軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 王太子の盛大な勘違いと襲来

その報告を受けた時、アーサーは最初、自分の耳を疑った。

「……何だと?」

王太子執務室。

朝からすでに三件の条約差し戻しと二件の他省庁からの催促を受け、機嫌が地の底を這っていた彼の前で、密偵上がりの近習が平伏している。

「ですから、ルシア様は第一騎士団本部にて、正式に副団長付きの側仕えとして働いておられます」

「それはもう聞いた! そうではない!」

アーサーが苛立たしげに机を叩く。

「なぜ“正式に”だ!? あのむさ苦しい脳筋どもが、なぜ女一人を追い返さない!?」

「は……その、追い返すどころか、かなり重用されているようで……」

「重用?」

「納入業者の不正発覚と追放、補給動線の劇的な改善、小規模討伐任務における完璧な後方支援など、複数の異常な功績が――」

アーサーは言葉を失った。

納入業者の不正発覚?

補給動線の改善?

小規模討伐の後方支援?

何だそれは。

何をどうしたら、ただの公爵令嬢が最強の武闘派集団の中でそんな重用(チート扱い)をされるというのだ。

「しかも……」

近習が、ひどく言いづらそうに、冷や汗を流しながら続ける。

「現場の騎士たちからは、もはや神格化されるほど慕われているとか。“第一騎士団の勝利を呼ぶ福の女神”ですとか、“氷の副団長専属の奇跡の側仕え”ですとか……」

「ふざけるな!!」

アーサーの怒声が、執務室の空気をビリビリと震わせた。

近習がビクゥッと肩を跳ねさせる。だがアーサー自身、そんな小者を気にする余裕はなかった。

福の女神? 奇跡の側仕え?

よりにもよって、あの高慢ちきなルシアが?

胸の奥で、何かがザラザラと掻き立てられる。

苛立ち。焦り。腹立たしさ。そして、妙に拭いきれない『自分が致命的なものを手放してしまったのでは』という違和感。

けれど、その違和感へ正面から向き合うのは、王太子としての肥大化したプライドが許さなかった。

だからアーサーは、自分にとって最も都合のいい解釈へ全速力で飛びつく。

(そうか)

そういうことか、と。

ルシアは、俺の気を引いているのだ。

絶対にそうに違いない。

婚約破棄されたショックで発狂して王宮を飛び出し、勢いのまま騎士団へ転がり込んだ。

だが、ただ泣いて縋るだけでは、この冷徹で優秀な王太子は振り向かないと悟った。

だから今度は、“別の場所で有能ぶって目立ってみせることで、俺に自分の価値を思い知らせよう”としているのだ。

考えてみれば、すべての辻褄が合う。

もともとルシアは目立ちたがりではないが、異常なほど負けず嫌いではあった。何かにつけて「こちらの処理ルートが効率的です」「そのご判断は非合理ですわ殿下」と口を出してきたのも、結局は俺に認められたかったからではないのか。

ならば今、騎士団でせっせと有能ぶってチヤホヤされているのも。

王太子たる俺に、“ほら、私がいないと国政が回らなくて困るでしょう?”と見せつけるための、大がかりな当てつけの芝居にすぎない。

「……くだらん」

アーサーは忌々しげに吐き捨てた。

そうだ。くだらない。

そんな遠回しな真似をせずとも、素直に足元にすがりついてくればよかったものを。

泣いて謝り、「やはり私には殿下の隣しか生きる場所がありません」と頭を垂れれば、愛妾としてくらいなら置いてやらぬでもなかったのに。

それを、騎士団などという野蛮な場所で、回りくどく存在感を示してアピールしている。

(いいだろう)

