軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十章エピローグ

森の中。

木々をなぎ払い押しつぶして向かってくる、土色のランドドラゴンを前にしていた。

巨大な前足。

大きな頭部。

対して、下半身は上半身と違って小さく見えた。

初代の記憶の部屋で見たランドドラゴンは灰色だったが、ここにいるランドドラゴンたちは土色で一回り小さく見えた。

道案内をしてくれた冒険者たちを下がらせ、俺たちは複数のランドドラゴン――四体を相手に戦っている。

俺はサーベルを右手に持ちながら、周囲の状況を確認していた。

「アリアとミランダの方は問題ないか。メイやエヴァ、それにクラーラの方も。ノウェムとモニカは……最初から心配なさそうだけど」

パーティーを四つに分け、それぞれでランドドラゴンに対処していた。四体もいれば、連携を取られて多くの冒険者や騎士たちを倒してきたのだろう。

四体の動きには連携らしき動きも見え、確かに厄介に感じていた。

俺の後ろではシャノンが――

「ポーターで待機でも良かったじゃない! なんで私まで連れて来たのよ!」

――泣きわめいていた。

連れて来たくはなかったが、ミランダが連れて行くと言いだしたのだ。シャノンも場数を踏ませれば、きっと何か変化があると思ったようだ。

魔眼を持ってはいるが、シャノンは戦闘をするタイプではない。裏で人を操る知性派を気取っているような奴だ。

その知性派のメッキも剥がれており、今ではパーティーのマスコット的な扱いだ。

(マスコット……モニカとシャノンなら、やっぱりシャノンか?)

そう思っていると、目の前のランドドラゴンが上を向いて咆吼しようとした。仲間と連携でも取るつもりかも知れない。

木々が密集して暗い森の中で、ランドドラゴンが暴れた場所だけは広場が出来ていた。

森に入ると見つけるのは簡単だ。ただ、四体もいるとは聞いていなかった。

「耳が痛くなるから黙って貰おうか。ライトニング!」

左腕をランドドラゴンに向けると、紫電が発生してランドドラゴンの頭部に直撃する。以前よりも威力も上がっており、ランドドラゴンが頭部を大きく揺らして一歩下がった。

シャノンが後ろから。

「もっとバンバン撃ち込みなさいよ! そうすれば勝てるわよ!」

当然だが、そうすれば勝てる。しかし、現在の俺は――。

『ライエル、周囲に指示を出しながら戦うのも忘れないでね』

『ほら、メイちゃんたちが困っているみたいだぞ。クラーラちゃん、指示待ちで動いてないし』

『全体を見ろ。細かな指示が無理なら大まかな指示でもいい。周囲の状況を把握して、それをお前のスキルで伝えろ』

『これからは指揮官としても鍛えないといけませんね。ま、丁度良い相手だ。頑張りなさい、ライエル』

ランドドラゴンが丁度良い相手とは思えないが、確かに現状では四体でも相手にはできる。

それだけの戦力はあるのだが、指示を出しながら目の前の敵とも戦うというのは困難だった。しかも、仲間は離れた場所で戦っている。

左手を耳に当てる仕草をする俺は、他の場所で戦う仲間の状態を確認した。

確認し、指示を出す。

「クラーラ、周囲に雑魚が集まってきた。エヴァにメイの援護を任せて、雑魚を近づけさせるな」

『はい』

クラーラは、腰に下げたホルスターから拳銃を引き抜くと、魔物が接近する方向に構えていた。ヴェラから受け取った拳銃で、俺が持っている物よりも小型だが扱いやすい拳銃である。

