作品タイトル不明
獣人族の男の子の学園生活 十五日目~?
僕たちというか、僕の料理教室が始まって数日。
僕の指導は、寮で使っている食材を美味しくする調理法の伝授に集中している。
寮で出す食事なので、予算や仕入れ先が決まっていて、急に新しい食材や調味料を用意できないからだ。
なので、かなり大変。
「景気よく教えているが、大丈夫なのか?」
シールが心配そうに僕に言ってくる。
「なんのことだ?」
「料理の技術だよ。
フラウ先生に言われていただろ。
知識や技術は財産。
ある程度は秘匿し、出し惜しみしろって」
「覚えているよ。
でも、その後に村長に言われたんだよ。
料理に関しては遠慮せず教えてかまわないって」
「村長が?」
「ああ。
不味い物を食うよりは、美味しい物を食べているほうがいいだろって笑いながら」
「なるほど。
村長の指示があるなら問題ない」
「納得したら手伝うように。
僕に押し付ける形になってるよ」
「料理は上手い奴にやらせるに限るってガルフのおじさんが言ってただろ」
「言ってたけど、人手が足りないんだ。
頼むよ」
「わかったわかった。
ブロンは?」
「例の揉め事の解決」
「ああ、それがあったか」
例の揉め事。
それは、やはりここが貴族の通う学園ということ。
この学園に来るまでは特にどこかの派閥に所属していない新参者が、人を集めて賑やかにやっているのを面白く思わない者が出てきた。
前々から気配はあったのだが、男爵家当主相当という身分の壁と、僕たちが最低限の授業を受けたあとは家作りに引き篭もることで問題を回避していた。
正直、派閥とか面倒だし、学園を卒業したあとは村に帰るつもりなのでそれほど深く考えていなかった。
だが、どうやら僕たちは危険だったらしく、学園長の配慮で避けることができた。
その学園長の配慮が、僕がやっている寮の食事の改善という仕事。
寮の食事を改善することで、寮生を味方につけろという意図があったのだろう。
僕に押し付ける時にそう言ってくれれば、もっと素直に引き受けたのにと文句を言いたいが……
まだまだ子供扱いなのだろう。
実際、まだ子供だから仕方がない。
なんにせよ、これで当面大丈夫と思ったのだけど、学園長の思惑を超えた馬鹿がいた。
どこぞの侯爵の息子さん。
二十人ぐらいで徒党を組んで僕たちの家に攻め込んできた。
ただ、タイミングが悪く、夕食時だったので僕たちの家の周囲には八十人ぐらいがいた。
あんなに一方的な戦いはないだろう。
食事の邪魔をされた恨みというのは怖いと思った。
これで終わればよかったのだが、次の日に侯爵家から弾劾状がきた。
不当に息子が害されたと。
相手がなにを言ってるのか理解するのに時間が掛かったけど、子供の喧嘩に親が出てきたわけだ。
だが、さすがに学園がその介入を許さなかった。
事件の経過は、夕食を食べに来ていた教師たちから学園側に伝えられている。
誰がどう考えても僕たちに非はないのだが、貴族の身分の原理が働いた。
侯爵家の当主の言葉。
「このままだと決闘となるが、いかがかな?」
訳)こっちは侯爵家だぞ。
人材と財力で勝ちを取らせてもらう。
ここで謝罪すれば終わらせてやるぞ。
それに対する僕たちの返事。
「仕方がありません。
作法に乗っ取って、決着をつけましょう」
訳)ぶっ殺す。
ということで、ブロンが侯爵側と決闘の細かい部分を話し合っている。
どういった形式で決闘を行うのか、勝敗はどのようにつけるのか、見届け人は誰にするのか。
一応、アドバイザーとして学園側から先生を何人か同席させてくれたので、大きな問題はないだろう。
あとは決闘でいかに勝つかだ。
正直、頭に血が昇っていたと反省する。
だって、侯爵の息子が最初に攻めてきた時、鍋を一つひっくり返したからな。
決闘を受けてから、しまったと思った。
大人相手の決闘を受けて、僕たちが勝てるのか?
