軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狙われた仲間

二十九階層――。

ミランダは、腰に下げた短剣やナイフを確認する。

以前よりも動きやすい服装を選んでいるため、体のラインが出てしまっている。

軽装とは言え、膝当てなどといった金属部分もあるのだが、動きやすさを重視しているために重装備とは言えなかった。

それでも――。

「はい、おしまい」

右手に持っていた短剣を鉄製の武具を身に纏ったオーガに投げつけ、それが目を突き刺す。

視界が奪われた方向から飛びかかったのは、アリアだった。

地下二十九階まで来ると、流石にアリアもスキルを多用し始める。

倍以上の筋力と、武器の硬化――加えて、強力な一撃をオーガの顔面に繰り出している。

頭部を短槍で突き刺し、オーガが倒れるとアリアは短槍を引き抜いて周囲の魔物から距離を取っていた。

すると、アリアに近づこうとしたオークの頭部が吹き飛ぶ。

ライエルだ。

弓矢を構え、数に限りがある爆発する矢を使用して敵を削っていく。

ミランダも、自分に近づいた魔物にナイフを投擲する。

両目にナイフが突き刺さったオークが、武器を振り回したところで持っていた短剣をオークの首に投げる。

突き刺さった場所から血が噴き出て、苦しそうにしているオークは周囲の味方も巻き込んでいた。

そうしている間に、爆発がまた起きると味方を巻き込んで暴れていたオークだけが残る。

力尽き、倒れたところをアリアが止めを刺して終了である。

ライエルが指示を出す。

「周辺の警戒、そのまま小休止に入る。クラーラ、頼むよ。ノウェム、調子は?」

魔法使いでパーティーの攻撃力でもあるノウェムは、地下二十九階層でも魔法を多用している。

ライエルが明日のことを考え温存しているので、今の戦闘には加わらなかった。

「大丈夫です。私も参加した方がいいのでは?」

ミランダは、内心で思う。

(でしょうね。ライエルの判断も間違ってはいないけど、過小評価しすぎだし)

考え込むライエルは言う。

「……地下三十階層の入口も発見した。明日に備えて貰う。俺も魔法を使うけど、基本はノウェムに任せる。その後もあるから、回復役でもあるノウェムは温存する」

ミランダは警戒しているパーティーの後方を見る。

(つけられていなければ、ノウェムも参加して楽に終わったのに)

自分たちを付け狙うパーティーが存在し、妹であるシャノンが警戒してきたのは数日前だ。

迷宮に入って七日目に突入した自分たちは、ハイペースでここまで来た。

以前は一週間以内に地下四十階層のボスを倒し、地上に戻っている。

それを考えれば遅いのだが、これでも十分にハイペースだ。

使用したナイフや短剣。

それらもクラーラが回収してミランダに渡してきた。

「ミランダさん」

「ありがとう、クラーラ……」

前回、ライエルに誘われたクラーラに笑顔を向けるミランダだが、内心は少し複雑だった。

自分の醜い部分を見られながらも、受け入れては貰った。だが、それがどの程度なのか……。

それが自分でも分からない。

(仲間、か)

クラーラに思うところがないと言えば嘘になる。

自分はライエルに誘われたわけでもない。自分で協力を申し出たのだ。

正式なパーティーとして登録はしているが、気になっていた。

ライエルが自分をどう思っているのか?

告白に近い内容だった。ノウェムも、自分をハーレムの一員だととらえている。それも不思議だったが――。

今はライエルの側にいたかった。

(どうせサークライ家から追い出されたような身だし、最後までついていってもいいのよね?)

シャノンによって作られた人格と、今まで表に出ていた人格。

その二つが混ざり合った今のミランダは、誰にでも優しく損をするだけの性格ではなかった。

視線を少しだけライエルに向けると、クラーラと話し合っている。

ミランダは、ポーターの脇に行くと装備を確認しつつ血を拭き取った。

「あぁ、これはもう代えた方が良いわね」

その中で交換した方が良いナイフを発見すると、ポーターの中にいるシャノンに声をかける。

「シャノン、私の交換用のナイフ持ってきて」

周囲に敵の気配がないので声をかけると、金属製のドアを開けてポーターからシャノンが降りてきた。

眠っていたのか、髪が乱れている。

「あんた……戦闘中に寝ていたの?」

呆れるミランダだが、シャノンが言う。

「だって、あの数なら負けないでしょ? それに、する事がなくて暇なの。なんか暇つぶしでも持ってくれば良かった」

目が見えないと思われていた妹――病弱で大人しかった少女は、今では息苦しさを覚える迷宮に誰よりも適応しているように見える。

(これも瞳の力なのかしらね)