「ミランダ、そっちはそのまま無理をせずに拘束してから叩け。余裕ができたら援護に向かう」

『う~ん、その前に終わりそうだけどね』

ミランダの視界を通して状況を確認すると、ミランダの新しいスキルによって身動きの取れなくなったランドドラゴンが見えた。

まるで大量の蜘蛛の巣に動きを封じられ、粘つく糸を必死に振りほどこうともがくランドドラゴンが見えた。

アリアの方は、そんなランドドラゴンに斬りかかって分厚い皮膚を削っていた。

「……そうか。なら最後だ。モニカ……ノウェム……お前らはちゃんと戦え」

ミランダのところも問題ないと気付いた俺は、ノウェムたちの方を確認した。目の前のランドドラゴンが、俺を警戒して距離を取る中。

サーベルを地面に突き刺し、後ろ腰のホルスターから銃を抜く。黒い拳銃をランドドラゴンに向けて発砲すると、弾はランドドラゴンの巨体を外れて後ろの木に命中した。

後ろでシャノンが口元を押さえ。

「……プッ!」

などと言って、笑いを堪えている。

すると、繋がっている仲間の方からも――。

『ライエル、あんた練習したの? 恰好ばかりつけてないで、しっかりしなさいよ!』

アリアのイライラしたような声が聞こえ、俺は意識を切り替えてノウェムたちへと指示を出した。

「モニカ、お前はちゃんと連携しろ」

『今更言われましても……それに、この配置には不満があります。女狐と一緒とはどういう事ですか? このモニカ、チキン野郎の隣にいないと力が出ません』

ノウェムの方は。

『モニカさん、魔法を使用するので押さえていて貰えますか?』

ノンビリとしたものだった。

三代目からは、俺の人員の配置に問題があると言われる。

『ライエル、編成には気を付けないと。ノウェムちゃんのところは戦力過多だよ。モニカちゃんだけにして、ノウェムちゃんは他のサポートかライエルのサポートに回すべきだったね』

四代目も同意するが。

『パーティーを四つに分けたのもなぁ。三つに分けるか、二つに分かれてそれぞれが各個撃破を狙えば良かったし』

駄目出しが続く中で、俺は指示を出し終わると拳銃を持ったまま左手でサーベルを手にとって地面から引き抜いた。

「当たらないのなら、近付けば良いんですよ!」

地面を蹴ってランドドラゴンへと近付くと、至近距離でランドドラゴンに拳銃を向けて引き金を引いた。

硬い皮膚を持つランドドラゴンの皮膚に弾が当たると、威力もあるのか確かに貫いた。しかし、巨体であるランドドラゴンには、それでは効果が薄い。

大きな前足で俺をなぎ払おうとしたので、俺はその場から飛び上がるとサーベルを投げて相手の左目に突き刺した。

着地して視界に入らないよう、ランドドラゴンの左側に回り込むと銃を構えて残った右目を狙う。

一発。二発。

外れる弾は、凶悪なランドドラゴンの下あごに命中するも、貫くことはなかった。

(二代目のスキルと同時に使用すれば当たるんだろうけど……)

練習のためにスキルを使用しないで銃を撃っているが、おかげで命中しない。

五代目がその威力を観察しながら。

『流行らない訳だ。威力が微妙すぎる。ドラゴンの亜種と言っても、ここまで効果がないと高い金を払ってまで揃えようとは思わないな。それに、弓よりも簡単だが扱うためにどれだけ練習をさせないといけないか……やっぱり銃はないな』

七代目が、その意見に反論した。

『魔具としてスキルを利用出来ていないのですよ! 利用出来れば、もっと威力が出ます!』

宝玉のスキルと干渉してしまい、どうしても魔具とは相性が悪い。ただの拳銃として使う分には問題はないが、魔具のスキルを使用するとなると宝玉のスキルを切る必要があった。

四代目も。

『前提からして駄目じゃない? 持っていて便利だとは思うけど、これだとちょっと……数を揃えようとは思わないよね』

最後にして、ようやく近付いてランドドラゴンの目を潰すと、俺は後ろに飛び退いて銃をホルスターにしまいこんだ。

両手を掲げ。

「サンダークラップ!」

空から雷が落ちてきた。シャノンはガクガク震えながら、木の後ろに隠れていた。

雷が直撃し、ゆっくりと倒れるランドドラゴンからは焦げた臭いがしてくる。

三代目が、俺の戦闘を評価する。

『視界を潰してからの強力な魔法による一撃……悪くないけど、やっぱり硬い相手にはライエルは攻撃手段が少ないね』

宝玉を使用し、大剣でも出せばすぐにでも勝負はつく。だが、それだけしか選択肢がないのはまずい。

大剣や弓、そしてハルバードは魔力の消費が激しい。

魔力が少ないときに強敵と出会えば、逃走するしかないのが今の俺の現状だ。もっとも、仲間がいるのでそういった可能性は低いが。

五代目は簡単な解決策を口にする。

『……武器だな。ライエルの場合は魔具だと相性が悪い。それを考えれば、スキルを省いた頑丈な武器をいくつか持つだけでいい。中には素の状態で鉄を斬るような武器もある。そういった武器を持つときが来たな』