そこまでして俺の気を引きたいのなら。

こちらから出向いて、その茶番を終わらせてやろう。

アーサーは勢いよく椅子から立ち上がった。

「馬車を出せ」

「はッ?」

「第一騎士団本部へ行く」

「で、殿下ご自身が……!?」

「当然だ。あの愚かな女に、身の程を分からせてやらねばならん」

近習は一瞬だけ絶句し、やがて慌てて頭を下げた。

「か、かしこまりました!」

その背を見送りながら、アーサーは優越感に浸るように鼻を鳴らす。

そう。これは“迎え”だ。

ルシアが心の底から望んでいるであろうものを、寛大な王太子がわざわざ与えてやるだけのこと。

どうせあの女は、俺の顔を見た途端に強がりを崩し、泣いて喜ぶ。

騎士団でどれだけ有能ぶろうと、王太子である俺の前では、ただの従順な女に戻るに決まっているのだから。

◇ ◇ ◇

その頃、第一騎士団本部では。

「こちらが新しい補給棚でございますわ!」

私は誇らしげに両手を広げていた。

本部奥、補給庫横の小部屋。

これまで何となく雑多に荷が積まれていた空間を、私はこの二日で“任務前後に必要なものがノータイムで出せる『神・補給庫』”へ完全リニューアルしていたのである。

左棚には水袋と浄水用の魔道石。

中央には塩分補給、糖分補給、簡易保存食。

右には清拭布、予備紐、傷薬、靴泥落とし布。

さらに下段へ負傷者用の軽担架、上段へ季節ごとの体温調整品。

完璧だ。我ながら前世のロジスティクス管理の集大成である。

「おおおお……!」

「何か、後光が差して見える……」

「見ただけでどこに何があるか直感で分かるぞ……!」

若い騎士たちが、感嘆の声を漏らす。

ふふん。そうでしょうとも。

整理整頓とは、ただ綺麗に並べることではない。“疲労困憊で脳が死んでいても、迷わず手が伸びる(UI/UXの最適化)”ことが絶対条件なのだ。

「よろしいですこと?」

私は棚の中央をビシッと指差した。

「討伐直後はまず水と塩分! その後に糖分! 逆にすると吸収効率が落ちて胃が死にます!」

「ルシア様!」

「はいはい、質問は順番に」

「俺、昨日から水袋の紐を絶対に同じ位置に結ぶようにしました!」

「えらいですわ」

「俺も!」

「大変よろしい!」

……うん。

やはりちょっと、私への信仰心が強すぎますわね?

その時、補給庫の外から慌ただしい足音が近づいてきた。

一人の騎士が、戸口で血相を変えて敬礼する。

「ルシア様!」

「何かしら」

「正面に王家の馬車が! しかも、王太子殿下ご本人が……!」

「…………はい?」

一瞬、頭の中が完全に真っ白になった。

王太子。アーサーが。

ここへ?

何のために? 視察の予定なんてなかったはず。

次の瞬間には、最悪の答えが浮かんでいた。

(ああ、とてつもなく面倒くさい展開ですわね……!)

