軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話 最強夫婦と新しい命。これからも推し(と家族)を全力で愛で続けます!

あの大規模な防衛戦と莫大な 賠償金(カツアゲ) の獲得から、数年後。

フェルド辺境伯爵領は、もはやこの国の誰がどう見ても“辺境の貧乏なド田舎領地”などではなかった。

春になれば、私のチート魔法で再生した地平線まで続く広大な農地が、黄金色の麦の穂を風に揺らす。

夏には、増築を重ねて超豪華になった極上の温泉街へ、王都や他国からの裕福な旅人が癒やしを求めて押し寄せる。

秋には、活気に満ちた巨大な市場と収穫祭で人が溢れ。

冬には、第三工場までフル稼働で作られる『雪花菓子』と『蜂蜜乳菓』が、王都どころか他国の上流階級の茶会までを完全に魅了し、支配している。

魔物除けの堅牢な城壁は最新の技術で整えられ、物流の要である巨大な石橋は補修され、豊かな水路は磨かれ、領民たちの働く工房は増え、街道は常に商人の馬車で賑わい、街を歩く人々の顔には、ちゃんと『希望に満ちた明日の色』があった。

ええ。

我ながら、前世の社畜スキルをフルスイングした、大変見事で完璧な領地経営(推し活)である。

もっとも、それを支えているのは当然、私一人ではない。

この豊かな領地を強靭な武力で外敵から守り、的確な判断を下し、誰よりも領民から深く信頼され、敬愛されている無敵の辺境伯――私の最愛の夫、クライス・フェルド。

そして、その私たちのすぐ隣で、今日も元気いっぱいに太陽の下を駆け回る、ちいさな愛の結晶たる『二つの命』。

「おかあさまーッ!」

雲一つなく晴れ渡った空の下。

フェルド辺境伯爵邸の広大な庭園を、キラキラと銀色の髪を揺らしながら駆けてくる小さな女の子がいた。

日に透けるような、ふわふわの銀髪。

私と同じ、ぱっちりとした紫の瞳。

よく食べてよく眠る頬はやわらかく、笑うとぽわんと花が咲いたみたいに最高に可愛らしい。

私たちの愛娘、リリアである。

そして、そのリリアの少し後ろから、「転ぶぞ」とやや無言気味に、けれど過保護な確かな足取りで見守るように確実についてくる男の子。

こちらは、DNAの奇跡というべきか、完全に父親似だ。

すでに完成されている端正な顔立ちに、知的な蒼い目。年齢のわりにキャッキャと感情を表へ出しすぎないクールなところまで、驚くほどクライス様へそっくりである。

私たちの愛息、エルだ。

「おかあさま! みて! おはなが、とってもきれいです!」

リリアが両手いっぱいに野花を抱えて、私の前でピタリと止まる。

「まあ」

私はしゃがみ込み、その少し不格好で愛らしい花束を見る。

「本当に、世界一綺麗ですわね」

「えへへ! リリアが、おかあさまのためにえらびました!」

「そう」

私は嬉しさで泣きそうになりながらニッコリ笑って、その小さなあたたかい頭を撫でた。

「さすがお目が高い、私の自慢の娘ですわ」

すると、後ろで控えていたエルが、少しだけ悔しそうに眉を寄せる。

「……ぼくも、一緒にえらんだ」

「まあ」

私は今度は、クールな息子へ向き直る。

「エルも一緒に選んでくれたの?」

こくり、と照れたように小さく頷く。

ああ。

可愛い。尊い。

本当に、呼吸を忘れるほど可愛い。

娘のリリアは私似で、表情豊かで天真爛漫で愛嬌がある。

息子のエルはクライス様似で、少し口数が少なく不器用で、でも本当はとても家族思いで優しい。

しかも、どちらも圧倒的に顔が良い。

当然である。両親の遺伝子が最高なのだから。

(ああもう、私立フェルド保育園、最高ですわね……!!)

