軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昼の酒を飲む 別面

私は鬼人族メイドのアズキ。

村長に従う者です。

本日の私は村長当番。

頑張って村長の傍に控えます。

村長は寒いなか、屋敷の外に出られました。

厚着はしているようですが、万が一を考えて羽織れる物を持っていきましょう。

ん?

村長が空を気にしています。

ああ、 鷲(わし) が飛んでいますね。

その鷲の背中に、フェニックスの雛のアイギスが乗っているのですか。

アイギス、鷲に甘えているのかもしれませんが、それに慣れてはいけませんよ。

飛べない鳥になってしまいます。

おっといけない。

村長はどこに……ため池ですか。

私と同じように村長を見守っているハイエルフの一人に、指で教えてもらいました。

寒い中、ご苦労様です。

村長はポンドタートルとお話していました。

亀なのに、見事なジェスチャーですね。

感心してしまいます。

そしてそのジェスチャーで訴えているのは、冬眠の話。

どうやら、春まで一時のお別れのようです。

村長が少し寂しそうです。

村長が屋敷に戻ると、レッドアーマーとホワイトアーマーが出迎えてくれました。

このとても頼もしい門番を突破できる者はそうそう居ないでしょうと言いたいのですが、この村には突破できる方が何人もいるので困ります。

村長は自室ではなく、客間のほうに。

自室に子供が近寄らないと嘆いていますが……

母親たちが揃って村長の自室には近付かないように子供たちに言っていますからね。

村長が直接誘うなどしないかぎり、子供たちは村長の自室には近付きません。

近付いてはいけない理由?

子供だからです。

まだその手のことに興味を持つのは早いでしょう。

村長は客間のコタツに足を入れました。

私は急いでお茶の準備をします。

すると、インフェルノウルフのクロさんとユキさんがやってきました。

自然に村長の傍に行きます。

ふふふ。

私は知っていますよ。

村長が外に出た時、クロさんとユキさんは屋敷の三階の窓から村長を見ていることを。

窓に並んでいる姿は、とても愛らしかったです。

そんな素振りをみせず、クロさんとユキさんは村長の左右に。

微笑ましいです。

ですが、必要以上の笑顔はよろしくありません。

無表情を装いつつ、村長にお茶とおモチをお出しします。

はい、おモチは少し前に 搗(つ) いたものです。

ギラルさまがグラルさまに良い所を見せようとして張り切った。

ええ、 臼(うす) と 杵(きね) が砕けた時の……

あの時は、グラルさまがギラルさまを責めて見ていられませんでした。

村長が取り成さなければ、どうなっていたか。

おっと、クロさん。

そのおモチは村長のですよ。

欲しがってはいけません。

それに、貴方の子供……孫か曾孫か私にはわかりませんが、一頭がモチを食べて喉に詰めかけたじゃありませんか。

パニックになる一頭に、周囲にいた他のインフェルノウルフが炎を吐きかけて、喉のモチをケシズミにしてことなきを得た事件。

私は忘れていませんよ。

村長も忘れていなかったようです。

わかりました。

おかきですね。

ふふ。

初めて作った時、ドースさまが次々と食べてライメイレンさまに睨まれていたのを思い出します。

おかきは塩味、醤油味、ゴマ味とありますが、どれにしますか?

お任せ?

承知しました。

では、醤油味にします。

持ち運べる火鉢を用意し、村長のいるコタツから見える場所でおかきを炙ります。

うん、良い香りです。

クロさん、そんなにこちらをジッとみないでください。

つまみ食いはしませんから。

村長に炙ったおかきをお盆に載せてお渡しすると、クロさんとユキさんは村長に甘えます。

おかきを口に運べと?

