作品タイトル不明
第47話 領民から完全に「女神」として崇拝される妻と、誇らしげな夫
フェルド辺境伯爵領は、日に日に『おかしな方向』へと急速に進化していた。
もちろん、領地経営としては極めて良い意味で、である。
魔法で一瞬にして農地は蘇った。
地下水脈から水路は生き返った。
超高級スパ温泉は連日大盛況で湯気を立て。
私の前世知識を注ぎ込んだ焼き菓子は、王都や他国で飛ぶように売れに売れ。
領都の市場には活気が戻り、城壁の補修は進み、備蓄倉庫の中身は以前とは比べものにならないほど充実している。
つまり、私が手掛けた領地改革(チート内政無双)そのものは、非の打ち所がないほど順調だった。
順調だったのだが。
「……何ですの、あれは」
私は朝の市場視察の途中で、ピタリと足を止めた。
視線の先。領都中央の広場の端。
もともと古びた水瓶置き場があったはずの一角に、何やら異様な熱気を持った人だかりができている。
しかも、ただの人だかりではない。
子どもが花を捧げ置き、老女が感極まった顔で手を合わせ、若い職人たちがメジャーを持って大真面目な顔で何かを測っている。
その中心には、白い布で仰々しく覆われた、巨大な木組みの台座があった。
嫌な予感しかしない。
限界オタクの危機察知センサーが、激しく警報を鳴らしている。
「クライス様」
「何だ」
「平和な市場視察が、急に 不穏(ホラー) な空気を帯びてまいりましたわ」
「お前の行く先では、いつものことだろう」
「そう言われると反論しづらいのが、大変つらいところですわね」
隣を歩いていた愛する夫(クライス様)は、相変わらず落ち着いていた。
最近は領地全体の空気もだいぶ明るく変わり、この方の肩の力も少し抜けて、よく微笑むようになったと思う。
もっとも、大勢の領民の前で私を“俺の愛する妻だ”とドヤ顔で当たり前のように紹介してノロケる悪癖は、抜けるどころかむしろ日々強化されているが。
……いえ、その恥ずかしい話は今ではない。
私は足早に、その異様な人だかりへ近づいた。
すると、真っ先にこちらへ気づいた若い石工の職人が、パッと顔を輝かせる。
「お、奥方様!」
「伯爵様も!」
「おお、ついに女神様が来たぞ!」
「うわ、本物だ! 後光が射して見える!」
本物、とは何ですの本物とは。後光は気のせいですわ。
「皆様」
私は努めて穏やかに、引きつりそうな頬をごまかして微笑んだ。
「朝からずいぶん、熱気があって賑やかですわね」
「はい!」
先ほどの若い職人が、誇らしげにフンスと胸を張る。
「領民みんなの金と希望を出し合って、ついに『形』へしようかと!」
「何をですの」
「もちろん! 豊穣の女神様の『黄金像』を!」
「…………」
私の思考が、完全に停止した。
ああ。
やはり。
やはり、そういうベタな方向に狂信して来ましたのね。
私はゆっくりと、布のかかった巨大な木組みの台座を見る。
横幅。高さ。台座の重厚な形。
そして、周囲にうず高く積まれた、やけに質の良い大理石や資材の山。
「……像」
「はい!」
「豊穣の」
「はい!」
「女神」
「ええ! もちろん、奥方様をモデルにした、実物大の黄金像です!」
「やめてくださいまし!!!」
私は反射的に、淑女の仮面をかなぐり捨てて叫んでいた。
広場の鳥がバサバサと驚いて飛び立つ。
周囲の領民たちが一瞬ピタリと止まり、それからあちこちで「やっぱり怒られた」「ご本人へのサプライズにするんじゃなかったのか」「先に許可を取っておけばよかった」と小声が漏れる。
当然でしょう。
当然ですわよ。存命中の人間の黄金像なんて、正気の沙汰ではございません。
「何ですの、それは」
私は本気で頭を抱えた。
「どうしてそう極端な思考回路になるのです」
「ええと、その……」
年配の村長が、恐る恐る口を開く。