前世の、激務で過労死寸前だった私よ、聞こえるかしら。

あなたが死ぬ直前まで狂うほど愛していた『乙女ゲームの推し』は、結婚してもなお世界一格好よく、その上、二人の間に生まれた子どもたちまで最高に尊いですわよ。

人生、諦めずに推し活を極めれば、何が起きるか分からないものですわね。

「ルシア」

低く、甘く落ちた声に、私はハッと限界オタクの顔を上げた。

庭園の向こう、キラキラとした木漏れ日の中を真っ直ぐに歩いてくるのは、私の最愛の夫――クライス様。

相変わらず、直視すると目に悪いほど格好いい。

数年経っても、その国宝級の顔面偏差値に衰えなど一切ない。

むしろ、二児の父になり、領主としての絶対的な落ち着きと大人の深みが増した分、色気の破壊力は致死量まで上がっている。

そして何より。

その分厚い片腕には、先ほどまで息子と遊んでいたらしい、小さな木剣が一本抱えられていた。

「あ」

私は思わず、オタク特有のキラキラとした目で目を輝かせた。

「クライス様、今日も朝からエルと剣の稽古を?」

「少しだけな。こいつは筋がいい」

クライス様が優しく答える。

その大きな足元へ、リリアがパタパタと走っていって抱きついた。

「おとうさま!」

「何だ、リリア」

「リリアも! リリアも、けん、します!」

「お前はまだ早い。剣より重いだろう」

「えー!」

「まずは広場を三周走ってからだ」

「もうはしってるもん!」

「そうだな。お前は元気すぎる」

クライス様の声は、どこまでも静かだ。

けれど、かつて王都で“血の通わない氷の騎士”と恐れられていた頃の冷たさとは、完全に別物だ。

私や子どもたちへ向ける時だけ、明らかに声の温度が、春の陽だまりのようにあたたかくやわらかい。

ああ。

尊い。

本当に、どこをどう切り取ってもスチルにして飾りたいほど尊い。

一方で息子のエルは、父の持つ木剣へ憧れるようにジッと熱い視線を向けていた。

それに気づいたクライス様が、小さく問う。

「まだやるか、エル」

「……うん。おとうさまみたいに、強くなる」

「では来い」

「はいッ」

そうして芝生の上で始まる、父と息子の朝の軽い手合わせ(稽古)。

手加減して木剣を振るうクライス様の姿は、当然ながら一切の無駄がなく、芸術品のように美しい。

そして、その大きな背中(型)を一生懸命に真似ようとする小さなエルもまた、まだ拙いながら驚くほど真っ直ぐで筋が良い。

私はその眩しい光景を日傘の下で眺めながら、胸の前でこっそり祈るように手を組んだ。

(ああああ……!!)