そうだ。考えてみれば、そろそろ来てもおかしくなかった。

王宮側が私の不在(サビ残の消失)で回っていないなら、遅かれ早かれ何かしらの形で接触はあるはずだった。

だが、まさか本人が、しかもこの武闘派の巣窟である本部へアポなしで乗り込んでくるとは思わなかった。

若い騎士たちの顔が、一斉に険しくなる。

「何しに来たんだ?」

「まさかルシア様を連れ戻しに……?」

「ふざけるなよ、今さら。あれだけひどい捨て方をしたくせに」

私は深く息を吸った。

落ち着け、ルシア。

こういう時こそ、感情的になってはならない。何しろ相手は、まだ私を“自分の支配下にある所有物”だと思い込んでいるアホなのだから。

「副団長は?」

「訓練場です! すぐ呼びます!」

「団長は?」

「今、外の詰所へ!」

「結構」

私はスカートの裾を優雅に整えた。

「まずは私がフロントに出ますわ」

「ですが、ルシア様!」

「ここで皆様が先に出れば、“騎士団が王太子殿下へ敵対した”という不敬の形を取られかねませんもの。推しの騎士団に泥を塗るわけにはいきません」

「……ッ」

「大丈夫ですわ」

ニッコリと、最高に冷たい微笑みを浮かべる。

「私は、もうあの男に泣いて縋るような哀れな女ではございませんから」

その言葉に、若い騎士たちの目つきが一段と強く、熱を帯びたものになった。

あらまあ。ますます私への信仰が深まりそうで少々怖い。

◇ ◇ ◇

第一騎士団本部、正面エントランス。

王家の紋章を掲げた豪奢な馬車が堂々と停まり、その前には近衛騎士が数名控えている。

そして中央に立つのは、見慣れた金髪碧眼の青年――王太子アーサー。

以前なら、その姿を見ただけで胸の奥が冷えた。

次はどんな無茶振りを押しつけられるのか。どんな尻拭いが待っているのか。そんな社畜特有の胃痛が先に立ったからだ。

けれど今は、何も感じない。

いや、正確には、感じるのはただひたすらに『面倒くさい、早く帰れ』という感情だけである。

本部前にはすでに騎士たちが集まり始めていた。表向きは整然と控えているが、その空気は明らかに『敵意』に近い歓迎拒絶モードである。

私は一歩進み出て、淑女として完璧なカーテシー(礼)を取った。

「ごきげんよう、アーサー殿下。本日は第一騎士団へ、いかなるご用件で?」

「……ルシア」

アーサーの目が、まっすぐ私へ向く。

その視線には、怒りと苛立ちと、妙に甘ったるい『俺が来てやったぞ』という確信が混ざっていた。

見ただけで分かる。駄目な予感しかしない。

「やはりここにいたか」

「ええ。おりますわ」

「ふん。随分と大げさな芝居をしたものだな」

……はい?

私は軽く目を瞬いた。

アーサーはまるで『すべてを見抜いた名探偵』かのようなドヤ顔で、ゆっくりと言葉を続ける。

「もう気は済んだだろう」

「……何がですの?」

「騎士団で有能ぶって見せつければ、私が政務に困って、慌てて迎えに来るとでも思ったのだろう?」

本部前の空気が、ピタリと止まった。

騎士たちの表情が、一斉に「は? 何を言っているんだこのバカは?」へ変わる。

私も完全に同意見である。

だが、アーサーの勘違いは止まらない。

「確かに、お前が抜けて少しばかり手間は増えた」

「少しばかり、ねえ……」

ローデン隊長のひどく冷たく、低い呟きが、どこかから聞こえた気がする。

「だからと言って、こんな回りくどい当てつけをされるのは不愉快だ」

アーサーはまるで寛大な主人のような顔で顎を上げた。

「私自ら来てやったのだ。感謝しろ」

「…………(えぇ……)」

「さあ、戻るぞ。これ以上、無意味な意地を張って見せる必要はない」

私は、数秒ほど何も言えなかった。

いや、言えなかったというより。

あまりにも予想の斜め上をいく自己愛の強さに、脳が処理を拒んでいたのだ。

何ですの、この男。

本気でそう思っているの? 私が気を引くために騎士団で働いていると? しかも“迎えに来てやったから感謝しろ”?

(どこまで都合の良い脳内変換をなさっておりますの……!? 病院に行かれた方がよろしいのでは!?)

