軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学術都市の七傑

「……住んでいる所、って一軒家だったんですね」

ミランダさんの家まで荷物を運んだ俺は、屋敷を見て少し驚いた。

学術都市で学ぶ多くの生徒はアパート暮らしが普通である中で、彼女は一軒家を所持していたのだ。

金のある貴族の子弟ならば考えられなくもないが、それはごく一部の話だろう。

苦笑いしたミランダさんは、少し困ったように言う。

「これでも一応は長女だしね。あんまり実家の役には立ってないけど、面子っていうの? そういう感じで一軒家を買ったのよ。私が卒業する頃には誰かに売るんじゃないかしら?」

サークライ家の長女が学術都市で学んでいるのに、アパートに住まわせるわけにもいかなかったのだろう。

五代目がそれを聞いて言う。

『面子は大事だな。というか、どうせ買っても後で売るんだし気にしなくてもいいんじゃないか? それより、ライエル……スキルの反応はどうだ?』

警戒している五代目に言われ、俺は静かにスキルを発動した。

六代目のスキルが、ミランダさんを味方と判断している。

味方は青。

関係ない人や、何とも思っていない人は黄色。

敵意を持つ人や魔物は赤で表示される。

ミランダさんに敵意はないようだ。

(気にしすぎたか?)

そう思っていると、五代目が言ってくる。

『気を抜くなよ。使用人が辞めていく理由も何かあるかもな……ほら、屋敷に入れ』

荷物を抱え、先に屋敷に入るミランダさんの後から入る。

庭付きの一戸建てで、建物は二階建てだ。

部屋数は外から見ても多いと分かる。

「一人で住むには広いでしょうね」

俺がそう言うと、ミランダさんの表情が一瞬曇る。

(どうしたんだろう?)

しかし、すぐに笑顔になると首を横に振るのだった。

「妹がいるのよ。うちは四姉妹なんだけど、末の妹が、ね……目が悪いの。だから、私はその目を治してあげたいからここに来たのよ」

妹のために学術都市に来たミランダさん。

聞けば美談だが、ご先祖様たちの反応は最低だった。

二代目曰く――。

『え~、ないよ。長女がそんな事をしたら駄目じゃない。しかも法衣貴族だよね? 普通はお嫁さんだろうに』

三代目も同じだ。

『良い話だけど、頑張りどころが違うと思うけどね』

四代目は少し気を使いながら。

『良い子だとは思うけど、これを許した両親が悪いよ。大事な長女だよ? 見た感じは綺麗で愛想も良いし、繋がりの欲しい家に嫁がせようよ』

五代目は冷たい。

『末の妹の目が悪い? これって実家から遠ざけただけじゃないか? 長女は面倒を見るためについてきただけで、適当な理由を言っているだけだろ。まぁ、本人は本気かも知れないが』

六代目。

『……まぁ、妹思いなのは良いことです。姉妹の仲が良いのはいいですな』

前回の微妙な会話を思い出すと、六代目は兄弟間で色々とあったのかも知れない。

同情しつつ、七代目の意見を聞く。

『問題がある子は遠ざけるのは珍しくありませんからな。わしの時代でも幽閉や妙な病死の噂の裏には色々とあったものです。ただの病死でも変な噂は良く立ちますがね』

なんともドライな一族だ。

俺は感動すら覚える。

(この人、良い人だな)

妹のために頑張る姉という構図は、俺と妹のセレスとは大違いだ。

(少し羨ましいな。俺もこんな姉さんが欲しかった。いたら、ちょっとは違った……いや、変わらないか。冷たくなる人が増えるだけだ)