推しが。

私の最推しが、立派な父として、息子へ優しく剣を教えている。

しかもその息子は、推しの遺伝子を完璧に受け継いだミニチュア版。

それを私は、朝の庭園の特等席(最前列アリーナ)で、美味しいお茶を飲みながら妻として見ている。

何ですの、この致死量の幸福空間は。

前世の徳をどれだけ積めば、こんなご褒美がもらえるのでしょう。

「おかあさま?」

ふと、リリアが私の足元で、不思議そうに顔を見上げた。

「おかあさま、どうしたの? おかおが赤いよ?」

「いえ、その」

私は慌てて、限界化しそうな笑顔を淑女の仮面で取り繕う。

「少々、朝から『尊さ』の過剰摂取で胸がいっぱいになっておりましたの」

「とうとい?」

「ええ」

私は大真面目な顔で深く頷く。

「あなたのお父様とお兄様が、あまりにも素晴らしくて格好よくて、胸が苦しいのですわ」

「そうなの!」

リリアがパッとひまわりのように顔を輝かせる。

「リリアもそうおもう! おとうさまとおにいさま、すっごくかっこいいの!」

「存じておりますわ! 全く同感です!」

私は娘と固い握手を交わし、勢いよく同意した。

するとリリアは、嬉しそうに両手をパタパタさせた。

「リリアも! リリアも、おとうさますっごくすき!」

「まあ」

「でもね、でもね! リリアは、おかあさまがせかいでいーちばんだいすき!」

「……ッ」

だめですわ。

可愛すぎて、私の心臓が爆発四散してしまいます。

私はたまらず、愛しい娘をギュッと抱き上げた。

やわらかい。あたたかい。

お日様とミルクの良い匂いがする。

そして私の腕の中で、キャッキャと嬉しそうにくすくす笑っている。

「おかあさま、またうれしくてないてるの?」

「これは、オタクの感動の涙ですわ」

「かんどう?」

「ええ。幸福の許容量をオーバーした時、人は自然と少し泣くものなのです」

「へんなのー!」

「その通りですわね」

手合わせを終えたクライス様が、そんな私たちを汗を拭いながら見つめ、小さく息を吐く。

呆れているのかと思えば、その目元は世界中の誰よりも優しくやわらかかった。

「朝から、相変わらず騒がしいな。俺の妻と娘は」

「だって」

私は娘を抱いたまま、満面の笑みで笑い返す。

「幸せなのですもの。生きててよかったですわ」

「……大袈裟な奴だ」

「クライス様も、そうでしょう?」

「……1ミクロンも、否定はしない」

その短い、愛に満ちた不器用な返答だけで、私の胸がジンワリとあたたかさで満たされる。

◇ ◇ ◇

その日の午後、フェルド辺境伯爵領の領都では、年に一度の盛大な『大収穫祭』が開かれていた。

領都は朝から、身動きが取れないほどの大賑わいだ。

活気ある市場には色とりどりの豊かな果実と麦が山のように並び、増築された豪華な温泉街では他国からの旅人たちが笑い、お菓子工房の前では新作の『雪花菓子の限定プレミアム詰め合わせ』を求めて、徹夜組が出るほどの長蛇の列ができている。

そして、領都の広場の中央には。

「……結局、建ってしまったのですわね」

私は視察の馬車から降りて、頭痛を堪えるように遠い目になった。

そこには、かつて私が「絶対にやめてくださいまし!」と全力で阻止したはずの“豊穣の女神像”が、なぜか『小型のブロンズ像』としてちゃっかりと広場のど真ん中に建っていたのである。