「死んだ畑を、神の御業で一瞬で戻してくださって」
「枯れた水路も整えてくださって」
「山に奇跡の温泉まで作ってくださって」
「神のお告げのお菓子で、俺たちの生活も立て直して」
「冬の飢えを完全に止めてくださって」
「皆、もう奥方様への感謝が止められなくて……奥方様は俺たちの“豊穣の女神様”だって……」
「だからといって、広場のど真ん中に黄金像を建てるのは絶対にやめてくださいまし!!」
私は両手をブンブンと激しく振った。
だが、領民たちは本気で不思議そうな、純粋な顔をしている。
まさか本人に止められるとは1ミクロンも思っていなかった、という目だ。
いや、どうしてですの。
むしろ自己顕示欲の化け物でもない限り、全力で止める理由しかございませんでしょう。
「皆様のお気持ちは、痛いほどありがたいですわ」
私はどうにか深呼吸をして、語気を整えた。
「でも、像はだめです。絶対に」
「どうしてですか!?」
若い職人が、真っ直ぐに納得いかないという目で問い返す。
「神々しくて、絶対に格好いいのに!」
「格好いいとかそういう個人の趣味の問題ではございません!」
「じゃあ、格好いいのが駄目なら、可愛い感じで」
「テイスト(方向性)を変えても駄目ですわ!!」
すると、クライス様の横から、低く抑えた声がした。
「……像、か」
私はギクリとして隣を見る。
まずい。
この人、変に興味を持っていないだろうか。
いや、持っている。
無表情な顔に出していないだけで、長年推しを見てきたオタクには分かる。多分、少し(かなり)面白がっている。
「クライス様」
「何だ」
「領主権限で、ただちに全力で止めてくださいまし」
「俺がか」
「当然ですわ。私の夫でしょう」
「別に、像くらい悪くないと思うが」
「何ですって!?」
私は本気で目を見開いた。
「黄金像ですわよ!?」
「そうだな。領地が潤っている証拠だ」
「私の、実物大の!?」
「そうだ」
「それのどこが悪くないのです!? 恥ずかしさで死にますわ!」
「領民が純粋に感謝したいんだろう。なら作らせてやれ」
「その感謝の 方法(ファンアート) が、極端で物理的すぎますわ!」
「……そうか」
「そうです!」
だが、その端正な口元が、ほんの少しだけニヤリと上がったのを、私は絶対に見逃さなかった。
「あっ」
「何だ」
「今、面白がっていらっしゃいますわね」
「少しはな」
「クライス様!」
「だが」
彼はごく自然に、大真面目な顔で続けた。
「作るなら、俺の可愛い妻の顔に、完璧によく似せろとは思う」
「そこで領民に乗っからないでくださいまし!!」
周囲の領民たちが、一斉に嬉しそうにザワつく。
「おい、伯爵様、完全に賛成寄りだぞ!」
「やっぱり奥方様にベタ惚れだからな……!」
「奥方様の黄金像、建つか……!?」
「いや、今の伯爵様の援護射撃で、むしろ建設の可能性がハネ上がったのでは!?」
増してどうするのです。
本当に、夫婦揃っての公開処刑はやめていただきたい。
◇ ◇ ◇
結局、その場は「黄金像の建設は、一時保留」にしてどうにか力技で収めた。
保留。
ええ、保留ですわ。完全却下ではなく。
なぜなら「作っちゃ駄目ですか……?」と領民たちが子犬のように本当にションボリしてしまい、あまりにも申し訳なく(心が痛く)なったからである。
「……完全却下で突っぱねてよかったのでは?」
帰り道、私は少し恨めしげに唇を尖らせた。
「そうか」
「そうですわ。保留などと曖昧にオアシスを残したら、後でまた気合の入った設計図(完成予想図)を屋敷へ持ってこられますわよ」
「それは十分にあり得るな。いや、絶対に来るだろう」
「他人事みたいに言わないでくださいまし。あなたの妻の像ですのよ」
「だが」
クライス様は、平然と胸を張って言った。
