軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 テントの中の密着お説教

その夜。

野営地の最奥に張られた、防音と結界が完璧に施された副団長専用天幕は、ひどく静かだった。

外ではまだ遠征隊が慌ただしく動いている。

残敵の掃討確認、警戒線の再構築、 地竜型(アース・ドラゴン) 出現の報告整理、負傷者の手当て。焚き火の爆ぜる音、遠くで交わされる低い声、甲冑の擦れる気配。

そういった戦場の喧騒は確かに外にあるはずなのに、この天幕の内側だけは、まるで世界から切り離されたように音が薄い。

その中心にいるのは、クライス。

左肩から胸元にかけて分厚く包帯を巻かれ、上半身の外套と上衣を脱いだ(つまり半裸の)まま、簡易寝台の端へ腰掛けている。

そして、その正面に正座しているのが、私。

……ええ。分かっておりますとも。

状況が状況だということは。

傷ついた推し。

防音の天幕の中。

完全に二人きり。

推しは上衣なし(筋肉美が直視できない)。

距離、かなり近め。

本来なら、限界オタクとして即死(ショック死)案件のシチュエーションである。

だが残念ながら、今の空気はそんな甘っちょろいオタクの妄想を楽しめるような、生やさしいものではなかった。

「……ルシア」

絶対零度の低い声が、頭上から落ちる。

「はい」

私は背筋をピンと伸ばした。

「何か、言うことは」

「……誠に、申し訳ございませんでしたわ」

即答した。ええ、もうそこは一切躊躇しない。

今回ばかりは、さすがの私にも自覚がある。

かなり、ものすごく、本気で怒られる(詰められる)流れだということくらい。

クライスは黙ったまま私を見下ろしている。

その蒼い視線が痛い。いや、いつも通り顔は良すぎるのだが、今はそういう問題ではない。

怒っている。しかも、今まで見たことがないくらいガチで。

医療班が「絶対安静に!」と何度言っても、クライスは「話がある」と言って私をここへ残した。団長とローデン隊長も何か言いたげだったが、あの氷の殺気に気圧されて、結局そそくさと天幕の外へ下がっていった。

