作品タイトル不明
うどんと荷馬車
大樹の村では、うどんが流行していた。
きっかけはルーたちが、うどん打ちを始めたこと。
甘味禁止の影響だろう。
なかなか腰の強いうどんを打つ。
そして、うどんの流行に拍車をかけたのが油揚げの登場。
鬼人族メイドが、硬く作った豆腐を薄切りにして二度揚げするという方法で、油揚げを作りだした。
その油揚げを俺が甘く煮て、きつねうどん用の揚げにしたら、子供たちがかなり気に入った。
大人たちにも評判がいい。
特にヨウコが気に入っている。
「我のきつねうどんにはお揚げを三枚、頼む」
別に構わないが、うどんを残さないようにな。
甘味禁止の影響は、他にもあった。
甘くないお菓子の開発に力が注がれたのだ。
そしてできたのが 煎餅(せんべい) と、おかきの新味。
お酒を使ったケーキなども研究されたが、普通に甘くて美味しいケーキになってしまったとうなだれていた。
別に味見の時に舐めるぐらいはかまわないが……
とりあえずだ。
甘味禁止って甘いのが駄目ってことじゃなくて、間食禁止ってことだからな。
煎餅もおかきも駄目だぞ。
本当はデザートも禁止のつもりだったが、子供たちが食べ難いとのことで許可している。
……
本気で泣かれたので、煎餅とおかきは許可した。
甘いなぁ、俺。
天気の良い日、ハイエルフたち数人と森に入って獲物を探す。
マイケルさんにデッカイ熊をプレゼントするためだ。
ヒイチロウが狩ったキングベアを欲しがっていたけど、遠慮してもらったからな。
代わりのデッカイ熊をと思って、グラップラーベアを探している。
冬前にグラップラーベアを何頭か仕留めていたから、倉庫にいけばあるかと思ったけど、すでに毛皮を 剥(は) がれ、身も 捌(さば) かれてしまっていた。
さすがにそんなグラップラーベアでは、マイケルさんも喜ばないだろう。
グラップラーベアの肉、それほど美味しくないしな。
しかし、やはり冬にグラップラーベアは見つからない。
冬眠しているのだろう。
マイケルさんには春まで待ってもらうしかないか。
そう思っていると、キアービットがグラップラーベアを見つけたと俺を呼びに来た。
助かる。
マイケルさんにプレゼントするため、【万能農具】のクワではなく、カマで首を半分切って倒した。
グラップラーベアを【万能農具】で引き摺りながら、大樹の村に戻る。
アルフレート、ティゼル、ウルザが尊敬の眼差しで俺を見ている。
ははは。
グラップラーベアは大きいからな。
大樹の村まで到着したら、今度は荷馬車に載せて 五村(ごのむら) に……
荷馬車一台だと載らなかったので、縦に二台並べて運ぶ。
……
無理。
荷馬車が壊れそう。
俺が五村まで運んでもいいが、五村に到着したあとが困るだろう。
なので、山エルフたちと専用の荷馬車を作った。
大きさを優先。
同時に軽量化も考える。
余計な部分は排除するか。
荷馬車の 縁(ふち) を外す。
ロープで縛ればいいしな。
タイヤは小さいのをたくさん並べよう。
なに?
タイヤがたくさんあると、曲がらなくなる。
確かに。
じゃあ、タイヤを一個ずつ、独立可動させよう。
事務椅子などにつけられているキャスターだ。
これまで、ワゴンとか付けていたやつで……理解してもらえたようだ。
数を作るので、俺が全部木製で作る。
耐久性はあまり考えない。
五村までの輸送と、五村からシャシャートの街までの輸送のあいだ、壊れなければいいんだ。
タイヤをキャスターにしたので、形が取っ手のない台車。
平台車の形になっていった。
タイヤは、全部で十六個もあるけど。
完成。
まずは移動実験。
軽い荷物を載せ、移動させてみる。
スムーズな移動とは言い難い。
そして、地面の柔らかさでキャスターが土を噛み、止まってしまう。
十六個あるタイヤのうち、一つ二つが壊れてもと思ったけど、土を噛んで止まったキャスターは大きな抵抗になった。
……
つまり、失敗。
舗装された道路……いや、室内専用だな。
屋敷のホールに置いておこう。
鬼人族メイドたちが、上手く使ってくれることを期待して。
改めて、荷馬車を作る。
キャスターが土を噛んだのは、タイヤが小さいから。
悪路ではタイヤは大きいほうがいい。
学んだ。
なので、大きなタイヤ四つで荷台を支える形に。
……
普通の荷馬車だな。
そうか、難しく考え過ぎていた。
二台の荷馬車で運べないなら三台。
三台で無理なら四台だ。
縁(へり) のない荷馬車を量産していく。
工夫は連結のしやすさ。
うん、いい感じだ。
移動実験も問題なし。
やった。
【万能農具】で引き摺ってグラップラーベアを載せ、輸送開始。
荷馬車はケンタウロス族十二人が引っ張り、巨人族とミノタウロス族が左右と後ろから押さえながら移動する。
「いくぞ!」
ケンタウロス族の一人が声を掛けた。
「おおっ!」
他のケンタウロス族たちが声を合わせる。
「えいさーっ!」
「おいさー!」
普通の荷馬車のようには移動しない。
掛け声に合わせて、ゆっくりと少しずつ移動する。
すまないが頑張ってくれ。
俺は荷馬車の後ろを、邪魔にならないように一緒に移動する。
手には迷宮ポルチーニの入ったカゴ。
マイケルさんにも味わってもらおうと持っていく。
ダンジョンまでもう少し。
ん?
あれは……万能船。
ドックから手を振って、存在をアピールしている。
……!!!
万能船で運べば楽だった。
転移門で五村に運ばなければという思考に捕らわれていた。
反省。
いまからでもと思うが、活躍の場とケンタウロス族たちが頑張っている様子をみると……言い出せない。
すまない、万能船。
お前には別の機会で頑張ってもらうから。
そして、本当にすまない。
協力してくれた山エルフ、ケンタウロス族、ミノタウロス族、巨人族のみんな。
輸送が終わったら、盛大な宴会をするから。
それで許してほしい。
マイケルさんはシャシャートの街に戻っていたので、ケンタウロス族たちはシャシャートの街まで輸送することに。
五村のゴロウン商会に渡してもいいのだけど、輸送のことを考えると運んであげるのが親切だろう。
当初の予定でもそうだったから問題なし。
そう思ったけど、すぐに問題発生。
グランマリアが産気付いたとの知らせを受けたからだ。
すまないが、俺はここで離脱。
すぐに大樹の村に戻った。
俺の代わりはガルフ。
ガルフなら、シャシャートの街でマイケルさんに問題なく会えるだろう。
頼んだ。
マイケルさんたちによろしく伝えておいてくれ。