作品タイトル不明
甘味とお茶の店
二村(にのむら) の 養蚕(ようさん) 業でトラブルが発生した。
蚕(かいこ) たちのエサになるであろうと思われた木の葉を、蚕たちは食べなかったのだ。
食べるのは俺が育てた蚕のエサ用の木の葉だけ。
しかし、まだ若い木なので葉を取り過ぎると木が弱ってしまう。
蚕を受け取ったときに、ゴロウン商会からエサとなる木の葉をいくらかもらっているので今すぐ全滅するというわけではないが、急いで蚕のエサとなる木の葉を用意しなければいけない。
俺は急いで 五村(ごのむら) に行き、ゴロウン商会の五村支店で蚕のエサとなる木の葉を注文をした。
俺が行く必要はなかったのだが、五村で出す店の確認があったのでそのついでだ。
いや、蚕のエサが本命で、五村に出す店の確認がついでかな。
蚕のエサとなる木の葉の注文は無事に済んだ。
入手までが二日ほど掛かるらしいが、もともと常備しているとは思っていないので仕方がない。
逆に二日で手に入るのかと驚いた。
詳しく聞けば、蚕のエサとなる木は五村の周囲の森にいくらでも自生しているそうだ。
そうなのか。
それなら注文せず、自分で採りにいけばよかったかな?
いや、今後のことを考えれば頼むのが正解か。
俺が育てた木がもう少し育つまでは、安定して入手したいしな。
しかし、どうして二村の周囲の木の葉は食べなかったのだろうか?
桑(くわ) の木の葉じゃなかったから?
いや、ゴロウン商会が用意してくれた木の葉は複数の種類があったから、そんなことはないのだろう。
二村のゴードンも、以前の村の蚕には色々な種類の木の葉を与えていたと言っていた。
一匹、二匹が食べないなら個体の好みかもしれないが……
二村の周囲の木の葉が毒ってことはないよな?
木の種類の問題だろうか?
うーむ。
一応、俺も蚕が食べそうな木の葉を村で探したが、桜や梅の葉は駄目だったし、果樹系の木も駄目だった。
蚕はなかなか美食家のようだ。
一つは見つけたのだが、それを見たルーやティアが凄い顔をしていたので 止(や) めた。
愛する妻たちには心穏やかに過ごしてほしいからな。
ははは。
ちなみに、世界樹の葉だ。
蚕たちの食いつきがよかっただけに、残念だ。
蚕のエサはゴロウン商会に任せ、俺は五村で出す予定の店に向かう。
店舗の準備はほとんど完了していた。
いつでもオープンできそうだ。
だが、オープンはもう少し先。
まずはスタッフの教育をしなければいけない。
この五村の店の責任者は巫女のニーズ。
春のパレードに来た時に、ニーズが働き口に困っていたようなので相談に乗った結果だ。
相談中にヨウコが乱入してきてニーズの取り合いになったが、ニーズ本人が店を選んでくれたので通った。
ヨウコに文句を言われたが、五村に店を出す話はヨウコからの要望だったので素直に譲ってほしいと思わなくもない。
ニーズ以外のスタッフは、十五人。
そのうち、五人はシャシャートの街からやってきたマルーラの従業員。
調理、接客、会計と何でもできる優秀なメンバーだ。
この五人をメインに店をやっていく。
残り十人は、五村で雇っている。
「店長の指示通りの者を雇いましたが、本当にこれでいいのですか?」
マルーラの従業員の一人が質問してくる。
この店もマルーラと同じで俺が店長。
なので、ニーズの肩書きは店長代理になる。
まあ、俺の本業は村長なのでニーズが店長みたいなものだ。
質問してきた彼の少し後ろには、雇われた十人が揃っている。
全員、女性。
既婚者。
そして見た目の年齢は四十代から六十代。
ドワーフの奥さんは年齢不詳だけど。
店の近くに住んでいる主婦を狙って雇うように俺が指示したからだ。
「店長の指示なので雇いましたが、もっと若い女性を集めたほうがお客が来るのではないですか?」
ははは。
気持ちはわかるが、それだと若い男性の客しか来ない店になるぞ。
「そうでしょうか?」
そうだ。
それに、俺としては地域に根付いた店にしたい。
そのための第一歩が、店の近くに住んでいる主婦を雇うこと。
新店舗では、近所の主婦のコミュニティを味方にするのは大事なんだぞ。
「そんなものでしょうか?」
そんなものだ。
まあ、若い娘を雇うことを否定はしない。
次からは自由に雇って構わないさ。
ただ、そのときは今いるスタッフの意見を聞くことを忘れないように。
もちろん、君の意見も大事だ。
頼りにしているぞ。
ところで、話は変わるが……雇用の責任者はニーズじゃなかったのか?
ニーズはどこにいるんだ?
「店長代理は、西側の店に行っています」
西側の店。
俺の出す店の第二店舗のことだ。
俺としては一軒だけのつもりだったのだが、この店に酒を置かない方針が漏れたことによって二軒目を求められた。
特に五村のドワーフたちから。
ニーズからも、そちらの店舗も受け持つと言ってくれたので、二軒目を開くことになった。
ただ、スタッフが足りないから開店はまだ先だ。
なのにニーズが西側の店に行っているということは、何かあったのだろうか?
様子を見に行くべきかな?
いや、まずはこの店だ。
ニーズはいないが、いるメンバーでやれることをやろう。
スタッフの半数が客になっての接客練習、調理練習だ。
スタッフには店で出す料理の味を知ってもらいたいしな。
ああ、今もちゃんと給料は払う。
当然だ。
プレオープンは十日後。
五日ほど営業して、一度閉める。
その後、問題点を潰してから営業を再開する予定だ。
マルーラのときは距離があって関われなかったが、五村なので大樹の村から無理なく通える。
頑張りたい。
「店長。
すみません、確認忘れがありました。
確認をお願いします」
確認忘れ?
「はい、お店のテントです」
ああ、入る時に見たけど問題はなかった。
だが、一応は外に出て確認する。
店の玄関の上にはテントが張られており、そこには大きく“甘味とお茶の店”と書かれている。
うん、注文通りだ。
まず、何のお店かわからないとお客は入ってくれないからな。
そして、その甘味とお茶のお店の文字の下に、遠慮気味に書かれているのがお店の名前“クロトユキ”。
そのまま、クロとユキから名前をもらった店だ。
甘味のお店なので“カフェ・妖精女王”とか“シュガー”とかでもよかったと思うが、思いついてしまったのだから仕方がない。
“クロトユキ”
名前をもらったからには、成功させたい。