つまり今ここには。

負傷して不機嫌な推しと、規格外の殲滅魔法をぶっ放して事後処理を丸投げした私しかいないのである。

「何に対してだ」

クライスが問う。

「一応、聞いておく」

「……力を隠していたことと」

私は指を一つずつ折って数えた。

「止まるよう言われていたのに、前へ出たことと」

「他は」

「……副団長へ、多大なるご心配をかけたことですわ」

「……」

重い沈黙。

ああ駄目だ。この沈黙、本当に怖い。

普段から怒鳴る人ではないからこそ、静かに底冷えする怒りがなおさら怖い。

クライスはゆっくりと、深く息を吐いた。

「一つずつ聞く」

「はい」

「なぜ、あれほどの魔法を隠していた」

「……説明が面倒だからですわ」

「もっとマシな言い訳をしろ」

「本音ですもの」

言ってから、しまった、と思った。

今のは多分、火に油だ。

だがクライスは怒鳴らない。ただ、スッと目を細めるだけだ。

「面倒、だと」

「はい。王宮で知られればバカ王太子に便利使いされてろくなことになりませんし、騎士団の就職面接でも『 過剰戦力(チート) 』はドン引きされると思いましたもの」

「だから黙っていた」

「必要になるまでは、墓場まで持っていく(隠し通す)つもりでしたわ」

「必要になったら、あんな風に一人で暴走して撃つつもりだったのか」

「…………」

言葉に詰まる。

実際、そのつもりだったのかもしれない。

あの瞬間、私は理屈など何も考えていなかった。ただ、クライス様へあの巨大な爪が届くのを止めたかった。

それだけで、身体が勝手に動いて、リミッターを外していた。

クライスの声が、さらに一段低くなる。

「言ったはずだ。勝手に判断するな、と」

「……はい」

「前線へ出るなとも言った」

「……はい」

「なのにお前は、俺の指示を全部破った」

「はい」

「しかも、あれほどの危険な魔法を隠したままな」

最後の一言だけ、ほんのわずかに苦い色が混じっていた。

私はギュッと唇を噛み、視線を落とした。

「ごめんなさい」

今度は、少しだけ声が小さく、震えた。

クライスはしばらく何も言わない。

その重たい沈黙の中で、外の風が天幕を揺らす音だけが妙に大きく聞こえる。

やがて。

「……なぜ、俺に言わなかった」

その問いに、私はゆっくり顔を上げた。

クライスの表情はいつも通り静かだ。だが、その蒼い目の奥にあるものは、単なる怒りだけではなかった。

責めているのに。

どこか、それよりもっと深い、不器用な感情が混じっている。

私は一瞬だけ迷って、それから正直に答えた。

「知られたら、警戒される(距離を置かれる)と思ったからですわ」

「俺が?」

「……はい」

「なぜ」

「だって」

私は自嘲するように苦笑した。

「ドラゴンを一撃で消し飛ばすような『戦略級の殲滅魔法』を平然と隠している女など、普通は化け物みたいで怖いでしょう?」

クライスは黙る。

私は続けた。

「それに、私は騎士ではありませんもの。あの力を見せれば、一人の人間としてではなく、“便利な兵器”として扱われる危険もございました」

「……」

「王宮では絶対にそうなります。騎士団ではそうでないと信じたかったからこそ、余計に言い出せませんでしたわ」

「俺にでもか」

「副団長にだからこそ、ですわ」

その一言が落ちた瞬間、天幕内の空気が少しだけ変わった気がした。

クライスの目が、ほんのわずかに揺れる。

「俺にだから?」

「……副団長には、実力(仕事)で認めていただきたかったのです」

私は静かに、だがハッキリと言った。

「ただ魔法の火力が強いからではなく。兵站を整え、実務をこなし、役に立つから、『隣に置いてもいい』と思っていただきたかった」

