軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

万能農具

【万能農具】は変形する道具。

出し入れ自由。

使っている間は、喉も渇かず、腹も減らず、そして眠気もない。

が、使っている間とはどこを指すのだろうか。

例えば、【万能農具】をクワにしている時、振り被って地面に入れ、そして抜くまでが使っている間になる。

つまり、クワを振り続けている間はずっと使っていると言える。

これは大体の道具で同じだ。

だが、例えばハンマーで十本のクイを打つ時。

クイを打っている間は使っている間になるが、クイからクイへと移動している間は使っていることにはならない。

何が言いたいかと言うと、小刀に変形させた【万能農具】で小物を作っている時、作業中は効果を発揮しているが、完成して次の品に取り掛かる間は効果を発揮していない。

それは短い時間でも、積み重なれば大きくなる。

つまり、今の俺は喉が渇いているし、腹も減っているし、眠気も感じ始めていた。

朝日を浴びた後、とりあえず昨日掘った斜め穴の井戸に潜り、昨晩から今朝に掛けて寝ずに振るった小刀で作った木のコップを取り出す。

井戸の奥では、一メートルぐらいの深さで水が貯まっていたので、できるだけ上層の綺麗そうな部分を汲んでみたが……

飲める。

飲めるはず。

喉の渇きがあるので、ここで飲まない選択は無い。

男は度胸。

俺はコップを少し傾け、口に少し含んだ。

痺れたり、変な味はしない。

普通の水だと思う。

思いたい。

なぜなら、喉が渇いているからだ。

覚悟を決め、ゴクリと飲む。

美味い。

後は……しばらく様子を見て腹が痛くならなければ問題無しなんだが……

こればかりは時間経過を待つしかない。

次は食事だな。

その前に現状を確認する。

大きな木の幹に寝る場所を作った。

周囲は、俺がクワで耕したので土が軟らかくなっている。

寝る場所から少し離れた場所に、斜めに掘った井戸。

そして、最初に降り立った場所に伸びる五メートル幅に耕された道?

道のつもりはなかったが、道に見えるな。

距離的には百メートルぐらいだろう。

手持ちは【万能農具】と、寝ずに作った小物類。

小物類はコップやお皿など、木を削って作ったヤツだ。

一晩あったので、それなりの量ができている。

うーむ。

とりあえず、クワを振るいながら移動し、食べられる物を探すしかないな。

理想は木の実。

リンゴとかブドウがあれば嬉しい。

では、さっそくと思ったが、その前に火を点ける。

昨日の失敗を繰り返したりはしない。

寝床のある木から少し離れた場所に小物作りの時に出た木屑を集め、【万能農具】を虫眼鏡に変化させて着火。

その後、乾燥している木々を追加して火を安定させる。

予想以上に時間が掛かったが、なんとか火の確保ができた。

できたが……放置は怖いな。

山火事になったら困る。

なので、食べ物探しは火が見える範囲で行う。

つまりは寝床の周囲を広げるように耕していこう。

頑張った。

寝床にしている木を中心に円を広げるようにサクッサクッとクワを振るい続けた。

頑張り過ぎた。

寝床にしている木を中心に二百メートルぐらいの空間ができてしまった。

やはりクワは楽しい。

途中、木を全て肥料にしたら木材に困ると思い、【万能農具】を斧にして木を切り倒した。

その時に発見したのだが、木を引っ掛けるバールのような物……名前を知らなくてもイメージで【万能農具】を操れるらしい。

木を引っ掛けるバールのような物で木を引っ掛けると、木の重さを感じずに移動させることができた。

【万能農具】便利。

寝床の木の裏に、直径一メートルから二メートルぐらいの大きな木を何本も横たわらせる。

これでもう木材には困らないだろう。

お陰で、目的である食料探しは完全に頭から離れていたのだが……

運が良いのか悪いのか、事故があった。

周辺を耕している時、クワを振るった先に動物が現れたのだ。

動物は兎のような見た目だった。

ただ、サイズが中型犬ぐらいの大きさで、目が敵意剥き出しに光っており、その歯はサーベルタイガーのように口の端から二本、牙のように伸びている兎だったが……げっ歯類じゃないのかな?

ともかく、その兎に対して俺はクワを止めることができず、振り下ろしてしまった。

あっと言う間の一撃だった。

前屈みだった兎の首の部分にクワが入り、そのままサクッと……

そして、首から上は肥料になり、身体部分が残った。

……

生き物の命を奪ったことに小さくないショックを受けたが、腹は正直だ。

望んでいた食料が手に入った。

合掌。

頂きます。

【万能農具】を包丁にして、サクッと解体する。

解体と言っても解体の方法なんて知らないから、毛皮ごとブツ切りだ。

が、その最中に内臓に気付いて慌てる。

内臓の中身をぶちまけるのはよろしくない。

心臓とか肝臓はともかく、胃や腸には兎が食べていた物が入っている。

俺に対して敵意を向けたことと、草を食べるのに邪魔そうな牙から考えて、草を食ってるってことは無いだろう。

うん、腸も思ったほど長くないし、肉食だな。

内臓部分を傷付けないように頑張って取り出し、捨てる。

その後、毛皮の部分を削いで肉だけにする。

【万能農具】をフライパンにすることはできたが、火に掛ける気にはならなかったのでフライパンは諦めた。

小さく一口サイズに切った後、木の棒に刺して火に掛ける。

今度、串を作っておこう。

後、石を加工して鉄板ならぬ石板を作ろう。

食料を確保できたことで余裕ができた。

色々と考えられる。

そして焼けた肉を食べて思った。

マズイ。

肉を火で炙っただけだから、当然と言えば当然か。

調味料なんて無い。

だが、食べられないことは無い。

なにせ十年近くの入院生活ではずっと薄味の病院食だったんだ。

最後の方は点滴だったしな。

それを思えば、自分で調理した肉料理。

感涙物だ。

食べられないワケがないじゃないか。

……

どれだけ補正をしても、焼けた血生臭い肉だ。

自分を騙しきれない。

くっ。

食料事情をなんとかしなければ。

思いを新たにしつつ、とりあえず食べられるだけ食べた。

それでも、まだ数食分ぐらいは余っている。

腐らないように涼しい場所……

井戸しか思いつかないが、あそこはできるだけ綺麗に使いたい。

仕方が無いので、全部焼いて保存することにする。

肉を焼いて放置すると硬くなるらしいが、生で放置するよりはいいだろう。

あと、捨てた内臓と、バラバラになった毛皮は【万能農具】のクワで耕して肥料にしておく。

未(いま) だに腹は痛くなっていないので、井戸の水はセーフと判定しよう。

とりあえず、腹は膨れた。