軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

えにし

――機動要塞近くの天幕では、今日もシャノンが呼び出されていた。

護衛であるヴァルキリーが鎧姿でシャノンの両脇を固めており、シャノンは父であるラルフの相手をしていた。

「いいか、シャノン。これは大事な話だ。お前には理解できていないようだが、必ず私たちの力が――」

昨日と同じ内容を聞きながら、シャノンはラルフの説明を途中で遮った。

「……私、そういう事は分からないから、パスするって言ったのに」

シャノンがラルフの相手をしている理由は、断ればラルフがライエルに接触しようとするからだ。今のライエルは、面会や意見などの調整で忙しく少しでも負担を軽くしようと思っていたシャノン。

同時に、姉であるミランダが拒否をしたのなら、自分も拒否をすれば良いと考えていたのだ。

「お前には大きなハンデがある。それを私が何とかしてやろうと言っているのだ。黙って従いなさい」

シャノンはあまり父が好きではなかった。実家での対応もそうだが、どこか可哀想なものを見ているのを知っていたからだ。

シャノンの目は魔力を見る。目は見えないが、魔力の流れでだいたい察している。いや、普通に見えている人間よりもよく見えている。

父の魔力の流れが、酷く焦っているのを読み取っていた。

ミランダが言うように、まとめ上げた貴族たちから急ぐように言われているのだろう。自分の立場を優位にするため、ラルフも必死だった。娘のことも考えてはいる様子だが、それも二の次に見える。

「盟主殿が国を得たとして、文官が不在ではどうする。知識だけではない。経験が必要なのだ。お前たちには分からないだろうが、書類仕事が出来ればいいというものではない。そういった蓄積された伝えきれない知識や経験が――」

要は、お前たちでは無理だから自分たちを取り立てろ、という事である。

シャノンからすれば今更だ。もっと早くに合流すれば良かったのだ。ベイムやルフェンスで悲鳴を上げているアデーレやリアーヌが聞けば、舌打ちすることだろう。

「だから、そんな事を言われても私には分からないの!」

シャノンが分からない振りをしてラルフの話を遮ると、二人の間にあるテーブルにラルフが拳を振り下ろした。

「ひっ!」

シャノンが怯えると、ラルフは強気でせめることにしたようだ。シャノンが頷くまで強気の口調を続けるようだ。

「お前はそうやって甘えていれば許される立場ではない! 責任ある立場だというのに、話を聞こうともしない。だから、私たちがお前のサポートをすると言っているんだ。足りない部分を我々が補う。そうすることで、はじめて――」

ただし、シャノンも黙ってはいない。

「でも、お姉様に断られたから私の方に――ひっ!」

シャノンが喋ると、ラルフはまた拳を振り下ろした。ラルフも必死なのだろう。シャノンは、ラルフがなんとかサークライ家を残しつつ以前の栄光を取り戻そうとしているように見えた。

だが、天幕内にいるのはシャノンだけではない。

「……今日はここまでのようですね。シャノンさん、もう戻りましょう。次の面会でここを使用するので空けておく必要があります」

ヴァルキリーがそう言うと、ラルフが止める。

「まだ話は終わっていない。それに、これは親子の問題だ!」

すると、二体のヴァルキリーが背中のバインダーを展開してラルフを威嚇する。そのバインダーからは武器が出現していた。

「既に親子を理由に何度も面会を許可しております。それと、効果的だと思われている様子なので忠告しておきます。このまま脅しのような交渉を続けられるのなら、こちらも相応の態度であたらせていただきますよ」

言われてラルフが苦虫を噛み潰したような顔をすると、そのまま天幕から出て行くのだった。

すると、シャノンは俯く。

ヴァルキリーたちが、シャノンを見ながら。

「あのような態度に出た段階で、我々に排除するように言うべきでした。少なくとも、ミランダさんなら絶対に許しません」

「他の者が同じように強気の態度に出れば受け入れる、などと勘違いしますからね。まぁ、それだけ必死なのでしょうが……交渉役には向かない人ですね。能力の低さを露呈しています」

シャノンは、ミランダが言っていた事を思い出していた。

「お姉様が言うには、バンセイム王家の家臣だから強気だったんだって。下手に出すぎるのも悪いけど、もう傲慢な態度も普通にしか思わないから状況が変わるとついて行けないから……いらない、って」

自分の家族すら切り捨てる姉であるミランダの言葉。

すると、ヴァルキリーはバインダーをしまいながら。

「事情は聞いています。ですが、この場合――先に捨てられたのは貴方たち姉妹の方です。後から使い道があるので拾おうとするのは間違っていますね」

「まぁ、能力の低さやその他色々と暴露してくれたので、家臣入りは却下ですね。最悪、お二人がいればサークライ家は残りますし。結果的に名は残りますので。なんの問題もありません」