そこまで五代目が言うと、四代目も同意した。以前から、俺が数打ち品を大量に消費するのを問題視していたようだ。

『使い捨てでサーベルを何本も使いますからね。今後も考えると、そろそろ業物でももってコストパフォーマンスを考えないと』

実力の面でも、金銭面でも、そういった武器を手に入れるときが来たのだろう。

振り返った俺は、シャノンに声をかけた。

「シャノン、もうすぐ他のところでも戦闘が終わる。それまでこの場で待機だ」

助けに行こうか迷ったが、他の場所でも戦闘は終わりに近付いていた。

シャノンは俺のところに来ると。

「……お姉様がドラゴンを倒すとか、昔なら想像出来なかった。どうしてあんなふうになったんだろう」

落ち込んでいるシャノンに、俺は――。

「お前のせいだからな」

そう言ってみなが集まるのを待つのだった。そんな時だ。

周囲、しかも怪しいと思った場所に視線を向けた。シャノンが俺を見ながら、そちらへと視線を向けると目を細めた。

スキルに反応はない。いや、なさ過ぎる。

五代目が、少し緊張した様子で。

『俺たちのスキルに感知出来ない? いや、感知させないスキルか? ライエル、警戒しろ』

シャノンと俺がそちらを見ていると、どうやら相手は警戒したのか距離を取った。

シャノンは。

「なんか、周りから浮きまくっていたわね。隠れているつもりかしら?」

首を傾げて逃げる集団を目で追っていた。

――ミランダは、木々に張り巡らせたスキル【ワイヤーネット】を見ていた。

ドラゴンの亜種と言っても、ランドドラゴンの力は馬鹿にできない。そんなランドドラゴンが粘つく糸に絡め取られ、頭部にはアリアが息を切らして座り込んでいた。

首から血が流れており、地面に血の池を作っていた。

ミランダは周囲を警戒しながら。

「随分と荒々しかったわね。どこかの物語に出てくる英雄みたいだったわよ、アリア」

笑顔のミランダに、アリアは返り血を手でぬぐって嫌そうに。

「それはどうも。それより、ライエルから連絡は……」

すると、二人ともライエルの声が聞こえたのか、溜息を吐いた。

ミランダは周囲を確認しながら。

「どこも助けは必要なかったわね」

アリアは頭部から降りて地面に立つと、振り返って糸に絡まったランドドラゴンの体を見た。

「……こっちは必要なかったけど、他も助けなんかいらないのね。それにしも、ミランダのスキルはえげつないわよね」

笑顔を絶やさないミランダは、笑顔でアリアに。

「ありがとう。アリアのスキルも雄々しくて恰好いいわよ」

互いに皮肉を言いながら、装備の点検をして二人はライエルの下へと戻るのだった。

ライエルのスキルで得られた情報を頭の中で確認出来る二人は、迷うことなく森の中を進む――。

――小柄な少女が、ランドドラゴンの巨大な前足を小さく細い足で蹴り飛ばす。

メイは空中で体を反転させると、迫ってきたランドドラゴンの頭部を蹴り上げた。

体の大きさが違いすぎるのに、まるでランドドラゴンが遊ばれているようだった。

「はぁ、麒麟の姿の方がやりやすいんだけど、ライエルが許してくれないし」

メイは地面に着地をすると、右腕を横に伸ばして手のひらから麒麟の角を出した。

襲いかかってくるランドドラゴンに角を振ると、大きなランドドラゴンの腕が飛んでいく。

その様子を見たエヴァは、弓を構えながら。

「ちょっと、早く終わらせてよね! こっちは他の魔物の相手までしてるんだから!」

近付いたカエルのような魔物を矢で射貫いていた。

