作品タイトル不明
スアルロウがいる夏の日
俺は畑を耕す。
無心に。
ふふ。
これが一番、落ち着く。
おっと、クロ。
クワを持っているときに近付くのは駄目だぞ。
ザブトンの子供たちも。
ははは。
わかったわかった、休憩だな。
確かに太陽の位置がかなり変わっている。
長く続けていたようだ。
休憩。
少し離れたところで、アルフレートたちが遊んでいるので様子をみる。
アルフレートたちが 五村(ごのむら) のイベント施設でやったのは、施設から出される謎を解いての脱出ゲーム。
施設内に子供用に用意した謎がちりばめられ、脱出ルートは複数。
参加者は数人のグループで参加。
企画サイドは一時間ぐらいで脱出するだろうと予想していたのだけど、アルフレートたちはあっという間に脱出してしまったそうだ。
なので、そのまま大人用の謎が出される大人の回にも参加。
冒険者たちがダンジョンで遭遇した謎などを採用しており、頭脳だけでなく力が必要だったり、謎が理不尽なものも多かったらしい。
アルフレートたちは五つのグループに別れての参加だったが、脱出できたのは一つのグループだけだったそうだ。
そして、それが大人の回で脱出できた唯一のグループ。
凄いぞ。
そして、いまは……脱出できなかった者たちを鍛えているのか、 錠前(じょうまえ) を 弄(いじ) っている。
?
子供たちは錠前をみたことがなかったのか?
確かに、この村では錠前はほとんど使われていない。
村でメインに使われているのは、扉に 錠(じょう) が内蔵されたタイプ。
しかし、皆無なわけではない。
錠前があるのは酒の保管場所、屋敷の地下の倉庫、フローラの研究室……子供たちが近付かない場所か。
でも、錠前はハウリン村でも作っているし、ゴロウン商会から購入もしている。
これまで見る機会はいくらでも……
子供たちが弄っている錠前は、俺の知っている錠前と少し違った。
おおっ。
この錠前、普通に鍵を 挿(さ) して回しても開かないのか?
鍵穴が五つあって、決まった手順で鍵を挿さないと開かないとは。
こっちは、鍵穴がないぞ?
隠されている?
どこにあるか全然、わからない。
おっ、ここが動くな。
ふふふ。
あれ?
動かしても鍵穴がない?
そういえば、鍵もない。
……
スイッチか。
でもって、こうやって……こう。
開かない。
ウルザが任せろと言うのでパス。
ウルザが手早く錠前を三回ひっくり返したら、錠前は開いていた。
ど、どうなっているんだ?
分解して調べたい。
しかし、子供たちの物を取り上げるのは駄目だよな。
あ、この錠前は五村で鬼人族メイドに買ってもらったのね。
なるほどなるほど。
俺が視線を横にやると、控えていた山エルフたち。
その目は、私たちも気になっていましたと訴えている。
わかっている。
「代金は俺が出す。
五村で購入してくるように」
買う店は、鬼人族メイドに聞くように。
いきなり分解するなよ。
畑仕事を再開。
無心に……
少し離れた森で、始祖さんとスアルロウが殴りあっていた。
「腐れ吸血鬼がぁっ!」
「やーい、神人族ぅ」
……
無心。
気にしない気にしない。
周囲にルーやティアがいるから大丈夫のはず。
日が暮れそうになったので、作業を中断。
殴り合っていた始祖さんとスアルロウは、仲良くなっていた。
「ヒラクさまは神です」
「村長は神の使い。
これは譲れません」
……
ルーやティアたちの姿はないから、安全なのだろう。
話し合っている内容は聞かなかったことにする。
夕食時。
太陽城こと、 四村(よんのむら) からゴウが来ていた。
何かあったのかと思ったけど、ゴウの目的はスアルロウだった。
「スアルロウさま。
お久しぶりです」
「ええ。
六百年ぶりですね」
スアルロウは太陽城を知っていた。
一時的に生活していたこともあるらしい。
「それで、今日はどうしました?
わざわざ私の顔を見に?」
「はい。
現在、太陽城は四村と名を変え、こちらにおられるヒラク村長によって統治されております。
そのことをお伝えしておこうかと思いまして」
「安心してください。
その話はマルビットやルィンシァから聞いています。
いまさら太陽城を望んだりはしません。
ヒラクさまの……失礼、村長の統治下であるならなおのこと。
私は村長に従う者です」
「その言葉を聞けて、安心しました」
「うむ。
ところで燃料は大丈夫ですか?
私がいたころから、燃料が厳しいと言っていたと思いますが?
太陽城を求めたりはしませんが、村長の統治下であるなら落ちることは許しません」
「ご安心を。
村長より万年飛び続けるだけの燃料をいただきました」
「さすがは村長」
「はい。
さすがは村長です」
あー、お前たち。
俺と一緒に食事をしているのだから、もう少しなんとかならないかな。
夜。
風呂に入るまで、山エルフたちと一緒に錠前を弄る。
色々と勉強になる。
とりあえず、俺は木製でコピー錠前を作っていく。
これは昼間、ウルザがひっくり返して開いた錠前。
あ、中に移動する鉄球があるのか。
なるほどなるほど。
しかし、これを扉に付けたら、ひっくり返せないんじゃないか?
表裏だけじゃなく、左右にも動かす必要ありそうだし。
錠前を買った店から注意された?
これは扉にはつけないようにと。
……
ははは。
まあ、技術に溺れてはいけないという見本だな。
おもしろい。
この錠前の仕掛けは、錠前ではなく宝箱に使うのはどうだろう。
鍵穴のない宝箱。
完成したら、五村のイベント施設で使ってもらおう。
俺が作業をしているとき。
スアルロウは客間の応接スペースで、猫を膝に抱え、酒スライムと酒を飲んでいた。
「なるほど。
マルビットやルィンシァが長く里を 空(あ) ける理由がわかりました」
「そう言うお母さまは、いつお帰りに?」
スアルリウの質問に、スアルロウは少し考えた。
「村長より何かしらの 命(めい) をいただけるまでは、お 側(そば) でお仕えしたいですね」
その言葉をスアルリウは、即座に俺に伝えてきた。
そんなに早く、スアルロウを帰らせたいのだろうか?
まあ、いいけど。
不用意な命令を出すと、 大事(おおごと) になりそうだからよく考えよう。