作品タイトル不明
観察者
私の名はマイケル。
ゴロウン商会の会頭。
一番偉い立場ではあるが、最近は自分がまだまだ未熟であると痛感する出来事が多く、偉そうにする気にはなれない。
まあ、部下達の手前、ある程度は偉そうにしないといけないが……
さて、ビッグルーフ・シャシャートの営業は上手くいっているようで何より。
私のほうは……少し難航中。
あの辺りの建物の大半が商業ギルドの所有物件なので面倒が少ないと思ったのだが、一部の土地所有者が強固に抵抗している。
所有者はシャシャートの街の商人の一人。
私が土地を買い占めているのを察し、先に購入したことはわかっている。
私の妨害がしたいのか、高値で売りたいのか知らないが……
魔王様や四天王の方々が警告を発しているのに、それを聞く立場にないのは哀れなものだ。
本来であれば、様々な手を使うのだが……
汚い方法で入手した土地となると、村長の気分を害するかもしれない。
なんとか正攻法で手に入れねば。
……
金貨を見せるのが早いか。
あまりに欲の皮を突っ張らせるようなら、警告の件を伝えてやろう。
扉がノックされた。
珍しい。
用件の大半が秘書の下で止められ、私が部屋を出た時にまとめて報告される。
秘書の判断でただちに私に知らせねばならないことがあるということか?
「失礼します。
会頭、少々判断に迷いましたが……お知らせしたほうが安全かと思いまして」
私よりも十ほど年長の秘書の判断に、これまで何度も助けてもらっている。
彼が知っておいたほうが良いというなら、聞かせてもらう。
「先ほど、我が商会の本店に、マイケルなる者を訪ねに参った客がいたそうです」
「ん?
それは私を訪ねに来たのではないか?」
「そうかもしれませんが、“マイケルさん”と呼んでいたそうです」
「ふむ。
貴族ではなかったのかね?」
「はい。
服は良い生地でしたが貴族の好む服装ではなく、またお供が冒険者らしき者一人。
見覚えのある顔ではなかったようですし、先触れもなかったことから貴族ではないと判断します」
そうだな。
貴族なら訪ねる前に連絡を寄越す。
「それで、どうしたんだ?」
「対応した者は、商会にマイケルなる従業員がいないか捜しましたが、いなかったので帰ってもらったそうです」
「なるほど」
……
あれ?
嫌な予感がする。
「そ、それで、どうしたんだ?」
「その客が手紙を“マイケルさん”に渡してほしいと対応した者に預けたそうです」
秘書が手紙を取り出した。
「どうも我が商会にマイケルなる者がいると確信している様子。
対応した者が、少しして会頭のお名前がマイケルであったことに気付き、万が一を考えて私に知らせてきました」
「ほ、ほう……」
見たくない。
見ちゃ駄目な気がする。
でも、急いでみないと駄目かもしれない。
深呼吸。
覚悟を決める。
「ちなみに、客はヒラクと名乗っておりました」
「それを最初に言えぇぇぇぇっ!」
私は秘書から手紙を分捕り、読んだ。
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前略
ゴロウン商会のマイケル様。
こちらは大樹の村です。
村長がシャシャートの街にお伺いするので、よろしくお願いします。
後略
追記
上を見なさい。
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うわぁぁぁぁぁぁぁっ!
村長が街に来ている!
うかつ!
店を開いたのだから、そりゃ様子を見に来ることもある!
なぜ気付かなかった!
いやいや、後悔は後回し。
現状……
門前払いした形!
居留守を使った状態?
マズイマズイマズイ。
村長は気にしないだろうが、周囲にはそういったことを気にする人がいる。
例、ルールーシー様、ティア様、フラウレム様、ハクレン様。
……死んだ。
私、死んだ。
まだ手紙を見てないから知らなかったって……通じないよな。
ああ……
いや、まだ挽回できる。
村長と急いで合流し、今回の件をなかったことにする。
これしかない。
「対応した者から村長……ヒラク様の服装の特徴を聞きだせ。
それとマーロンとミルフォードを呼んでくれ。
大至急だ!」
私は秘書に命じ、自分でも動かなければと準備する。
……
ん?
そう言えば、手紙の追記。
上を見ろ?
何かの暗号か?
実際に上を見るわけじゃないよな?