クラーラも、貰ったばかりの銃を試すように魔物の相手をしている。

メイはソレを見て。

「他に行かないように引き付けているんだけど? それに、こっちが一番人数が多いんだから我慢しなよ」

ライエルたちの戦闘も終わったことを確認すると、メイは右手をふるってランドドラゴンの頭部を斬り落とした。

返り血を浴びずに倒れ込むランドドラゴンの背中に乗ると、ピクリと反応してそちらを向く。

ライエルのスキルには反応していないが、メイの五感はそこに何かいると知らせていた。

視線を向けると、相手は動きを止めてゆっくりと後退していく。

メイはエヴァに。

「ねぇ、あそこに向かって矢を射って貰えない?」

すると、エヴァは他の魔物の対処で忙しいのか無理であった。

「無理よ! それより手伝いなさいよ!」

メイは気になったが、遠ざかっていくので今はいいかと、エヴァやクラーラの下へと駈け出す。

すると、クラーラが。

「待って下さい。……ライエルさんが、周囲に気を付けるように言ってきました。できるだけ固まって離れないように、と。スキルで探知出来ない何かがいるようです」

銃のシリンダー部分を開け、弾を交換しながらクラーラは言う。

その動きは慣れていないのか、モタモタとしていた。

エヴァは周囲に視線を向け、耳を澄ますと矢筒から一本の矢を取り出して構えた。

「ちょっと、ライエルでも探知出来ないの? スキルに頼りすぎても駄目みたいね」

そして、エヴァが音を聞いてそちらに矢を放った。

何もない場所なのに、矢が払われると一気に三人が警戒を強める。

メイは、二人を守るように前に出ると。

「魔物じゃないね? 人間かな」

三人が背中合わせで警戒していると、気配は離れて行く――。

――モニカは、巨大なハンマーを地面において、潰れたランドドラゴンを見ていた。

ノウェムの魔法で動きを止めたところを、モニカが後ろに回って巨大なハンマーを振り下ろしたのだ。

下半身部分が酷い状態だが、これでも高く取引されるので家計は安心だとモニカは胸をなで下ろした。

「はぁ、これで目標金額は余裕でクリアですね。それにしも、女狐と一緒とは納得ができません。私はチキン野郎に尽くしてこそ輝く存在なのに。脇役として輝く私の立ち位置は、チキン野郎の斜め後ろ!」

騒がしいモニカを見ながら、ノウェムは苦笑いをしていた。

だが、ライエルの声が聞こえると、その声に耳を傾けていた。

その様子を見て、モニカは羨ましそうに。

「ちくしょう……船の上ではキスしてくれたのに、素に戻ると私には必要ないから、って腰が退けて……はぁ、次のフィーバータイムはいったいいつになるのか」

すでにライエルとモニカの間にはラインが繋がっており、そのためにスキル――コネクション――を使用する時にキスを必要としなかった。

それが残念なモニカは、他のメンバーを羨ましく思っていた。

「こうなれば毎日少しずつカロリー摂取量を増やしていき、体重に苦悩させてやりましょう」

嫌な悪戯を考えついてニヤニヤしていると、モニカはその赤い瞳を見開いて巨大なハンマーを構えた。

左手を柄の部分から離し、袖から小さなナイフを取り出すと気になった部分に投擲した。

モニカの目は、ライエルがとらえきれなかった存在を、正確にとらえていた。

ノウェムも杖を構えると、モニカがナイフを投げた場所に向かって――。

「アースハンド!」

地面から拘束を目的とした土の腕が出現し、見えない敵に向かって行く。モニカのナイフは宙に浮いており、何かに刺さっているように見えた。空中に浮んで、赤い血が流れていた。

