軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二代目

宝玉内。

目を覚ますと、そこには円状の部屋が広がって俺は椅子に座っていた。

顔を上げ、周囲を見渡すとテーブルの上に腰掛けた三代目が銀色の弓を見ている。

二代目が座っていた場所。

椅子はなくなり、その後ろのドアもなくなっていた。

銀色の大剣は初代が残してくれた。

そして、二代目は俺に銀色の弓を残したのだ。

部屋には三代目と俺だけがおり、他のご先祖様たちは姿を現さなかった。

『……父さんの弓に似ているね。こんなに大きくはなかったかな? いや、大きさが変わるのか? 面白いよね』

そう言って笑いかけてくる三代目に、俺は返事が出来ない。

俯くと、三代目は笑っていた。

『何? 気にしているの?』

俺はポツポツと気持ちを口に出す。

「……ちゃんと、別れの挨拶も出来ませんでした。俺は、スキルだって使えたのに」

怒られるのではないか?

呆れられているのではないか?

そう思ったが、三代目は笑顔のままだったのか声は明るかった。

『気にしすぎだよ。最後は喜んでいたからね。僕としても、ライエルには感謝しているんだ。兄さんが助かったような光景が見られて、嬉しかったよ』

顔を上げると、三代目はテーブルから降りる。

『僕は次男でね。真面目な兄さんが頑張ってくれるなら、好きなことが出来ると思っていた。でも、雨の日に外に出て……習った弓で僕を守ろうとしてくれたよ』

騎士として、弓というのは相応しい武器とは言えない。

魔法を使用出来るのが貴族である世界で、遠距離攻撃は魔法と相場が決まっている。

それ以外に頼るのは力不足と思われるのだ。

「三代目は、二代目のことをどう思っていたんですか?」

そう言うと、三代目は笑顔のまま。

『お節介、かな? 僕の時は嫁の手配から領地の開発計画まで用意してくれたけど、それって僕を頼りないと思っていたからだからね』

複雑な感情を持っているようだが、三代目は「だけど」と言い始める。

『でもね、兄さんが僕のせいで死んでも、絶対に責めなかったよ。兄さんが継いだ方が良かったのに、自分が悪い、って……あの人は、苦労性なんだろうね。後で一番地味だ、って聞いた時は笑ったよ。基礎作りにあんなに頑張ったのに』

領民には人気がなく、持っている武器は貴族らしくなく、その後も評価はされずに初代と三代目に挟まれ評価をされなかったのが二代目だ。

「俺は、二代目のことを忘れません」

『ハハハ、時代を超えて子孫が評価してくれるなら、きっと喜ぶだろうね』

少しだけ、俺は気持ちが軽くなった。

(……すみません、二代目。最後まで迷惑をかけて)

心の中で謝罪をすると、視線はテーブルの少し上に向かう。

俺は弓を見る。

銀色に輝き、光の矢を放つ弓はテーブルの上に浮かんでいた。

初代が大剣なのに、二代目は弓――。

二人は長い間、口も聞かなかったようだ。

二人の使用している武器は、まるでその関係を示しているような気がした。

「二代目が弓を選んだのは、やっぱり初代への反発なんでしょうか?」

そう言うと、三代目は首をかしげた。

そして、何を言いたいのか理解すると、笑い出す。

『違うよ。それに、親子だろうと人間だからね。完璧なんてそんなにないと思うよ。不満もあるし、気に入らない事だってあるさ。初代と二代目はそれが強かったんだろうね。でもね……』

三代目が教えてくれたのは、二代目が弓を選んだ理由だった。

『僕が剣を選んだのに、父さんは何も言わなかった。弓を勧めてくるかと思ったけど、そこまで強く言ってこない。だから聞いたんだけど』

「二代目が、三代目は余計な事はしない、って言っていましたね」

すると、三代目は頷く。

『だって、暇な時間が減るじゃないか。余計な努力はしたくないんだよね。おっと、二代目が弓を持った理由だけど、初代の背中について行くために弓を選んだらしいよ』

(それなら剣を選ぶのでは?)