私は部屋の天井を見た。
……
そこにはルールーシー様がいた。
「こんにちは」
目が合ったのでルールーシー様が手を振って挨拶してくれた。
しかし、私は何もできず、上を向いたまま固まっていた。
俺の名はミルフォード。
若い頃は冒険者として無茶をやっていた。
その無茶のお陰で、それなりの名声を手に入れた俺は貴族の護衛として雇用されるまでになった。
ある意味、冒険者業の最上の結末だ。
ただ、貴族の護衛は報酬は良いが、つまらない。
なにせ貴族に敵対する者などほとんどいないからだ。
特に魔王国の貴族は、なにかしらの戦闘力を有している。
それは力か魔法かは知らないが、護衛などいなくても自分の身は自分で守れるということだ。
貴族も俺の武力を使わせるためではなく、俺を飾り物のように扱うことで満足していた。
ま、忍耐がなかったのだろうな。
俺は貴族のもとを辞して、新たな場を探した。
それがゴロウン商会。
最初は路銀を稼ぐための場繋ぎのつもりだったが、一回で気が変わった。
なにせこの商会の馬車は、鉄の森の中を突っ切るのだ。
しかも、目的地が門番竜の巣。
俺が冒険者だった頃でもやらない奇行だ。
笑ってしまったね。
だが、楽しかった。
また、街で商会のお偉いさんを護衛する仕事もなかなかハードだ。
なんだかんだと狙ってくる奴が多いからな。
まっとうな殺し屋は楽だ。
判りやすい。
一番手強いのは女だな。
言い寄る振りをして……幸いなことに、商会のお偉いさんにしては身持ちが固い。
ま、なんにしても俺は商会に雇われの身。
誰が来ても撃退するさ。
ところでだ。
いつの間にか俺の背後に立っているこの女性。
誰?
会頭の知り合い?
見た感じ天使族なんだけど……知ってる天使族とは雰囲気が違うんだよな。
さっきから冒険者時代に絶対に敵対するなって言われている天使族のことを思い出している。
殲滅天使……
ティア?
まさか。
まさかねー。
ははは。
で、その、あのですね。
重要な質問なのですが……
味方ですよね?
そうだと言って!
あれ?
俺はいつの間に寝ていたんだ?
えっと……
俺の名は……なんだっけ?
思い出せ。
名前だ。
忘れるわけないよなー……えーっと。
そうだ。
大丈夫だ。
名前は思い出した。
だが、それは口にしちゃいけない。
代わりにエイトと呼ばれている。
俺は護衛だ。
表立った護衛じゃない。
陰(かげ) から対象を守る護衛だ。
それゆえ、名は明かさない。
名を知られると、そこから様々な情報が流出するからだ。
それは護衛する対象に悪影響を及ぼすかもしれない。
だから名前を徹底して隠す。
そんな護衛の俺だが……
どうしてこんな場所で寝ていたんだ?
ビッグルーフ・シャシャートという馬鹿みたいにデカい建物の屋根の 梁(はり) の上だ。
いや、ここで見張っていたから自分で登ったのだろうが……
仕事中に寝た?
俺が?
見れば相方も寝ている。
他の仲間もだ?
なぜだ?
魔法でも掛けられたのか?
身の回りをチェックするが、盗まれた物はない。
つまり……
俺は慌てて、下の護衛対象をチェックする。
俺たちが護衛する対象は、どこかの村から派遣されてきたマルコスとポーラという二人。
あと、可能ならその周辺の人物や施設。
ミスったかと思ったが、いつも通りに繁盛している店だ。
マルコスとポーラは忙しなく動いている。
問題は無いようだ。
んー……
じゃあ、なんだ?
下には、護衛対象以外に、余所から派遣されている護衛たちがいる。
互いに存在は確認しているが、目的が同じなので協調体制だ。
店に入らず、外の通りから見張っている勢力。
客を装い、カレーを食べながら交代で見張る勢力。
ミニボウリングを楽しみながら、見張っている勢力。
……
この前、護衛たちで集まってミニボウリング勝負をやったが、俺たちは二位だった。
くそ。
あの七番レーンの奴。
やたら上手かった。
今度、練習しよう。
……
とりあえず、相方を起こすか。
何か知っているかもしれない。
「ひぃぃぃっ」
起こした相方はパニックだった。
おいおい。
こんな場所で暴れるな。
落ちるぞ。
まったく、どうしたんだ?
「く、蜘蛛、蜘蛛だ……」
「蜘蛛?」
「ああ、デススパイダーだ」
……
相方は何を言っているのだ?
デススパイダー?
そんなのがこんな場所に出たら、街が無事なわけがない。
大体、俺たちはこんなにのんきに会話してないだろう。
デススパイダーに遭遇するということは、死ぬということだから。
……
まさか、俺たちがすでに死んでいるってことは……ないよな。
ツネった頬が痛い。
現実だ。
つまり、デススパイダーは相方の見た夢ということだ。
「お前が蜘蛛嫌いだとは知らなかったぜ」
「ち、違う!