「……」

「ですから、あの魔法は最後まで見せるつもりはありませんでしたわ」

本当だ。

強い 魔法(チート) を持っていることより、今ここで補給を組み、環境を整え、クライスの隣で忙しく働けることの方が、私にとってはずっと大切だった。

だから隠した。隠して、普通に役立ちたかった。

クライスはしばらく何も言わなかった。

それから、ポツリと漏らすように言う。

「……馬鹿だな」

「否定はいたしませんわ」

「そこは否定しろ」

「今回ばかりは少々、自信がございません」

それを聞いて、クライスの口元がほんの少しだけ動いた。

笑った、というほどではない。けれど、張り詰めていた怒り一辺倒の空気ではなくなったのは分かった。

……が。

だからといって、お説教が終わったわけではないらしい。

「もう一つ」

クライスが鋭い目で言う。

「なぜ前へ出た」

「それは」

「言い訳は聞かん」

「言い訳ではありませんわ」

私はキッパリと答えた。

「副団長が危なかったからです」

「……」

「地竜の爪が届く距離でした。あのままでは死んでいましたわ」

「だから自分も飛び出したのか」

「はい」

「お前も死ぬかもしれなかった」

「副団長もです」

「ルシア」

「事実でしょう?」

言い返した瞬間、空気がピーンと張る。

だが、私は絶対に引かなかった。

「副団長こそ、どうしてあそこまで一人で前へ出たのですか?」

「時間を稼ぐ必要があった」

「分かっております」

「なら――」

「分かっていても、腹が立ちますわ!」

思わず声が強くなる。

私自身、驚いた。だが止まらなかった。

「どうして、あんな無茶をなさるのです!」

「必要だった」

「必要なら、ご自分がボロボロに傷ついてもいいと!?」

「そうは言っていない」

「同じことですわ!」

私は正座したまま、一歩身を乗り出した。

「いつもそうです! ご自分が一人で前へ出れば何とかなると思って、平然と一番危険な場所へ行ってしまわれる!」

「……」

「後ろで見ている人間が、どれだけ心配するかも考えずに!」

言い切った瞬間、ハッとした。

しまった。

今のは、かなり、ものすごく、オタクとしての本音(クソデカ感情)だった。

だがもう遅い。

クライスは沈黙したまま、私を見下ろしている。

「……周り?」

その声は、ひどく低い。

「誰のことだ」

「だ、誰って」

「騎士団か」

「もちろん、騎士団の皆様もですわ」

「“も”?」

私は完全に固まった。

しまった。言質を取られた。

いや別に悪いことは言っていないのだが、言い回しが決定的に駄目だった。

クライスが、寝台に腰掛けたまま、わずかに身を乗り出す。

傷を負って半裸だというのに、その雄としての圧倒的な圧だけで、距離がゼロに縮まったように感じるから困る。

「ルシア」

「……はい」

「お前は、俺が傷つくと、そんな顔をするのか」

そんな顔。

多分、さっきの私のことだろう。

泣きそうで、怒っていて、必死で、余裕がなくて。

私は、その蒼い視線から逃げられなかった。

「……いたしますわ」

「なぜ」

「……」

「答えろ」

その言い方が、ずるい。

そんな真剣で、逃げ道を完全に塞ぐような声を出さないでいただきたい。

けれど。

ここで誤魔化すのも、卑怯な気がした。

私は膝の上でギュッと指を握って、それから小さく息を吐く。

「副団長が、大事だからですわ」

天幕の中が、シンと静まり返った。

ああ。言ってしまった。

けれど、さすがにそこで「世界で一番尊い推しだから」と続ける勇気はなかった。いや、ほぼ同義なのだけれど。今このシリアスな場でそれを軽く言うのは、絶対に違う気がした。

