軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣聖物語

剣聖。

それは人族最強の剣士の称号。

その称号は剣聖が次の剣聖を指名し、指名された者が剣聖を打ち負かす事で継承される。

それ故に、剣聖を名乗れるのは常に一人。

剣聖には守らねばならない事が二つある。

一つは、常に最強であることを求め続けること。

もう一つは、不正に剣聖を名乗る者を打ち滅ぼすこと。

剣聖はこの二つを守る為なら、大抵のことが許される存在である。

現在、ピリカ=ウィンアップがその剣聖として認定されている。

というガルフの説明。

「その最強の剣士が、どうしてガルフに弟子入りを?」

「恥ずかしながら、現在の私の技量ではガルフ様に勝てません」

「……最強の剣士だろ?」

「剣術では負けません。

ですが勝負となれば負けます」

言ってる意味がよくわからない。

最強じゃないの?

俺が首をかしげていると、ガルフが見た方がわかると、そこそこ太い木の棒を立てた。

なにをするのかと思うと、ピリカが動いた。

いや、動いていない。

動いたのはピリカの分身。

その数四つ。

ガルフの立てた太い木の棒を、それぞれの分身が剣で斬る。

四回斬ったので太い木の棒は、五つの木片になった。

いや、六つ。

本体がその場で剣を振っていた。

素人の俺でもわかる凄さだ。

思わず、拍手しそうになった。

拍手しなかったのは、俺の横にいたダガとヨウコから不満そうな呟きを聞いたからだ。

「駄目だな」

「あれではな……」

えーっと……何が駄目なんだろ?

俺は彼女に勝てる気がしないんだが?

俺が説明を求めると、ダガが一言。

「経験不足」

ヨウコはもう少しだけ丁寧に教えてくれた。

「村長にわかりやすく例えるなら……魔法を思い浮かべよ。

火の魔法を上手に使えても、その火を上手く利用できておらん」

悪いが、魔法に例えられても俺にはピンとこない。

まあ、噛み砕いて理解しようとすると……

どういうことだ?

形だけってこと?

ガルフが教えてくれた。

「あの程度なら、ルーの姐さんやティアの姐さんだってできます。

ですが、村の武闘会で使っているところを見た事がないでしょ?

実用性がないからです」

実用性って……十分にありそうだが?

「分身を実用レベルにまで上げるなら、ブルガさんぐらいまでやらないと」

ブルガの分身と、今のピリカの分身の違い……

ブルガの方は、全て違う動きをしていた。

分身というか、分裂に思えるぐらいだ。

ピリカの方は、残像みたいな分身?

言われてみれば、どれが本体かわかったしな。

「仕掛けられた側からすれば、ただの五箇所同時攻撃ですから容易に防げます」

……

五箇所同時攻撃って、容易に防げるものなの?

同時に五箇所だろ?

無理じゃない?

攻撃場所が増えるから簡単。

当たる前に一箇所防いだら、他も止まると……

なるほど。

いや、それも難易度が高そうなんだが……

ピリカはダガと模擬戦をやっている。

ピリカが軽くあしらわれているのはわかった。

「もとより剣聖は、聖剣を正しく扱う剣術を失わないようにと継承されているものですから、本来の力を発揮するのは聖剣を持った時だとは思いますけど。

彼女は酷い」

ガルフの厳しい一言。

彼女で酷いのなら、俺はどうなるんだろうか?

評するに値しないレベルかな?

「話にならん」

ダガの模擬戦の感想。

ピリカが涙目だ。

さすがに可哀想なので、もう少しアドバイスをと俺が頼む。

「……道場で鍛えすぎだ。

技は悪くないが、相手を殺さぬようにとの気配りがクセになっているから全て三流以下。

さらに、見世物になっていた期間が長すぎる。

技が綺麗過ぎて、実戦に向かない。

言って悪いが、先代はお前程度の腕に倒される剣士だったのか?