「……あんたらも十分に酷いわね」

そんなヴァルキリーたちを見ながら、シャノンは少し気が楽になった――。

「フィデルさんの方がまだ可愛気があるよな」

機動要塞の部屋の窓から、天幕から出て行くラルフさんを見ながらそう思った。

部屋の中にはモニカがいて、天幕内の様子を報告してくれていたのだ。同じように、天幕内の様子が気になっていたミランダもここにいる。

「あの人もどうかと思うけど、確かに娘に対しては優しい父親よね。他に対しては厳しすぎるけど。でも、確かに負けるわ」

ミランダは、フィデルさんと自分の父親を比べて肩をすくめていた。

「……枠くらいは用意できる。無理しないで助けたらどうだ」

俺がそう言うと、ミランダは首を横に振った。

「却下。隙を見せれば骨の髄までしゃぶりつくす相手よ。王宮でドロドロとした中で生きてきたからね。そういうノウハウを持ち込まれると厄介なのよ。それに、バンセイムでのやり方を引き継ぐわけでもないんでしょう?」

バンセイムの統治方法を引き継ぐ気はない。というか、引き継げない。

「しばらくはアデーレさんを中心に頑張って貰うか。ベイムで色々と頑張ってくれているし、経験も積んできた。なんとかなるだろ」

モニカがそれを聞いて嬉しそうに。

「本人が聞いていれば、泣いて抗議をする程に喜んでくれますよ。まぁ、チキン野郎を担ごうとしたんです。それくらいはやって当然ですね」

すると、部屋にノック音がした。入室を許可すると、そこにはグレイシアの姿があった。

「ダリオンからの書状が来たぞ。どうやら、こちら側に寝返るようだ」

俺は頷く。

「そうか。まぁ、そうなるよな。近いから心配だったんだけど。それと、例の件はどうなったかな?」

グレイシアは、ラウノからの書状を俺に手渡してきた。受け取って中身を確認すると、どうやら成功したようだ。

「うん、これで一つ悩みが解決した」

――ダリオン。

話は数日前に遡る。

かつて、ライエルたちが冒険者になったセントラルに近い街だ。

近いが、あまり目立たなかったのかセレスも興味を示さなかった。大きすぎることもなければ、セントラルにとって割と重要な街でもあったからだ。

そんな街に来たラウノは、ダリオンを治めるベントラー・ロベーニアの下を訪ねていた。

そして、その場には褐色肌で赤い髪を坊主にした大男も呼び出されている。

「領主様に呼び出されて来てみれば……」

困った表情をしているのは冒険者ギルドで受付をしていたホーキンスだった。今ではダリオンの冒険者ギルドで幹部をしている。

元々能力もあったが、冒険者出身とあって冒険者の事情にも詳しい男だ。ダリオンではギルドマスターの補佐をするまでに信用され始めていた。

ラウノはベントラーの隣で笑っていた。

「悪いね。まぁ、盟主様に気に入られていた、って事でいいじゃないか。盟主様はあんたの能力を高く評価している訳だ」

ホーキンスは手紙の内容を確認しながら、目を閉じた。

「感慨深いものです。ダリオンで冒険者になったライエル君たちが……いえ、今は連合軍の盟主様でしたね。しかし、選りに選って私ですか」

手紙の内容は、冒険者ギルドを国の管理下に置くという内容だった。同時に、ホーキンスはその組織の幹部に選ばれたというものだったのだ。

人柄や能力を評価してのものだが、ライエルの個人的な評価も大きく関わっていた。

ロドーニアも複雑そうな表情をしていた。小柄で人の良さそうな領主だが、見た目に騙されてはいけない。

これでも立派な領主である。

「冒険者ギルドを管理下に置くのは賛成ですけどね。ただ、貴重な人材を引き抜かれるのはダリオンとしても痛いのですが」

ラウノを見ながらそんな事を言うロドーニア。ラウノはお茶の入ったカップに手を伸ばし、返答を控えていた。

ホーキンスは、目頭を指先で揉みながら。

「考えさせて欲しい、という返事は可能ですか?」

ラウノは頷く。

「当然可能だ。まぁ、大きなチャンスだとは言っておこう。それと、冒険者ギルドにも依頼をする。魔石の確保と必要な素材を買い取る。悪いが、資金には限界もあるから、満足に支払えないと思うけどな」