「俺は、心の底から誇らしい」
「…………はい?」
私は歩みを止めた。
誇らしい。
今、この方は確かにそうおっしゃった。
「何がですの」
「俺の妻が、領民にこれほど慕われていることだ」
「……」
「黄金像という狂信的な崇拝は、確かに行き過ぎだが」
「そうですわよ。完全にやりすぎですわ」
「それでも」
彼は足を止め、真っ直ぐに私を見る。
その蒼い目は静かで、ひどく熱を持っていた。
「皆が、お前に救われたと本気で思っている」
「……」
「それが、俺の愛する妻の成し遂げたことだという事実が……たまらなく誇らしいんだ」
胸の奥が、ジンワリと熱くなった。
ああ。
そうだ。この人は、こういう人だ。
ただ私の慌てる姿を面白がっているだけではない。
領民が私へ向ける強大な感謝と親愛を、ちゃんと自分のことみたいに、真正面から受け取ってくれている。
しかも、それを“誇らしい”なんて。
そんな風に、真っ直ぐな愛で言われたら。
限界オタクのこちらはもう、どうしていいか分からないではないか。
「……ズルいですわ」
「何がだ」
「そうやって、真面目な顔で、急に不意打ちで甘いことをおっしゃるところが」
「甘いか」
「激甘ですわ。致死量です」
「そうか」
「そうです」
「俺は、ただ本当のことを言っただけだ」
「それがオタクの心臓にとって一番の問題なのです!」
クライス様は小さく息を吐いた。
けれど、目元は少しだけ、とてもやわらかい。
私はその美しい横顔を見上げながら、胸の奥でそっと、幸せな白旗を上げるしかなかった。
◇ ◇ ◇
だが、話はそれで平和に終わらなかった。
数日後。
領都では、収穫前の『小さな感謝祭』が開かれることになった。
農地再生の奇跡的な成功、超高級温泉の開通、特産品の焼き菓子の他国への販路拡大。
全部ひっくるめて、領民たちが「ようやく未来が見えてきた」と、自発的に喜んで企画してくれたお祭りらしい。
私はもちろんそれ自体を大変喜ばしく思っていたし、クライス様も特に反対はなさらなかった。
問題は、その感謝祭での私への“扱い(待遇)”である。
「奥方様ー!」
市場通りで、おめかしした子どもたちがワッと私へ駆け寄ってくる。
その手には、綺麗な花冠があった。
「これは?」
「豊穣の女神さまの冠!」
「今日のために、みんなで作ったの!」
「奥方様、被って被って!」
「……被りませんわ!」
私は反射的に、全力で後ずさって断った。
だが、子どもたちの目が一斉にウルウルと涙ぐみ始める。
やめてくださいまし。
そういう純粋な無垢な圧力(瞳攻撃)は、オタクにとって一番ズルくて弱いのです。
「……ルシア」
隣から、絶対零度の低い声が落ちる。
「何ですの」
「被れ」
「クライス様!?」
「領民の子どもが泣く」
「でも、私がこれを被ったら、完全に 神輿(みこし) の上の女神様では……!」
「お前なら、絶対に似合うだろう」
「だから! そういうことをサラリと真顔で!!」
私は本気で額を押さえた。
だが、子どもたちは期待に満ちたキラキラした目で見上げてくる。
差し出された花冠は、意外にも大人が手伝ったのか、とても丁寧に編まれていた。
白い小花と、淡い青の野花、それに若葉の鮮やかな緑。
……悔しいけれど、確かに 趣味(センス) は悪くない。
「……今日、少しだけ、ですわよ」
「やったー!」
「女神さまが冠を被ってくれるぞー!」
大歓声が上がる。
私は屈んで花冠を受け取り、観念してそっと頭へ載せた。
その瞬間。
「「「おおおおお!!!」」」
「「「女神様バンザーイ!!」」」
何ですの、その地鳴りのような大歓声は。
広場に集まっていた領民たちが、一斉に沸き立った。
子どもは飛び跳ねて喜び、若い娘たちは憧れの目を輝かせ、老人たちはガチで手を合わせて拝んでいる。