ナイフを受け取り、使えなくなったものをシャノンに手渡すミランダ。

「……帰りもあるのに、もう半分以上の装備品が駄目になっているわよ。これでいいの? 食料だって」

シャノンがポーターを見ながらそう言うと、ミランダが言う。

「いいのよ。行きよりも帰りは楽なんだから……違うわね。帰りは道が分かっているから早いの。でも、普通は魔石とか素材で荷物が増えて大変らしいんだけど……」

ミランダもシャノンもポーターを見た。

ライエルとポヨポヨが作り出した仲間は、実に頼もしい存在だった。

「……ま、明日はボスもいるみたいだし、戦ったらそのまま地上に戻るわよ。道も分かっているから早いんじゃない」

地下三十階層への入口は確認している。

今日は早めに休憩に入り、そのまま明日のために休むことになっていた。

ミランダは、シャノンにポーターの中へ戻るように言うと交換したナイフをしまいこむのだった。

(何事もなければ良いんだけど、無理よね)

後方を見ると、嫌な気配を感じてしまうミランダ――。

地下二十九階層の出口付近――つまり、地下三十階層であるボスの部屋を前にして、俺たちは小部屋に入って休憩を取っていた。

部屋の入口にはポーターを配置して出入りができなくなっている。

「最初からこうしておけばよかった」

愚痴をこぼすが、俺の意見にクラーラが反対する。

「迷宮内で占領と判断されますから、あまり良くありませんね。アラムサースではギルドが迷宮を管理しています。そうした傾向もあって、冒険者同士が縄張り争いをするのをギルドは嫌いますから」

そのまま迷宮に挑む権利を失うこともあるので、他のパーティーが多い場所でのこうした行動はマナー違反だという。

「アラムサースのルールみたいなものか?」

「地方ルールですね。余所では違うと思いますよ」

クラーラは一般的な冒険者のルールは、地方によって変わる場合もあると俺に教えてくれた。

部屋の隅で杖に明かりを点すクラーラと喋っている俺だが、実は見張られている。

宝玉から声が聞こえる。

六代目だ。

『ライエル……ちょっとだけ振り返ってみないか? 俺たちもお前の視覚情報がないと見られないんだ』

(……この野郎。なんでクラーラが見張りなのか考えろよ)

現在、俺の後ろでは女性陣――。

俺以外がタオルを濡らして体を拭いていた。

桶にはクラーラが魔法で用意した水が入っている。それを利用し、汗や魔物の血を拭き取っているのだ。

俺は言う。

「なぁ、魔法で作り出した水は飲めないのかな?」

すると、クラーラは首を横に振った。

「そういった実験を何度も行なった研究者たちがいますが、基本的に飲めばお腹を壊します。壊さない人もいますが……お勧めしませんよ。それに、なんというか微妙ですからね」

俺はクラーラの言葉を聞いて、そして言う。

「試したの?」

「はい。飲める水を用意できるサポートになれれば、それだけで食べていけると思いまして……失敗しましたけど」

なんというチャレンジャーだ。

二代目が言う。

『なんでもかんでも魔法に頼るのは良くないよな』

三代目も同意していた。

『だね。どこも同じだよ。『魔法使いの村』だったかな?』

四代目はそれを聞いて、思い出したように言う。

『子供向けの童話だったかな? あれは必要だよね』

『魔法使いの村』――俺も読んだことがあった。

ただ、クラーラの場合は少し違うと思う。

「あれだ。無理しない方が良いよ」

「えぇ、二度とやらないと誓いました」

俯いてしまうクラーラとその後もポツポツと会話をすると、体を拭いてサッパリしたのかアリアが俺たちを呼びに来る。

「終わったわよ」

俺が振り返ると、六代目が少し残念そうな声を出した。

『分かってないな。もっとこう……恥じらいが欲しいんだ』

七代目もアリアを見て言う。

『この娘、段々と男らしく……』

二人に不評だったアリアは、下は着用しているが上は下着も着けないでシャツを着ているだけだった。

しかも堂々としている。

「何?」

俺は言う。

「もっと恥じらいを持つべきだと思うよ」

すると、アリアが言い返してきた。

「そんなの、こんな場所で気にしてられないわよ!」

まさに正論だ。

すると、クラーラも言ってくる。

「ライエルさんは夢を見すぎです。女性冒険者の多くがこんなものですよ。男性冒険者と一緒に寝泊まりをする仲間ですからね……でも、このパーティーはまだ良い方だと思います。中には女性でも下着姿、あるいは裸体という場合もありますからね。あ、迷宮内でも、仲間がいて安全を確保できている場合ですけど」

