軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒の完成と来客(魔王の使い)

酒ができた。

最初に仕込んだワインの味見をそろそろしようとルーとティアが提案し、試飲会がそのままお酒のお披露目会となり、宴会となった。

それなりに作ったと思うワインだったが、人数が増えたこともあって消費量も凄かった。

一回の宴会で四樽が空になった。

まあ、酒用のブドウは作り続け、収穫の度に仕込んでいるので次々できるのだが……

評価が良過ぎた。

「こんなに美味しいワインは初めてです」

「ああ、美味しい」

「ワインってこんなに美味しかったんですね」

「もう一杯」

「飲み過ぎですよ。

もう少し遠慮を……いえ、私の分はしっかり貰いますけど」

確かに不味くはなく、ちゃんとしたワインになっていたが……そこまで絶賛されるほどではないと俺は思う。

熟成も、まだまだ甘いと思うのだが……

「旦那様。

ブドウ畑を増やしましょう」

「主様。

不慣れなれど、できることはお手伝いしますので」

「村長。

樽作りは任せてよ」

酒用のブドウ畑を増やすことになった。

まあ、いいけど……

ちなみに、ワインはクロたちにも評判だった。

消費された四樽のうち、一樽はクロたちが飲んだと言ってもいいだろう。

犬……ではなくオオカミが酔っ払って千鳥足で歩くという珍しい光景を目撃してしまった。

以後、妙にクロたちが酒用のブドウ畑の警備に力を入れている気がするが……気のせいだと思いたい。

ワインは常飲ではなく、宴や何かのイベントの際に出すことになった。

不満は出たが、納得はしてもらえた。

常飲させれば、すぐに無くなってしまうと誰もが理解したからだろう。

俺もワインは嫌いじゃないが、渇望するほどではないし、俺の中の意識にワインは嗜好品のイメージが強い。

前の世界の中世でワインが常飲されていたのは飲める水が貴重だったからで、ここでは井戸から水が汲めるのでそれほどワインに拘る必要も無い。

まあ、理由を付けてワインを出すように要望されることが増えるのだが、それはまた別のお話。

牛と鶏を飼育したことで、牛乳と卵の確保ができた。

それにより、俺の料理の幅が大きく広がった。

卵は鶏を増やすことを重視しているので数が取れない。

一応、鶏舎以外の場所で産んだ卵は食べることにしたので毎日数個は確保できる。

それを使っての簡単な料理を作ってみた。

まずはプレーンオムレツ、塩と胡椒だけの味付けだが……

美味い。

懐かしい味だ。

ふと横を見ると、テーブルの上に顎を乗せたクロが居た。

少しやる。

クロは満足そうに食べていた。

次に……プリン。

卵と牛乳、それに砂糖で作れる。

砂糖はサトウキビから確保しているので、十分な量がある。

作って木製コップに流し込んでみた。

良い感じだ。

最終工程に冷やす必要があるが……地下室で構わないか。

その間にカラメルソースの実験を行う。

カラメルソースは砂糖に水を加えて熱するだけだ。

ただ、簡単なだけに難しい。

何度も焦がしながら、完成させた。

多分、これが駄目だったのだろうな。

カラメルソースを焦がした匂いは、とても甘い。

他の作業をしていたはずのルー、ティア、フローラ、そしてアンたちがいつの間にか扉付近でこっちを見ていた。

……

プリンは卵の関係で五個しか作れなかったので、ちょっとした争いが発生した。

アンたちってルーやフローラ相手でも、引かない時は引かないんだなぁ。

そんなことを思いながら、俺はプリンの獲得権を放棄した。

その後、プリンの噂を聞いたリアやグランマリアたちの要望で、しばらくの間、卵はプリン専用になってしまった。

鶏、早く増えてほしい。

村に来客が来た。

初めてだった。

服装は立派で、貴族のようにも見える。

ただ装飾は少ないから官僚かもしれない。

グランマリアたちに見張られながら、単身でやってきた。

来客は、人間ではなかった。

俺の感覚では悪魔や魔族と呼ぶのが正しい気がする種族だった。

だからだろうか、彼を出迎えた場所にはそれなりの人数が戦闘できる状態で揃っていた。

ルー、ティア、フローラ、そしてクロたちは悠然と、リアたちハイエルフやダガたちリザードマンは個々に武器を構えている。

この場にアンたちも居るが、彼女たちは俺の後ろで命令を待つように控えている。

彼を連れてきたグランマリアは居るが、クーデルとコローネはこの場には居ない。

全員が一箇所に集まると危ないからだ。

なのでザブトンも居ない。

「私は魔王の使いです。

この場の代表者にお会いしたい」

魔王の使い。

見た感じ、普通の人間のようだが、やっぱり悪魔や魔族なのだろうか?

とりあえず、呼ばれたので前に出た。

「俺です」

「貴殿が?」

相手が一瞬、呆けた顔をしたがすぐに顔を引き締めた。

そんなに村長っぽく見えないかな。

「失礼。

私の名はビーゼル。

魔王の使いです」

「 火楽(ひらく) です」

苗字を先に言うべきかどうかで悩んだので、いっそ言わないことにした。

相手も名前だけだし、構わないだろう。

俺の名を確認した後、ビーゼルと名乗った男は色々と自分が魔王の部下であることを証明する品や文書を示し、手土産を俺に渡してくれた。

「お近づきの印に」

「ご丁寧にどうも」

貰った物はよくわからないが、ルーが少し喜んだ顔をしていたから良い物なのだろう。

本来なら、色々と時候の挨拶などを交わすべきなのだろうが、俺は本題を進めたい。

「魔王様はなんと?」

一応、魔王には様をつけておく。

変な所で揉めても面倒臭い。

「この場所との関係について話し合いたいと」

「そのメッセージだけですか?」

「い、いえ、ある程度の権限を頂いております。

この場で取り決めを交わすことも可能です」

「あー……なるほど」

この場所との関係について話し合いたい。

前にここは魔王の勢力圏内だと聞いた覚えがある。

つまり、税金を納めろということだろうか?