本当にいたんだ!
見た奴が次々と気絶して……お前も気絶したんだぞ!」
「んー?
いや、確かに寝てたけど……覚えがないなぁ。
えーっと……うっ、頭が……頭が何かを拒否するように痛い」
思い出しちゃ駄目と言っているようだ。
マジか。
本当にデススパイダーがいたのか?
俺は周囲を捜す。
いない。
……いないな?
ふう。
やっぱり夢だよ。
ははは。
おっと。
余所から派遣された護衛たちから、あんまり目立つなと怒られた。
すまない。
夢、夢。
ちゃんと護衛やろうぜ。
俺の名はゴーロ。
なかなか良い主人に出会えた魔犬だ。
犬のように扱われているが、魔獣だ。
それなりに凶暴と思っている。
まあ、世話をしてくれるちっちゃい連中に牙を立てるほど落ちぶれちゃいない。
俺が牙を立てるのは……主人や世話してくれるちっちゃい連中を害そうとする者たちだ。
ふふふ。
今日もいつもの散歩コース。
最近の主人は、大きな家で働いているので、帰りまで決められた場所で待機。
俺ぐらいになると通り掛かった犬を威嚇したりはしない。
そんなことをしなくても、向こうが勝手に逃げてくれる。
おっと、この大きな家に住んでいる男は要注意だ。
ヤバイ匂いがプンプンする。
その男の横にいる女も。
まあ、その匂いもカレーだったか? 刺激的な匂いでかなり薄まっているがな。
主人は美味そうに食っているが、俺には合わないかな。
味付けはアッサリがいい。
……
あれ?
えっと……あれ?
身体が動かない?
汗が噴き出す。
え?
え?
えええええええええ?
なに、なに?
どうした?
尻尾が丸まってる?
あ、足が震えて……
駄目だ。
主人を守らなきゃ。
……
「気絶しちゃったわね」
「ハクレンさんが気配を出せば、そうなるに決まってるじゃないですか」
「え?
私が悪いの?」
「い、いえ、そんなことは……逃げなかったのは、なかなかの忠犬だなって」
「そうね。
店内の様子は?」
「問題ありません。
昨日はちょっと大変でしたけどね」
「そう。
わかっていると思うけど……」
「お任せを。
このガルフ、全力で」
「よろしくね。
……ところで、あそこにいる男。
気にならない?」
「え?
小物っぽいですが……」
「私の勘は当たるの。
注意しておきなさい」
「わかりました」
「あと、その犬も……起こしてあげてね」
「はい」
俺は大樹の村に住む、クロ様の群れの一員。
普通のインフェルノウルフだ。
名前はまだない。
ボスが街に行くとかで、大樹の村は大騒ぎだ。
ボスと同行できる連中が羨ましい。
俺も同行したいが、どうもインフェルノウルフは街などでは嫌われているらしく、姿を見せるのはよろしくないらしい。
残念だ。
ボスが出かけた後、ボスに始祖さんと呼ばれる男がすぐに戻ってきた。
今度は何人かのボスの女を連れていくようだ。
まさか……いや、主導権は女のほうか。
大変だな。
ん?
ザブトン殿の子も行くのか。
バレないようにしろよ。
……
また戻ってきた。
人を集め……また行くのか。
ご苦労様。
……
夜になると……女が先に戻って……その後でボスたちか。
向こうで合流していたのかな?
翌日も……また別で移動か。
なにをしているかしらないが……
始祖さんと呼ばれている男、頑張れ。
「本日の報告」
「村長は店からあまり出ていないわね。
移動時はガルフが傍にいるので、問題無いわ」
「お客の一部が村長に言い寄っていたので威圧しておきました」
「店内にいるのは魔王に派遣された護衛のようですね。
複数いたので、惑わされました」
「海のほうも安全ね。
近くに海で生活する種族の集落がいくつかあったけど友好的だったわ」
「なんにせよ。
こちらが心配した事態にはなっていないようです」
「一安心ね」
「ええ。
私は信じていましたけどね」
「あ、こら。
裏切る気?
みんなで疑ったでしょ」
「そうだけど……貴女たちだって信じていたでしょ。
村長が女性のいるお店に通ったりしないって」
「当然です」
「もちろんです」
「ということで……私たちがこっそりと付いていったことは、極秘で」
「ええ」
んー……なんだろう。
最近、みんなの仲が良くなった?
「え?
そうですか?
前から仲は良いですよ。
ねー」
「ねー」
……
一応、俺もなんだかんだと彼女たちと長い付き合いだ。
彼女たちが何か隠しているのは察した。
……
よし、気付かなかったことに。
大樹の村は平和だった。