あまりのことに、怒りより先に純粋な感心を抱きそうになった。

いや、感心している場合ではない。

「殿下」

私はできるだけ穏やかな(慈悲の)声で言った。

「私、申し上げませんでしたかしら」

「何をだ」

「婚約破棄、喜んでお受けいたします、と」

「強がりだろう」

即答だった。

思わず、こめかみがピキリと引きつる。

「いえ、強がりでは」

「ルシア。お前は昔から素直ではない。可愛げがない」

「……(イラッ)」

「本当は私の隣へ戻りたいくせに、こんなむさ苦しい場所で意地を張って」

こんな場所。

その一言で、本部前の空気が一気に氷点下まで冷え込んだ。

騎士たちの目つきが完全に殺意へ変わる。近衛騎士たちまで、さすがに「殿下、それは不味いです」と気まずそうな顔になった。

第一騎士団本部を“こんな場所”と呼んだのだ。王都防衛の要を担う、命懸けで戦う国の中枢戦力を。

ローデン隊長がブチギレて一歩前へ出ようとした、その時。

「そこで何をしている」

訓練場側から、絶対零度の静かな声が響いた。

ざわめきが割れる。現れたのは、訓練を切り上げてきたクライスだった。

軽装の上から外套を羽織っただけの姿だというのに、立った瞬間に空気がビリッと引き締まる。

ああ、本当にこの人は存在そのものが格好いい。国宝。

……ではなく。

今はまずい。まずいけれど、推しが来てくれて少しだけ安心もした。

アーサーはクライスを見るなり、露骨に不快そうに眉をひそめた。

「貴様か」

「『副団長』ですわ」

私は思わず食い気味に訂正した。推しを貴様呼ばわりするなど万死に値する。

「貴様ではありません」

「ルシア、お前は黙っていろ!」

「嫌ですわ」

即答すると、周囲の騎士たちがわずかに口元を押さえて吹き出すのを堪えた。

笑うな。今は笑うところではないですわよ。

クライスは私の前へ、半歩だけ出た。

完全に背中へ隠す位置ではない。だが、明らかに“これ以上の無礼は俺が許さない”という立ち方だった。

「用件を」

「簡単なことだ」

アーサーが傲慢に顎を上げる。

「その女を返してもらう」

「……返す?」

クライスの声音が、さらに一段低くなった。

「そうだ」

アーサーは苛立たしげに言い放つ。

「ルシアはもともと王宮に属する人間だ。婚約破棄でショックを受け少し取り乱し、ここでくだらない当てつけをしているだけにすぎん。十分遊ばせてやった。もう王宮へ戻せ」

「断る」

「ッ、貴様!」

即答だった。

あまりにも迷いなく、あまりにも冷たい拒絶。

その一言だけで、周囲の騎士たちの胸がスッとするのが分かった。

だがアーサーはなおも食い下がる。

「勘違いするなよ、副団長。これはお前へ許可を求めているのではない」

「では何だ」

「命令だ。王太子として命じる。この女を今すぐこちらへ引き渡せ」

「それも、断る」

「何だと!?」

アーサーの顔が真っ赤になる。

私はというと、もはや頭痛すら覚え始めていた。

なんていうか、本当に会話が成立しない。相手の前提(私が王宮へ戻りたがっている)が全部おかしいのだ。

「殿下」

私は前へ出た。クライスの隣へ並び立つ。

「私には、王宮へ戻る理由が一切ございません」

「ある!」

「ございません」

「あると言っているだろうが!」

「では具体的にどうぞ」

「お前は、私の婚約者だった!」

「過去形ですわね」

「ッ」

「しかも、その婚約を公衆の面前で一方的に破棄なさったのは、殿下ご自身でしょう?」

アーサーがギリッと歯噛みする。

だが、その程度では足りない。この男は、まだ本気で“俺が許すと言えば戻る”と思っている。

「ルシア」

アーサーは妙に声色を変えた。怒りを押し込み、どこか“駄々をこねる子どもに言い聞かせる”ような響きを作る。

「私もあの時は感情的になっていた。お前も意地になった。それだけのことだ」

「……(は?)」

「だから、これで終わりにしよう」

「終わり?」

「ああ。王宮へ戻れ。そうすれば、今回の無断欠勤の件は不問にしてやる」

「……不問」

私は思わず復唱した。

何を。何をどこから。不問に?

