軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

成長

いつものように肉体労働で汗を流し、評価を貰って俺はギルドに戻っていた。

判定は【B】と用紙に書かれている。

時間帯なのか、ギルドの二階受付は人が込んでいた。

普段は空いているホーキンスさんの方にも、列が出来ている。よく見れば、普段物凄いペースで処理をしているおばさんが見当たらない。

受付では普段見かけない職員が、アタフタとなれない作業をしていた。

周囲の声に耳を傾ける。

「聞いたか。三つ目の迷宮だとさ」

「本当だったらまずいな。領主様の兵隊は派遣して迷宮討伐だろ?」

「ギルドが慌ただしいのはそのためか。最近は多いな」

周囲の冒険者たちが話しているのを聞く限り、新しい迷宮が出現したようだ。

迷宮は、放置すれば大きくなり魔物をはき出す魔物の巣でもある。

時に、厄介な魔物をはき出すだけでも問題なのに、放置しすぎれば大量の魔物を放出して迷宮自体は消滅する厄介な存在だ。

中には、迷宮を管理して魔物を倒し、財を得ている街も存在はしている。

だが、そういった街は迷宮を管理するだけのノウハウがあるのだ。

冒険者ギルドなどと提携し、細心の注意を払って管理下に置いている。

普通は、見つけたらすぐに討伐するのが一般的である。

ギルドや領主などからも報奨金は出るし、討伐すれば冒険者としての評価も上がる。

迷宮を討伐する冒険者は、子供たちには憧れの的だ。

「募集してそのまま討伐に向かうかもな」

「最奥にある財宝の価値が気になるな」

「奪い合って殺し合う事がなければいいけどな」

物騒な話をしている冒険者たちだが、表情は笑っていた。

ただし、実際によくある話なのだ。

最奥の間には、財宝を死守する番人がいる。そいつは、迷宮の核とも言える財宝を守っている。

黄金、または宝石であるのは間違いない。中には金属という場合もある。

だが、そのどれもが迷宮で生み出された魔力を持っている。いや、纏っている不思議な金属――とても希少価値の高い物だ。

魔具の材料にも使用される貴重な財宝なのだ。

(売れば一攫千金だったな。討伐が簡単な迷宮でも、財宝を売り払えば二年から三年は遊んで暮らせるとか聞いた事がある)

そう思っていると、二代目が宝玉から声を出してきた。

『昔は迷宮と言えば自分を鍛えて【成長】させる場所だったんだけどね。今は集団で討伐するのか』

五代目も出てきた。

『単独、またはパーティーでは効率が悪い。下手をすると、迷宮内で倒され取り込まれて迷宮を成長させかねない。効率を考えれば、集団で一気に討伐する方が無難だな』

俺はそれを聞いて、そういうものなのかと覚えておく事にした。

迷宮の認識も、時代によって違うようだ。

俺が教わったのは……いや、本で覚えたのは、迷宮とは貴重な素材を生み出すと同時に、大変危険な存在だ、という事である。

自分を鍛える場所という考えは、全くなかった。

『五代目も魔物の討伐はしている、という事は……俺が残した決まり事は受け継がれているのかな?』

二代目が言うと、五代目は同意していた。

『二代目が決めたんですか? まぁ、人を動かし、魔物相手に戦闘するのは良い経験になりましたけどね』

二人して、初の戦闘では苦労したと話し始める。

だが、俺が気になったのは、二人が時折口にする【成長】という言葉だった。

『感覚は人それぞれだが、こう……目の覚めるような感覚? あれを最初に経験したのは、やっぱり魔物と戦うようになってからだ。成長を実感した時は、無理をしがちになって失敗も多かったが』

五代目も、二代目と同じような経験をしているようだ。

『俺も似たようなものですよ。まぁ、子爵に陞爵したばかりの時でしたから、魔物相手に戦ったのは賊相手より少ないです。でも、人間相手でも成長するんですよね……』

どうにも俺の知っている成長と違うような気がしてくる。

体が大きくなる、または精神的な成長とは違うのだろうか?