四代目が言う。

『何それ……冒険者が同業を避ける訳だね』

二代目も言う。

『男は夢を見て生きていたいんだよ。でも、こんな環境なら仕方がないよな』

そうしていると、そこにミランダさんがやってきた。

「何をしているの?」

タオルを首からかけているが、上も下もしっかり着ている。ラフな恰好なのは、ポーターで出入り口を塞いでいるからだろう。

髪が少し濡れているのか、しっとりとしている。

どことなく男心をくすぐってくるミランダさんに、視線が釘付けとなった。

四代目が言う。

『これだよ……』

五代目も。

『ミレイアに似ているんだよなぁ……』

六代目が。

『この娘、分かっているな』

七代目は。

『ふむ。アリアとは大違いだな』

俺も顔が赤くなったようだ。

クラーラとアリアが俺をジト目で見てくる。ただ、今思うのは――。

(なんでご先祖様のこんな話を聞いているんだろう……いや、聞こえてくるから拒否できないんだけど)

次の日。

準備を整えた俺たちは、地下三十階層への階段を降りていた。

ノウェムが聞いてくる。

「シャノンちゃんをポーターに乗せるのは良いのですが、部屋では入口待機は難しそうですね」

ボスの部屋に続く通路は、広くポーターでは防ぐことができない。

後ろから追いかけてくる連中には注意をしているが、それでも安心とは言えなかった。

「ボスとの戦闘中が一番怖いからな」

そう言うと、ポヨポヨが名乗り出るのだった。

「では、このポヨポヨが後方への備えとして!」

ボス戦に投入しようか迷っていたポヨポヨだが、流石に強すぎて達成感がない。

気持ちの問題以前に、自分たちがボスと戦えるのかを知る必要もあった。そのため、ポヨポヨは今までサポートに徹している。

「……ポーターの近くでシャノンを守れよ。ないとは思うが、俺たちが負けたら、生き残ったメンバーとシャノンを連れて逃げるんだ」

すると、ポヨポヨはヤレヤレ、といった感じで俺を見て呆れる。

「なんだよ」

「いえ、チキン野郎が死んだ場合、私は魔力とか言う変なエネルギーを供給されないので機能停止です。しばらくは動けるでしょうが、その時はご主人様を殺した奴をボコボコにして生まれてきたことを後悔させてやりますよ」

自信満々に言うポヨポヨに、ノウェムは苦笑いをしながら言う。

「あの、危険だったら手を出した方がいいのでは?」

すると、ポヨポヨが今気付いた、といった表情をして動揺する。

「た、例え話ですよ。わ、私だってチキン野郎が死ぬところなんか見たくないですしー!」

三代目が言う。

『オートマトンが凄いのか駄目なのか分からなくなってきたよ』

五代目は。

『これだけ精巧なオートマトンでもミスをするのを、褒めれば良いのか貶せば良いのか……悩みどころだな』

そうした会話をしていると、ボスの部屋に到着した。

全員に指示を出す。

「装備の確認は済んでいるな?」

全員が頷くのを確認すると、俺は作戦の確認をする。

「前衛はアリアとミランダさんで動き回って敵の注意を引き付けて貰う。中衛は俺が入って魔法で二人を支援。ノウェムは強力な一撃を頼むとして、クラーラはポーターを操作しつつ部屋を照らして貰う。シャノンはポーターの中で待機。ポヨポヨはその護衛だ」

確認を終えると、俺はボスとの戦闘中に介入してくる確率が高い追跡者への対応を確認する。

「……ボス戦で仕掛けてくる可能性もある。戦闘後に襲ってくる場合も、な。戦闘中だった場合は、ボスを相手と挟み込むような位置に持って行く。その場合、介入者の相手は俺がします」

戦闘終了後は入口を警戒しポーターを使用して壁を作り、襲撃を警戒する配置にすると説明した。

俺の判断に、二代目は不満そうだった。

『ま、それでいいと思うならやってみろ』

三代目も言う。

『ライエルの判断だし、それで良いよ。僕的には問題があると思うけどね』

撤退が一番安全……とも限らない。

相手の情報が足りなさすぎる。

俺がボスを優先するのは、ご先祖様たちのスキルに頼っているためでもあった。

(速攻でボスを倒し、追跡者に備える。それが現状を突破する方法でもある)

