軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦後処理

要塞の外では、大量の魔物を大きな穴に放り投げて燃やしていた。

使える素材ははぎ取り、魔石を回収する。ただ、損傷の激しいものだけは、素材は無視して魔石だけ回収していた。

騎士や魔法使いが穴に油を注ぎ、火を付けて燃やしていく。

そこら中で煙が上がる中、マスクをして視察する俺はアレットさんと話をしていた。

並んで歩いていると、周囲では俺に挨拶をしてくる兵士もいた。中には、露骨に舌打ちをする兵士も――。

ロルフィス側の騎士や兵士には、不満が大きいようだ。

アレットさんが謝罪をしてきた。

「悪いね。頭では分かっているんだが、感情に出てしまう者も多い」

俺は小さく首を横に振ると。

「構いません。それだけの事をしましたからね。さて、話の続きでしたね。魔石と素材の分配でしたか? ジャイアントコングは俺たちで引き取りますけど、それ以外はザインと半分でいいのでは?」

すると、アレットさんが俺を見て少し顔を歪めた。

「我々はそれでいいが、それではライエル君の取り分がなくなるぞ。こちらは三割から四割を想定していたんだが?」

ザインもロルフィスも、魔石や素材は喉から手が出るほどに欲しいだろう。ベイムから買う必要がなくなるからだ。

「あぁ、俺の方でいくらか受け取った事にはしますよ。ジャイアントコングの魔石はかなり質が良いみたいで、素材も手に入って予定より稼いだので問題ないです」

本当だが、全てではない。実際、俺の懐にはトレース家を始めとした商家の支援金がある。そこから見舞金を出してもいくらかは残るのだ。

それに、ザインとロルフィスには魔石や素材が大量に必要になる。

「まぁ、ロンボルトさんやガストーネさんとは話し合っているので問題ないです。そのまま半分にして持ち帰ってください。揉めないでくださいよ」

俺が冗談を言うと、アレットさんは溜息を吐いた。

「そんな体力が残っているとでも? ここを片付けたら、本隊は国に帰す。急いで戻しておきたいんだ。ガレリアとルソワースの動きが気になるからね」

ザインやロルフィスと同程度か、それ以上の国力を持つ二国である。同じ規模の国が四つ……今は、それがベイム周辺の状況だった。

「随分と争っているとか」

「……偵察を出したら、小競り合いではなかったそうだ。本当に化け物らしい。両者が女当主を筆頭に団結しているから、隙も少ない。まったく、これならセルバが間にいればよかったよ」

俺は苦笑いをするしかなかった。嫌味だと気が付いたのか、アレットさんも謝罪してきた。

「悪いね。そういうつもりではなかったんだ」

「いいですよ。さて、それでは準備をしましょうか。ベイムから魔石を受け取りに来る連中もいるでしょうから」

「……どうしてベイムが? それに、受け取りに来るとはどういう意味だ?」

アレットさんが困惑しているのを見て、俺はニヤリと笑って説明することにした。

――ベイムのギルド本部では、ガストーネとロンボルトが幹部たちと激しく口論していた。

ガストーネは顔を真っ赤にして。

「我々が命懸けで手に入れた魔石や素材を渡せとはどういう事か! しかも、要塞はそのままベイムが使用するというのもおかしい! 魔物の大軍勢を退けた要塞を、タダで手に入れるとはあんまりではないか!」