それとも、出ていけということだろうか?

何もしてくれていない魔王を気にする必要も無いとも聞いた。

ルーやティア達と相談した方が良いだろうか?

俺は目で他の者に視線を送ると、全員が俺に任せました的な目を返してくる。

……

なるほど。

任された。

交渉。

交渉の基礎は、最初の提案は強気にだ。

「ここでの生活を認めていただければ、収穫物の一割を税として納めよう」

10%。

暴利な税を言ってみた。

後でなんやかんや言われて重い税を課せられるぐらいなら、自主的に安い税を払う。

独立を気取っても仕方が無いだろう。

税を払うことで、一応は魔王様に逆らいませんよというアピール。

しかし、相場がわからないから最初は強気。

なので収穫物の一割。

「え、よ、よろしいのですか?」

あれ?

相手が驚いている。

それも、俺の税が低すぎることに驚いているワケではなさそうだが……

驚いているなら、追撃だ。

「毎年、冬の前に取りに来てくれ」

税が欲しければ取りに来いと言ってみた。

「しょ、承知しました。

そのように取り計らいます」

あれ?

この後、なんだかんだで纏まってしまった。

税は収穫物の一割。

ただし、畑の作物に限定。

牛乳や卵、ハチミツ、酒は渡さない。

また、収穫量が少ない物は渡さない。

厳密には、大樽一杯分に満たない収穫物は考えないとのことだ。

魔王側から欲しい物がある場合、対価を支払っての購入を認めた。

そういったことをその場で書面にまとめると、ビーゼルは帰った。

さすがにちょっと強気で言い過ぎたと書面にまとめている時に反省し、お土産を渡しておいた。

手土産も貰ったし。

「……あんな感じでよかったかな」

俺の言葉に各自が少し悩む。

そして、ルーが言う。

「悪くない手だと思うわ。

税を納めることで、向こうはこっちの保護をしなければならなくなったから」

「そうですね。

それにしても……ふふ、一割ですか」

ティアが面白そうに笑う。

聞けば、収穫物を税として納める場合、五割六割は当たり前、場所によっては九割取る場所もあるそうだ。

「取りに来させるのも良かったですね。

暗に駐在は認めないと伝えたワケですから」

アンが頷く。

え?

そんな意図はなかったんだけど……

「ここの収穫は、年に何度も行えます。

冬の前に一度しか来ないのであれば、正確な収穫量は計れないでしょう。

実質、一割以下の税で魔王軍の保護を得たわけですから……さすがです」

リアが意見をまとめた。

そんなつもりは欠片も無いし、ちゃんと計算して渡すつもりだったのだが……

これがこの世界の感覚なのだろうか。

ともかく、解散。

各自、作業に戻ろう。

ちなみに、ビーゼルの持ってきた手土産は貴重な薬草で、飲んで良し、塗って良しの万能薬だ。

魔王の城。

「ビーゼル。

どうだった?

向こうは何を要求してきた?」

「税を納めると言ってきました」

「なに?

我らの下に付くと?」

「ええ」

「……ワイバーンを落とすほどの戦力があるのにか?」

「そうです。

それも、向こうからの提案です」

「何か裏があるのではないか?」

「私もそう思いましたが……

受け入れるしかありません」

「なぜだ?」

「吸血姫と殲滅天使が居ました。

それだけじゃありません。

インフェルノウルフやハイエルフが無数に居ました。

リザードマンや鬼人も……」

「まさか?

信じられん」

「私を案内したのは皆殺し天使の一人ですよ。

生きた心地がしませんでした……」

「信じられんが……その戦力なら、ワイバーンも落とせるか」

「ええ。

あの戦力を並べられたうえで、向こうから下に付く提案です。

断れません。

断った瞬間、敵対が確定しますから」

「む、むう……この先、何を言われるか……」

「そうですね。

ですが、なんとかしてみせましょう。

幸いにも、向こうの代表とは友好的に話せたと思います」

「そうなのか?」

「ええ。

土産まで貰えたのですよ」

「ほう。

何を貰ったんだ?」

「まだ見ていません」

「見ろよ」

「魔王様に見せてからですよ。

でないと賄賂を受け取ったことになってしまいます」

「ヤバイ物だったら困るだろ。

チェックだよ」

「むう……確かに。

少しだけですよ」

「おう。

どれどれ……この布包みか?

中身は……果実?

アッポに似てるが、色や形が綺麗だな」

「そうですね。

あ、勝手に食べないでください」

「毒見だよ。

ん、なかなか美味い。

いや、かなり美味い。

凄いぞ!」

「そうですか。

まったく……あれ?」

「どうした?」

「果実を包んでいた布ですが……」

「ああ……綺麗な布だな。

どうしたんだ?」

「こ、これ……デーモンスパイダーの糸で作られている布です。

しかもその布のサイズ、グレートデーモンスパイダーかもしれません」

「デーモンスパイダーと言えば、死の番人?」

「ああ」

「グレートって、百年ぐらい前に先々代の魔王様とやりあって引き分けたとかいう……」

「その布のサイズを考えれば……間違いないと思います」

「大事に保管していたのを、お前に渡したとか?」

「そう考えたいですが……果実を包んで渡しますか?」

「渡さないな。

となると、あそこにグレートデーモンスパイダーが居ついていると考えるのが……

俺、今日で辞職する」

「待ってください。

貴方、四天王のトップですよね。

筆頭ですよね。逃げる気ですか?

あ、ガチだ。

待って! お願い。私も一緒に」