そう思ったのが分かったのか、三代目は言う。

『不思議そうだね? でもさ、最初は追いつきたくて、それでも駄目で……だから、初代の後ろから援護をしようとしたんだって。憧れていたんじゃないかな』

大剣を振り回し、魔物を屠る初代は確かに格好良かった。

剣一本でウォルト家の将来を切り開いた生き方は、問題も多かったがそれでも惹かれるものがある。

三代目が言う。

『最後は微妙だったけど、言いたいことも言えて息子に似た少年が助かるところも見られた。結果的に良かったんじゃないかな?』

俺はそれを聞いて胸が苦しくなるのだった。

申し訳ない気持ちもある。

もっと俺がしっかりしていれば――。

あの時、自分でとどめを刺せていれば――。

不意にマーカスさんたちの顔が思い浮かんだ。

三代目が声をかけてくる。

『ライエルは、マーカスたちが憎いかな?』

俺は、自分の気持ちを確認する。よく考えると、子供のような理由が思い浮かんだ。

「……嫌いです。でも、俺の責任もありました。どうしたらいいのか分かりません」

『嫌いでもいいさ。むしろ、僕たち使う側の人間からしたら厄介な連中だよ。頼んだ仕事もまともにできないんだからね。それで出世しようとしているから、笑えるんだけど』

三代目は真剣な表情になる。

『二代目が嫌いなタイプだね。きっと、いたら聞こえないのに怒鳴っていたかも知れないよ。それを思うと、あのノーマという女性騎士は優秀だったね。良い上司についていれば、きっと優秀な騎士になっていた』

俺は三代目に、彼らの処遇をどうするべきかたずねる。

「どうしたらいいでしょうか?」

『彼らの処遇かな? だったら――』

俺は三代目の意見を採用することにした。

――ノウェムは、ノーマの報告書を確認していた。

ポーターの近くで何度も書き直させており、周囲では魔物解体や被害者の治療など忙しく動き回っている。

壊れた壁の修復もそうだが、命令を無視したマーカスたちは罰として村の修繕に協力させられていた。

ノウェムは溜息を吐く。

「駄目です。どうして貴方の名前がこれでもかと言う程に出てくるのですか? 東側にいたかと思えば、北側でも指示を出していますね。それに魔物を倒した数を間違っていますよ」