すると、ゆっくりとナイフも赤い血も消えていく。

魔法で作り出したアースハンドだが、空中で急にズタズタに引き裂かれてしまった。

ノウェムはそれを見て、周囲に視線を向けた。

「……そこですね」

「女狐、下がりなさい!」

モニカが声をかけるが、ノウェムは退かなかった。

杖の形を変え、大鎌にするとノウェムは見えない敵の攻撃を受け止めた。相手はそれに驚いたのか、そのまま退いていく。

モニカが追いかけようとするが、ライエルから追うなと命令が来て立ち止まった。

ノウェムは、逃げた相手の背中を見るように森の中を見ていた――。

「くそっ! 情報量が多いから、サーチのままにしていたのが仇になった」

仲間が集まったところで、俺はコネクションを切断して六代目のスキル――リアルスペック――で、周囲の状況を見ていたい。

見えにくいが、そこには赤い反応が確かに複数存在していた。

慣れない他の面子では、リアルスペックの情報量は処理出来ない。頭痛を引き起こし、負担になるので使用していなかった。

途中で使用して戦闘の邪魔をする事もできず、俺は仲間が来るまで待つしかできなかった。

ミランダは、俺を見ながらこれからの事を聞いてくる。

「どうするの? 負けるとは思わないけど、この森に来るまで随分と時間を使ったわ。あんまり追いかけ回している時間もないわよ」

敵が何を目的に俺たちを襲撃したのかを考える。

(セレスの手先か? あいつやあいつの周りが、暗殺者を送り込んだ? だけど、ここはカルタフスだ。やるならベイムの方がまだ効率がいい)

考えがまとまらないが、俺は周囲を見て。

「この森にいる魔物が騒ぎ始めた。素材を回収したらギルドに戻ろう。金になりそうにない事にこれ以上の時間は割けない」

悔しいが、追いかけている余裕がなかった。

それに、相手はこちらを探るような動きを見せているだけだ。

俺の意見に、宝玉内では三代目が同意する。

『時間がないから、これ以上は無理だね。でも、仕掛けてくるようなら対処しないとね。夜とか厄介かも』

俺はすぐに、夜の見張りを選ぶ事にした。

――森から離れた場所で、ラルクは腕に刺さったナイフを抜いていた。

「あの女……俺のスキルも効果無しかよ。まったく、襲うなら違う連中にするんだったぜ。先に男を殺した方が良かったな」

優秀な冒険者たちであるノウェムたちの観察。

本来は相手の戦力を知るのが目的だったが、欲しくなってラルクは手を出してしまった。だが、接近に気付かれ返り討ちに遭ってしまった。

仲間の女性が、ラルクに謝罪してきた。

「申し訳ありません。まさか、我々を感知するスキル持ちが傍にいるとは……」

「いや、おかげで余計に欲しくなった。あの野郎はいらないが、他は上玉だ。どうしても一人だけなんとも思わない女もいたけどな。強いなら傍においてやってもいい」

全員が高価なローブを身に纏っており、それにはスキルが刻まれている。

スキルでの探知、そして視界から姿を消す効果を持つ魔具だ。

「ラルク様、お怪我の治療を」

治療魔法が得意な女性に怪我をした腕を見せるラルクは、魔具を作り出した女性を睨みつけた。

「おい、お前の作った魔具は本当に効果があったんだよな?」

女性は何度も頷き、ラルクの怒りに恐怖していた。

「す、すみません。で、でも……近づけたので、効果はあったはずです。わ、私のオリジナルの魔具なので、一般には知られていない、は、はずです」

オドオドとした女性から、森の方へと視線を向けたラルクは治療が終わった腕を見る。傷が塞がり、跡も見えない。

「……一人か二人でも俺のスキルで魅了出来ればと思ったが、駄目だったな。これなら、トレース家のお嬢様でもたらし込んだ方が良かったぜ。くそっ! 無駄に時間だけ消費した」