環境すらねじ曲げる怪物。

優しい両親ですら、俺を全く見なくなった。

「良い話ですね。俺もそんな姉が欲しかったです」

俺が褒めると、ミランダさんが聞いてくる。

「お! 早速、私を狙っているのかな? まぁ、私もそこまで良い姉であるか不安だけどね。ライエル君の兄弟は?」

表情が上手く作れているか不安になりながら、俺は簡単に説明する。

「妹が……一人います」

相手が分かって聞いているのか、それともただ聞いただけなのか。

俺には判断がつかないが、スキルではミランダさんは青い表示のままだ。

「良いわよね、妹! 可愛いし!」

「そ、そうですね」

無理して話を合わせると、ミランダさんは何かに気が付いたのか話を切り上げた。

察して貰ったのかも知れない。

俺は彼女と台所に向かうと、買ってきた食材をテーブルの上に置いた。

ここまで屋敷を見てきたが、綺麗に使われている。

至る所に手すりがある以外は、普通の屋敷である。

「使用人の人がいないと聞いていましたけど、綺麗ですね」

「アハハハ……辞めたのは二日前だから」

日にちが経つと、どうしても片付かないのだという。

学園での授業や課題に追われ、どうしても家事がおろそかになるようだ。

辞めた理由を聞こうと思っていたが、流石に悪いと思って止めておいた。

「しかし、これだけ広いと掃除も大変そうですね」

以前ダリオンで住んでいた家は、ノウェムが綺麗に掃除をしていた。

その時は気が付かなかったが、アリアが住むようになると掃除が大変そうに見えてしまったのだ。

ノウェム凄いと思いつつ、あの家よりも倍以上広い屋敷に女の子が二人だけ――。

大変だと素直に思った。

「そうなのよ。私も家事は習った程度だし……」

ミランダさんも苦労しているようだ。

そんな時――。

「お姉様、お客様ですか」

振り返ると、そこには少女が立っていた。ドアにすがるように立っているが、視線が俺たちを見ているのに見ていない違和感。

三代目が言う。

『この子が目の見えない末の妹じゃないかな』

まだ小さな彼女は、薄い紫色の髪をしていた。ウェーブしているところなど、ミランダさんに似ている。

金色の瞳でこちらを見ているが、見えないのか焦点が合っていない気がした。手探りでこちらに来ようとすると、慌ててミランダさんが駆け寄る。

「シャノン! 部屋にいなさい、って言ったのに」

「ごめんなさい、お姉様……それより、お客様ですよね? 男性の方ですか?」

会話か、それとも雰囲気で察したのだろう。

俺は自己紹介をしてみる。ミランダさんを試す気持ちで、苗字も名乗ってみた。

スキルで相手が敵意を持っているかを探る。

(どうでるかな? 警戒するか?)

「はじめまして、お嬢さん。俺はライエル・ウォルト。アリアの知り合いだよ。今日は荷物を持つついでに立ち寄ったんだ」

そう言って一応は笑顔を向けてみた。

五代目と六代目が目の前にいる少女【シャノン・サークライ】を見て反応していた。

『また随分と……』

『これも血という奴ですかな』

不思議に思ったが、聞き返すことも出来ないので俺は二人を観察する。

シャノンが俺を見ていたが、その時だけは不思議と見られていると感じだ。

「……そう、だったんですか。ありがとうございます、ライエルさん。私はシャノン・サークライ。ミランダお姉様の妹です。すみません、目が不自由なものでこのような対応しか出来ず……」

目を伏せるシャノンに、ミランダさんが声をかける。

「だ、大丈夫よ、シャノン! ライエル君はそんな事は気にしないし」

そう言って俺に視線を向けてきたので、俺は頷いておいた。

「……ありがとうございます」

そう言われた俺は、笑顔を彼女に向けた。

一瞬だけ、シャノンの青い表示が黄色から赤に変わり、すぐに青に戻る。

ミランダさんは変わらない。

ウォルト、という苗字を聞いて反応したのはシャノンだった。

台所でお茶を貰う俺は、シャノンを部屋に連れて行ったミランダさんが戻るとアラムサースについて聞くことが出来た。

主に、彼女からは学園についてである。

流石に現役の学生で、色んな事に興味があるのかクラーラとは違った情報が得られた。

「学園の七傑ですか? 凄い人たちなんですかね?」

俺が『学園の七傑』という話を聞くと、ミランダさんがクスクスと笑い出す。

話の中に出てきたので気になったのだが、どうやら俺が思っているような人物たちではないそうだ。

「確かに凄いけど、思っているような人たちじゃないわよ。学園始まって以来のとんでもない人物、という意味での七傑ね。もう死んだ人もいるけど、今だと三名くらいかな? 引退している人もいるし、学園には二人しか残っていないけど」

学園が始まってから、問題児として名を馳せた七人を七傑と呼んでいるようだ。

「ただの問題児ですか」

俺がそう言うと、ミランダさんは「でもね」と言ってきた。

「普通に優秀よ。優秀だから学園も困ったのかしらね。魔法使いとしても一流の人が多いし、残した業績も凄いんだけど……ただ、色々と突拍子もないというか」

天才という奴だろうか?