ベイムの幹部職員たちは、苦々しい気持ちでガストーネの言い分を聞いていた。

参加すると割り込んで、魔石や素材は売らないと言いだしたのだ。国内に持ち帰って使用するつもりだろう。

ただ、幹部職員たちも、二国の騎士や兵士が生きて帰るとは考えていなかった。そのため、大きく予定が狂ったのだ。

商人たちからは、有り余った武具をどうにかして処分しろときつく言われている。

幹部の一人が。

「でしたら、武具と交換ではいかがです? そちらも大量に武具を失っているでしょうし、今でしたら……このくらいで」

交換レートを出すと、今度はロンボルトが頭まで真っ赤にしてまるで茹で蛸のような表情で。

「命懸けで戦い得た報酬を、たったこれだけで交換しろと? しかも、足りない分はこちらが金を払うというのか!」

幹部はすぐに謝罪をする。

「い、いや、それは誤解です。分かりました。では、魔石をこの量で……こちらはこれくらいでいかがか?」

すぐにレートが変更になったが、二人は納得しなかった。

「通常でもこのレートはおかしい。我々を馬鹿にしているのか? 元から武具などいらんのです。魔石と素材があれば十分だ」

ギルドの幹部職員たちも、二国が大量の魔石と素材を持って行くのは困る。何しろ、数週間分の魔石や素材が手に入らず、貯め込んでいた資源は武具に変ってしまった。

つまり、急激な魔石と素材不足に陥っていたのだ。

このままでは各所で問題が出るために、幹部職員たちが顔を見合わせていた。

「……それでは、二国の残った借金を帳消しにします。その上で、こちらが保管している武具と交換ではいかがです? あと、こちらもこれがギリギリの譲歩です」

真剣な表情の幹部に、ガストーネとロンボルトは悔しそうにしていた。

幹部職員たちは思った。

(強がってもベイムに逆らう国力はこの二国にはない)

ガストーネが頷くと、ロンボルトも渋々納得していた。だが、ガストーネは――。

「……全てではこちらも困る。せめて取り分から七割で勘弁して貰いたい」

ロンボルトも同じだった。

「うちもだ。何もないでは話にならない。国に戻っても他の者を説得出来ない」

ベイムのギルド幹部たちは、色々と計算してそれでなんとか現状は乗り切れると判断すると、笑顔で頷いた。

「いいでしょう。二国の受け取り分からそれぞれ七割をベイムが引き取ります。武具の方は準備させますので、確認の意味もありますので人を出して運んでくださって結構です」

それを聞いて、ロンボルトが悔しそうに。

「輸送費は我々に負担せよと言っているだけではないか」

幹部職員は笑顔で。

「いえ、これはあくまで数量の確認が必要です。二度手間は嫌ですよね?」

職員が用意した書類を、幹部職員たちとガストーネにロンボルトが確認した。それぞれが内容を確認して、サインをする。

ベイムの幹部職員たちは笑顔で、俯いたガストーネやロンボルトの肩は震えていた。幹部職員たちは、きっと悔しく思っているのだと思い込んでいたのだった。

そんな悔しそうにしていると思った二人の後ろでは、ザインの巫女が着る衣装に身を包んだメイが立っていたのだった――。

数日後。

ベイムから要塞に配置される部隊の兵士と、傭兵団がいくつか要塞を訪れた。

ただ、他には魔石や素材を回収する傭兵団に、輸送部隊も大量に送られてきたのだ。

偉そうなベイムの自由騎士という存在が要塞に来て、指揮官の部屋で椅子に座って俺たちを前に並べて口頭で。

「防衛ご苦労だったな。これからこの要塞はベイムが管理する。君たちはすぐに戻っていいぞ」

俺、アレットさん、そしてノイさんの三人が並んでいた。

すぐに戻れと言うことは、すぐに出て行けという意味だった。

「それと、これがお前たちのトップの判断だ。魔石と素材の七割はベイムが譲り受ける。綺麗に魔石と素材に分けているから楽でよかったよ」

わざと煽ってくる新しい要塞の指揮官を前に、爆笑する三代目が言うのだ。

『こいつ駄目だ。ついでにこいつも左遷させようか。指揮官は優秀なのがいいよね』

ミレイアさんも同意しながらクスクス笑っていた。

『私も賛成です。さて、どうやってその座っている椅子から蹴落としてやりましょうか?』

賛成に回ると、即座に蹴落とす方法を考えていた。

(こいつら性格が悪すぎる)

そう思っていると、自由騎士は。

「あぁ、それと戦闘で活躍した大砲は置いておきたまえ。ベイムに持ち帰られても迷惑だからね。使わないだろ? 我々が有効利用してやる」

俺は唖然としてしまった。ノイさんが、流石に黙っていられないのか。

「それはあんまりです。あの大砲は――」

「いいんです!」

俺はノイさんを止め、首を横に振った。あくまでも、新しい指揮官の前では、立場の弱い一冒険者として振る舞う。

だが、五代目が噴き出していた。

『こ、こいつはもしかして俺たちの事を気遣ってくれているのか?』

四代目も大笑いだ。

『優しすぎて涙が出て来た。無能だけどミラクルだよ! 俺、こいつの事は忘れない!』

俺は指揮官を見ながら。

「……大砲を置いて行けと言うんですね」

「そうだ。あんな物をベイムに持ち込まれても困るからな。しかし、よく用意したものだよ。そこだけは褒めてもいい」

すると、嬉しそうな七代目の声がした。

『わしも、お前の今の行動だけは褒めてもいいぞ。素晴らしい男だ。わしらに笑いと蹴落とすネタを自ら提供した優秀な人材だった。わしらから見て、だけどね』

「……分かりました。それでは、準備があるので」

悔しそうに部屋から出て行く俺たちを見て、要塞の新しい指揮官は椅子にふんぞり返ってご満悦だった。

ちなみに、俺たちもご満悦だ。

(しかし七割か。八割から九割は覚悟していたけど、ガストーネさんたちが上手くやったのかな?)