ノーマはそれを言われ反論する。

「こうでもしないと目立たないだろうが!」

ノウェムはキッパリと言い返す。

「この報告書の信用がありません。納得させるものを書かなければ、虚偽と判断されますよ」

「だ、だが……」

指揮官の仕事は現場で戦う事ではない。

そう言い聞かせていても、ノーマは自分の活躍を挟むように報告書を仕上げていくのだ。

近くで頭に包帯を巻いたクラークが、溜息を吐いてノーマを説得する。

「隊長、グリフォン退治は間違いなく功績です。それに、村も守って被害も最小限でした……言い方は悪いですが、犠牲者は三名と極端に少ない。出世は間違いありません」

クラークが言うには、ここでグリフォン退治では出世が出来なかった場合、王宮側にもデメリットがあるという。

今後、グリフォンを討伐しても報酬に期待が出来ないとなると、騎士や兵士たちの意欲を大きくそぐことになるからだ。

目に見える成果を出したノーマは、必ず出世する。

いや、させないと今後の基準が狂うとクラークが説明をした。

そして、クラークはノウェムを見る。

「しかし、グリフォンや魔物の死体を金貨五百枚で買い取ったことにするのはいいですが、グリフォンの状態が良くともそこまでの大金は出ないと思いますよ?」

今回の魔物退治でばらまいたお金だが、騎士や兵士が貰ったのでは外聞が悪い。

指揮権を譲渡したのも問題だ。

だが、村にお金がばらまかれているので、それを隠そうとしても隠せるものではない。

そこで、ノーマたちはライエルたちから金を借り、グリフォンやヒッポグリフの死体で借金を返した事になっている。

ノウェムはその辺りの事情をあまり深く聞いていないが、ライエルのすることなので従っていた。

「ライエル様の指示ですから。さぁ、ノーマさんは全員分の報告書を書いて貰わないと」

百名以上の部下たちの働き、そして死者がいかに奮戦したかをノーマは報告書として書き続けていたのだ。

クラークでは書けないので、ノーマがノウェムの監視の下に書き上げていた。

治療が一段落した事もあって、書類関係にも詳しいノウェムが監視役に選ばれていた。

ブツブツと文句をノーマが言う。

「全員分……あの五人は不要だろう? ヒッポグリフの止めを刺さなかったんだぞ。重大なミスだ。降格ものだと思うが?」

ノウェムは笑顔で。

「駄目です。全員がそれなりの報酬を貰うように書いて貰います。それと、数に関しては帰りの行軍で魔物を倒してその数も上乗せしますので」

ノーマは自分自身の出世もかかっており、ここで一人勝ちを狙ってもおかしくなかった。

そのため、ノーマの近くには――。

「ほら、さっさと書きなさいよ。お父様にちゃんと報告して上げるわよ。いかにあんたが頑張ったか、を」

ニヤニヤとするシャノンが、ノーマの目の前に座っていた。

飲み物を飲みながら、悔しそうにしているノーマを見て楽しんでいる。

「……サークライ家の娘がいるなんて聞いていなかったぞ!」

「言ってないですからね。因みに、彼女の姉もいますから、約束を違えれば報復させて頂きます」

ノウェムの脅しに、ノーマは書類に向かう。

手をインクで汚し、書き損じの紙もどんどん積み上げられている。

「やればいいんだろう! やれば!」

悔しそうに叫びながら、ノーマは書類を書き続けるのだった。

それを見て、ノウェムが指示を出す。

「自分の名前を書かない! 貴方は中央で指揮をしているのに、なんで北側の戦闘で的確な指示を出したと書くんですか! 混乱します!」

いかに普段から報告書で嘘を書いているのか見せられ、クラークは頭を怪我したから痛い、というのとは別の痛みを感じているようだった――。

的を目がけて矢を放つルカを見る。

一生懸命に弓を引いて額に汗を流していた。

その姿が、どこか二代目の記憶と重なって見えた。

矢は的に当たり、ルカは大喜びしている。

「やった! これで俺もライエル様みたいになれるかな!」

俺が銀の弓でヒッポグリフを倒すところを見たルカは、俺のようになりたいと弓を真剣に学ぼうとしていた。

グリフォンを倒してから二日目になるが、俺は仕事をノウェムたちに任せるとルカの指導をしていたのだ。

「俺くらいすぐに超えて見せろ。専門じゃないからな……でも、良い腕だ」

褒めるとルカが喜ぶ。

近くでは、クラーラがスキルで本を用意していた。

「ライエルさん、全部用意出来ましたよ」

クラーラが持ってきたのは、コピーされた本である。

読み書きや計算を子供向けに書かれたものを、クラーラが記憶しているので用意して貰った。

紙とインクは、ルカの家で世話になったので持っていたものを渡している。

「こ、こんなにあるの?」

ルカがクラーラを見ると、少しウンザリした顔をしていた。

勉強は苦手なのだろうが、俺のようになりたいと勉強も頑張ると言いだしたのだ。

クラーラが微笑みながら言う。

「字が大きくて読みやすいです。イラストもありますから、分かりやすいと思いますよ。読める人に聞いてみるのも良いかも知れませんね」

俺に弓を返して本を受け取ろうとするルカに、俺は言う。

「それはやるよ」

「え? でも……」

弦を張り替えた弓は、残った矢と共にルカに渡すことにした。

その方が、二代目も喜びそうな気がしたのだ。

「俺の弓はあるからな。それに、少し小さいからお前でも使える」

「うん!」

嬉しそうに弓を持つルカを見て、クラーラも笑っていた。

そして、俺は気になったことを聞いてみる。

「クラーラ、その本はいつ消えるんだ?」

すると、クラーラは真顔で言い返すのだ。

「……ライエルさん。世の中には知らない方が良いこともあるんです。例えば、無限に本をコピーしたとしましょう。困る人が出て来ませんか?」

俺はそれを聞いて、スキルでコピーした本は消えなくする事もできるのかと驚いた。

宝玉から三代目の声がする。

『……やだ、このこが凄く可愛く見える』

本が好きな三代目にしてみれば、クラーラは理想の女性だろう。

そして、クラーラは「嘘ですよ」と笑うのだ。

「嘘なのか?」

「嘘というか、コピーした本はスキルを使用した本人が死ぬと消えてしまいます。例えば……大事な資料をそうしたスキル持ちに管理させて消えてしまったら、大変ではないですか? それに、このスキルは基本的に本が好きな人たちが発現します。本にとって悪い未来が起こりえるなら、それを望まない人たちが大半ですよ」

今回の場合は、クラーラ的には問題がなかったようだ。

スキルも万能ではないのだろう。

「……使いこなした奴が強い、か」

二代目が以前に言っていた言葉を呟くと、クラーラが首をかしげた。

俺は喜んで弓を掲げているルカを見ながら言う。

「なんでもないよ」