人と価値観が違い、理解されないようなタイプなのだろう。

「どんな人たちなんです?」

「私が知っているのは若くして教授になった【ダミアン・バレ】ね。もう一人は今だと学術都市の議会にいるから会った事もないわ。ダミアン・バレ……『人形使いのダミアン』ね」

人形使いという二つ名まで持っているとなると、本当に凄いのかも知れない。

俺がその人についての話を聞く。

「変わり者なんだけど、かなり優秀で独自に【ゴーレム】っていう魔法を作り出したらしいわ。スキル自体もそのゴーレムを操作するためのものらしいけど、とにかく研究に熱心な人ね。教授だから教える側なんだけど、そんな事も構わずに研究に没頭して上から何度も処分を受けたらしいわ。今は講義をやっているけど、それでもやる気が見られない事で有名よ」

なんという人だろう。

有能だから切るに切れず、厄介な存在らしい。

「普通に研究員で良いのでは?」

「……教授になると研究費が違うのよね。だから、教授になったみたい……でも、研究内容がちょっと酷いから、本人も教授を辞めるわけにもいかないみたい。予算が出ない事も考えられるし」

どんな研究をしているの?

そう思うと、ミランダさんが説明する時に少し頬を染めた。

「その……自動人形って知っている? 魔具で作ったものではなくて、古代の技術で作られた人に近い存在なんだけど、それを復元するつもりみたい」

「魔具で作成しないんですか? 今時珍しいというか……自動人形というと、勝手に動く人形ですかね? ゼンマイみたいな」

俺が想像したのはゼンマイを回して動かす玩具だった。

しかし、ミランダさんは違うと言う。

「そこが少し……いえ、変態と言われる由縁なんだけど、彼の作りたいのは人間そのものらしいの。本人曰く『理想の女性を作りたい』って」

流石に俺も驚いた。

自分の欲望に素直すぎると思いつつ、男なら夢のような話かも知れない。

ただ――。

(俺にはノウェムがいるからいいや)

「なんとも凄い人ですね。周りは止めないんですか?」

「古代技術の自動人形よ? 復元できれば学術都市も利益になると見込んでいるみたい。実際、彼は天才だし、彼に無理ならこの先も無理だろう、って。熱意とか半端じゃないのよ。それこそ、七傑に認められたのは伊達じゃない、ってみんなが言っているわ」

余り関わりたくない人物なのは理解できた。

「ただ、成功するかと言われると、上も判断しかねているみたいなのよ。だから、研究資金を出さずに教授をさせているみたい。熱意はなくとも、ダミアンの魔法を覚えたい魔法使いは多いから、結構な人気なのよね」

(よし、その人の依頼は受けない事にしよう)

部屋にあった時計を見ると、もうだいぶ良い時間だ。このまま長居しては悪いので、俺は帰ることにする。

「少し長居しすぎましたね。俺はこれで失礼します」

「あ、もうこんな時間。ごめんね。なんだかこうやって話すのも久しぶりで」

学園に通い、家では妹の面倒と家事が待っているミランダさん。

普通に大変なのだろう。

実家から使用人を連れてこられないのか? そう思ったが、俺の関わる事でもないので言えなかった。

ただ、一瞬だけ敵意を見せたシャノンの事は気になっている。

俺がミランダさんと共に席を立つと彼女は思いついた、というような表情をした。

「そうだ!」

「……どうしました?」

宿屋に戻った俺は、不動産屋を回ったノウェムとアリアと話をする。

夕食を済ませ、ノンビリとした時間を過ごす前にお互いに今日の出来事を話すことにしたのだ。

俺は、ミランダさんの提案を二人に話す。

「……それ、本気で言っているの?」

アリアの表情は真剣だった。

「私はライエル様のしたいようにするのが一番かと」

ニコニコとしているノウェムを見て、昼にクラーラと食事をしたことを思いだした。

(くそっ! 四代目があんな事を言うから、気になってしょうがないじゃないか)

女の子と食事をしていた事を、ノウェムが知ったらなんと思うだろうか?