クライスは、驚いたようにわずかに目を見開いていた。

ほんの一瞬だけ。次にはまた静かな顔へ戻ったけれど、その感情の揺れは確かに見えた。

「……そうか」

それだけ言って、彼は視線を落とす。

私は自分でもおかしくなるほど心臓の音がうるさいのを感じていた。

何この空気。

怒られていたはずなのに、急に空間の密度が変わった。天幕の中が狭い。いや実際狭いのだが、そういう意味ではなく。

その沈黙を破ったのは、結局クライスだった。

「それでも」

顔を上げた彼の目は、もう一度真っ直ぐに私を捉える。

「二度と、ああいう真似(自己犠牲)はするな」

「ですが」

「するな」

「副団長が目の前で死にかけていたら、見捨てるなんて無理ですわ」

「ルシア」

「無理なものは無理です」

「……」

「だって」

私は必死に言葉を探した。

けれど、結局出てきたのは、あまりにも率直で重いものだった。

「副団長を失うくらいなら、多少怒られた方がずっとマシですもの」

その瞬間。

クライスの表情が、ピタリと止まった。

そして次の瞬間、彼はゆっくりと立ち上がった。

「ひゃッ」

思わず変な声が出る。

だって急に、真正面にいた推し(半裸)が立ち上がったのだ。しかも負傷中にもかかわらず、動きに一切の迷いがない。

こちらが後ろへ下がる間もなく、圧倒的な体格差で距離が詰まる。

「副団長、傷が」

「黙れ」

「ですが」

「黙っていろ」

低い。怒っている。

だが、その怒りの色がさっきまでと違う。

何というか。静かに燃えているような、ひどく危うくて、重たい熱があった。

私は息を呑む。逃げるべきか、支えるべきか、判断がつかない。

そのまま一歩。さらに一歩。

とうとう私の背中が天幕の柱へ追い詰められたところで、完全に固まった。

「な、何ですの……」

「お前は」

クライスの声が、ひどく近い。

「本当に、自分自身の命を勘定に入れないな」

「それは副団長も――」

「俺の話ではない」

「……」

「お前の話だ」

近い。

近い近い近い。

怒られているのに顔が良すぎる。本当に困る。

私は柱を背にしたまま、必死に呼吸を整えた。

だが、整うはずもない。クライスの熱い呼吸がすぐ近くにある。しかも傷のせいで、普段よりわずかに荒い。

「お前が前へ出た時」

彼は低く言う。

「俺が何を思ったか、分かるか」

「……怒った?」

「違う」

「では」

「冷えた」

一瞬、意味が分からなかった。

クライスは、珍しく少し言葉を探すみたいに間を置く。

「地竜でも、自分の怪我でもなく。お前の方へだけ意識が向いた」

「……」

「俺のせいでお前が死ぬかもしれないと、そう思った」

「副団長のせいでは」

「俺のせいだ」

キッパリと言い切る。

「俺が無理に前へ出た。あれを引き寄せた。その結果、お前が」

そこで、クライスは言葉を切った。

そして、そのまま。

グッ……と、強い力で私の肩を引き寄せた。

「……え」

次の瞬間、視界が真っ白になった。

抱きしめられていた。

「…………(え?)」

思考が、完全に停止した。

いや、正確には。止まった後、物理的にショートして火花を散らした。

クライスのたくましい腕が、私の背中へ深く回っている。

左肩の傷を避けるように、けれど絶対に逃がさないという強い形で。

広い胸元へ引き寄せられ、私の顔がちょうど彼の右肩のあたりへすっぽりと収まる。

近いとかいう次元ではない。

ゼロ距離である。密着である。

息ができない。いや息はしているのだが、心臓の音がうるさすぎて鼓膜が破れそうだ。

(は?)

何これ。何が起きているの。

怒られていたのでは? お説教では?

なぜ抱きしめられて? え、これ現実?

「副団長」

声が、情けないほど震えて掠れた。

「な、なな、何を」

「……分からん」

頭上から、不器用な低い声が落ちてくる。

「ただ」

抱きしめる腕に、ほんの少しだけ、ギュッと力がこもる。

「今、こうして繋ぎ止めておかないと駄目だと思った」

そんなの。

そんなの、反則でしょう。

私は完全に硬直した。石化した。

動けない。逃げたいわけではない。むしろ、一生このままでいたい。けれど、心臓が絶対にもたない。

クライスの身体はまだ戦闘の熱を残していて、薄い布越しに強い鼓動が伝わってくる。傷を負っているのに、それでも私を包み込む腕は、驚くほどしっかりしていた。

「……本気で怒っている」

「はい……」

「力を隠していたことも」

「はい……」

「勝手に前へ出たことも」

「はい……」

「もう二度と、あんな危ない真似はするな」

「……努力、は、いたしますわ」

「努力ではなく、絶対に守れ」

「副団長次第ですわ」

「おい」

呆れたような声。なのに、腕は離れない。

私は恐る恐る顔を上げた。

近い。泣きたくなるほど近い。

クライスの綺麗な瞳が、こんな至近距離でハッキリ見える。冷たい氷のような色のはずなのに、今はその奥がやけに熱く揺れている。

「……本当に、馬鹿だな」

彼がポツリと呟く。

「あなたほどではございませんわ」

「言うな」

「副団長も、もっと後ろ(私)を信用してくださいまし」

「……考える」

「今すぐお約束を」

「お前も約束を守るならな」

「うッ」

痛いところを突かれた。私は視線を逸らす。

だが、その動きさえ腕に抱え込まれていて、逃げ場がない。

「副団長」

「何だ」

「その」

「何だ」

「距離が、近いですわ……」

「今さらか」

「今さらですわよ!!」

思わず小声で叫ぶ。外に聞こえたらどうするの。いや防音結界を張ったのは私だが。でもそういう問題ではない。

クライスの広い胸が、ほんの少しだけ震えた。

笑った? 今、笑いました? こんな至近距離で?

