軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06話 愚かなローザの失敗

「ローザ、お前は王都から出たほうが良い。タラの伯母さんのところへ行け」

父ノイマン男爵にそう言われ、ローザは戸惑った。

「ど、どうして?」

「ローザには悪い噂が立っているからだ」

「でも私は、テオバルド様を待たないと……」

「ローザが王太子妃になるなど有り得ん」

「でもテオバルド様は……」

「いい加減に目を覚ませ」

ノイマン男爵は深い溜息を吐いた。

「ローザ、お前はテオバルド殿下と結婚する約束をしたと言ったが。それならテオバルド殿下は何故、私に挨拶に来ないのだ?」

「それは、まだフィーネ様との婚約解消ができていないからで……」

「婚約解消ができていても、いなくても、結婚する気があるならまず父親に挨拶に来るはずだ。娘に口約束だけして、父親に会いに来ない男など、まともな男ではない。父親に内緒で娘と親しくなろうとする男は、世間知らずの娘を騙そうとする悪い男だ」

「テオバルド様は王太子よ。そんな変な人じゃないわ」

「王太子でも悪い男はいる。それからな、テオバルド殿下とハルトヴィヒ公爵令嬢の婚約はとっくに破棄された。ハルトヴィヒ公爵側からな」

「え?!」

「娘をないがしろにされたハルトヴィヒ公爵が隣国に寝返ったのだ。それで戦争になるかもしれんのだ」

「戦争……?」

あまりにも非日常的な話でローザは理解が追い付かなかった。

ノイマン男爵は説明を続けた。

「ローザはハルトヴィヒ公爵令嬢に恥をかかせた。命を狙われるかもしれん」

「そんな……まさか、そんなこと……」

「公爵家ならそのくらいのことはやる」

ローザは父ノイマン男爵の命令で、田舎の伯母の家に行くことが決まった。

「ここも危ないかもしれない」

ローザは田舎の伯母の家でしばらく過ごしたが。

王都から届いた手紙を読んだ伯母は、深刻な顔をしてローザに言った。

「親戚関係なんてすぐに調べがつくわ。ローザを探そうと思えば、ここはすぐに見つかってしまう」

ローザは王都から届いた手紙を読ませてもらった。

それはローザの母からの手紙で、王都での状況や情勢などが書かれていた。

ハルトヴィヒ公爵領に討伐軍が向かったこと。

ハルトヴィヒ公爵の離反の原因である婚約破棄をしたテオバルド王太子は、資質が疑われ、廃太子を要求する声が高まっていること。

そしてローザが、王太子を誘惑した悪女だと罵られていること。

悪女ローザの実家であるとしてノイマン男爵家は窮地に立たされたこと。

「嘘……」

ノイマン男爵は、男爵位を返上する決意をしたこと。

そしてノイマン一家は王都を離れる準備をしていること。

「どうして、こんなことに……」

「ローザが王家や公爵家に関わってしまったからよ」

伯母は暗い顔で言った。

「学院の中では、高位の方々とも対等にお話ができるから感覚が狂ったんだろうけど。高位の方々に軽々しく関わってはいけないのよ」

そしてローザは、さらに田舎の修道院へ行くことになった。

辺境の修道院で、ローザは風の噂で情勢を知った。

「ハルトヴィヒ領は隣国の領土になったんだって」

「王太子が悪女に引っかかったせいで……」

「悪女ローザは病死したっていうけど本当かねぇ」

「逃げたに決まってるよ」

(こんな田舎にまで……)

バラク王国の端っこの片田舎にまで、悪女ローザの名は知れ渡っていた。

ローザは、広大な領土を隣国イルディアに取られる原因となった婚約破棄の中心人物の一人なのだから当然といえば当然だった。

だがそれだけではなかった。

ローザは知らなかったが、王家は、ローザを悪女に仕立て上げ、ローザがテオバルド王太子をそそのかしたという噂を広めていた。

テオバルド王太子の罪を軽くするためだ。

国中に悪女ローザの名が轟いているのは、王家の努力の賜物だった。

しかし今や、テオバルド王太子の身柄は隣国イルディアのハルトヴィヒ公爵に引き渡されていた。

だから現在は、ローザを悪女として、テオバルド王太子を被害者のように仕立て上げる必要は無くなっている。

だが悪女ローザの噂は今でも一人歩きをしていた。

(もう、一生、本当の名は名乗れないわ……)

ローザは、マリアというありきたりな名を名乗ってこの修道院にいた。

悪女ローザの名が広まっているから偽名を使ったほうが良いと、伯母にそう言われたからだ。

伯母の言う通り偽名を名乗って良かったと、ローザはすぐに実感した。

ローザが思っているよりも、ローザの名は広く知れ渡っていたから。

この修道院でローザの本名と事情を知っているのはただ一人、修道院長だけだった。

「隣国に引き渡された王太子は、やっぱり処刑かね」

「そりゃそうだろう。公爵令嬢に恥をかかせたんだから」

王立貴族学院にいたころには想像もしていなかった厳しい現実に、ローザは打ちひしがれた。

(私は何て愚かだったのかしら……)

王立貴族学院は、日常とは違う特別な場所だったのだと今のローザには痛いほどに良く解った。

そして自分がどれだけ愚かだったのかも。

――まともな結婚がしたいならテオバルド殿下から離れなさい。

公爵令嬢フィーネが言っていたことが正しかったということが、今のローザには理解ができた。

そしてテオバルド王太子が、どれだけ空疎な言葉を吐いていたのかも。

――安心しろ、ローザ。私が付いている。

(付いていてくれなかったわ。連絡すらなくなった)

――そなたは王太子妃になるのだ。

(なれなかったわ)

――ローザは私と結婚するのだ。

(結婚してくれなかったくせに)

――政略といえば政略だが、今の時代さほど意味はない。

(ハルトヴィヒ公爵が離反してしまったようだけれど?)

テオバルド王太子は耳に聞こえが良い甘い言葉を吐いていたが、すべて中身が無い言葉だった。

全部、嘘だった。

(私はずっと浮かれていて、真実が見えていなかったんだわ……)

ローザは修道院で、鬱屈とした後悔の日々を過ごしていた。

だが、ある日……。

「ローザ・ノイマンさん」

「……っ?!」

客人だと言われて、ローザが修道院の面会室へ行くと。

そこには知らない男がいて、マリアという偽名を名乗っているローザを本当の名で呼んだ。

「ローザさん、我々と一緒に来てもらいます。さる尊いお方がご所望なさっています。どうか大人しく従ってください。決して危害は加えません。ローザさんにも、……ご家族にも」

(家族にもって……?!)

ローザは目の前の男の言葉を理解した。

目の前の男は、ローザの家族の居場所を知っていて、家族を人質にして、ローザに同行を命令しているのだ。

「はい、解りました……」

ローザは男の命令に従った。

「ご理解いただけて大変嬉しく思います」

その男は、ローザをハルトヴィヒ領へ連れて行った。

関所を通り、行く先がハルトヴィヒ領だと解ったとき、ローザは男の主が誰なのかを覚った。

ローザを、今は隣国となったハルトヴィヒ領に呼び寄せる者など、ハルトヴィヒ公爵令嬢フィーネしかいない。