要塞を後にして、俺たちはベイムへと帰還した。

俺はすぐにその足でトレース家をたずねた。支援してくれた商家を回る必要もあったのだが、ヴェラに報告しなければならない事があるからだ。

屋敷へと入ると、ヴェラが駆け寄ってきた。

「ライエル! あんた、怪我なんかしてないわよね! していたら許さないわよ!」

抱きついてきたヴェラを受け止め、俺は苦笑いをした。屋敷の玄関には、ヴェラの妹であるジーナと、その恋人のロランドが少し離れた場所から俺たちを見ていた。

ミレイアさんが、周囲を見回したのか。

『……フィデルさんがいない。ちょっと残念ですね。目の前で煽りたかったのに。そのための行動や台詞を沢山考えていたんですけど』

三代目が、ミレイアさんを慰めるように言うのだ。

『大丈夫だよ。煽る機会なんかこれからいくらでもあるし。とにかく“義父さん”とか言えばすぐにでも限界を超えて怒るから楽しみだね!』

こいつら本当に性格が悪い。

そして、俺はヴェラに申し訳ない表情をする。真面目な話、本当に申し訳なかった。歴代当主が、あの指揮官である自由騎士に大砲を渡せと言うから従ったのだ。

「あの、ごめん……その、大砲を持ち帰れなかった。ベイムの自由騎士が要塞に置いて行けと……それに、銃や弾薬も。ごめん」

すると、ヴェラが激怒した。

「そんなのどうでもいいわよ。また作ればいいの。無事だったんだから、それで十分よ。それとも、他に怪我人でも出たの?」

俺の仲間に怪我人は出なかったというと、ヴェラは安心した様子だった。

そんな様子を見た四代目が。

『……うん、少しだけヴェラちゃんは俺の奥さんに似ているかな』

五代目も懐かしそうに。

『このツンツンしつつも優しい感じは、確かにママに似ているな』

そう言うのだった。

そして、楽しそうな七代目が口を開いた。

『さて、ここからが楽しい時間ですよ。ベイムの冒険者ギルドや商人たちに感謝する日が来るとは思いませんでしたがね。ライエル、お楽しみの時間だ!』

テンションの高い歴代当主たちをスルーして、俺はヴェラに防衛戦の大まかな話をするのだった。

ギルド本部では、部下を連れたフィデルが書類を机に叩き付けた。

相手であるギルドの幹部職員たちは、ベイムでも指折りの商人であるフィデルを前にして震えていた。

フィデルがヴェラから事情を聞きつけ、自由騎士を派遣したベイムの冒険者ギルド本部に乗り込んだのだ。

そして、その書類には、大砲や重火器がフィデルから借りたものだという証明がされるものだった。ライエルが返すのを渋ると面倒だと思い、フィデルが書かせたのだ。

「読んだかな? 書類は何度も読み返し、問題がないか確認するべきだ。これは商人だけではなく、君たちにも言える事だけどね」

幹部職員たちは、椅子に座って小さくなっていた。

「し、知らぬ事とは言え、まさか自由騎士がこのような事をするとは考えず……」

言い訳を始める幹部職員に対して、フィデルは怒鳴りつけた。頭は冷静だが、表情は怒りに満ちていた。

「言い訳をしろと誰が言った! 私が聞いているのは、どうやって責任を取るのかということだけだ! 君たちの言い訳にどれだけの価値があるというのだね?」

幹部職員たちは、派遣した自由騎士を苦々しく思っているだろう。自由騎士といっても、元は兵士や冒険者だ。

そうした管理もギルドが行なっており、商人たちは私兵を抱えて武力を維持していた。

つまり、ギルドはフィデルの私兵が持つ装備を横取りしたことになる。

幹部職員たちが一斉に謝罪をした。

「申し訳ありませんでした! すぐに回収して届けさせますので!」

だが、フィデルは納得しなかった。

「あれはうちが所有する船に積み込んでいた物だぞ。丸腰で航海に出ろと? その間の損失は支払って貰えるんだろうね? 貸した相手が戻ってくるから準備をしていれば、壊したのではなく奪われたと言うじゃないか。貸した相手も問題だが、奪った君たちにも責任がある」