俺はなんとなくその話題を避け、ミランダさんから聞いた情報としてこの辺の冒険者事情も話していた。

そうして最後に出した話題が――。

「ミランダさんは本気だったよ。俺たちがいる方がありがたい、って。妹一人だと不安だし、それにアリアならシャノンの事も知っているだろうから、だってさ」

提案されたのは、アラムサースで住む場所を見つけていないなら屋敷に来ないか、というものである。

俺としては、男の俺が屋敷に住んで良いのか? と疑問に思った。

ただ、治安が割と良いといっても危険はある。

男手もあった方が何かと便利だと、ミランダさんが言ってきたのだ。

俺としては、シャノンの反応が気になったのだが、その提案に賛成したのは五代目と六代目である。

他は反対している。

話し合いをした結果、ノウェムとアリアの判断に任せる、というところで落ち着きはした。

「俺はちょっと否定的なんだよね。ミランダさんとシャノンちゃんだったかな? 男の俺が住み込みというのもおかしいし。ただ、家賃は屋敷の掃除洗濯。つまり家事を行なう、って事だ。こっちが仕事の時は気にしなくていいらしいけど」

家事をするだけで屋敷に住めるのはありがたい。

部屋もあるようだし、基本的にかかるのは食費くらいだろうか? ミランダさんはそれも持つと言っていたが、流石にそこまでして貰うのも気が引ける。

アリアが困惑する。

「二人? 使用人はどうしたのよ!」

「知らないよ。大体、聞けるか? どうして辞めたんですか、とか。本人が何人も辞めているとか言っていたから、何かしら問題があると思うんだけど……」

ミランダさんを見るに、問題があるようには見えなかった。

ただ、俺が気になっていたのはシャノンの方である。

(……まさかとは思うんだけど)

すると、アリアが賛成し始めた。

「わ、私は賛成かな。お金が浮くし……」

急に態度を変えたアリアに、二代目が舌打ちをした。

『こいつ、意見を変えやがった』

三代目は笑っていた。

『本当に二代目はアリアちゃんが嫌いだね。僕としては反対だけど、五代目と六代目にも考えがあるみたいだし、この話には乗っても良いと思うけどね。ま、ライエル次第かな』

四代目は。

『三代目は図書館に行ければそれでいいんでしょ?』

五代目は言う。

『できればミランダの提案には乗って欲しいところだな。俺にしてみれば、あいつらも子孫という事になる。言っておくが、お前らの子孫でもあるんだぞ』

今回は七代目がドライだ。

『他家の娘です。子孫と言われましても……まぁ、わしの頃には家同士の付き合いがありましたし、他人よりはマシというところでしょうか?』

六代目は俺に言う。

『ライエル、俺の意見は多少の問題はあるだろうがこの提案に乗って欲しい。ウォルト家の手が回っている風には見えないが、気になる事もある』

気になる事、というのを五代目も六代目もまだ話してくれない。

このまま宿屋で生活するよりは、屋敷に住み込むのは金銭的にはありがたいのも事実だ。

「ノウェムは?」

俺が聞くと、少し考えたノウェムが言う。

「ミランダさんでしたか。妹さんも一緒で目が不自由……確かめてみる必要がありますね。分かりました。一緒に住んでみて、判断させて頂きます」

俺はノウェムの返答がどうにも引っかかる。

「何を判断するんだよ?」

「え? ですから、ライエル様のハーレム計画のメンバーに、という事では? ライエル様は、大きな胸がお好きみたいですし」

ノウェムの勘違いに、アリアが反応した。

というか、巨乳好きと思われていたのを今になって知った。

「あんた! まだそんな事を考えていたの! 自分は関係ないとか、興味がない、って言っておきながら!」

俺は慌てて誤解を解こうとする。

ノウェムはクスクスと俺たちを見て笑っていた。

「ち、違う! 絶対に違うぞ! 大体、提案してきたのはミランダさんであって、俺じゃないからな! ノウェムも何とか言ってくれ!」

すると、頬に手を当てたノウェムが首をかしげながら言う。

「そうですね。私の見立てでは合格かと。良かったですね、ライエル様」

俺は両手で頭を抱えて叫んだ。

「違うってぇぇぇぇ!!」

ボソリと、四代目が呟く。

『ノウェムちゃん、実は分かっていてやってない?』

俺は、ノウェムが実は黒いなどという事を信じたくはないので、四代目の意見には賛成したくなかった。

ノウェムは良い子である。あるはずだ!