だめだ。情報量が多すぎる。

「は、離して、いただけると……」

「嫌か」

そのストレートな問いに、私は完全に止まった。

嫌。

そんなわけがない。嫌ではない。全然ない。

むしろこのまま心不全で死ぬほど恥ずかしいけれど、同時にとんでもなく幸福で、離れられたら寂しいとすら思ってしまうオタクの自分がいる。

でもそんなこと、どう答えればいいの。

「……嫌では、ございません……」

絞り出すように言うと、クライスはほんの少しだけ目を細めた。

「そうか」

「で、ですが」

「何だ」

「心臓が、もちませんわ……」

「それは俺もだ」

「…………はい?」

今、何と?

私が勢いよく顔を上げると、クライスは一瞬だけ、本当に気まずそうに視線を逸らした。

耳が、少しだけ赤い。

「……ッ」

あっ。

これ。

つまり。この人も、平然としているように見えて、実は余裕がない?

そう思った瞬間、私の羞恥が限界突破した。

「む、無理ですわ!!」

私は思わず彼の胸元を軽く押した。

「副団長、傷があるのに、そんな、あの、こちらが死にます!」

「お前の方が取り乱しているな」

「当たり前ですわ!!」

すると、さすがにクライスも我に返ったのか、ハッとした顔になる。

次いで、ほんの少しだけ腕の力が緩んだ。

私はその隙に、半歩だけ距離を取る。

取ったのだけれど、天幕の中が狭いので大して離れない。むしろ余計に気まずい。

二人とも、しばらく黙った。

外の焚き火の音だけが、妙に大きく聞こえる。

気まずい。だが、嫌な気まずさではなかった。むしろ甘すぎてどうしたらいいか分からない、逃げ場のない沈黙だ。

やがて、クライスがコホンと一つ咳払いをした。

「……とにかく」

「はい」

「今夜はここへいろ」

「はい?」

「説明を避けるためだ」

「……」

「外の連中に顔を出せば、質問攻めに遭う」

「それは、そうですわね(ドラゴンを一撃で消しましたからね)」

「お前にはまだ、整理が必要だ」

「副団長にも、ですわ」

「俺は後でいい」

「よくありません」

「ルシア」

「何ですの」

「今は、休め」

その言い方が、妙に、泣きたくなるほど優しかった。

私はようやく深く息を吐き、そっと頷く。

「……では、副団長も休んでくださいまし」

「努力はする」

「努力ではなく守ってください」

「……お前もな」

「はい」

それで、ほんの少しだけ。

お互いに、不器用に笑った。

ほんのわずかで、言葉にもならない程度のものだったけれど。それでも十分だった。

その頃、天幕の外では。

「まだ終わらないな」

焚き火のそばで、ローデン隊長が腕を組んでいた。

「怒鳴り声もしないし」

若い騎士がヒソヒソと返す。

「逆に怖いんですけど……殺されてませんよね?」

「いや」

ローデン隊長は遠い目をした。

「多分、怖いのとはちょっと違う」

「何がです?」

「さあな。だが氷の副団長、今夜でだいぶ『手遅れ(重症)』になった気がする」

一方その天幕の中で、私はといえば。

推しに力強く抱きしめられた事実と。

本気で怒られた事実と。

しかもその怒りが全部“私を失う恐怖”から来ていた事実に。

脳内の処理能力を根こそぎ持っていかれたまま、寝台の端へちんまりと正座していた。

そして向かい側では、クライスが静かに目を閉じている。

傷の痛みはあるはずなのに、さっきまでより呼吸は少し穏やかだった。

……多分。本当に少しだけ、私が無事だったことに安心したのだろう。

そのことが、たまらなく嬉しくて。

でも同時に、胸が苦しくなるほど甘くて。

私は毛布の端をギュッと握りしめた。

遠征二日目の夜。

戦場のど真ん中にあるはずの天幕は、どういうわけか。

これまでで一番、密度の高い、激甘な二人きりの空間になっていたのである。