『遅くとも十代の前半までに一回か二回は経験するな。なんかいつもと違う感じがするんだよ。ソレを見て、家族もこいつ成長したな、って顔をして腹が立ったね』

二代目の声が低くなると、五代目は少し笑っていた。

『感覚的なものですけどね。少ないと人生で二回あるかないか、らしいですよ』

それを聞いて、二代目が驚く。

『そんなに少ないのか? 俺は少なくとも九回は経験したぞ。毎日戦っていたような気がするし。最初は十二歳くらいだった気がするな』

『それは多すぎです』

ご先祖様たちの会話を聞いていたが、俺はなんだか不安になってくる。

(……あの、俺ってそんな経験一度も無いんですけど)

そう思っていると、ホーキンスさんがいつもより嬉しそうに声をかけてきた。

「次の方どうぞ。おっと、ライエル君でしたか」

「あ、お願いします」

ホーキンスさんに書類を渡すと、ニコニコと手続きをしてくれる。

普段よりも忙しいのが、嬉しいのかも知れない。

昼食を外食で済ませた俺とノウェムは、手持ちの金で装備を購入する事になった。

主に俺の装備になるのは、盗賊団のボスと戦った時にサーベルが駄目になったためだ。

スキルの効果で強化された武器は、俺のサーベルの予備も含めて駄目にしてしまった。

ゼルフィーさんに紹介された武器屋で、俺とノウェムはサーベルを見る。

「品数が他と比べると少ないな」

俺がそう言うと、店主が「仕方がない」と言った。

ドワーフである店主は、赤くなった大きな鼻とモサモサとした髭が特徴的な小柄で筋肉質の男性だ。

「サーベルはダリオンだと人気がないんだ。貴族様たちには多少人気があるんだが、ここはよく討伐だなんだのと忙しく動き回る。そうなると、サーベルよりも丈夫な剣が人気でな。もう、剣よりも槍や鈍器、もしくは斧がいいって騎士たちもいるぜ」

店主の言葉を聞いて店の中を見渡すと、確かにそういった武器の方が多かった。

やはり、土地によって人気の武器を揃えるのは当然なのだろう。

サーベルを購入しようと思ったが、本気で使用する武器を変更するか考える。

「サーベルだとどこで取り扱っていますか? ダリオンの周辺でも構わないのですが?」

ノウェムが店主にたずねると、相手はアゴに手を当てて上を見た。

「そういった剣は王都のセントラルが揃っていると思うが……やっぱり、実戦向きを扱っている店は少ないかも知れないな。知り合いにセントラルで商売している奴がいるんだが、そいつは防具専門なんだ」

金属の扱いに長けるとされるドワーフたちは、こういった鍛冶屋で成功を収める者たちが多い。

もっとも、ドワーフでなければ鍛冶士として不足かと言えば、そうでもない。

「調べて取り寄せる事もできるが、それなら自分たちで行って調べる方が良いかもしれないな。行くなら紹介状を書いても良いぜ」

店主に言われ、俺は少し考えた。

店に並んでいるサーベルは、どれも数打ち品である。

贅沢を言えば切りがない。前に使用していた物より質は良いので、予備も含めて二本買う事にした。

(流石にずっとサーベルできたし、これくらいの意地はあってもいいよね)

初めて貰った武器がサーベルだったのだ。

父も母も、俺がサーベルを持ってウォルト家の男として戦うのを楽しみにしていた……そういう時期もあったのだ。

「前のはどうする? 状態が酷いから買い取りとなると、金属代くらいにしかならないぜ」

店主に持っていたサーベルを預け、俺はそれで構わないと言って金を払った。

「しかし、随分と酷い状態だな」

使っていたサーベルを見て、店主が言うので俺は「すみません」と言ってしまった。

何しろ、数打ち品とは言っても店主の作った品物だ。

「いや、別に悪いとは言ってねーよ。ただ、この辺でこういった使い方をする剣士を見てこなかったからな……良くも悪くも、ここは初心者に優しい街だ。腕の良い連中は数えるくらいしかいない。成長すれば、すぐに余所に流れるからな」