忌々しそうにするラルクは、ライエルたちの戦力を近くで確認していた。そして、真正面からやり合えば勝てないと悟るとすぐに一人か二人を魅了して引き抜く事にしたのだ。

異性を魅了するスキル【チャーム】。

これを持つラルクは、女性に対してかなり優位な存在だ。

だが、そんなチャームにも制限がある。

ある程度は女性の気を引けるが、本当に自分のものにしようと思ったら――第二段階のスキル【テンプテーション】を使用する必要があった。

ただし、そのテンプテーションは、一度使用するとしばらく使用ができない欠点もあった。

「……二度も同じ手が通じる相手でもない。ここは退くぞ。ランドドラゴンの素材でも横取り出来れば、ルドミラに謁見出来る機会もできたかも知れないのによ」

周囲の女性たちは、ラルクの言葉をウットリとして聞いていた。

ローブに施されていたスキルは効果を失い、ラルクは脱ぎ捨てるとそれを数人が奪うように取り合った。

背中に大きな黒い大剣を背負ったラルクは。

「ま、いずれチャンスも来るだろうからな。その時までの我慢だ……俺がこの国の王になるまでの間だ。ルドミラさえおとせば、後は俺のもんだ」

ラルクが歩き出し、繋いでいた馬のところに向かうと女性たちも移動を開始するのだった――。

――宝玉内。

襲撃者たちの出現と、その目的を考えている四人。

三代目、四代目、五代目、七代目は、円卓を囲んで相手に予想をつけていた。

『僕としては、ライエルの得た情報からするにあの若い冒険者かな?』

三代目の意見に、周囲も頷いた。四代目は、眼鏡を外してレンズを拭き始め。

『でしょうね。何かしら相手を魅了するスキルを持っている。いや、異性限定のような気もしますが』

五代目など、分かっていても若い冒険者自体には興味がないようだ。

『セレスの命令で動いたか、それともセレスの周りが動いたか。単独なら楽でいいんだが』

七代目は忌々しそうに。

『時間さえあれば叩きつぶしているところですがね。しかし、カルタフスも厄介な冒険者がいたものです。早めに潰しておくべきだと思いますが?』

厄介と言うよりも、危険すぎるスキルだ。しかも、所持している者がどう考えても危険人物である。

カルタフスの協力が欲しい面々は、どうにかして邪魔な存在を消すことを考えていた。

『今回は証拠がないからね。ライエルが始末するにしても問題になる。何かしら証拠を得る必要があるんだけど――』

そこまで三代目が口にしたところで、宝玉内――円卓の部屋にドアが開く音が聞こえた。

全員の視線が周囲を見た。ここには現在、全員が揃っている。誰かの記憶の部屋のドアが開くなど考えられない事だ。

そして、四人の視線がライエルの記憶の部屋に向くと。

そこから一人の女性が出て来た。

セレスではない。セレスよりも大人の女性は、二十代に見えた。最初に反応したのは、五代目である。椅子から立ち上がって、女性を見て目を見開き。

『……ミレイア、なんでお前がここにいる』

汗をかく五代目を見て、残りの三人も立ち上がって警戒を強めた。そんな中で、薄い紫色のウェーブした長い髪を持つ女性は、金色の瞳で面々に視線を巡らせた。

白い服装で、スカートの裾を持ち上げて綺麗なお辞儀をしてくる。

ミレイア・ウォルト――または、ミレイア・サークライは、ウォルト家の宝玉の所有者ではない。

ここに存在しているのはおかしかった。

ミレイアが口を開いた。

『お初にお目にかかります、三代目スレイ様、四代目マークス様、そして七代目のブロード様。それに、お久しぶりですね、お父様』

ミランダに似ている容姿。

だが、ミランダよりも大人びて落ち着いている雰囲気だ。それに、金色の瞳はシャノンのものと同じ魔眼である。

『私はミレイア……ミレイア・ウォルトです。部屋の所有者であるライエルが、一向に中に入らないので呼び出された案内人。ウォルト家の面子の中で、私が最も相応しいと選ばれたようですね』

宝玉の中の歴代当主は、例外なく記憶の存在だ。意思もあるが、彼らの魂が封じられているわけではない。

それは、四人の前にいるミレイアも同じだった。ミレイア本人は死んでおり、そして記憶だけの存在――。

しかし、それがおかしい。ミレイアは、一度として宝玉を――青い玉だった時から、一度として触れたことなどなかったのだから。

七代目が口を開いた。

『案内人だと? 記憶の部屋から出てくるなど、そんな事は……』

混乱する歴代当主を置き去りに、ミレイアは微笑むと言うのだ。

『ライエルは全てを知る必要があります。それが宝玉の意志ですから。いつまでも放置では困るのです』

ミレイアが宝玉の意志だと語ると、歴代当主たちは更に困惑するのだった。

三代目が呟く。

『宝玉の意志だって? それはいったい――』