作品タイトル不明
お金対策の実行
「文化保護と育成に金を使うことにしたか」
ヨウコは俺の結論に、面白そうに頷きながら言葉を続けた。
「表向きは」
まるで俺が裏で悪いことをするかのような発言は避けて欲しい。
「似たようなものであろう」
ヨウコはカカッと笑い、テーブルの上に置かれた、たい焼きに手を伸ばした。
ガットと山エルフに作ってもらった、たい焼き用の焼き台の成果だ。
中は 漉餡(こしあん) 。
粒餡(つぶあん) と 漉餡(こしあん) で悩んだけど、派閥ができて揉めそうだったので俺の独断で決めた。
たい焼きは漉餡。
その代わり、大判焼きは粒餡。
大判焼き用の焼き台もすでに完成している。
「まずは表向きの文化保護と育成に関してだな」
ヨウコが計画を説明してくれる。
まず、商人に頼み、各地で美術品を買い集める。
ただし、一つの品の購入価格に制限をつける。
お金を使う必要はあるが、無駄に高い物を買う趣味が俺にはないからだ。
ここは気を使わせてしまった。
しかし、俺に物の価値はわからないからな。
騙されないためにも、購入価格の制限は必要だ。
「そして、集めた美術品を展示するための館。
美術館の建設」
これは冬の間の 五村(ごのむら) に建設してもらう。
ハイエルフたちがルーに連れられたので、建設は戻ってからでもかまわないと言ったのだが、五村の大工たちで大丈夫だそうだ。
いや、五村の大工たちを信頼していないわけじゃないんだぞ。
俺の中で、建設はハイエルフたちというイメージが強過ぎるだけで。
美術館は一般にも開放。
見物料を無料にすることで、五村の財力をアピールしつつ、文化の浸透を狙う。
個人的には絵描きが増えてくれると嬉しい。
「うむ。
それと、音楽を楽しむ者もな」
五村の美術館には劇場も併設する。
展示物だけでなく、演劇や音楽などを楽しめる場所になる予定だ。
ティアのアイディアである文化系の学園も併設する。
ただ、これは俺がイメージする学園ではなく、アパート一棟を全て教室にしたような感じだ。
学園よりは私塾に近いかな。
現状、教師と生徒のアテがない。
マイケルさんか魔王に相談しよう。
そうそう、魔王のアイディアであるスポーツの保護。
道具の量産はなんとでもなるだろうけど、大会を行う為の場所は難しいな。
とりあえず、五村に野球ができるグラウンドを一面、作ってもらう。
「これぐらいかな?」
俺が確認を求めると、ヨウコは満足そうに頷いてくれた。
「まあ、商人たちが美術品を求めて派手に動くであろうから、大丈夫だろう」
現金を動かすことも大事だけど、ちゃんと現金を使っていると周囲にアピールするのも大事なのだそうだ。
それゆえ、表向きの行動。
「では、裏向きの話に」
ヨウコが楽しそうにしている。
さっきも言ったが、悪い話をするわけじゃないからな。
現金を使うが、使った効果が目に見えない、見えにくい案件というだけだ。
「まず、医療団の結成」
この世界の住人は、治癒魔法があるから多少の怪我には強いのだが、病気や疫病などに関してはかなり貧弱だ。
病気も魔法で治るのだが、その魔法の使い手は少なく、使い手だけでなく貴重な薬も必要となるので代金も高額。
一般の庶民は当然、貴族でもそう簡単には払えない金額になるそうだ。
それらを解決するための組織を結成する。
それが医療団。
参加希望者を集め、教育。
普段は数人で各地を放浪。
病気の者を治療して回る。
身分は無視。
治療代は無料。
絶対に受け取らない。
受け取らないように逃げてもらう。
完全に善意の集団になる予定だ。
「面白い。
が、村長の希望通りの活動ができるまで、三十年ぐらい必要になりそうなのが弱点だな」
それゆえ、裏向きとなった。
「次に、料理文化団の結成」
この世界では、料理が未発達だ。
だが、それは俺の視点での話。
この世界の住人の視点では、ちゃんと料理をしている。
各地には誇れる郷土料理があるのだ。
これを調査し、記録してもらう。
これが第一の任務。
第二の任務が、各地にある独特の調味料や料理手段の研究。
美味い、不味いは横に置いておいて、どんなものがあるかを調べてほしい。
俺の知識だけじゃ色々と限界があるからな。
新しい料理の発想になるかもしれない。
最後の任務が、俺の知る料理知識の拡散。
独占して儲けたほうがいいのではないかとヨウコに指摘されたが、基礎的な料理方法は広く知ってもらいたい。
誰もがそこそこ美味しい物を食べていれば、世の中から争いはなくなるだろう。
甘い理想論かもしれないが、不味い料理ばかりの世界よりはいいだろう。
「美味い料理が増えるのはいいことだ」
ヨウコがたい焼きに 餡(あん) を乗せた。
それは邪道ではなかろうか?
「次に、魔物調査団の結成」
この世界には、冒険者がいる。
魔物や魔獣を倒し、賞金や素材を手に入れる者たちだ。
まあ、街中で何でも屋みたいなことをやっている者もいるらしいけど、冒険者といえば主に魔物と戦う者という認識で間違いない。
この冒険者たちは、基本的に冒険者ギルドに所属している。
だから俺はそのギルドで色々な情報を共有しているのだろうと思っていた。
だが、実態は違った。
ギルドがしているのは冒険者への賞金の支払いや依頼の管理。
冒険者の育成は、業務内容ではない。
育成をやっているギルドもあるにはあるが、それは完全なるギルド職員の趣味、副業なのだ。
それゆえ、魔物や魔獣の情報は先輩冒険者から聞くものであり、その辺りに恵まれなかった冒険者は酷い目に遭う。
それはかまわない。
冒険者には冒険者のやり方があるのだろうし、魔物や魔獣の情報は冒険者の商売の 種(たね) でもあるのだろう。
教えろとは言わない。
だから、こっちで勝手に調べる。
それが魔物調査団。
まあ、各地で冒険者たちを雇って情報収集するのがメインになるだろうけど。
「知らぬよりは知っておいたほうが助かる。
魔物や魔獣の分布図がわかれば、安全なルート開発も可能かもしれん」
たい焼きを食べ終わったヨウコは、俺におかわりを要求してくる。
残念ながら、今、作ってるのはタコ焼き。
タコ焼き用の焼き台も、ガットと山エルフに作ってもらった。
タコを嫌う者もいるので、タコ入りは一部のみ。
大半は鶏肉や魚肉、貝柱などを入れている。
「甘味の後に、それを出すのはズルい」
そう言いながらも食べるんだな。
「こんなものだな。
裏向きはどれもこれも時間が掛かる。
しかも、総額は大きいが、毎年の金の減りは少ない。
が、楽しそうではある」
「そうだな」
そして、どれもこれも表立って動けない。
理由は、前に相談したときにユーリやフラウから注意された、各地にいる代官や領主を無視する行為だからだ。
「まあ、魔王やビーゼルには説明しているし、黙認はもらっているから」
大事には 至(いた) らないだろう。
「ただ、大きな問題があると言えばあるぞ」
「そうなのか?」
「現状、表向き、裏向きを合わせて……村長の希望を最大限に実行したとしてもだ。
予定額の半分の半分も使えていない。
あ、待て、逃げるな村長」
考えるのはまた今度にしよう。
などと思っていたら、お金を必要とする人物が現れた。
ルーだ。
「ごめん。
ちょっとお金が足りないの。
貸して」