店主が俺におつりを差し出してくると、それを受け取った。

俺はノウェムに振り返る。

「ノウェムは買い換えなくて良かったのか?」

そう言うと、笑顔で首を横に振る。

「まだ使えますので。それに、ナイフも購入しました。防具にしても、これ以上はゼルフィーさんに今のところ必要ないと言われていますから」

「そうか……そうだよな」

武器にしても、防具にしても上を見ると切りがない。だが、今の俺たちの現状では、そこまで良い武具を揃えても宝の持ち腐れになる。

それに、スライムを相手にするのに、金属の鎧を着て挑むのもなんとなく違うだろう。

木製の盾に槍を持てば十分に倒せる相手である。

店主からサーベルを受け取った俺は、ノウェムと共に店を出た。

帰り道。

人通りが少ない道で、俺はノウェムに提案する。

「なぁ……その……お金の事なんだけど、ノウェムの家財道具を買い戻すには足りないと思うけど……ノウェムに返したいんだ」

手持ちは金貨で六十枚。

盗賊団討伐の際に、領主から支援して貰った金だ。

もっとも、人を雇って食料やその他の物資を揃えたらほとんどがなくなった。今あるのは、盗賊団が持っていた財貨や宝を換金したお金になる。

最初の手持ちが金貨二百枚だと思えば、明らかに赤字だったろう。

俺の提案に、今日は何を作ろうか悩んでいたノウェムが、真剣な表情になった。

首を横に振ると、お金は受け取れないと言う。

「ライエル様のお気持ちは嬉しいです。ですが、そのお金はこれからのライエル様に必要なものです。受け取れません」

「いや、でも」

「どうしても、というなら……そうですね、いつかでいいのでライエル様が一流の冒険者になった時にでもお返しください」

どう答えて良いのか迷った。

何しろ、俺には冒険者として成功したいという気持ちはあまりなかったのだ。

「わ、分かった……きっとノウェムが買ったときのように、いや……もっと豪華な物を買えるくらいになる。約束する」

そう言うと、ノウェムは少し笑っていた。

「期待してお持ちしております」

その流れを聞いて、初代が言う。

『……ええ子やぁ』

その後も、二代目以降順番に発言していたが、俺は無視する事にした。

『ライエルの駄目さが引き立つな』

『というか、ライエルってノウェムちゃんがいる時点で勝ち組だね』

『俺の知っている女と違う』

『 あんた(四代目) は 相手(ママ) を甘やかし過ぎたんだよ。おかげで俺はずっとママと呼ばされて来たんだぞ』

『ライエル、この口約束は必ず守れよ。破れば人として大事な何かを失うぞ』

『フォクスズ家は子育てに成功していますな。なのに、ウォルト家と来たら……』

ご先祖様の意見を聞き流していると、家が見えてきた。

その日の夜。

俺は気になっていた事を聞くために、宝玉の会議室を利用する事にした。

ノウェムもアリアも寝静まり、俺も横になるとそのまま意識が宝玉へと吸い込まれるように意識を失う。

丸いテーブルが部屋の中央に位置し、部屋自体も円形だった。

豪華な椅子の後ろには、ご先祖様たちの部屋があるドアが見えている。

至る所に青い宝玉と似たものが、大きさは異なるが埋め込まれた空間。

――それが、俺たちが会議室と呼んでいる場所であった。

進行役の四代目が、俺が全員を呼び出した理由を聞く。

『ライエルの提案で会議を開く事になったけど、いくつか聞きたい事があるんだったね。さて、何が聞きたいのかな?』

眼鏡をかけている四代目は、指先で眼鏡の位置を正しながら俺を見て議題を述べろと言ってきた。

なので、俺は――。

「いや、細かい事がいくつかあるんですけど、その前に気になった事が一つありまして」

『なんだい?』

四代目に言われ、俺が今日の二代目と五代目の会話を思い出しながら気になった事を聞く。

「あの……『成長』についてなんですが」

そう言うと、興味を示した面々が、身を乗り出してきた。

初代は、俺の言葉を遮るように喋り始める。

『そうだよ、成長だよ! ライエル、お前は今まで何回経験した? 流石に魔力も少ないし、体力も微妙だぞ。その他の面はギリギリ及第点としても、肉体的な……なんていうの?』