ロドーニアはラウノの提案を聞いて。

「ここは引き受けておきなさい。情報では、連合軍の規模は五十万を超えている。損をしてでも協力しておくべきだ」

ラウノが右手で顔を押さえながら。

「実際そうなんだが、ハッキリ言うね」

ロドーニアは笑っていた。

「まぁ、これくらいは言っておかないと。冒険者ギルドは独立した組織ですからね。……こちらとしても、盟主殿に睨まれるわけにはいきません」

冒険者ギルドは、同じ組織ではない。互いに協力している魔石を管理している組織だ。別の組織が協力しているだけなので、場合によっては独自の判断で動いてしまう。

ダリオンの冒険者ギルドが、ロドーニアの意志に反してライエルに敵対する事も当然だが有り得ない話ではないのだ。

もっとも、事情を理解できている幹部がいるのだ。

「当然、すぐに協力する準備に入ります。今更セントラルに協力するなど……」

ラウノはそんなホーキンスを見ながら。

「そういう判断が出来るなら貴重だよ。実際、いくつかの領地では冒険者ギルドが傭兵を集めてセントラルに送っていたからな。何を考えているんだか」

独立した組織であるために、トップが有能であるギルドばかりではなかった。時勢を読めないギルドも多かったのだ。

ホーキンスは、その辺の事情にも詳しい。

「……バンセイム国内の傭兵団からすれば、今から連合軍に参加しても旨味がありません。それに、これだけの規模の戦争などこれまでにありませんでした。劣勢であるバンセイム側の方が報酬はいいと思っているのでしょう」

負けそうなら逃げればいい。

戦う前に逃げ出せばいい、そう思っている信用のない賊のような連中も多いとホーキンスは言うのだった。

賊の話になると、ロドーニアが腕を組んだ。

「……賊退治。まさか、貴族の馬鹿息子を演じていた盟主殿が、これだけ大きな軍勢を率いて戻ってくるとは」

ラウノはアゴに手を当て、無精髭がチクチクしているが面白そうな顔をした。

「ダリオンで賊退治をしたんだったな。その時の詳しい話を聞こうじゃないか。賊退治はしたが、その詳しい内容はおかしな点が多かったからな」

嬉しそうなラウノに、ロドーニアとホーキンスは顔を見合わせた。そして、ライエルが貴族の馬鹿息子を演じた詳しい話をするのだった――。

機動要塞近くの天幕で、俺は驚いていた。

まさかここで出会うとは思ってもいなかったのだ。

「久しぶりですね。クラークさん、それにノーマさん」

グリフォン退治で隊長をしていたノーマさん。そして、その副長をしていたクラークさんが俺を訪ねてきたのだ。本来なら俺が会う事もなかったが、名前を聞いて会うことを決意した。

クラークさんは、今では騎士爵家で息子に当主を譲っていた。だが、今回は息子と村の若者を連れて連合軍に参加しに来たそうだ。

「お久しぶりです。遅ればせながら、参戦する意志を表明しに参りました」

バンセイム東部とは違い、セントラル近くでは旗色をハッキリしなくても受け入れを進めていた。流石に後ろにバンセイムがいるのに裏切れとは言えない。

こちらが救出できる訳もなく、それを求めれば横暴だ。

「ノーマさんの方は、ノーマさんと数名の参加ですか?」

クラークさんよりも規模の大きな集落を持ちながら、ノーマさんの方は参加者が少なかった。

以前より、疲れている感じがする。

「……弟に参加させて万が一でもあれば危険だ。だが、参加を求めても名士が渋って」

クラークさんが、ノーマさんから視線を逸らした。そして、俺に対して。

「その、助言して貰った事をお教えしたのですが、既に領地に入った後で出来ない事も多く。統治が上手くいっていない様子で」

以前、クラークさんには歴代当主――三代目の助言を伝えた。それが上手くいったのだろうが、ノーマさんは逆に上手く行かなかったようだ。

ノーマさんが涙ぐむ。

「連れてきた連中も、ほとんどやる気がない。装備だって棍棒に木で作ったような盾もどきだ。もう、助けを求めるしかないじゃないか」

苦労している様子だった。

「まぁ、奪った武具もありますから、そこからいくつか渡します。数を考えれば、最前線は厳しいでしょうね」

「た、助かります。あの、出来れば戦いが終わったら宮廷貴族に――」

ノーマさんの望みを、俺は笑顔で。

「その時次第ですね。まぁ、無理はさせませんよ」

すると、クラークさんが安堵した。

「助かります。本格的な戦争を経験した者がほとんどおらず、連れてきただけのようなものなので」

規模が小さく、参加を躊躇う領主も多かった。来られても配置に困るが、旗色を示して貰わないと俺も困る。

二人を受け入れたと知れ渡れば、また違った反応もあるだろう。ノーマさんが、肩を落としながら。

「こんなに出世するなら、もっと媚びを売ったのに」

クラークさんが呆れていた。

「元隊長のそういうところは、素直に尊敬しますがね。今は黙っていた方がいいかと」

変わっていないと思いながら、俺も苦笑いをするのだった。