生地についた手形から、割り出した。
大変だったのは、パン生地を調べる様子をアンや鬼人族メイドに見つかり、変な目で見られたことだ。
変なことをしているわけではない。
そして、新しい料理を考えているわけでもない。
ガットの鍛冶場には、ガットと弟子二人以外に、二十人ほどの獣人族が作業に従事している。
ハウリン村からやってきた者たちだ。
全員、鍛冶師。
大樹の村の鍛冶場を嬉々として使っている。
人数が多いので、交代で二十四時間稼働。
なので、完成まで数ヶ月必要と思われた死霊騎士用の鎧は、すでに完成していたりする。
現在、一部の注文品以外は自由な創作活動。
様々な形の剣や、斧、 鎚(メイス) などが次々に作られている。
この創作活動の燃料代、材料費は大樹の村持ち。
あと、食費と滞在費も。
代わりに創作活動の完成品を村に納めるそうだ。
村は構わないけど、やってきた獣人族の手元に何も残らないけど、それで問題ないのかな?
まったく問題なかった。
好きな物を自由に作れるだけで満足なのだそうだ。
実際、鍛冶師が自由な創作をする余裕などなく、常に注文された物を作らないと生活できない。
生活のために、同じ物を延々と作ることもよくあることだそうだ。
例えば、スプリング。
ここ数年、ずっとスプリングを作っていたと……
すまん。
その注文したの、大樹の村だ。
あ、いや、注文を止めたりしないから。
安心してくれ。
スプリングを使ったサスペンションを搭載した山エルフの改造馬車は、月に何台も売れている状態だ。
しばらくは注文が続く。
サスペンション以外にもスプリングの使い道はあるからな。
ははは。
獣人族の鍛冶師がここで自由に鍛冶をやっているのは、勉強と気分転換のため。
それはかまわないが、ガットの指示には従うように。
十日後。
始祖さんとフーシュが戻ってきた。
重大な事実が判明したそうだ。
「あの島には死霊魔導師以外にもう一人。
生活していた者がいたはず」
……
死霊魔導師に質問した。
すっごく思い出した顔をした。
うん、いたんだな。
死霊魔導師と一緒に生活していた者の名はクエンタン。
彼は人間や死霊、それに類するものではない。
一本の剣だ。
インテリジェンス・ソードと呼ばれる魔法の剣で、自我を持った剣だそうだ。
死霊魔導師はそのクエンタンに怨念炉の管理を任せていた。
任せていたと言っても、剣が使用人のように動けるわけもなく。
怨念炉に直結してコントロールさせていたそうだ。
そして、放置。
……
そうか、放置しちゃったか。
いや、死霊魔導師に悪気がないのはわかるが、俺に謝られても。
そのクエンタンに謝ってやってくれ。
うん、ここにあるから。
俺の手にあるのは一本の剣。
インテリジェンス・ソードのクエンタン。
始祖さんに同行したフーシュが持ってきた。
なんでも触れた者の意識を乗っ取るそうで、厳重に保管して持って来てくれたのだが……
不注意にも俺は触ってしまった。
しかし、俺は意識を乗っ取られなかった。
始祖さんやフーシュが驚いていたが、一番驚いていたのはクエンタン。
俺の意識を乗っ取ろうと、色々やってきた。
だが駄目だったらしく、クエンタンは諦めた。
俺としては催眠術に一人だけ掛からなかったみたいで、ちょっと寂しい。
その後のクエンタンはうるさいのなんのって。
とりあえず、一番いい場所に飾れというから、屋敷の壁に飾ってやろうと思ったら、クエンタンは活動停止。
どうしたんだと聞くとクエンタンは小さな声で、こう言った。
「ばか、喋りかけるな。
俺はただの剣だ」
なにを言っているんだと思ったら、クエンタンは壁に飾ってあった剣を意識していた。
グーロンデの尻尾が変化した剣。
ああ、その場所がいいのかとグーロンデの尻尾が変化した剣を取ったら、クエンタンが折れた。
物理的にも精神的にも。
「勘弁してください。
剣の格が違い過ぎます」
その後、許可なく人の意識を乗っ取らない約束をさせ、ガットたちに修理を依頼。
先ほど、受け取ったところだ。
そのクエンタンを、死霊魔導師は手にする。
「死霊魔導師さま、お久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです。
あれ?
なんだか、以前より刃に力があるような……」
「あ、俺の変化、わかります?
竜の鱗の粉を使ってもらって、ちょっとパワーアップしているんですよ。
いやー、何か試し切りしたいなー」
「じゃあ、死霊騎士さんに頼んでみます?
私よりも剣の腕が立ちますよ」
「え?
ほんとうですか?
やったー!」
死霊魔導師とクエンタンの会話なのだろうが、俺にはクエンタンが一人で喋っているように聞こえる。
死霊魔導師、魔法以外は発声できないからな。
クエンタンが代わりに声を出しているのだろう。
あ、これは便利だ。
喋れない死霊騎士とかの声も聞けるのかもしれない。
後でやってもらおう。
とりあえず、死霊魔導師はクエンタンに謝罪するように。
クエンタンは……あ、死霊魔導師の傍にいたいのね。