ライエルは戦場で壊すことがあると説明しており、弁償はしない事になっていた。フィデルもそれくらいなら問題ないと思っていたのだ。

しかし、金を搾り取れるところができたら別だ。しかも、今回はギルドも役に立たなかった。そういった不満もあり、仕返しの意味合いもある行動だ。

幹部の一人が。

「……損失分はこちらで負担させていただきます」

そして、フィデルは不満そうに。

「まるで盗賊か山賊のような指揮官だが、レダント要塞の指揮官に相応しいのかな? 私にはとてもそうは見えないがね。もう少しまともな人材を派遣してはどうかな? あそこも交通の要所だ。問題が起きてからでは遅いと思うけどね」

幹部職員はすぐに。

「はい。すぐに優秀な人材を送ります。送り出した指揮官は厳しく罰しますので、今回の事は――」

「いいだろう。だが、奪われたと知られればわしも舐められる。ギルドも変な噂は困らないかな?」

「そ、それは確かに」

フィデルはそう言って笑顔になると。

「そうだろう。そうだろう……だから、これにサインをしろ」

新しい書類を差し出すと、幹部職員たちが頬を引きつらせた。

「わしが売ったことにする。大砲と銃は要塞の防衛に使いたまえ。それと、“十二台”の大砲と銃は新しく作らせるからその費用はギルドが負担するように」

実は、要塞に引き渡した大砲は十台だ。それを知っている幹部職員はおらず、黙って頷くのだった。

幹部たちがサインをするのを見て、フィデルは笑顔で頷き。

「今回は実に問題が多かった。だが、君たちだけを責めるわけにもいかないな。次の会議では君たちの擁護に回ろう」

すると、幹部職員たちがお礼を言ってきた。

「あ、ありがとうございます」

「トレース家にはなんと言えばいいのか。このお礼は必ず」

「すぐに資金の用意をいたします」

フィデルは内心で思った――。

(……こいつらより、あのヒモ野郎の方が手強いな。というか、あのヒモ野郎は本当に生き残りやがった……ゴキブリ並の生命力だな)

エヴァとベイムの街を歩く俺は、先程までの事を思い出して疲れた表情になった。

右手で左肩を押さえ、軽く首を回した。

「あの場の空気にはなれないな」

思い出す光景は、エルフに囲まれて戦場での体験談や気持ちに出来事を聞かれた事だ。彼らの熱意がいったいどこから出てくるのか気になる。

色々と話をすると、参加してくれたエルフの一族に報酬を支払ってベイムから旅立つのを見送ったのだ。

すぐにでも、参加したエルフたちの旅芸人一座は、バンセイム側を避けて大陸中に移動する事になるだろう。

エヴァは、嬉しそうに俺の隣を歩いていた。

「何か嬉しいことでもあったのか?」

エヴァは立ち止まると、ポーズを決めながら振り返った。美人だから絵になるが、周囲の人々が立ち止まってエヴァを笑ってみていた。

「実は、私もいくつかの歌に登場することになりました! エルフを率いたニヒルの一族の娘として、歴史に名を刻みます!」

自分の名前が出て恥ずかしいと思うのではなく、嬉しいと感じるようだ。俺とは正反対の性格だと苦笑いをしておいた。

溜息を吐き、エヴァを連れて屋敷へと向かう。

「ま、噂が広がってくれるならいいよ」

エヴァは俺にウインクをしつつ。

「大丈夫よ。今回の出来事は派手だし、歴史的だし、しかも路銀と報酬まで支払ったんだから、喜んで広めてくれるわよ。でも、今までは歌われたくないとか、語られたくないと言っていたのに、どういう心境の変化?」

エヴァが首を傾げると、俺は空を見上げた。

「ま、必要になったから行動することにした。それだけだ。でも……」

「でも?」

「……本当に、エヴァにはいつか英雄譚を歌って貰うかも知れないな」

ボソリと聞こえない音量で言うと、エヴァが俺の肩を掴んで引っ張る。

「ねぇ、なによ? ちゃんと言いなさいよ。気になるじゃない」

俺はエヴァを引っ張りながら、笑うとそのまま屋敷までエヴァの手を引いて歩くのだっ