もちろん、顔は巧妙にボカされている。

あくまで神話の“女神像”であって、 私(ルシア) に似せたものではない、というハインツさんたちの苦しい建前だ。

建前なのだが。

どう見ても、私のプロポーションと髪型ですわよね、これ。

「おかあさま!」

リリアがその像をキャッキャと指差す。

「あれ、おかあさまだ!」

「違いますわ」

私は即答した。

「あれは架空の女神様です」

「でも、おかあさまにそっくり!」

「他人の空似です」

「そっくり!」

「違います」

「……いや、控えめに言っても、お前に激似だな」

クライス様まで、面白そうに真顔で口を挟んできた。

「クライス様!?」

私は振り返って抗議した。

「そこは夫として、全力で否定してくださいまし! 恥ずかしいですわ!」

「だが事実だ。俺の妻の美しさがよく表現されている名作だ」

「また息をするようにそれですのね!?」

「そうだ」

「本当にもう……!」

だが、周囲のお祭りムードの領民たちは、そんな私たち夫婦の漫才のような反応も含めて、最高に楽しそうだった。

「あっ! 伯爵様ご一家だ!」

「奥方様ーーッ! 今年のスイーツも最高です!!」

「エル様! リリア様! こっち向いてー!」

「奥方様の魔法のおかげで、今年も大豊作です!」

「温泉街も予約で一年先まで大入りですよー!」

四方八方から飛んでくる、熱烈な歓声。

豊かな笑顔。

私たちに向かってちぎれるほど手を振る子どもたち。

ああ。

これだ。

この幸せな光景のために、私たちは王都の権力を捨てて、辺境で泥まみれになってここまでやってきたのだ。

「ルシア」

クライス様が低く呼ぶ。

「何ですの」

「前を見ろ」

視線を向けると、広場の向こうから老人が一人、杖をつきながらゆっくりとこちらへ歩いてきていた。

あの、貧しかった農地再生の頃からずっと世話になっている、村の農夫頭だ。

彼は私たちの前まで来ると、涙ぐみながら深々と頭を下げた。

「奥方様、伯爵様」

「どうなさいましたの。お顔を上げてくださいな」

「今年も、蔵に入り切らないほどの良い実りになりました」

その日焼けした皺だらけの顔に、心からの満ち足りた笑みがあった。

「領民みんな、涙を流して言っております。あの絶望の年に、お二人がこの領地へ来てくださらなければ、俺たちの今の命と笑顔はなかったと」

「……」

「本当に……本当に、ありがとうございます」

その重みのある心からの一言に、私の胸の奥が、ジワリと熱くなる。

私はそっと、女神のように優しく笑った。

「こちらこそ、ですわ」

「……奥方様」

「この領地で、皆様と一緒にこうして毎日笑ってご飯を食べられることが、私にとって何より一番嬉しいのですわ」

老人は涙を拭って何度も頷き、それから目を細めて、私の足元にいるエルとリリアを見る。

「本当に、立派で可愛らしいお子様方ですな。フェルド領の未来は明るい」

「ええ」

私はフンスと自慢げに胸を張った。

「私の最愛の推しと、私の最高の子どもたちですもの」

「おかあさま」

エルが、少しだけ不思議そうに私のドレスの袖を引いた。

「……ぼくたち、推し、なの?」

「もちろんですわ」

私は大真面目な顔で答える。

「ママにとって、人生最高の推し(尊い存在)です」

「ルシア、それは言葉の意味が少し違うぞ」

クライス様がボソリと冷静にツッコむ。

「いいえ、全く違いません。私の愛の形ですわ」

「そうか。お前がそういうなら、そうなんだろうな」

「そうですわ」

リリアが意味もわからずキャッキャと笑い、エルが少しだけ「おとなはふしぎだ」と困った顔をする。

その隣で、クライス様は「敵わんな」というようにまた小さく息を吐いた。

だが、その整った耳がほんの少しだけ、照れたように赤い。

ああ。

ええ。

この景色、本当に最高ですわね。

◇ ◇ ◇

大盛り上がりの収穫祭の最後には、恒例になりつつある『領主一家からの挨拶』があった。

広場に高く組まれた、花で飾られた木の舞台へ上がる。

その足元には、広場を埋め尽くすほどのビッシリと集まった領民たち。

旅人も、商人も、温泉客も、皆が期待に満ちた目で私たちを見上げている。

エルは少しだけ大勢の視線に緊張しているらしく、クライス様の大きな手をギュッとしっかり握っていた。

リリアは逆に、全く物怖じせずに目をキラキラさせながら「やっほー!」と手を振っている。

ああ、本当にそれぞれの性格がよく出ておりますわね。

「皆様」

私がクライス様に促されて一歩前へ出ると、お祭りの喧騒に包まれていた広場が、水を打ったように静まった。

あたたかい風が吹く。

麦と果実の実りの匂いがする。

温泉の白い湯気が、少し遠くの山で平和に揺れている。

この領地の、どこもかしこも、すべてが愛おしい。

「今年も、無事に素晴らしい大収穫祭を迎えることができましたわ」

ワァァッ!! と割れんばかりの歓声が上がる。

私はその音を全身で受け止めながら、扇を閉じて続けた。

「数年前、この地はまだ貧しく、たくさんの悲しい痛みを抱えておりました」

「……」

「でも今は、全く違います」

「……」

「皆様が諦めずに努力し、支え合い、この領地を私たちと一緒に豊かにしてくださったからです」

「……!」