なんと羨ましい。

おっと、いけない。

無表情。

感情を出さないように。

しばらくすると、天使族の長であるマルビットさまがやってきました。

自然にコタツに入ります。

このマルビットさま。

村長の前では駄目駄目な姿を見せていますが、私は知っています。

村長がお休みになった夜。

ドースさまやヨウコさま、シソさん、魔王たちと真面目な顔で話し合っている姿を。

その姿は、さすが天使族の長といった感じです。

ルーさま、ティアさまを相手に、キアービットさんの結婚相談をしている姿は母親でしたね。

コタツに入ってお酒を要求している姿からは想像できませんが。

はい。

いま、お持ちします。

おかきだけではお供が物足りないですよね。

ご用意いたします。

ですが、夕食のことをお考えください。

おっと、酒スライムさんの分もですね。

承知しました。

私がそうやって村長とマルビットさま、酒スライムさんのお世話をしていると、台所のほうが少し騒がしいです。

どうしたのかと様子をみると、猫が一匹、台所から飛び出してきました。

あの模様。

ミエルですね。

そして、台所には静かに怒るアンさま。

……

アンさまの前にはお魚があります。

夕食用にと解凍していたものですね。

あー、お腹の良い部分だけを一口か二口だけ 齧(かじ) られています。

犯人はどう考えてもミエルですね。

アンさまも見ていたようで、私にミエルの所在を聞きます。

私は慌てて後ろを見ますが、ミエルの姿はありません。

逃げ足が速い。

しかし、あのミエルは全力で遠くまで逃げるタイプではありません。

近くの安全地帯に逃げ込むタイプです。

……

村長の傍ですね。

村長、ミエルに限らず猫には甘いですから。

私はアンさまに一応、場所を伝えました。

アンさまは少し考え、判断を村長に任せたようです。

どうなるのでしょう。

……

おおっ、村長がミエルをアンさまに差し出しました。

ミエル、すごく驚いています。

私も驚いています。

村長も、盗み食いは駄目と叱っています。

ミエルは諦めたようです。

さすがにここからの逃亡はないでしょう。

ここで逃げると、アンさまの怒りが頂点に達し、もうご飯が出てこなくなるからです。

ミエルも、それを理解しています。

ならば、なぜ盗み食いをしたと言いたいのですが……食欲には勝てなかったのでしょうか。

私は愚かなミエルを見送ります。

気を取り直すと、村長が移動できる火鉢の傍でおかきを炙っていました。

玄関の門番をしているレッドアーマーとホワイトアーマーに持っていくそうです。

村長の手作り。

羨ましいです。

おっと、お手伝いします。

ルィンシァさまがやってきて、マルビットさまはコタツの中に隠れましたが、クロさん、ユキさんによってコタツの外に押し出されました。

その姿に、思わず噴き出してしまいました。

失礼。

村長がマルビットさまを誘い、私を含めて三人でおかきを炙りました。

共同作業。

ふふふ。

少しして、アルフレートさまやティゼルさまたちがやってきて、炙られているおかきをジッと見ました。

欲しくても、ねだることはしません。

村長の息子や娘であるアルフレートさまやティゼルさまが不用意に欲しいなどと言えば、村の住人が迷惑するとルーさまやティアさまが教えているからです。

子供らしさが少し足りない気もしますが、必要な教育でしょう。

誘われるまで、待ちます。

本当は、そんな風に欲しいという態度を見せるのも駄目なのですよ。

ですが、ウルザさまは遠慮がありません。

村長におかきをねだりました。

おかしい。

ハクレンさまから同様の教育を受けているはずなのに。

ウルザさまの言葉で、アルフレートさまやティゼルさま、他のお子様たちもおかきを欲しがりました。

あとでそれぞれのお母さまに叱られますよ。

私の内心とは別に、村長は笑顔で了承しました。

ああ、そんなに調子に乗って炙ると、夕食が……

し、仕方がありません。

ここは私が嫌われ役になりましょう。

「夕食のことを考え、少しだけですよ」

余った分は、私が頑張って食べます。

ドースさまを呼ぶという手もありますしね。

あれ?

ドースさまがコタツに入って待機している。

遠慮なく持ってこいとジェスチャー。

わかりました。

よろしくお願いします。

村長はお子様たちと交流を持てたことで機嫌が良かったです。

ちなみに、おかきを差し入れられたレッドアーマーとホワイトアーマーは、感激の踊りを村長に見せていました。

その後ろに、他のザブトンさんの子供たちが羨ましそうにしていて……

ええ、夕食後、ザブトンさんの子供たちのために、おかきを炙りました。

村長と私で。

大変でしたが、充実した一日でした。

余談。

妖精女王がおかきをボリボリと食べていました。

「甘くありませんが、構わないのですか?」

「イマイチね。

でも、甘くないお菓子を食べることで、甘いお菓子がさらに美味しく……あ、おかきも美味しい。

美味しいから取り上げないで」