素直に剣聖の称号を返上し、修行をやり直すべきだ」

ダガのアドバイスという名の攻撃に、ピリカが泣き崩れた。

ガルフが頬をかきながら呟く。

「あー、俺も同じような事を言ってな……」

ガルフから、ピリカの事情を教えてもらった。

彼女が先代の剣聖の開く道場の門を叩いたのは今から十五年前。

道場には全国より選りすぐられた剣術自慢が二百人以上揃い、切磋琢磨していたそうだ。

その中で、ピリカは若くして入門が認められる程度の才覚はあり、順調に鍛えられていった。

問題が発生したのが今から十年前。

ピリカが入門してから五年目のこと。

先代の剣聖が、突然の死去。

お金を払って女性にイチャイチャしてもらえる店での心不全だったそうだ。

道場主が亡くなったのであれば、新たな道場主が率いればよかったのだが……

亡くなった道場主は剣聖。

次期道場主を指名すれば、それは剣聖の指名と同じ。

なので次期道場主となるべき者を指名していなかった。

そこで、道場の高弟たちが協議し、剣聖の称号を一度、王国に返上。

道場は高弟たちで集団経営し、新たな剣聖は王国に決めてもらおうということになった。

我欲に溺れず、剣の腕を磨くようにとの先代剣聖の教えが正しく活かされていた。

この時までは。

剣聖の称号を返上された王国は、その剣聖の称号を自国の将軍に授けた。

王国側としては、返上された称号を誰に授けようが自由という考え方。

戦争中であったこともあり、戦意高揚の手段として有効に使ったつもりだった。

だが、剣聖の称号はいずれ道場の誰かにと考えていた道場の高弟たちは激怒し、剣聖の称号を授けられた将軍の部隊を襲撃。

将軍の部隊は三千人を超え、襲撃した高弟たちは二十人であったが、将軍を討ち取ってしまった。

この所業に怒った王国は、道場の高弟たちを捕縛。

襲撃に参加した高弟たちは大半が死亡しており、生き残っていた二人も満身創痍だったので捕縛はスムーズに行われた。

そして処刑。

同時に道場は取り潰しと決まったが、教会からストップが掛かった。

剣聖の技を知るのはこの道場しかなく、それを途絶えさせることに賛同できないと。

何がどう話し合われたかわからないが、王国は道場の存続を認めた。

この時、道場で一番高い地位にいたのが、襲撃に参加しなかった唯一の高弟だったピリカ。

彼女が高弟でありながらも襲撃に参加しなかったのは、彼女がまだ若かった為に他の高弟たちが襲撃のことを教えなかったから。

いや、ピリカがいるからこそと襲撃の暴挙に出たのかもしれない。

ピリカは道場を守る為に道場主となり、修業を開始。

ただ、王国より許可無く対外試合や道場から離れる事を禁止された為、道場内での修行だけになってしまった。

それから十年。

つい数ヶ月前に剣聖の称号がピリカに与えられ、行動の自由を得た。

初めての移動先と考えたのがシャシャートの街。

武闘会の噂を聞き、参加するために。

その武闘会の決勝戦で敗北し、ガルフに弟子入りを希望して引っ付いてきたと。

……あれ?

それだと、決勝で勝った人のところにいかないか?

ガルフは参加していないんだよな?

特別審査員だって……

その決勝で勝った人が、そのままガルフに勝負を挑んできたと。

それでガルフにか。

急に剣聖の称号が与えられたのは?

王国が剣聖の称号を求め、道場に何度か試合を申し込んだらしい。

それを撃退し続けているうちに、他国からの圧力に屈したと。

剣聖の称号は、他国にも影響があるのか。

……

そんな称号を、勝手に将軍に与えた王国が悪いな。

王国の名は、フルハルト王国。

魔王国と戦争中の国だな。

その名を聞く時に、良い話が無いのがなんとも……

余談。

俺、ガルフ、ダガ、ハクレン、ヨウコが横に並ぶ。

そしてダガがピリカに指示。

「強いと思う順に並べてみろ」

「えーっと……」

ダガ、ガルフ、ハクレン、ヨウコ、俺。

ピリカはダガが一番強いと判断するのね。

「ダガ様、ガルフ様からは道場にいた兄弟子たちと同じ匂いがします」

ピリカの言葉に、ダガが笑う。

「光栄だが、このメンバーでの正しい順はこうだ」

村長、ハクレン、ヨウコ、ダガ、ガルフ。

「まず、俺とガルフで十戦やれば、八回ぐらい俺が勝つ。

俺が百人いても、ヨウコさんには勝てない。

そのヨウコさんでも勝てないのがハクレンさん。

村長は、そのハクレンさんに勝っている」

「ハクレンに勝てないとは言ってくれる。

まあ、やりたくはないがな。

村長とは戦ったが……完敗だった。

勝てる気がせん。

もうやらん」

ダガの説明をヨウコが補足する。

「実戦経験が不足し過ぎてて、相手の力量を計る目が弱いのも弱点だな」

……

俺の中では、ハクレン、ヨウコ、ダガ、ガルフ、俺なんだけどなぁ。