「私たち家族も、その素晴らしい輪の一員でいられることを、とても誇りに思います」

広場のあちこちで、感極まって目を潤ませる人が見えた。

私も少し、込み上げるものがあって喉の奥が熱い。

「そして」

私は、クルリと後ろを振り返る。

そこには、私のすべてであるクライス様と、二人の愛しい子どもたちが立っている。

「私には」

「……」

「世界で一番大切で、私を愛してくれる最強の夫がいて」

「……」

「世界で一番可愛くて、目に入れても痛くない子どもたちがおります」

広場から、ドッとあたたかい笑いと拍手が起きた。

クライス様が、公開ノロケに少しだけ困ったように照れて目を細める。

エルは恥ずかしさで耳まで真っ赤になっている。

リリアはよく分からないまま、でも褒められたのが嬉しくて「えっへん!」と胸を張った。

私はその家族の光景を見ているだけで、もう限界オタクとして泣きそうになってしまう。

「だから」

私は声を弾ませて、広場の全員へ向かって宣言した。

「これからも私は、この愛する領地を、皆様を、そして何より」

もう一度、愛する夫と子どもたちの方へ真っ直ぐに身体を向ける。

「私の最高の推しと家族を、これからも全力で愛で続けますわ!!」

一瞬の静寂。

それから、広場が地鳴りのように爆発したみたいな大歓声に包まれた。

「奥方様ーーー!! 万歳!!」

「最高だー!!」

「伯爵様、奥方様、一生お幸せに!!」

「エル様ー! リリア様ー! 大好きだぞー!」

「やっぱり奥方様は俺たちの豊穣の女神様だー!」

「だから! 生きている人間の像を建てるのはやめてくださいましーーーッ!!」

私の悲痛なオタクの抗議は、領民たちの平和な大爆笑にかき消された。

その時だった。

「ルシア」

低い、鼓膜を震わせる甘い声。

振り返るより早く、強靭な腕が私の腰へ回る。

そして次の瞬間、私は大勢の領民の前で、ごく自然にクライス様の密着する隣へ引き寄せられていた。

「ク、クライス様!?」

「何だ」

「みんなが見ている人前ですわ!」

「そうだな」

「そうだな、ではなく! 領主としての威厳が!」

「お前への愛を隠さないのが、俺の威厳だ。今さらだろう」

「……それも、確かにそうですけれど!」

クライス様は私の腰をグッと引き寄せたまま、広場の領民たちを誇らしげに見下ろす。

その横顔は穏やかで、満ち足りていて、やっぱり私の人生で一番、どうしようもなく格好よかった。

「なら」

彼が耳元で、私にしか聞こえない熱い声で低く言う。

「一生、俺の隣でそうして俺を愛でていろ」

「……」

「俺も」

「……ッ」

「俺の命に代えても、お前たちを一生愛し、守り続ける」

ああ。

もう。

本当に、この人は。

乙女ゲームの最終話の最後の最後まで、この最強の夫は。

こんな、ズルいくらいド直球で真っ直ぐな愛の言葉を、何でもない顔で私にくれるのだ。

「クライス様」

「何だ」

「それは、オタクの心臓にとって、かなり火力が致死量ですわ」

「ただの、俺の魂からの本音だ」

「そこが一番、私の理性を吹き飛ばすから危険なのです」

「知っている」

私はとうとう、幸福に耐えきれずに吹き出して笑ってしまった。

嬉し涙までジワリと滲んでいたけれど、それでも最高に幸せに笑った。

その横で、エルが少しだけ「おとなはいつもイチャイチャしてる」と困った顔をしながら、でも嬉しそうに私たちを見上げている。

リリアは「おとうさま、おかあさま、だぁーいすきー!」と舞台の上で元気よくバンザイして叫んでいた。

空はどこまでも青く高い。

風はあたたかくやわらかい。

領地は圧倒的に豊かで、愛する家族の体温はあたたかい。

前世で、クソ上司にこき使われて過労死寸前まで働いていた、ただの社畜OLだった私が。

乙女ゲームの悪役令嬢『ルシア』へ転生して。

バカ王太子からの婚約破棄をきっかけに、最推しの側仕えを目指して奮闘して。

気づけば、その推しの最愛の妻になって。

魔法で領地を立て直して、隣国をボコボコにして。

こんなに可愛い子どもたちに恵まれて。

そして今。

この世界の誰よりも恵まれた『特等席』で、こんなにも幸せに心の底から笑っている。

(ああ……)

私は胸の奥で、静かに、でも確かな実感を持って強く思った。

――限界オタク令嬢に転生した私の人生、控えめに言って、 最高(ハッピーエンド) ですわ!

そうして、限界オタク令嬢ルシア・フェルドの波乱万丈な物語は終わる。

王太子妃という窮屈な座を自ら蹴り捨てた日から始まった、私の推し活と、溺愛と、スカッとざまぁの人生は。

最後には、最愛の夫と、愛しい子どもたちと、豊かな領地と、笑顔あふれる日常へと見事にたどり着いた。

これから先も、きっと領地経営で色々あるだろう。

子どもたちはどんどん大きくなるし、領地の特産品はもっと発展するし、私は多分、これからもオタクの血が騒いで時々チートでやりすぎる。

そのたびに、クライス様はきっと呆れながらも「仕方ないな」と私を甘やかして、絶対的な味方として隣にいてくれる。

でも、それでいい。

それがいい。

だって、私はもう知っているのだ。

推しを全力で愛でる人生は、最高に楽しい。

そして。

推しと家族に愛されながら、共に生き続ける人生は、その何億倍も、圧倒的に最高なのだと。