こめかみの辺りで、理性の糸がプツリと音を立てて切れた気がした。

「殿下」

私の声は、自分でも驚くほど静かで、冷たかった。

「もしかして本気で、私が王宮へ戻りたがっているとお思いですの?」

「当然だろう」

アーサーは自信満々に、ドヤ顔で答えた。

「そうでなければ、なぜわざわざ騎士団などで目立つような真似をする」

「働いているからですわ」

「私に見せつけるためだろう」

「違います」

「では何だ!」

「『推しの側仕え』が、私の天職だっただけですわ」

「…………は?」

アーサーが、完全に間抜けな顔で固まった。

しまった。

怒りのあまり、つい限界オタクの本音が出た。

だが、もう遅い。

周囲の騎士たちの間に、ピシリと沈黙が走ったあと。

どこかで誰かが、耐えきれずに「ブフッ」と小さく噴き出した。

「推し……?」

アーサーが、理解不能な未知の言語を聞いた顔で呟く。

私はコホンと咳払いひとつで表情を整えた。

「ともかく、殿下のおっしゃるような理由は一切ございません。私はここで、自分の望む仕事をしております」

「そんなもの、詭弁だ!」

「詭弁ではありませんわ」

「黙れ! お前がここに逃げ込んだせいで、王宮がどれだけ迷惑していると思っている!!」

その瞬間。

本部前にいた騎士たちの顔つきが、一斉に変わった。

怒りだ。

静かで、はっきりとした確かな殺意。

アーサーは気づいていない。今、自分が何を言ったのか。

“ルシアがいないと、王宮が迷惑している(回らない)”。

それはつまり。

自分たち王宮の無能な連中が、彼女の労働力へどれほど寄生し、依存していたかを、王太子自身が全騎士の前で認めたに等しい言葉なのだから。

ローデン隊長が、ハァ、と特大の呆れたため息を吐いた。

「殿下」

「何だ!」

「今の言葉、よくもまあそんな堂々と言えましたね」

「……何?」

「自分で自分の無能さを全部暴露してるじゃないですか」

「貴様、無礼だぞ!!」

「無礼はどっちだよ」

騎士たちの間から、抑えきれない低い怒りのざわめきが広がる。

アーサーの顔色が変わった。

ようやく、自分が完全に歓迎されていないどころか、敵視されていることに気づいたらしい。

だが、それでもまだ引かない。引けないのだ、彼のプライドが。

「いい加減にしろ、ルシア!」

王太子が一歩踏み出す。

「戻ってこい。これは王命だ!」

その声が、本部前へ響き渡った。

私はゆっくりと顔を上げる。

もう、十分だろう。

ここまでくれば。もう遠慮も、貴族としての体裁も、微塵も必要ない。

「……分かりましたわ」

私が静かに言うと、アーサーの顔に「ほら見ろ」という勝ち誇った色が浮かんだ。

だが、それは早すぎた。

「殿下がそこまでおっしゃるのなら」

私はスカートの裾をつまみ、ゆっくりと、この世で最も美しいカーテシーを披露する。

「すべて、この場で申し上げますわ」

「何をだ」

「私が、なぜ『二度と王宮へ戻らないのか』を」

風が止んだような、完全な静けさが落ちた。

第一騎士団の屈強な騎士たちが、誰一人として動かない。

皆、息を潜めてこちらを見ている。「やっちまえ」という期待の目で。

クライスは隣で何も言わない。

ただ、その大きな背中から“好きにやれ。責任は俺が持つ”とでも言うような、静かで絶対的な安心感が伝わってきた。

アーサーだけが、まだ状況を理解していない顔で顎を上げている。

「ふん。ようやく素直になる気になったか」

「ええ。ようやく、ですわね」

私は極上の笑みを浮かべた。

それはもう、昔の“王太子を陰で支える氷の公爵令嬢”の微笑ではなかった。

ただひたすらに、スッキリとした、反撃の狼煙の笑みだった。

さあ。

これまでのサビ残の鬱憤も。

理不尽な冤罪も。

見えない労働の搾取も。

全部まとめて、利子をつけてお返しいたしましょう。

――王太子殿下。

あなたの盛大で滑稽な勘違いは、ここで完全終了ですわ。

そうして、第一騎士団本部前の空気が完全に張りつめたその瞬間。

限界オタク令嬢による、次なる痛快な『直接断罪』の幕が、静かに上がろうとしていた。