初代が近くにいた二代目に話を振ると、二代目は舌打ちをしてから答えた。

『肉体的なスペックが低い。魔法の技量や剣の技量を見る限り、ライエルはテクニックで生き残らないといけないタイプだな』

テクニックタイプと言われた俺だが、自分ではそうは思わなかった。

三代目が、俺に言う。

『サーベルを二本使った時に思ったけど、ライエルの成長は技術に特化したタイプじゃないかな? ほら、一点強化みたいなタイプって、少なくないし』

六代目も頷いていた。

『いますな。そういったタイプは、自分の長所を伸ばして専門分野で活躍させると凄いですから、ライエルもその方向で――』

話が、俺のタイプがどうのこうのと進むので、俺は大声で叫ぶ。

「話を聞いてくださいよ! というか、成長とかなんなんですか? 感覚とか言われても分かりませんし、肉体や精神的な成長と違うんですか?」

それを聞いて、全員の表情が唖然としていた。

七代目である祖父など、俺の両肩を掴んで確認してくる。

『ラ、ライエル!』

「はい?」

『お前は十五歳だったな? スキルも未熟だが発現している。だから確認するが……今までに成長を実感した事はないのか? 朝起きたら感覚が違うとか、体のキレが明らかに違うとか……お、思い出せ! 生まれ変わったような、あの独特の感覚だ!』

そう言われて思い出そうとするが、今までに生まれ変わったような感覚など経験した事がない。

初代も俺に確認を取ってくる。

『いや、ほら……普通なら生活しているだけでも、こう……ピキーン! みたいな感覚が出てくるだろ? 俺も三回目か四回目は、そんな感じだったし』

全員が俺を信じられないものでも見ているような表情をしていた。

だが、俺はそういった経験がなかった。

「…………ないです」

そう言うと、七代目が口をパクパクとさせていた。

五代目は、冷静に聞いてくる。

『ライエル、十歳から冷遇されたと聞いてはいるが、どのレベルだ? お前は教育を受けたんだよな?』

そう言われて、俺は正直に答えた。

「はい。渡された本は全部読みましたよ」

俺の返答を聞いて、その場の全員が混乱する。

『ちょっとまてこらぁぁぁ!!』

『え、何……ライエル、お前はその状態で魔法を使ったのか! というか、使えるのか!』

『これってどう判断すべきなの!?』

『な、ないわぁ……本を渡しただけで教育とか、絶対ないわぁ……』

『甘く見ていたな。この場にいる全員が、だ。ライエルを含めて、状況把握が出来ていなかったということだ』

『俺も魔法をライエルのレベルで使用するまでに、成長を少なくとも二回は経験したぞ』

『……息子をこの手で殴り飛ばす事が出来たら』

俺が全員の様子を見ていると、どうやら俺はかなりまずい状況らしい。

ご先祖様たち一同が、席に座って俺に以前よりもっと正確にこれまでの事を話すように説明を求め来た。

四代目が、改めて仕切る。

『ライエル、話して貰おうか……どうやって十歳から生活してきた?』

俺は思い出せる限り話してみる。

十歳頃から基本的に一人であった事。

食事も基本的に部屋に運ばれていた事。

基本的に会話はなく、教師からは本を渡されて――。

そこまで口にした段階で、俺は頭を押さえる。

「あ、あれ? これっておかしい……ですよね?」

全員が頷いていた。

『かなり、な。十歳まで普通に暮らしていたなら気付きそうなものだが……』

五代目が考え出すと、初代が言う。

『やっぱり怪物の仕業か? 周囲の雰囲気も状況も変える怪物っていうのは、こういう事なのか? だけどよ、それでライエルが成長を経験していないのはおかしくないか? 普通に生活していても、一度や二度くらい』

一度や二度。

俺が生きてきた中で、経験していてもおかしくない回数らしい。

四代目が、溜息を吐いて言う。

『ライエル……魔力が少ないと言ったのは訂正しよう。それより、この他に聞きたい事があったんじゃやないか? 先にそっちを聞こうか』

四代目の言葉を聞いて、俺が取りあえず話す。

「いや……その……」

二代目が俺を見て警戒していた。

また、とんでもない事を言うのではないか? そんな顔をしている。

『こ、今度はなんだ?』

俺は――。

「俺はこれから、何を目指せば良いんでしょう?」

全員の表情が、呆れかえっていた。