シャノンの話では、追跡者たちはまだ追ってきているようだ。

……俺は全員に告げる。

「行くぞ!」

走り出すと、俺の前にアリアとミランダさんが先に出た。

俺の後ろをついてくるメンバーの足音も、ポーターの走行音も聞こえてきた。

部屋には、大きな筒を持ったオーガの姿があった。

「前は気付かなかったけど……普通のオーガよりも大きいな」

肌の露出部分は多いのだが、頭部や首回り、そして腹部は間に合わせではなく自分用に作った鎧を装着している。

大きな筒は中が空洞であるのだが、それを見てポヨポヨが言う。

「持っている武器が大砲ですか……ポーターに取り付けたらパワーアップですね」

筒の先には四角い鈍器のようなものがついていた。巨大なオーガだから持てるのだろうが、あれに叩きつぶされるのは勘弁である。

サーベルを抜いて左手に魔法を準備する。

その間に、アリアとミランダさんがボスを挟み込むように配置して、敵の注意を引き付けていた。

俺は魔法を唱える。

「ファイヤーバレット!」

複数の火球がボスの頭部を襲うと、視界を一時的に奪われたようだ。

その間にアリアがスキルを使用して斬りかかっていた。

ミランダさんも短剣を関節部分に投げつける。

ボスが兜をかぶって顔は見えないが、雄叫びを上げているので激怒はしているのを確認しつつ後方を見た。

(ノウェムの準備はまだ終わらないか)

ボスを見つつ、敵の襲撃が来ないことを祈って、俺はチマチマと魔法でボスの意識を適度にこちらに向けるのだった。

すると、鈍器を振り回し始めたボスがそれを部屋を照らしているクラーラに投げつけた。

「クラーラ、下がれ!」

そんな鈍器が、弾き飛ばされ部屋に不快な金属音を立てつつ撃ち落とされた。

やったのはポヨポヨだ。

「後方の安全はこのポヨポヨの仕事……情けないご主人様を持って、幸せをかみしめております」

皮肉を言うポヨポヨにお礼を言う。

「良くやった。後で考えていた名前をつけてやる。そのまま後方の警戒をしていろよ!」

「今なんと! こんな時にではなく、昨日の内に言われておけば……」

なにやら「フラグが……」などと言っているが、無視して俺はボスを見る。武器を失ったボスが、素手でアリアとミランダさんに殴りかかっていた。

「ライトニング!」

二人が距離を取ったところで俺は魔法を使用し、ボスにダメージを与える。

致命傷にはほど遠いが、確実に敵の動きは鈍っていた。

(初代のスキルはやっぱり役に立っていたな)

現状で苦労している敵を前に、以前は一撃で倒せたことを考えるといかにスキルが重要かを思い知らされた。

そして、ボスを囲んでチマチマと相手をしている俺たちに、クラーラが叫んだ。

「準備、整いました!」

普段声の小さなクラーラの叫び声に、俺たちは距離を取る。部屋の壁際まで移動すると、部屋の温度が急激に上昇した。

「ファイヤーストーム!」

炎を巻き上げ、そして対象を焼き殺す炎の柱が発生し、俺はそれを見て勝利を確信していた。

ボスが暴れ回るが抜け出せず、そして力尽きて倒れようとしていた。

「よしっ!」

そう言った瞬間に、二代目が告げる。

『ライエル!』

俺はそれを聞いて入口へと視線を向けた。

入ってきたのは冒険者たちだ。こちらが戦闘をしているのは分かりきっている。

明らかなマナー違反に加え、手に持っている武器は弓矢であった。

「全員、ポーター集まれ!」

アリアとミランダさんが走りだす。

ノウェムは魔法を使用した直後で、クラーラの助けを借りてポーターへと向かった。

だが、動きが鈍っていたのでそんな二人に矢が向けられた。

矢の先に光が見える。

ボスが燃え上がって明るい部屋の中、見えたのは俺も使用していた爆発する矢であった。

「――ッ!」

走り出した瞬間、矢が放たれノウェムとクラーラに襲いかかる。角度的にポーターの影に隠れきれていない。

そこで前に出たのは――。

「させません!」

数発の矢がポヨポヨに命中し、爆発を起こす。

一瞬の出来事。

ポヨポヨはまだ姿を保ってその場に立っていた。

そして、そこには身なりの良い冒険者が登場する。

俺が叫ぶ。

「お前ら、なんのつもりだ!」

身なりの良い冒険者は、ニヤリと笑みを浮かべていた。

(身なりが良い。貴族?……受付が言っていたノウェムたちを引き抜くとか……やっぱり!)

以前、ノウェムたちを引き抜こうとした冒険者をしている貴族の話を、俺は受付から聞いている。

俺の方へ矢が数本飛んでくると、それを避けた。

壁に激突した矢が爆発を起こすが、それと同時に煙が発生する。

五代目が言う。

『ライエル、何でも良いから口元を押さえろ!』

毒の類い。

そう思っていると、身なりの良い冒険者が俺を見て言うのだ。視線はポーターに集まる仲間の姿が見えた。

(こいつ、ノウェムたちを狙って――)

「背負われライエル……お前の『ポーター』を頂くぞ」

俺は、一瞬だけ何を言っているのか理解できなかった。