本当にどうしてそう極端なカルト宗教みたいになるのです。
「ほら見ろ」
クライス様が低く、満足げに言う。
「やはり、とびきり似合う」
「……ッ」
私は半分泣きそうになりながら、ジトリと夫を睨んだ。
「本当に、こういう公開の場だけ火力が高いのですから」
「事実だからな。俺の妻は世界一美しい」
「その“ノロケの事実”が私の心臓に危険なのです」
「そうか」
「そうです!」
だが、その夫婦の会話がバッチリ聞こえた領民たちの盛り上がりは、さらに加速した。
「おい、伯爵様、また言ったぞ!」
「奥方様のことになると、あの氷の騎士様、本当に愛を隠さねえな!」
「仲睦まじい……!」
「いやもう、尊すぎて神々しい……!」
神々しいって何ですの。
ただの限界オタクと、不器用な夫の夫婦ですわよ。
……いえ、確かに最近、ちょっと周囲の私たちを見る目線(ファン目線)がおかしいのは自覚しておりますけれど。
◇ ◇ ◇
感謝祭そのものは、大盛況のまま進んだ。
温泉の足湯エリアは大行列。
新作の『 蜂蜜乳菓(プリン) 』は午前のうちに完売。
収穫前の農地を見学する『奇跡の畑ツアー』なるものまで勝手に始まっており、なぜか私はその説明役(教祖)に引っ張り出された。
「こちらの畑は、春先に全面的な地力の再生と土壌改良を施しましたわ」
「おおー!」
「水路は旧来の流れを活かしつつ、地下水脈から直接勾配と泥詰まりを解消して――」
「女神さま、すげえ!」
「女神さまじゃございません。領主の妻です」
「でも魔法がすごい!」
「それは否定しませんわ」
子ども相手だと、つい言い負かしきれない。
くッ、素直で可愛いのが悪いのです。
その時、後ろから護衛の領兵の一人が声を張った。
「伯爵様のお通りだ!」
ザワッ、と人の流れがモーゼの海のように割れる。
見れば、クライス様が領兵たちを連れてこちらへ来るところだった。
感謝祭の安全確認を一通り終えたのだろう。
歩いているだけで空気がピリッと締まるのに、今日はどこか機嫌が良さそうで、そのせいで余計に大人の色気が漏れて目立つ。
「クライス様」
「終わったか」
「ええ。畑の説明はひと通り」
「そうか。ご苦労だったな」
「そちらは?」
「警備は特に問題ない。平和なものだ」
「よろしゅうございました」
そう言いながら私は、照れ隠しに少しだけ頭の花冠を直した。
すると、クライス様がジッと私を見る。
「何ですの」
「似合っている」
「……今さら、大勢の前での追撃はやめてくださいまし」
「今さらではない」
「今さらですわ。十分恥ずかしいです」
「いや」
彼はごく自然に、周囲の領民全員へ聞こえる声量で、ハッキリと言った。
「俺の妻は、こういう可憐な格好も似合うんだと、改めて惚れ直しただけだ」
「ッ、」
周囲が、一斉に爆発的に沸いた。
「伯爵様ァーーー!!」
「ヒューッ!! また始まった!!」
「ほんとに奥方様にベタ惚れで大好きだな!?」
「知ってましたけど!! ごちそうさまです!!」
私は本気で、その場へ穴を掘って沈み込みたくなった。
「ク、クライス様!!」
「何だ」
「人前ですわ!! 領民全員が見ておりますわ!」
「そうだな」
「そうだな、ではございません! ノロケにも限度があります!」
「本当のことだ。妻を褒めて何が悪い」
「だから! その『本当のこと』という理屈を、万能の免罪符に使わないでくださいまし!!」
クライス様は、ほんの少しだけ口角を上げて目を細める。
ああもう。
絶対に、私の反応を楽しんでいらっしゃる。
だが、その一方で。
領民たちの心からの笑顔を見れば、怒りきれないのも事実だった。
彼らは、本当に楽しそうだった。
私が来た当初のような、冷えた諦めの顔ではない。
ちゃんと笑って、囃し立てて、私たち夫婦のやり取りを“良いもの(尊いもの)”として受け取ってくれている。