不安だ。
だが、クラブのみんなは大丈夫だと応援してくれる。
学生相手に、現役の侯爵が大人を引っ張り出して勝っても誇れない。
ある程度は公平な決闘方法が選ばれるだろうと。
それに、どれだけ周りを固めても当事者である侯爵の息子が出てくる。
そこを狙えば、なんとかなる。
その言葉を信じながら、僕はその日の料理教室を行った。
夕食中。
ブロンが戻ってきた。
「まずいことになった」
アドバイザーとして同席した学園の先生も、暗い顔をしていた。
決闘の方式は、互いに五人ずつ用意した戦士の勝ち抜き戦。
これはそれほど珍しい決闘スタイルではないし、まずいことでもない。
まずいのはこの先。
当事者は不参加。
簡単にいえば、僕たちと相手の侯爵の息子は参加できない。
僕たち以外で、五人の戦士を用意しろということ。
「決闘なのに、僕たちが不参加なのか?」
「これは戦士を用意する戦いなんだってさ」
シールの疑問にブロンが答える。
学園の先生も、貴族の面子を守るための代理決闘として、公式に認められていますと教えてくれた。
そして、そのまずさも。
「当事者を不参加にすることで、侯爵様は自身の持つ最強の戦士を並べることができます。
すみません。
なんとかここを 覆(くつがえ) せないかと頑張ったのですが……」
先生が謝ってくれる。
それに対して僕が何かを言う前に、ブロンが続けた。
「それと、一番まずいのが次なんだ」
「まだあるのか?」
「ああ。
見届け人に、クローム伯が指名された。
ビーゼルのおじさんだ」
確かにまずい。
戦士の調達をお願いする先として、僕の頭に真っ先に浮かんでいた。
決闘の見届け人が、決闘の前に片方に力を貸すことはできない。
僕たちがお願いしても、断られるだろう。
これは……僕たちとビーゼルのおじさんが知り合いってバレている。
その対策だろう。
「でもってとどめ」
「なんだ?」
「決闘は明日だ」
…………
僕は天を仰いだ。
二つの月が綺麗だった。
決闘当日。
定められたグラウンドには大勢の見物客が集まった。
人が多いのは、どうも大半の授業が中止になり、この決闘の見物に来ているそうだ。
そしてこの大勢の見物客の熱気に、僕は村の祭りを思い出した。
「どうした?
ぼーっとして。
大丈夫か?」
シールが心配してくれるが、彼もフラフラだ。
昨晩、僕たちは遅くまで戦士集めに駆けずりまわった。
正直、戦士を五人も集めることは不可能だと思ったけど、なんとかなった。
最後の最後で、クラブのメンバーが手をあげてくれて本当に助かった。
人数あわせでかまわない。
戦いになったら、すぐに降伏して欲しいとお願いしている。
「あまり焦らしても客に迷惑だ。
そろそろ始めようではないか」
訳)そろそろ降伏しない?
侯爵が自信満々に僕たちに言ってくる。
だが、僕たちも負けない。
「望むところです。
正々堂々と戦おうではありませんか」
訳)ぶっ殺す。
「ふっ、よかろう。
不幸な出来事であったが、これで決着だ」
訳)……息子がすまん。
侯爵家として面子を守るために私が出ないといけなかったんだ。
勘弁してくれ。
「ええ、決着です」
訳)いまさら言うな。
ビーゼルのおじさんが、見届け人として宣言。
決闘が始まった。
「双方、一人目を前に」
周囲から歓声が上がった。
侯爵側の一人目は、重武装のミノタウロス族。
有名な戦士らしい。
手に持つ大型の斧が、すごく迫力がある。
「大人気ない」
「奴を出すのは反則だろ」
「おいおい、どこまで本気なんだよ」
見物客からの声が、侯爵側の勝利を確信しているように思える。
ええい、負けるか。
僕たちの一人目が少し遅れて前にでた。
頑張れ、魔王のおじさん!