それはきっと。
この領地に、ようやく『生きる余裕と幸福』が戻ってきた証拠なのだろう。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
感謝祭の片づけを終えた私は、屋敷のテラスの長椅子で、完全にHPを使い果たしてぐったりしていた。
「……疲れましたわ」
「そうだな。お疲れ様」
隣でクライス様が、私のお気に入りの紅茶を淹れて差し出してくる。
「ほら」
「ありがとうございます」
私は受け取って、ホッと息を吐いた。
夕暮れの茜色の空。
遠くに見える、豊かな緑の畑。
風に乗って届く、祭りの笑い声の余韻。
そして隣には、当然のように腰を下ろして私を見守る、最愛の夫。
悪くない。
いや、かなり良い。
今日一日でオタクとしての羞恥心は死ぬほど浴びたが、それでも、領民たちの笑顔があったから、帳消しとまではいかずとも、だいぶ救われている。
「ルシア」
「はい」
「今日、職人たちがまた黄金像の話をしていたぞ」
「聞きたくありませんわ。私の像は建ちません」
「キッパリ断ったのか」
「保留にいたしました」
「そうか」
「仕方がなかったのですもの。あんなに目をウルウルさせてションボリされたら」
「お前は、甘くて優しいな」
「普通ですわ」
「……」
「何ですの」
「そういう、俺に似て不器用に優しいところが、いい」
「……ッ」
もう。
本当に、この人は。不意打ちの天才か。
私は紅茶を一口飲み、赤くなった顔を隠すように少しだけ頬を膨らませた。
「黄金像だけは、絶対に阻止いたしますわ」
「俺は、少し見てみたいがな」
「クライス様」
「何だ」
「本気で作らせたら、離縁案件ですわよ」
「……それは困る。絶対に困る」
「でしたら止めてくださいまし」
「善処する」
「今のは、全く信用できませんわね……」
クライス様は小さく息を吐き、それから静かにテラスの外の領地を見た。
「でも」
「はい」
「領民が、お前を心から信じているのは分かる」
「……」
「俺も、同じだ。お前を完全に信じている」
私は、言葉を失った。
夕暮れの光の中で、その横顔はひどく穏やかだった。
剣を握る時の絶対零度の鋭さでもなく、公の場で領民を率いる時の厳しさでもなく。
ただ、静かに、当たり前のように『愛する妻への絶対的な信頼』を置いている顔。
そんな顔を向けられると、どんな甘い言葉より効いてしまう。
「……それは、光栄ですわ」
やっとのことでそう返すと、クライス様は少しだけこちらを見る。
「光栄?」
「ええ」
私は小さく、心から幸せに笑った。
「愛する推し(夫)にここまで信頼されるなど、限界オタク冥利に尽きますもの」
「まだ言うか、その言葉」
「今後も一生申し上げますわ。私の原動力ですから」
「そうか」
「そうです」
「なら」
クライス様はごく自然に、私の肩をグッと力強く抱き寄せた。
「一生、俺の隣で、俺への愛を言っていろ」
「…………」
またしても。
またしても、この方は。
本当に、何食わぬ顔で、とんでもない火力の爆弾を放つのだから。
私は肩へ預けられたその大きな重みと温かさを感じながら、そっと目を閉じた。
領民たちからは女神と呼ばれ。
子どもには花冠を載せられ。
黄金像まで建てようとされ。
その上で、愛する夫はそんな私を誇らしげに見て、当然のようにずっと隣へ置いてくれる。
……ええ。
少々、限界オタクの人生としてはおかしいかもしれませんわね。
けれど。
そんなおかしさ(規格外の幸福)ごと、今の私はたまらなく幸せだった。
フェルド辺境伯爵領では今日も、誰もこの最強夫婦のバカップルぶりを止められない。
そして多分、明日からもずっとそうなのだろう。
それはきっと、領地が最高に平和になったという、何より喜ばしい証拠なのである。